恋愛話
キルヒバッハから戻った日の夜、五人は共有スペースに集まっていた。
荷物の片づけと必要な報告はすでに終わり、翌日は休養扱いになっている。机には買ってきた酒と、乾燥肉やチーズ、塩気のある焼き菓子が並び、誰かが時間を気にする必要もなかった。
マティアスが果実酒の瓶を持ち上げ、エレジのグラスへ少しだけ注いだ。
「中尉、これ前に飲んだやつと近いと思います」
「匂いも似てますね」
「今日は少佐に止められる前に水も飲んどいた方がいいですよ」
「今回は分かってます」
エレジが隣の水へ手を伸ばしたので、カイルは何も言わなかった。
以前マティアスと三人で飲んだ時には、自分がどの程度で酔うのか分からないまま果実酒を飲み続けていたが、今日はもう少し自分の変化も分かる。
甘いものなら飲みやすいことも、そのせいで速くなることも知っていた。
向かいに座っていたリヒターは三人のやり取りを見ていた。
「ずいぶん慣れてるのね。前も三人で飲んだの?」
「一回だけです。少佐の部屋で」
エレジが答えると、リヒターは今度はカイルへ関心を向けた。
「へえ」
「ロートが酒を持ってきた」
「少佐、それ俺のせいみたいに言わないでくださいよ。中尉も飲みたいって言ったでしょう」
「言いました」
「ほら」
三人のやり取りを聞いていたヨナスには、自分たちが加わる前からすでにこうした時間があったことの方が面白かった。
「俺たちが入る前から、そういうことしてたんですね」
「そういうことって何ですか」
「酒を飲むことです」
エレジは別の意味があるのかと思って聞き返したが、ヨナスは本当にそれだけのつもりだったらしい。
リヒターはそのやり取りを面白がっていたものの、それ以上は広げなかった。
最初のうちは、キルヒバッハで食べたものや帰路で眠かったことなど、任務と近い話をしていた。
酒が一杯ずつ減り、全員の身体から移動の疲れが少し抜けてくると、話題は自然に仕事から遠ざかっていった。
「そういえば、みんな恋人いたことあるんですか」
マティアスが誰に向けるでもなく聞くと、リヒターは質問した本人から確かめることにした。
「あなたは?」
「俺は四人くらいです」
リヒターはもう少し多いと思っていたらしく、その答えは意外だった。
「軽そうなのに」
「それ失礼じゃないですか。ちゃんと付き合ってましたよ」
「全部?」
「全部です」
「どのくらい続いたの?」
「長いので二年くらいです。短いのでも何か月かは」
外見や話し方だけを見れば、その場の勢いで女性と関係を持つこともありそうに見えるが、本人は思っていたよりずっと普通の恋愛をしてきたらしい。
「ファルク大尉は?」
エレジに聞かれ、ヨナスは自分の過去を数えるように少し考えた。
「俺も四人くらいですね」
「同じですね」
「ただ、俺は全部向こうからでした」
「告白されたんですか」
「はい。学生の頃も軍に入ってからも、勉強か趣味の方に時間使ってたので、自分から誰かを探したことはあまりないです」
「それで四人いるの?」
リヒターにそう言われると、ヨナス自身にも少し多い自覚はあるらしかった。
「断る理由がなかった人とは付き合ってみました」
「それ、相手には言った?」
「言いませんよ」
「そこはちゃんとしてるのね」
「そこって何ですか」
ヨナスが聞き返しても、リヒターは説明する必要までは感じなかったらしく、そのまま酒を飲んだ。
マティアスとヨナスの話が終わると、残るカイルへ自然に関心が集まった。
「少佐は二人でしたよね」
エレジが言うと、マティアスにはすでに二人でそんな話までしていたことの方が意外だった。
「中尉、もう聞いたことあるんですか」
「前に少しだけ。付き合った人が二人いたところまでです」
「そこまで話してるなら、もう一つ聞いていい?」
リヒターも以前の交際そのものより、どこまで深い関係だったのかが気になった。
「結婚を考えたことは?」
「一人は」
その答えはエレジも初めて聞いた。二人いたことを知った時にも、まだ自分の知らないカイルの時間があることを意識したが、結婚まで考えた相手がいたとなると、その関係が思っていたより深かったことまで分かる。
「……そこまでは聞いてませんでした」
「あの時は聞かれなかったからな」
「どうして駄目になったんです?」
マティアスに聞かれ、カイルは詳しく話すかを考えてから、必要なところだけ答えた。
「俺の方が、相手に構えなくなった時期があった」
「嫌いになったとかじゃなくて?」
「違う。俺の問題だ」
それ以上は詳しく話すつもりがないと分かり、マティアスも続けなかった。エレジには理由に思い当たることがあり、今ここで聞くより、いつか二人の時に本人から聞きたいと思った。
「中尉は?」
マティアスに聞かれ、エレジは自分についてなら答えは簡単だった。
「少佐が初めてです」
「付き合ったのが?」
「はい」
「告白されたこともないんですか」
「それはあります。軍に入ってから何回か」
「全部断った?」
「はい」
「何で?」
「告白されたこと自体は嬉しかったです。でも、その人と一緒にいたいとは思わなかったので」
「少佐の時は?」
「一緒にいたかったです」
迷わず答えると、カイルが隣でこちらを見た。エレジには今さら隠すことでもなく、その反応が少し嬉しくて笑った。
「じゃあ、異性のどこが好き?」
リヒターが聞くと、マティアスにはすでに自分なりの答えがあった。
「手ですかね」
「手?」
「何かしてる時の手です。料理でも作業でも。動かしてるところを見るの、結構好きです」
「意外と地味ね」
「地味ですか?」
「もっと顔とか言うのかと思った」
「顔も見ますけど、手の方が気になります」
リヒターには意外ではあったものの、本人がそこまで具体的に言うなら冗談ではないらしく、それ以上はからかわなかった。
「ファルク大尉は?」
「声ですかね」
エレジには、ヨナスが外見ではなく声を挙げたことが少し意外だった。
「声なんですね」
「話し方も含めてです。声って、その人の感じが出るでしょう。落ち着いてるとか、楽しそうとか、隠してても少し分かるので」
その答えを聞いたリヒターは、以前ヨナスがエレジをかわいいと言っていたことと結びつけた。
「じゃあ、エレジの声もかわいいと思ってるの?」
ヨナスは一度エレジを見たあと、少しだけ口元を緩めた。その笑い方には、ただ質問へ答えるだけではない何かが混じっているように見えた。
「そうですね。中尉の声はかわいいと思います」
カイルはヨナスを見た。リヒターも同じように反応した。彼らの脳裏によぎったのは彼の部屋がカイルの隣であることだったが、エレジ本人はそこまで意味を取っていないらしい。
「私の声って、かわいいんですか」
「かわいいですよ」
「自分だと全然分からないです」
「本人はそうでしょうね」
ヨナスはそれ以上広げるつもりはなく、自分の答えだけで終わらせた。
「少佐は?」
「話し方と、笑い方だな」
「誰の?」
「一般論だ」
そう答えながらエレジを見ていたため、リヒターには一般論だけではないことが分かった。
「今エレジ見てたじゃない」
「お前は何なんだ」
「私は頭のいい人」
「知識がある人ですか?」
「それだけじゃないわ。自分で考えて、ちゃんと返してくる人。私が何か言った時に、全部そのまま受け取るような人は無理」
「じゃあファルク大尉とか?」
マティアスは条件だけならヨナスが当てはまりそうだと思ったが、本人には急に自分が候補へ入れられた理由が分からなかった。
「何で俺なんですか」
「頭いいでしょう」
「そういう意味じゃないって今言ったでしょう」
リヒターが笑って否定したことで、単純に知識量の話ではないことだけは明確になった。
「中尉は?」
ヨナスに聞かれ、エレジはほとんど考えずにカイルを見た。
「全部です」
一度、会話が止まった。質問した側も、そこまで迷いなく全部と言われるとは思っていなかった。
「全部?」
「はい。顔も好きですし、身体も好きですし、声も、話し方も好きです」
本人は質問へそのまま答えているつもりらしく、恥ずかしがって言葉を濁す様子もなかった。
「それ、答えとしてずるくない?」
「でも、本当に全部好きなので」
カイルは何も言わなかったが、隣からマティアスに見られていることには気づいていた。
否定する内容でもなく、かといって三人の前で何か返すのも違うため、そのまま酒を飲んだ。
そこまでエレジが率直に好みを話したことで、リヒターも遠慮する必要がなくなったらしい。
「まあ、エレジはそそるものね」
「そそり……ますか?」
「ええ。胸もあるし」
カイル、マティアス、ヨナスの三人がほとんど同時にむせた。エレジだけは何がそこまで問題なのか分からず、三人の反応を見比べた。
「それ、褒められてるんですか」
「褒めてるわよ。顔もかわいいし、身体も女らしいし」
「そうなんですね」
「何であなたが一番平然としてるのよ」
リヒターには、その内容を言われている本人だけが普通に受け取っていることの方がおかしかった。マティアスはまだ咳が残っており、水を飲んでからようやく言葉を返した。
「大尉、急にそこまで言います?」
「何よ。本当のことでしょう。あなたたちだって、そう思ってるでしょう」
「俺に振らないでください」
マティアスは即座に逃げたが、ヨナスは否定するほどでもないと思ったらしい。
「否定はしません」
最後にエレジがカイルへ答えを求めた。
「少佐も?」
「ああ」
カイルが逃げずに認めたことで、そこまで平然としていたエレジにもようやく、自分の身体について本人から肯定されたという実感が追いついた。
「……そうなんですね」
「今さらそこ照れるの?」
リヒターに言われ、エレジは少し熱くなった頬を誤魔化すようにグラスを持ち直した。
「じゃあ逆に、付き合えない条件は?」
リヒターには自分の基準がはっきりしていた。
「私は『お前』って言ってくる男と、軽い男」
カイルとマティアスがまたほとんど同時にむせた。今度は理由が明確だったため、ヨナスは声を出して笑い、エレジは二人がそれぞれどちらに当てはまったのかを考えた。
「何よ」
「少佐は完全に一個目ですね」
「分かってる」
「俺は何ですか」
「自分で分かるでしょう」
「軽いって見た目だけじゃないですか」
「第一印象はね」
「じゃあ今は違うんですか」
「さあ」
マティアスが納得していないのを見ても、リヒターには今すぐ言葉を訂正する理由はなかった。
「そういえば、ずっと聞きたかったんだけど」
「何ですか」
「エレジは『お前』って言われて平気なの?」
エレジは自分にとってそれが特別な呼び方だったかを考えたが、少なくとも嫌だと思ったことはなかった。
「平気というか、特に何も思いません。子どもの頃から、周りがそういう言い方をする大人ばかりでしたし。もっと柄が悪かったり、威圧的だったりしたので」
「でも、嫌じゃない?」
「少佐なら嫌じゃないです」
そこまで迷わず言い切ったため、リヒターにはさらに興味深かった。
「そこまで即答するのね」
「同じ言い方でも、誰が言うかで違うと思います。少佐は優しいし、素敵な人なので。付き合う前からずっとそう呼ばれてましたし。
むしろ、少佐に『お前』って言われるのは好きかもしれません」
エレジは改めて考えてみて思ったことを言うと、今度はカイルが何も言わなくなった。
「得したわね」
「何がだ」
「私ならその時点で対象外なのに」
「お前の条件は聞いてない」
「今聞いたでしょう」
マティアスにも、今日はカイルにとって都合のいい答えが続いているように見えた。
「少佐、今日かなり得してません?」
「ロート」
「はい」
これ以上続ければ自分に返ってくると分かったところで、リヒターがそのままマティアスの条件を聞いた。
「じゃあロート少尉は?」
「相手を試す人は嫌ですね。わざと嫉妬させたり、不安にさせて反応見るとか」
「意外と真面目ね」
「だから真面目に付き合ってたって言ったでしょう」
「ファルク大尉は?」
「相手の好きなものを馬鹿にする人ですかね。理解できなくてもいいですけど、くだらないって言われるのは嫌です」
「少佐は?」
「自分の都合に合わせるのを当然だと思ってる相手」
「エレジは?」
エレジはこれまで自分が強く嫌だと思ったことを基準にした。
「嫌だって言ったことを何度もする人は嫌です」
そこだけ、四人の中で同じ記憶が浮かんだのが分かった。エレジ自身はケルナーの話をするつもりで答えたわけではなかったため、リヒターも深く触れなかった。
「それは当然ね」
付き合えない条件まで出たところで、話題は自然に恋人への感情へ移った。
「じゃあ嫉妬は?」
「する」
カイルが最初に答えたため、マティアスには確認するまでもないように思えた。
「少佐はするでしょう」
「お前が言うな」
「俺もすると思いますよ。付き合ってる相手が誰かに気持ち向けてたら、普通に嫌ですし」
「私はしないと思う」
「俺も、そんなにしないと思います。気になるなら聞きます」
最後に視線が集まると、エレジは以前カイルとベルンハルトを歩いた時、自分にもそれに近い感情があったことを思い出した。
「私は、したことあります」
「あるの?」
「少佐の昔の恋人が二人いたって聞いた時です。その人たちといた頃の少佐を私は知らないんだと思ったら、少し嫌というか……気になって。少佐に、それなら嫉妬に近いって言われました」
「昔の相手にはするのに、今は?」
「今のことでは、まだないと思います。少佐が誰かと話していても、仕事だったり友達だったりするでしょう。それで嫌になったことはないので」
「じゃあ、今の相手でもするか試してみる?」
「どうやってですか」
カイルが嫌な予感を覚えた時には、リヒターはすでにグラスを置き立ち上がっていた。
「おい」
「まあまあ。試しです」
「俺を使うな」
「本気で何かするわけじゃないわよ。エレジがどう思うか見るだけ」
リヒターはカイルのそばまで行き、普段より声を柔らかくして、彼だけへ意識を向けているような距離を取った。
仕事で相手の警戒を解く時にも使う態度なのだろうとエレジにも分かっていたが、外から見れば親しい男女にしか見えない。
エレジも最初は、その違いを興味深く見ていた。カイルには応じる気がなく、リヒターも本気で何かをするわけではない。
それなのに、彼女がさらに近づいてカイルの肩へ手を伸ばしたところで、胸の内に生まれた不快感の方が理解より先に動いた。
「駄目です」
気づいた時には席を立ち、横からカイルの肩へ腕を回していた。自分でもそうすると決めていたわけではないが、今はリヒターをこれ以上近づけたくないという気持ちの方がはっきりしていた。
カイルも一瞬驚いたものの、エレジが離れないのを確かめると、拒まず腰へ腕を添えた。
そこまで反応が出れば、リヒターにも試す目的は十分だった。
「するじゃない」
エレジはカイルへ抱きついたまま、自分の中に残っている感覚を確かめた。過去の恋人の話を聞いた時よりも、ずっとはっきり嫌だった。
「……思ったより嫌でした」
「何が?」
「リヒター大尉が少佐に近いのがです。試しだって分かってたんですけど」
「それでも嫌だった?」
「はい。もうやらなくていいです」
マティアスには、見ている側からでもエレジの反応は十分だった。
「中尉、かなり分かりやすかったですよ」
「自分でも今分かりました」
ヨナスには、エレジ本人よりカイルの反応の方も分かりやすく見えた。
「少佐は嬉しそうですね」
「余計なこと言うな」
「でも嬉しいでしょう」
カイルはエレジの腰へ置いた腕をそのままにしていた。今さら否定しても誰も信じないだろうし、自分でも否定する気にはならなかった。
「……まあな」
それを聞いて初めて、エレジは三人の前で自分が何をしているのかを意識した。それでもすぐに離れるのは惜しく、少しだけカイルへ身体を預けてから腕を緩めた。
「もう試さなくていいですからね」
「分かったわ。十分見られたもの」
リヒターが元の席へ戻っても、エレジは完全に元の距離へ戻る気にはならず、カイルのすぐ隣に座ったままだった。
「そういえば、誕生日ってみんないつなんです?」
エレジが今の出来事から話題を変えようとすると、ヨナスには急な転換に思えたらしかった。
「急ですね」
「こういう話してたら思い出しただけです。ファルク大尉は?」
「九月三日です」
エレジは忘れないように日付を頭へ入れた。
「私は四月十四日」
「俺は十一月七日だ」
「私は十月十八日です」
「六月二十四日」
最後に残ったマティアスが自分の誕生日を答えたとき、エレジはカレンダーを見た。
「もうすぐじゃないですか」
「そうですね」
「あと何日ですか」
「中尉、その顔やめて」
「何でです?」
「何かする顔してる」
「まだ何も考えてません」
「まだ、って言いましたよね」
リヒターにも、エレジが何もしないまま終わるとは思えなかった。
「もう諦めた方がいいんじゃない?」
「大尉まで何かする気でしょう」
「さあ」
マティアスは三人を警戒するように見たが、ヨナスだけはまだ巻き込まれていないように見えた。
「ファルク大尉は普通ですよね?」
「何がですか」
「誕生日だからって何もしないですよね」
「必要ならしますよ」
「ほらもう駄目だ」
そのやり取りの間にも、エレジは酒を少しずつ飲んでいた。水も挟んでいるので前ほど急には回っていなかったが、身体には心地よい熱が残っている。
話を聞いている間に笑うことも増え、普段よりカイルとの距離も近いままだった。
恋愛の話はそこからも続いた。恋人に毎日会いたいか、連絡はどのくらい欲しいか。
誰かが一つ答えると、それに別の者が口を挟み、いつの間にか最初の質問から離れていることも多かった。
エレジもまだ話を聞いていたかったが、酔いと移動の疲れの方が先に身体へ出始め、いつの間にかカイルの肩へ頭まで預けていた。
「ヴァイス」
「はい」
「眠いだろ」
「少しです」
返事はできているものの、目を開けていられる時間はもう明らかに短くなっていた。
「少しじゃないわね」
「まだ聞いてたいです」
「明日でもできるでしょう」
それでもエレジは動かず、カイルの肩へ頬を預けたまま、残りの話を聞こうとしていた。
「もう寝ろ」
「……みんな、まだいるのに」
「お前はもう限界だ」
カイルが帰るつもりで立ち上がると、エレジも自分で歩こうとした。しかし身体を起こしたところで一度ふらつき、カイルに腰を支えられた。
「歩けます」
「知ってる」
歩けないとは思っていなかったが、この状態でわざわざ歩かせる必要もなかった。
カイルが抱き上げると、エレジは驚いて一度目を開け落ちないように彼の首へ腕を回した。
「まだ話してたいです」
「明日話せ」
その様子を見たリヒターには、もう引き止める理由もなかった。
「おやすみ、エレジ」
「……おやすみなさい」
「おやすみなさい、中尉」
マティアスとヨナスにも返したあと、エレジはもう会話を続けるより眠気の方が勝ち、カイルの肩へ頬を戻した。
カイルは三人へ先に抜けると伝え、そのままエレジを抱いて共有スペースを出ていった。
扉が閉まり、二人の気配が廊下の向こうへ消えると、残った三人にはそれまでとは少し違う静けさが残った。
「……さて」
リヒターがそう切り出したことで、マティアスとヨナスは彼女を見た。
「まだ帰らないでしょう?」
リヒターは少し酔った顔で笑い、自分のグラスに残っていた酒を飲んだ。




