表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪役令嬢ですが婚約破棄しないと王太子が死にます ~最後の悪役令嬢と百回恋をした王太子~  作者: 夜炎 伯空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/9

4話『もう時間がありません』

 聖女アリアの歓迎会は、その翌日、王宮の大広間で開かれた。


 豪華な料理。


 煌びやかなシャンデリア。


 音楽隊の演奏。


 誰もが笑顔で杯を交わしている。


 その中心にいるのは――聖女アリアだった。


「やはり聖女様はお美しい」


「神話のようだ」


「王太子殿下とも幼い頃からの縁があるみたいよ」


 そんな声が次々と聞こえてくる。


 私は小さく微笑んだ。


 ――これでいい。


 私などではなく、殿下には、本来こういう方が隣にいるべきなのだから。


 しばらくして、私はレイアスへ歩み寄った。


「殿下」


「どうした?」


 私は出来るだけ穏やかに笑う。


「今日こそはアリア様をエスコートしてあげてください」


 一瞬だけ沈黙が流れる。


 周囲の貴族たちも耳を傾けていた。


「断る」


「え……?」


 あまりにも即答だった。


 空気が凍る。


「座ろう」


 そう言って自然に椅子を引く。


「あ、ありがとうございます……」


 私は戸惑いながら腰掛ける。


「これは温かいうちに食べた方が美味しい」


 レイアスは私の好きな料理を皿へ取り分けた。


「飲み物も替えよう」


 空になりかけたグラスへ、新しい果実水を注いだ。


 その行動が、あまりにも自然体で――


 まるで長年連れ添った夫婦のようだった。


「殿下……」


「食べないのか?」


「いただきます……」


 周囲から小さなどよめきが起きる。


「聖女様ではなく、あの悪役令嬢を……」


「殿下は相変わらずだ……」


 私は恥ずかしくなって俯いた。


 その時――


 静かに食事をしていたアリアが口を開いた。


「レイアス殿下……」


 レイアスが視線を向ける。


「もう時間がありません」


 その一言で。


 レイアスの笑顔が消えた。


 優しさも。


 一瞬だけ全てがなくなる。


「……分かっている。ごほっ」


 レイアスが少し咳をした。


 何故か、私にはそれが妙に気になった。


「殿下、お風邪ですか?」


「心配しなくていい」


「お身体は――お大事にしてくださいね」


「ああ」


   ◇


 その日の夜――


 私は一人で礼拝堂へと向かった。


 そこには、祈りを捧げる聖女アリアの姿があった。


「聖女様」


 彼女が静かに振り返る。


「少し……お話しできますか?」


「もちろんです」


 私は真っ直ぐにアリアを見つめた。


「――アリア様は私の未来を知っているのですか?」


「いいえ」


「……嘘です」


 私は首を横に振る。


「あなたは私に謝りました。初めて会った人に謝るはずがありません」


 沈黙。


 やがてアリアは悲しそうに笑った。


「私が知っているのは、未来ではありません――過去です」


「……過去?」


 そこまでだった。


「アリア」


 低い声が礼拝堂へ響く。


 レイアスだった。


 静かに歩いて来る。


「約束を破るな」


 アリアは目を閉じる。


「リリネラ様……今、私から伝えられるのはここまでのようです――」


 それ以上は話さず。


 お辞儀をして、アリアは礼拝堂から去って行った。


   ◇


 次の日の朝。


 アリアは震える声でレイアスに尋ねた。


「……いつまで隠すつもりですか?」


「最後までだ」


「ですが……」


「俺は誤解されたままでも構わない。その方が――彼女は生きられる」


 そう呟いた直後だった。


「ごほっ……!」


 突然、レイアスの身体が揺れた。


 口元を押さえる。


 赤い雫が指の隙間から零れ落ちた。


 白いハンカチが、一瞬で真紅に染まる。


「レイアス!」


 アリアが駆け寄る。


「もう寿命が……!」


 レイアスは苦しそうに息を整えながら、それでも微笑んだ。


「……まだ、大丈夫だ」


 大切な幼馴染のその笑顔が――


 どうしようもなく儚く見えて。


 アリアは堪えきれず涙を流した。


 百回目の運命も、静かに終わりへと近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ