自己紹介
施設の確認が終わると、五人はいったんそれぞれの部屋へ戻った。
エレジが持ってきた荷物は、それほど多くない。軍から支給された衣類と装備品のほかに、私物をまとめた鞄が二つ。
訓練生宿舎から移す前に不要なものは処分していたため、収納棚へ収めていけば、部屋の中はすぐに片づいていった。
机の端に本を数冊並べ、最後に鞄の底から出した小物を引き出しへ入れる。
まだ生活の痕跡と呼べるほどのものはなかったが、何もなかった部屋に自分のものが増えるにつれて、ここが今日だけ使う場所ではないことが少しずつ実感になってきた。
ノックの音がしたのは、衣類を収納し終えた頃だった。
扉を開けると、リヒターが立っていた。
「片づけの途中?」
「ほとんど終わりました」
「よかった。そろそろ夕食を作ろうと思って。今、大丈夫?」
「あ、はい。行きます」
昼間に交わした約束を思い出し、エレジは部屋を出た。
厨房へ入ると、すでに調理台には肉と根菜、玉ねぎ、葉物、それからパンが並べられていた。リヒターが選んだのは、肉と野菜の煮込みと簡単なサラダだった。
「ヴァイス中尉、料理はどのくらいする?」
「軍に入ってからは、ほとんどしてません。その前は、家にあるもので簡単なものを」
「じゃあ、全く初めてではないのね」
「ちゃんと作るのは十年くらいぶりです」
「それなら十分。思い出しながらやればいいから」
リヒターは玉ねぎと根菜をエレジの前へ置いた。
「まずこれを切ってもらえる? 大きさはできるだけ揃えて。火の通り方が変わるから」
「分かりました」
包丁を握ると、感覚そのものは残っていた。ただ、昔のように考えず手を動かせるほどではない。一つ切っては大きさを確かめ、次をそれに合わせる。
その隣で、リヒターは肉の下処理を終え、別の野菜を切り、鍋を火にかけていた。速いというより、次に何が必要になるかを迷わず先回りしている。
「リヒター大尉、すごく早いですね」
「慣れてるだけ」
「よく作るんですか?」
「一人で動くことが多かったから。食べるものを自分で用意できた方が楽だったの」
リヒターはエレジの手元を必要以上に見張らず、必要な時だけ大きさや切り方を直した。
切った野菜を鍋へ入れ、煮込み始めた頃、マティアスが共有スペースへ入ってきた。
「もう作ってるんですね。中尉もちゃんと手伝ってる」
「手伝うって言いましたから」
リヒターが鍋を確認しながら言う。
「ロート少尉、手が空いてるならテーブルお願いしてもいい?」
「もちろん」
マティアスは素直に食器を並べ始めた。
「中尉、料理できるんですね」
「十年ぶりです」
「それで普通にできるなら十分じゃないですか」
「まだ切ってるだけですよ」
しばらくしてヨナスも現れ、鍋の匂いに気づいたように厨房を見た。
「いい匂いですね」
「もうすぐできますよ」
「何か手伝います?」
「大丈夫です。座る準備だけお願いします」
「分かりました」
エレジは、昼間より少しだけ二人の距離感が見え始めた気がした。
カイルが来た頃には、煮込みもほとんど完成していた。
五人が揃うと、作戦室とは違って、ここでは単にこれから一緒に暮らす人間として同じ場所にいるのだということが、少しずつ現実味を持ってきた。
食事が並び、五人は席についた。
「これ、かなりちゃんとしてますね」
最初に言ったのはマティアスだった。
「ほんとに毎日作るんですか?」
「そのつもりです」
「助かります」
「そこは遠慮しないんですね」
「食事に関しては」
ヨナスは煮込みを食べながら、香りの一つが気になったらしくリヒターに尋ねた。
「これ、何使ってます?」
いくつか挙げられると、納得したように頷く。
「なるほど。根菜にも合うんですね」
「料理も理屈から入るんですか」
マティアスが聞く。
「理屈があるなら知った方が再現しやすいでしょう」
「やっぱりそういう感じなんですね」
カイルは途中でエレジを見る。
「お前も作ったのか」
「切っただけです」
「サラダも」とリヒターが付け足した。
「ほとんどリヒター大尉です」
「でも、ちゃんとできてる」
そう言われると、エレジは少しだけ照れた。
「明日からも手伝うんですか?」
マティアスが尋ねる。
「そのつもりです」
「じゃあ中尉、そのうち料理上手くなりそうですね」
「そこまでなるかは分かりません」
「なりますよ。すぐじゃなくても、続ければ」
リヒターが言った。その言葉は、なぜかエレジの頭の隅に残った。
食事の間、任務の話はほとんど出なかった。施設のことや明日の予定を話しながら食べているうちに、完全な他人の集まりという感じは、昼間より少し薄れていた。
食べ終わる頃には、鍋の中身もほとんどなくなっていた。
片づけが一段落すると、それぞれ飲み物を持って共有スペースへ戻った。カイルはコーヒー、マティアスは水、ヨナスは湯気の立つカップを手にしている。リヒターも席につき、エレジはその隣に座った。
全員が揃ったところで、カイルが口を開いた。
「明日から一緒に動く。経歴は資料に出てるが、それだけじゃ分からないこともある。簡単に、自分のことを話しておこう」
マティアスが少し笑う。
「自己紹介ですか」
「そうだ」
「今さら俺たち三人も?」
「二人は知らないだろ」
「それもそうですね」
カイルは特に順番を決める様子もなく、自分から話し始めた。
「カイル・グレイ。三十六歳。少佐。北部勤務は長い。山岳、偵察、近接、少人数部隊の指揮が主な経歴だ」
そこで一度言葉を切った。
「この班では全体指揮と現場判断を担当する。任務中、最終判断が必要なら俺が取る。ただし、専門分野まで俺が決めるつもりはない。それぞれ、自分より詳しい人間がいる分野ではそいつの判断を使う」
昼間の説明でも聞いた方針だったが、改めて五人だけの場で言われると、それがこの班でのカイルの立ち方なのだとエレジには分かった。指揮を執るからといって、何もかも自分で決めようとはしない。
「それ以外は?」
マティアスが尋ねた。
「それ以外?」
「自己紹介でしょう。仕事の説明だけなら昼に聞きましたよ」
「何が聞きたい」
「趣味とか」
「読書」
「知ってます」
「お前は知ってるだろうが、二人は知らない」
マティアスが納得したように引き下がると、ヨナスがカイルを見る。
「何読むんですか?」
「何でも読む。軍事、歴史、地理が多いが、それだけじゃない」
「小説も?」
「ああ」
ヨナスはそれで納得したらしく、それ以上は聞かなかった。
「次、ロート」
「俺ですか」
マティアスは椅子に座り直すと、改めてリヒターとヨナスの方を見た。
「マティアス・ロート。二十五歳、少尉。北部軍にいました。射撃、近接、雪上行動は一通り。これだけは誰にも負けないっていう専門より、状況見ながら空いてるところに入る方が得意です」
「便利屋」
カイルが言う。
「少佐が言うんですか」
「自分で言ってただろ」
「言いましたけど」
リヒターがわずかに笑った。
「でも、五人ならそういう人が一人いる方が助かりそうね」
「そう言ってもらえると聞こえがいいですね」
「実際そうだ」
カイルが続ける。
「状況が変わった時の対応が速い。誰かが遅れた時も、必要以上に仕事を奪わず、必要なところだけ埋める」
「本人より詳しいですね、俺の自己紹介」
「推薦したのは俺だからな」
その答えにヨナスがマティアスを見る目を少し変えた。単に何でもそこそこできるという意味ではなく、変化した状況の中で役割を作れることが評価されているのだと理解したらしい。
「趣味は?」
今度はヨナスが尋ねた。
「寝る、食べる、街に出る」
「それだけ?」
「十分でしょう」
「グレイ少佐より情報量少ないですね」
「ファルク大尉、意外と容赦ないですね」
「事実を言っただけです」
マティアスは笑ってから、エレジへ顔を向けた。
「じゃあ次、中尉」
「私ですか」
「順番的に」
エレジは少し考えた。
「エレジ・ヴァイス。二十六歳、中尉です。今までは北方軍の実働部隊にいました」
リヒターとヨナスがこちらを見ている。
「得意なのは、射撃、地図、航法、偵察、観測です。見えている情報から状況を考えるのも、たぶん得意な方だと思います」
「好きでもある?」
リヒターにそう聞かれ、エレジは少しだけ考えた。
「……はい。今は、そうだと思います」
「今は?」
「前は、得意だからやってるのか、好きだからやってるのか、あまり考えたことがなかったので」
能力として評価されることには慣れていた。けれど、それを自分が好きなのかと問われることは少なかった。
「知らない場所を見るのは好きです」
リヒターはそれ以上理由を掘り下げなかった。その距離の取り方が、エレジには少し心地よかった。
「じゃあ、次は俺でいいですか」
ヨナスが言った。
「ヨナス・ファルク。二十八歳、大尉。通信、電子、機械、センサー、解析が専門です。大学では通信工学と信号処理、そのあと大学院で電子系と暗号通信をやってました」
「やっぱり相当そっちなんですね」
マティアスが言う。
「そっち?」
「機械とか通信とか」
「まあ、そうですね」
ヨナスは特に気にした様子もなく続けた。
「軍に入ってからは、通信設備の設計と運用、電子戦支援、現地での機材修理、通信解析。あとは任務ごとにセンサー類の調整とか。基本的には一人か少人数で動くことが多かったです」
「一人が多かったんですか」
エレジが尋ねる。
「はい。専門作業だけ切り出されることが多かったので。現地に行って直して戻るとか、測って戻るとか」
仕事の内容だけ聞けば淡々としているのに、話しているうちに少しずつ言葉が増えていく。
「趣味は?」
マティアスが聞いた。
「いろいろあります」
「その答え、一番長くなるやつじゃないですか」
「聞いたのそっちでしょう」
ヨナスは少し考えた。
「鉱物、地質、天文、気象。あと機械全般。古い無線機とか時計も好きです。格闘技もやります」
「最後だけ急ですね」
「そうですか?」
「石と星と時計の次に格闘技来ると思わないでしょう」
「格闘技も構造なので」
「構造?」
「人体の動き方とか重心とか。技術として面白いです」
マティアスが少し黙ってから笑った。
「やっぱりファルク大尉、結構面倒そうですね」
「まだ何もしてないですけど」
エレジはヨナスの挙げた趣味を思い返した。
「そこまで違うものが、一人の中で同じ興味としてつながってるの、面白いですね」
ヨナスは少し意外そうにエレジを見る。
「そうですか?」
「はい。普通は別々に見えるので」
ヨナスは一度考えてから、むしろ当然のことを言うように答えた。
「でも、全部格好いいでしょう?」
エレジは一瞬だけ黙ってから、笑った。
「そこなんですね」
「そこです。格好いいと思ったものは、どういう仕組みなのか知りたくなるし、分かるならちゃんと使えるところまでやりたいので」
「なるほど」
それなら、通信も機械も石も星も格闘技も、ヨナスの中では同じところから始まっている。エレジには、その考え方が少し羨ましくもあり、面白かった。
「じゃあ最後、リヒター」
カイルが言った。
「はい」
リヒターはカップを置いた。
「アンナ・リヒター。二十九歳、大尉。衛生、医療、戦傷救護、護衛、追跡と対追跡、近接対応。これまでの任務は、少人数か単独が多かったです」
ヨナスよりも短いが、昼間に聞いた担当とほとんど一致している。
「医療はどのくらい?」
カイルが確認するように聞く。
「外傷処置、止血、縫合、固定、低体温、凍傷、搬送判断。そのあたりは実務経験があります。薬剤も一通り」
「かなりやってますね」
マティアスが言う。
「必要だったので」
「趣味は?」
今度はエレジが尋ねた。リヒターは少し考える。
「料理」
「やっぱり好きなんですね」
「ええ。あとは読書と、植物を見るのも好き」
「植物?」
「薬になるものとか、食べられるものとか。普通に花を見るのも嫌いじゃないけど」
その答えは、エレジが思っていたより柔らかかった。
「意外ですか?」
リヒターがこちらを見る。
「少しだけ」
「どういう人だと思ってたの?」
「もっと……固い人かと」
「それは失礼じゃない?」
「すみません」
「冗談よ」
リヒターは笑った。その笑い方が自然で、エレジもつられて少し笑う。
「一人で動くのが多かったなら、こういう班は久しぶりですか?」
「久しぶりというより、ほとんど初めてに近いかもしれない」
「五人で生活するのも?」
「それも」
「嫌じゃないですか」
「今のところは」
リヒターはそう答えたあと、五人を一度見回した。
「悪くなさそうだと思ってる」
全員の自己紹介が一通り終わったところで、リヒターが三人の方を見た。
「グレイ少佐と、ヴァイス中尉、ロート少尉は、同じところから来たのよね」
「課程は一緒でした」
エレジが答える。
「それなら、互いの印象を聞いてみたい」
マティアスが少し笑った。
「本人の前でですか」
「その方がいいでしょう」
「かなり気まずいやつじゃないですか」
「経歴を聞くだけより、人となりが分かると思うから」
リヒターはそう言って、三人を順に見た。
「自分で自分のことを話すと、どうしても選ぶでしょう。できることとか、好きなこととか。でも、長く一緒にいた人がどう見てるかは別だから」
エレジはその言葉に少し納得した。
確かに、カイルとマティアスについて自分が知っていることの中には、本人が自己紹介でわざわざ言わないようなことが多い。
「誰からいきます?」
マティアスが尋ねる。
「せっかくだから、三人とも互いに」
「全員?」
「ええ」
「結構大変ですよ、それ」
「長くなってもいいわ」
リヒターは自然に言った。
ヨナスも興味を持ったらしく、カップを手にしたまま三人を見る。
「俺も聞きたいです」
「ファルク大尉まで」
「本人の説明より精度高そうなので」
「言い方がもう分析なんですよ」
マティアスが笑う。
エレジも少しだけ身構えた。
自分がカイルとマティアスをどう見ているかなら話せる。けれど、自分が二人からどう見えているのかを本人の口から聞くとなると、それは少し違った。
最初に口を開いたのはマティアスだった。
「じゃあ、少佐からでいいですか」
「好きにしろ」
「そうですね……最初は、かなりやりにくい人だと思ってました」
カイルがマティアスを見る。
「今も多少は」
「訂正になってないぞ」
「でも、何考えてるか分からないタイプじゃないです。見てるところが細かいし、判断も早い。あと、誰かができるなら任せるし、できないなら止める。そこが一番分かりやすいです」
エレジも頷いた。
「私も、最初は全部見られてる感じがして緊張しました。でも、今は違います。失敗を探してるわけじゃなくて、今何が起きてるかを見てるんだって分かったので」
カイルは何も挟まず聞いている。
「それと、待つ人です」
エレジが続ける。
「待つ?」
リヒターが聞いた。
「私がすぐ答えを出せない時でも、急かさないんです。できるかじゃなくて、どうしたいかを聞くし、自分で決めるまで待ってくれるので」
リヒターはその言葉を少し考えるように聞いていた。
「ロート少尉は?」
ヨナスが促す。
「中尉が言ったのと近いです。あと、少佐は責任を取るところを他人に押しつけないです。任せるけど、最後は自分で持つ。だから動きやすい」
「そこまで褒められると居心地悪いな」
カイルが言う。
「じゃあ悪いところも言います?」
「いらん」
マティアスが笑った。
「次、中尉」
「私ですか」
「ここが一番長くなりそうですね」
「なんでですか」
エレジは少しだけ身構えた。
先に話したのはカイルだった。
「判断は速い。観察も細かい。情報が足りない時でも、見えてる範囲から使えるものを拾うのが上手い」
それは訓練中にも何度か言われたことだった。
「ただ、最初は自分を人数に入れない癖があった」
エレジは少しだけ視線を下げた。
「自分が動けるなら、その分まで引き受ければいいと思ってた。誰かが遅れたら助ける。負担が増えても自分ならできるならやる。それ自体は悪くないが、自分の消耗を計算に入れてなかった」
「今は?」
リヒターが尋ねる。
「前よりずっといい。自分が何をしたいかも言うようになった」
次にマティアスが口を開く。
「中尉は、最初かなり固かったです」
「固かった?」
「人に合わせるの上手いのに、自分から何か出すのは少なかったです。頼まれたことはやるし、必要なら助ける。でも自分が何を嫌がってるとか、何が好きとか、あんまり言わない」
エレジは何も返せなかった。それは、自分でも後になって気づいたことだった。
「でも、観察はめちゃくちゃしてます。人が困ってるのもすぐ分かるし、状況変わるのも早く拾う。あと、一回信頼した相手にはかなり深く入ります」
「深く?」
リヒターが聞く。
「距離が近いって意味じゃなくて、ちゃんと覚えてるんです。相手がどういう時に困るかとか、何なら任せていいかとか。そういうの」
エレジは少し驚いてマティアスを見る。
「そんなふうに見てたんですか」
「見てましたよ」
「言ってくれればよかったのに」
「今言ってます」
ヨナスが少し笑った。
「じゃあ最後、ロート少尉?」
「俺ですね」
エレジが先に口を開いた。
「マティアスは、距離の取り方が上手いです」
「それ本人も言ってました」
リヒターが言う。
「でも本当にそうなんです。近くにいても見張られてる感じがしないし、困ると来る。でも、必要ない時はそのままにしてくれる」
マティアスは少し照れたように笑う。
「中尉からそれ言われると、結構うれしいですね」
「あと、変化に強いです。予定通りじゃなくなった時でも、慌てないし、誰かの代わりに全部持っていかない」
カイルも続ける。
「判断の切り替えが速い。指示待ちにならないが、勝手に全部変えることもない。小さい班では使いやすい」
「使いやすいって言い方どうなんですか」
「褒めてる」
「ならいいですけど」
ヨナスがマティアスを見る。
「確かに、今の説明だと一緒に動きやすそうですね」
「ファルク大尉、評価早いですね」
「情報は多い方がいいでしょう」
「そういうところ、本当に技術屋ですね」
マティアスが笑う。
リヒターは三人の話を聞き終えると、満足したように頷いた。
「やっぱり聞いてよかった。本人の自己紹介だけより、ずっと分かる」
それから少し考えるように間を置いて、もう一つ尋ねた。
「もう一つ、聞いてもいい?」
「何です?」
マティアスが答える。
「この部隊を希望した理由」
「希望?」
マティアスが少し首を傾げる。
「推薦はされるでしょう。でも、そうじゃなくて。最終的に、自分がここを選んだ理由」
その聞き方で、エレジには意味が分かった。
能力が合っていたから選ばれたのではなく、自分からここへ来ることを選んだ理由。
最初に答えたのはマティアスだった。
「強いて言うなら、面白そうだったからですかね」
「面白そう?」
「五人で動く小さい班で、役割も固定じゃない。任務ごとにやることも変わるでしょう。そういう方が自分には合ってると思ったので」
「安定した部隊より?」
「安定してるのが嫌なわけじゃないですけど、同じことをずっとやるよりは、状況ごとに考える方が好きです」
マティアスらしい答えだとエレジは思った。
「ファルク大尉は?」
リヒターが向ける。
「かっこいいからです」
一拍置いて、マティアスが笑った。
「そこですか」
「そこです」
「理由、全部それで通すんです?」
「かなり通りますよ」
ヨナスは真面目な顔のまま続けた。
「通信、観測、解析、現地での修理、必要なら格闘もする。五人だけで動いて、状況見ながら役割変える。普通にかっこいいでしょう」
「まあ……ファルク大尉が言うと一貫してますね」
「でしょう」
ヨナスは少し満足そうだった。
エレジは、その答えに妙な納得を覚えた。さっき聞いたばかりの「格好いいと思ったものは極めたくなる」という話と、きれいにつながっている。
「ヴァイス中尉は?」
リヒターに聞かれ、エレジは答えを迷わなかった。
「やりたいことに近かったからです」
「偵察?」
「はい。知らない場所へ行って、見て、考えて、必要な情報を持ち帰る仕事がしたかったので」
それはもう、自分の中で決まっている。
「それに、少人数で動く方が好きです。役割が近い方が、相手が何を見てるか分かりやすいので」
エレジはそこで終えた。
「少佐は?」
マティアスが聞く。
「任務内容に興味があった。それと、少人数で動く方が向いてる」
「それだけですか」
「他にもある」
カイルはそれ以上説明しなかった。
マティアスは何か思い当たったらしく追及せずに笑い、そのままリヒターへ顔を向ける。
「じゃあ、リヒター大尉は?」
「私?」
「聞いた本人だけ答えないのはずるいでしょう」
リヒターはわずかに考えてから答えた。
「必要とされたから」
エレジは、いつかの自分に重なるようなその答えに、思わずリヒターへ顔を向けた。
リヒターは穏やかな表情のまま、静かにカップに口をつけていた。




