リートハーフェン
エレジが鞄を持って階段を降りると、共有スペースにはカイルとリヒターがおり、ヨナスも携行する機材を玄関へ運んでいた。マティアスが車両の確認から戻ると、五人は朝食を取ってから施設を出た。
最初はカイルが運転し、エレジが隣で経路を確認した。ハルデンへ向かった時と途中までは同じ道だったが、分岐を過ぎると山の間を抜け、幅の広い道路へ出た。窓の外には畑が続き、その向こうに集落の屋根が見える。
「こっちは、雪がほとんどないですね」
「標高が下がってるからな。町へ入れば、もっと違う」
エレジは地図から外へ目を戻した。施設の周りでは林の中に雪が残っていたが、ここでは地面の色が広く見えている。道路沿いには農作業に使う車両もあり、ハルデンへ行く時とは通り過ぎるものが違った。
後ろではマティアスがヨナスへ、昨日の話の続きを尋ねていた。
「前に教わったやつ、相手が動かないと使いにくいんですよね」
「動かそうとして、力が入ってませんか」
「入ってると思います。少佐にも言われました」
「じゃあ、帰ってからそこを見ましょう」
「お願いします。昨日の方も」
リヒターが横から声をかけた。
「着いてから始めないでね」
「分かってますよ。帰ってからです」
「話してるうちに、試したくなりそうだから」
「大尉も、前は横から教えてくれたでしょう」
「見ていて気になったからよ」
エレジもそのやり取りを聞いて笑った。以前は三人が次々に技を試し、夕食の席でも話が続いていた。今日もまだ聞きたいことはありそうだったが、マティアスは帰還後に見てもらうところを確かめるだけにとどめていた。
*
途中で昼食と休憩を取り、運転をマティアスへ交代すると、道路沿いの建物が増えていった。工場らしい建物の先には住宅が並び、交差点で停まる車両も多くなる。
エレジは後ろの席から、建物の間に見えた水面を追った。川はハルデンで見たものより広く、向こう岸にも家が続いている。橋へ向かう道には車両が並び、歩道を歩く人もいた。
「川が見えました」
「この先で、少し川沿いを通る」
助手席のカイルが答えた。マティアスが交差点を曲がると、片側に水面が広がった。岸には石で囲われた道があり、ところどころに木とベンチが置かれている。
「あそこは歩けるんですね」
「市街の方ですね」
ヨナスも窓の外を見ていた。エレジが昨日の地図にあった通りかと尋ねると、彼は橋の位置を確かめてから、少し南側だと答えた。
「滞在先からは反対の方になります」
「そうなんですね。でも思っていたより川に近いです」
岸沿いには古い建物が並び、一階に店が入っているところもあった。エレジは窓から見える看板を読もうとしたが、車が進むと次の建物へ隠れてしまう。
「中尉、あっちの店は何でした?」
マティアスに聞かれ、エレジは通り過ぎた方を見た。
「パンが置いてありました。店の名前までは読めませんでしたけど」
「それなら、覚えておきたいですね」
「運転してる方は道を覚えてね」
リヒターが返すと彼は前を向いたまま笑った。
「そっちは見てますよ。だから聞いたんです」
川沿いを離れると、道路はさらに広くなった。住宅の間にあった店が減り、倉庫や車両を置く敷地が続く。大型の車両が曲がるため、交差点の手前には広い空間が取られていた。
エレジは地図を開き直した。対象の貨物地区へ入る道と、自分たちが滞在する軍施設へ続く道は、ここから分かれる。町を見ていた目を道路へ戻し、次に曲がる場所を確かめた。
*
軍施設へ着くと、現地の支援担当が五人を迎えた。車両を置く場所を案内され、カイルが到着の連絡を入れている間に、エレジたちは荷物を下ろした。
宿泊する建物には個室が用意されており、食事は施設の食堂で取れるという。夜間に出入りするため、通常の食事時刻に戻れない場合についても説明があった。
「交代に合わせて受け取れる分を用意します。必要な時刻は、こちらへ伝えてください」
「予定を確認してから出します」
カイルが答えると、リヒターも食事を受け取る場所を確かめた。ハルデンでは自分たちで作っていたが、ここでは現地側の支援を使える。夜の観測に出る前と戻った後で、いつ食べるかを決めておけばよかった。
荷物を部屋へ置いてから、五人は支援担当と資料を開いた。貨物地区では昼も夜も通常の荷扱いがあり、夜に車両が来ること自体は珍しくないという。
「この一覧が、こちらで把握している作業予定です。ただ、予定にない車両がすべて不審というわけではありません。到着が遅れたり、その日に変更されたりすることもあります」
「変更した記録は、後から確認できますか」
カイルが尋ねると、担当者は地区の管理側へ照会すると答えた。現地側がすでに確認した分と、回答を待っているものを分けて渡してくれることになった。
エレジは車両が出入りした時刻を読んだ。到着しただけでは、何の作業に来たかは分からない。使った門や車両の特徴を残し、後で予定と合わせる必要があった。
ヨナスも通信の資料について確認した。今回の対象とは別に、周辺の事業所が使う設備がある。観測した変化を貨物地区のものとして扱えるかは、機材を使う前に範囲を確かめることになった。
説明を終えると、支援担当が窓の外へ目を向けた。まだ明るく、観測場所を見て回る時間はある。
「先に東側から案内します。機材は車両で運べます」
カイルは五人へ準備するよう伝え、エレジも地図と現地で確かめる項目を持った。
*
東側の門を見る建物は、貨物地区へ続く道路から少し離れていた。支援担当に案内されて上階へ上がると、机と椅子のある部屋から門が見えた。
エレジは窓へ近づき、資料に記された範囲と見比べた。門とその手前の道路は見えるが、入った車両はすぐに建物の陰へ消える。門の内側にある通路を、その先まで追うことはできなかった。
「入ったところまでは見えます。その後、どの倉庫へ行くかは分かりません」
「向きを変えても同じか」
カイルに尋ねられ、エレジは隣の窓へ移った。角度は少し変わるが、門の奥にある建物は重なったままだった。
「同じです。ただ、こちらからなら門の前に停まった車両の後ろも見えます」
マティアスも最初の窓から道路を確かめていた。
「入るのを待つ車がいると、こっちは隠れますね。二つの窓を分けて使う方がよさそうです」
「ああ。夜も同じように見えるかは、始める前に確かめる」
エレジは机へ地図を置き、二つの窓から見える範囲を記した。窓際に立てば広く見られるが、長く観測するなら椅子へ座った状態も確かめたかった。高さを合わせてみると、道路の手前側が窓枠へ重なる。
「この位置では、手前の道が隠れます。椅子を少し寄せます」
位置を直す間、リヒターは部屋の出入口と廊下を見ていた。階段は一つで、下の通路には荷物を置く場所がある。交代する二人が同時に通っても、そこで立ち止まらずに済む幅だった。
ヨナスは現地の担当者と設備を確認し、持ち込んだ機材を接続した。連絡を試すと滞在先から返答があり、予備の手段でも確認できた。
「今の状態では使えます。夜に周りの設備が動いた時も、もう一度見ます」
「戻ってから記録する時間を合わせよう」
カイルが答えると、ヨナスは時刻を確かめ、機材の表示と記録へ残した。
部屋を出る前に、エレジは門を通る車両を一台見た。門の前で停まり、人がそばへ出てきた後に中へ進んでいる。そのやり取りの内容は分からないが、入る時に一度停まる場所は確かめられた。
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川沿いの道路を見る場所は、別の建物の上階にあった。こちらからは道路を広く追えるが、貨物地区の門は一つしか見えず、しかも奥の一部が壁へ重なっている。
エレジは窓から川の方を見た。昼に車内から見た市街とは違い、岸には荷物を扱う建物が続いていた。水面の向こうには大きな設備も見えるが、今回の対象に含まれるものではなかった。
「こちらを通った車両が、東側の門へ行ったかは分かりませんね」
「途中で別の道へ入れるからな」
カイルが地図の分岐を示した。二か所の記録で似た車両があっても、時刻だけで同じものとは言えない。エレジは見えなくなる位置を記し、道路を追える区間を線で残した。
北側の門へ向かう道路については、現地の支援担当から現在の工事範囲を聞いた。作業車両が通る道は残っているが、観測場所から門そのものを確かめられるわけではなかった。
「今夜は東側を見ますか」
エレジが尋ねると、カイルは先ほどの場所を使うと答えた。
「初日は、門の出入りを続けて見る。こっちは昼の確認と合わせて、明日以降に使う時間を決める」
五人で二か所を見たことで、資料にあった範囲の違いは分かった。どちらか一方から地区全体を説明することはできないが、何を記録するために使う場所なのかは、来る前よりはっきりしていた。
滞在先へ戻る道では、マティアスが交差点を通るのにかかった時間を伝えた。距離は短くても、貨物車両が続けて曲がる間は待つ必要がある。カイルは夜の交代時刻を少し早め、到着してから引き継ぐ時間を残した。
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施設へ戻ると、五人は現地で確かめたことを合わせた。ヨナスは東側の観測場所で使う機材を整え、リヒターも夜間の連絡先が使えることを確認した。
エレジは自室で鞄を開き、観測へ持ち出さないものを棚へ置いた。本も出したが、今日は開かずに机へ残す。夜に使う衣類を揃え、先に休むために椅子から立った。
夕方、食堂で顔を合わせると、マティアスは少し寝られたと話した。リヒターも後の交代に備えて休み、ヨナスは機材を確認する時刻まで作業を区切っていた。
「中尉は?」
「少し休めました。外が明るいと、いつもとは違いますね」
「夜に戻ったら、もっと眠れそうですね」
「そう思います」
エレジは答えて食事を取った。観測が始まれば、食堂の時刻ではなく交代に合わせて動くことになる。自分がいつ戻り、次にいつ起きるかは、出る前に確かめてあった。
カイルは現地側から新しい連絡がないことを確認し、エレジへ出発の時刻を伝えた。ヨナスも最初の機材確認に同行し、記録が始まったところで施設へ戻ることになっていた。
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東側の観測場所へ着く頃には、通りの店に明かりがついていた。貨物地区へ近づくと街灯の間隔が広がり、大きな車両の灯りが道路を横切る。昼に見た建物も、照らされている面と暗い面に分かれていた。
上階の部屋へ入ると、エレジは昼に使った窓から門を見た。門の前には照明があるが、その光へ車両が入ると、車体の色が見えにくくなる時がある。奥の建物は暗く、昼に見えていた壁の境目も分かりにくかった。
「門の前は見えます。道路から来るところは、昼より追いにくいです」
「車体が見えたところからでいい。灯りだけの間は、特徴を決めるな」
「はい」
カイルが隣の窓へ入り、ヨナスは機材の表示を確かめた。滞在先へ連絡が通ることを確認すると、観測の記録と時刻を合わせた。
エレジは双眼鏡を下ろして、部屋の中も見直した。昼に置いた机と椅子は同じ場所にある。手元の灯りで記録を読めることを確かめてから、再び門へ向いた。
道路の向こうから車両が一台近づき、門の前で速度を落とした。エレジは時刻を見て、停まった位置をカイルへ伝えた。
「門の手前です。昼に見た車両と同じところへ停まりました」
「ああ。こちらでも見えてる」
人が出てきて車両のそばへ立った。少し後に門が開き、車両は中へ進んだが、昼と同じ建物の陰へ入ると見えなくなった。
エレジは確認できた特徴と、門を通った時刻を残した。夜に来たことだけでは、予定にある作業かどうかは分からない。まず見えた動きを書き終え、次に道路へ現れる車両を待つために顔を上げた。




