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エーデルベルグの雪 ──北部山岳任務録──  作者: 有凪いちほ
北部山岳特殊任務課程

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追加評価・講評


 追加評価の日は、二日前とは違って風も弱く、空も明るかった。

 雪面には前夜の新雪が薄く積もっていたものの視界は十分にあり、あの吹雪のあとでは同じ山域とは思えないほど穏やかだった。


 集合場所で新しい班構成を確認すると、今回はエレジが班長ではなかった。

 指揮はマティアス、エレジは偵察と観測を担当し、ほかにハインツとクラウスが入る。未取得項目だけを見るという説明通り、前回とは役割も条件も変えられていた。


「中尉、今日は俺が指揮です」


 マティアスは渡された地図を確認しながら、念を押すように言った。


「見れば分かります」


「何か不満そうですね」


「ないです」


「本当に?」


「今日は任せます」


 その言い方がおかしかったのか、マティアスは少し笑った。


「それ言われると逆に緊張するな」


「普通にやってください」


「グレイ少佐みたいなこと言うな」


 エレジはそれには返さず、出発前の準備へ意識を戻した。

 少し離れた位置では教官たちも各班を見ており、その中にカイルの姿もある。一度だけ目が合ったが、そこから何かを読み取ろうとは思わなかった。


『前回の評価を証明し直そうとするな』


 言われた言葉を思い出す。今日は前回とは班も役割も条件も違う。その中で自分に与えられた仕事をすればいい。


「出ます」


 マティアスの合図で班が動き始めた。

 最初の課題は指定区域の偵察だった。エレジは先行し、地形と雪面の変化を拾いながら進んでいく。その途中で、新しい足跡が進行方向を横切っているのを見つけた。


「前方、足跡四以上」


 後方にいたマティアスもその報告を受け、痕跡がどこへ向かっているのかを確かめる。


「方向は?」


「南西。重なってるので正確な人数は不明」


「追う?」


「任務上は必要ありません。交差する可能性だけあります」


「了解」


 必要な情報はそこまでだった。足跡を見つけたからといって、その扱いまで自分が決める必要はない。


「北側へ寄る。接触避ける」


「了解」


 マティアスの判断に従い、班は進路を少し北へ寄せた。

 その後も役割の境界は変わらなかった。エレジが前で情報を拾い、必要なものだけマティアスへ渡す。最終判断は班長が行い、意見を求められたときだけエレジが答える。その流れに、自分から何かを付け加えたいとは思わなかった。


 午前の後半、敵役の移動が予想より早まった。

 観測地点へ入る前に、先を見ていたクラウスが接近する人影に気づいた。


「来ます」


 エレジも双眼鏡で進行方向を確認した。

 三人いる。

 こちらの進路へ近づいてきており、このまま進めば接触する可能性が高い。


「中尉、どう見ます」


 今度はマティアスから判断を求められた。

 エレジは周囲の地形と、自分たちが残してきた痕跡を合わせて考えた。右側は開けている。左には樹林帯があり、正面から敵役が近づいている。後退すれば、今度は自分たちの足跡と重なる。


「左へ入ってやり過ごすのがいいです。動き続けるより見つかりにくい」


「どのくらい待つ」


「五分で十分です。向こうは直進してます」


「分かった。左」


 班は樹林帯へ入り、外から輪郭を拾われにくい位置まで姿勢を落とした。

 敵役はそのまま通過し、こちらに気づくことはなかった。移動を再開してから、マティアスが言った。


「助かりました」


「聞かれたので答えただけです」


「そういう言い方する」


 それ以上続ける話でもなく、二人ともすぐに任務へ意識を戻した。


 昼前、教官側から追加状況が入り、クラウスは想定負傷者として左肩を使用できない条件になった。

 マティアスは班全体の動きを止めないまま、必要な役割だけを組み替えた。


「ハインツ、クラウス支援。ヴァイス中尉、前見てください」


「了解」


 負傷者が出ても、エレジの担当そのものが変わったわけではない。後方の速度が落ちるならそれに合わせながら、前方の状況を拾い続ければいい。

 しばらくして、ハインツが移動経路について提案した。


「この先、沢沿いの方が楽です」


 マティアスはすぐに採用せず、偵察位置から地形を見ていたエレジにも意見を求めた。


「どう思います」


 エレジは沢の先と、その周囲の地形を見比べた。


「負傷者がいるなら沢の方が楽です。ただ、出口が狭いので接敵したら動きにくい」


「代案」


「右の緩斜面。少し遠いですけど、逃げ道はあります」


 マティアスは二つの経路を見比べたあと、班として使う方を決めた。


「右を使う」


「了解」


 自分の案が採られたこと自体には、特に何も感じなかった。必要な材料として出しただけで、それを使うかどうかを決めるのは班長だった。


 午後に入ると、通信制限、経路変更、観測対象の消失と、条件は次々に変わっていった。どれも半年のあいだに何度も経験してきた種類のものだった。

 エレジは与えられた役割の中で、見えた情報を渡し、必要なときにだけ判断材料を出した。それ以上を自分から引き受ける必要のある場面はなかった。

 日が傾き始めた頃、最後の指示が入った。


『観測終了。全班撤収。指定地点へ帰投せよ』


 すぐに動き出す者はいなかった。半年のあいだ、一区切りついたと思った直後に新しい条件を与えられることは何度もあったため、このあと何か追加されるのではないかという感覚だけが残っている。

 だが、無線から続きは来なかった。


「帰ります」


「了解」


 指示が撤収なら、それに従えばいい。班は山を下り始めた。

 途中で大きな状況変更はなく、帰投までの行程もそのまま続いた。必要な評価項目が取れたなら、最後だからという理由だけで新しい状況を加えるつもりはないらしい。


 やがて帰投地点が見えたとき、エレジは初めて、評価中に保っていた緊張を少し緩めた。

 帰投地点では教官たちが待っており、その中にはカイルもいた。それでも班は最後まで隊形を崩さず、所定の位置まで戻った。


「ロート班、四名帰投」


 マティアスが班長として帰投を報告する。


「了解。装備確認後、そのまま待機」


 指示を受けて荷物を下ろしたとき、その何度も繰り返してきた動作が、今日は少しだけ違って感じられた。

 これで、半年近く続いた評価は本当に終わったのだろうか。


 まだ実感はなかった。

 全班の帰投後、訓練生たちは講義室へ集められた。教官たちはしばらく行動記録を照合していたが、やがて整理がついたのか、カイルが全員へ説明するため前へ出た。


「追加評価は終了」


 その一言で、室内の空気がわずかに変わった。


「これで、最終評価に必要な項目は全員分取得した。結果は個別講評で伝える。今日ここで合否は出さない」


 期待していた結果がその場で聞けないと分かり、何人かがわずかに肩を落とす。それでもカイルの説明には続きがあった。


「ただし、ここまでで最終評価そのものは終了だ」


 その言葉で、エレジの中でも初めて一つの区切りがはっきりした。

 次の評価はもうない。

 朝起きて訓練へ出て、行動を見られ、判断を記録される日々は、ここまでだった。


「明日からは装備返却、記録整理、個別講評。修了式まで数日ある。今日は休め」


 そこで解散となった。

 教室を満たしていた緊張が一気に緩み、息を吐く音や笑い声があちこちから聞こえ始めた。その空気の中で、マティアスがエレジの隣へ来る。


「終わりましたね」


「なんかもっと感動するかと思った」


「私もです」


「今どんな感じです?」


 エレジは、終わったと言われた直後の自分の感覚を確かめてみた。


「まだ、明日も普通に訓練ある気がします」


「分かる」


「少尉は?」


「朝起きたらまた〇五三〇集合とか言われそう」


 その想像なら自分にもできて、エレジは笑った。


「もうないですよ」


「ないのかな」


「少なくとも最終評価は終わりました」


「そうですね」


 二人は装備を持って講義室を出た。

 外はすでに夕方で、雪の上には長い影が伸びている。訓練生宿舎へ向かう途中、エレジはこれまで毎日のように行き来してきた場所を改めて見た。


 訓練棟と教官宿舎、その向こうにある山々。

 半年近く、何度も見てきた景色だった。数日後には、ここを出る。

 最終評価が終わったということより、その事実の方が急に現実味を持った。


 その先はまだ決まっていない。特殊任務部隊の選考も、自分に設定された報酬への対応もある。カイルがどこへ行くのかも、正式には決まっていない。

 それでも、ここで一つの期間が終わったことだけは確かだった。


 この課程の中で、自分が何をできるのかを評価され続ける時間は終わった。

 宿舎へ戻ろうとしたところで、後ろから名前を呼ばれた。


「ヴァイス中尉」


 声で誰なのかは分かった。振り返ると、カイルがこちらへ来ていた。


「はい」


「明日、一〇〇〇。執務室」


「個別講評ですか」


「ああ」


 そこで半年間の結果まで伝えられるのだと分かり、それまでなかった緊張が少しだけ戻った。


「合否の結果もですか」


「そこで話す」


「分かりました」


 エレジはまだ実感がわかなかった。


「もう何かするたびに点がつくわけじゃないんですね」


「そうだな」


 言葉にしてみると、その状態の方がむしろ馴染みがないのだと分かった。


「半年ずっとそうだったから、急になくなると変に感じます」


「すぐ慣れる」


 カイルは少し考えてから続けた。


「明日は半年分まとめて話す。聞きたいこと考えてこい」


「何でもですか」


「評価についてなら」


「進路も?」


「話せる範囲なら」


 カイルと別れたあと、エレジは訓練生宿舎へ向かった。


  *


 翌朝、エレジは普段より少し遅く起きた。

 最終評価が終わったため、訓練の予定はもう入っていない。朝食を済ませたあとも、残っているのは装備返却の準備と記録整理くらいで、一〇〇〇まではまだ時間があった。


 それでも、エレジは何度か時計を見た。結果そのものが不安なのではなく、半年間を通して自分がどう見られていたのかを知りたかった。

 射撃や航法の点数だけではない。最初の頃に何を問題として見られ、途中で何が変わり、最後にどう判断されたのか。

 自分では分からない部分も含めて、課程が終わる前に聞いておきたかった。


 九時五十分を過ぎた頃、エレジは教官宿舎棟へ向かった。執務室の前まで来ると、これから半年分の評価を聞くのだという実感が少しだけ強まり、一度呼吸を整えてから扉を叩いた。


「入れ」


「失礼します」


 中ではカイルが机に座っており、その前には何枚かの評価表と、半年分の記録をまとめた厚いファイルが置かれていた。

 それを見ただけで、今日の話が最終評価だけでは終わらないことが分かる。


「座れ」


「はい」


 向かいの椅子へ座ると、カイルは机上の書類の中から一番上のものを取り上げた。


「まず結果から言う」


 いきなり合否を告げられるのだと分かり、エレジは自然と姿勢を正した。


「修了判定、合格」


 予想していたはずの言葉だったのに、実際に聞くと一瞬だけ返事が遅れた。


「……はい」


「驚いたか」


「少しだけ」


「落ちると思ってたわけじゃないだろ」


「はい。ただ、実際に聞くまでは分からなかったので」


 カイルは最初の評価表を開き、合否の先にある半年分の講評へ話を進めた。


「合否だけならこれで終わりだが、今日は半年分を見る」


「お願いします」


「初期評価。射撃、地図判読、状況判断は最初から上位。通信、ロープ、長距離行動も大きな問題なし」


「はい」


「技術面だけなら、この課程についてこられる水準には最初からいた。問題は別にあった」


 次に何を言われるのかは、エレジにももう分かっていた。


「自分を条件に入れない」


「……はい」


「班員の疲労、装備、速度は見る。異常にも早く気づく。そこは長所だった。ただ、自分の疲労や状態は後回しにする。負担が増えれば、自分で吸収しようとする」


「そうでした」


「最初の頃は、自分がまだ動けるなら問題ないと思ってた」


「はい」


「十一月末あたりから、そこが変わり始めた」


 三日間の連続行動訓練を思い出す。あの頃から、自分一人が動けるかどうかだけでは班全体の判断にならないと考えるようになった。


「行けることと、選ぶことは別だって考え始めた頃です」


「ああ。そこから、自分一人じゃなく班全体で余力を見るようになった。十二月の経路選択では、かなり安定してる」


 ページが進むにつれて、話題も次の課題へ移っていった。


「そのあと課題になったのは、情報の出し方だった」


「確定させてから出そうとしていたところですね」


「そうだ。後半は改善してる。観測したことと推測を分けて報告できるようになった」


 そこで講評は訓練中の記録だけではなく、実際に起きた出来事にも及んだ。


「侵入者の件でもそうだった」


「あのときは、追わなかったです」


「それでいい」


「前なら、追っていたと思いますか」


「かなり高い確率で」


「……そうですね」


 以前の自分なら、安全を確認するより先に相手を追う理由を探していたかもしれない。そう考えると、その答えに反論できるところはなかった。

 カイルは次の記録へ進んだ。


「事故後については、技能評価とは分けて見てる」


「はい」


「判断力自体が落ちたわけじゃない。身体の反応が戻るまで時間がかかった。そこを同じものとして扱う必要はない」


 その区別は、エレジが想像していた評価のされ方とは少し違っていた。


「怖さと、判断力をですか」


「ああ。怖がったから判断力まで落ちた、とは見てない」


「……はい」


「後半は、自分の状態を無視せずに、その上で判断へ戻れるようになった」


 侵入事件や、その後の訓練が頭に浮かんだ。怖さが消えたわけではなくても、そこで何をするべきかを考えられるようになったことを、カイルは技能とは別の変化として見ていたらしい。


「そこも見ていたんですね」


「直接点数にはしてない。ただ、当然見てる」


 続く言葉は、それまでより少し静かな調子だった。


「怖さがなくなること自体は評価してない。怖くても必要な行動ができるか。無理なら、それを自分で把握して報告できるか。その方が重要だ」


「はい」


「後半で一番大きかったのは、自分の状態も含めて判断できるようになったことだと思う」


「前は、そこを抜いてました」


「抜きすぎてた」


「はい」


 やがて話は課程の終盤へ入った。


「二月後半からは、大きく修正するところはほとんどない」


 そこまで言われるとは思っていなかったため、エレジは言葉を選ぶように少し間を置いた。


「そこまでですか」


「ああ。観察、判断速度、役割配分。必要なら他人の案も使うし、自分が出るべき場面では出る。引くべきところでは引く。班長としても安定した」


「最終評価も?」


「問題ない」


「途中で中断しましたけど」


「中断したのは評価側の都合だ。お前の判断とは別だ」


 カイルは最終評価の記録を示しながら、具体的な判断を挙げた。


「第三観測地点を切った判断。ベッカー負傷後の撤収。開けた斜面を使わなかったこと。全部適切」


 その評価を聞いたところで、エレジの胸の奥に残っていた緊張がようやく少しほどけた。


「じゃあ、ちゃんとできたんですね」


「ああ」


 その一言は、点数や順位を聞くよりも素直に入ってきた。


「総合評価としては上位」


「順位は出るんですか」


「出してない。ただ、候補選定に使える水準にはある」


「特殊任務部隊の?」


「ああ」


 そこから話は、課程の中の評価ではなく、その先の進路へ移った。


「まだ正式決定じゃない。ただ、最終評価結果は選考側へ送られる」


「私の希望もですか」


「ああ。全部だ」


「分かりました」


「ただし、そこから先は選考側の判断だ」


「はい」


「適性がないから外れるという状態ではない。それだけは言える」


 今の段階で知れることとしては、それで十分だった。


「少佐の方は」


「俺もまだ候補のままだ」


 二人の進路はまだどちらも確定していない。その先をここで考え続けても答えは出ないと分かっていたので、エレジはそれ以上聞かなかった。


「評価について、ほかに聞きたいことは」


 講評へ話が戻ったことで、エレジはこの機会に聞いておきたいことを考えた。


「最初の頃、私をどう見てましたか」


「評価としてか」


「はい」


 今度は記録を確認することなく、カイルは答えた。


「かなり優秀。でも危うい」


「危うい?」


「できるから、自分でできるところまでやる。班員を助けるのも、遅れを拾うのも、装備を見るのもできる。でも、それを全部自分で支え続けたら、崩れたときに班ごと止まる」


「……はい」


 当時の自分を思い返しても、否定できるところはほとんどなかった。


「だから、最初からよく見ていたんですか」


「評価対象だったからな」


 それ以上を聞けば、今の講評とは別の話になる。そこまで踏み込む場面ではないと理解し、エレジは頷いた。


「分かりました」


 それでも、講評が終わる前にもう一つだけ確認しておきたいことがあった。


「少佐から見て、私、偵察に向いてますか」


 今度の答えには迷いがなかった。


「向いてる」


「理由を聞いてもいいですか」


「見たものを覚えてる。違和感を拾うのが早い。推測と事実を分けられる。一度決めたことにも固執しない。それから、待てる」


「待てる?」


「偵察は、動くより待つ時間の方が長い。必要なら、何も起きない時間をそのまま見続けられる」


 それは、自分がこれまで強みとして意識したことのない部分だった。エレジはその評価をそのまま受け取った。


「ありがとうございます」


「ああ」


 書類が閉じられたことで、半年分の講評がここで一区切りなのだと分かった。


「これで講評は終わりだ」


「はい」


 机の上には、まだ分厚いファイルが残っている。その中に半年分の記録が収められていると思うと、それを今の会話の中で一つの流れとして聞いたことが少し不思議だった。


「もっと厳しいことを言われると思ってました」


「言う必要があるなら言う」


「今は、大きなものはないですか?」


「ああ」


「……それなら、よかったです」


「そのまま受け取れ」


「はい」


 エレジは立ち上がったものの、すぐには扉へ向かわなかった。

 講評という目的が終わったことで、さっきまで評価表を挟んでいた二人の間から、教官と受講者として確認すべきことが一つなくなったように感じられた。


「これで本当に、もう評価されないんですね」


「修了式までは身分上は受講者だ。ただ、最終評価は終わった」


 半年間続いていたものが本当に終わったのだと思うと、やはりまだ妙な感覚が残った。


「半年ずっと、少佐に見られてる感じがしてたので、急になくなると変な感じです」


「実際見てたからな」


「はい」


「嫌だったか」


「最初は少し。でも、今は……終わるのが少し寂しいです」


 カイルからすぐに返事がなかったため、エレジは自分の言葉がどう受け取られたのかを待った。やがて返ってきた答えは、予想していたよりも自分の感覚に近かった。


「俺もだ」


「少佐もですか」


「この半年、お前がどう変わるかずっと見てた。それが終わるのは、少し変な感じがする」


 それなら、自分だけがこの区切りを寂しく感じているわけではないらしい。

 カイルに教官として評価される時間は終わる。それでも、その先まで関係そのものが終わるわけではない。


「でも、この先は評価じゃなくて見てもらえるんですよね」


「そうなるな」


「それなら、いいです」


 それで聞きたかったことは終わった。今度こそ退出しようとしたところで、カイルから呼び止められた。


「ヴァイス中尉」


「はい」


「修了式まではまだ受講者だからな」


 最後まで教官と受講者としての線を崩さないつもりなのだと分かり、エレジは素直に頷いた。


「分かってます」


「ならいい」


 残っているのは、ほんの数日だけだった。


「あと数日ですね」


「ああ」


「では、失礼します」


 半年間の講評を終え、エレジは執務室を出た。



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