第44話 僕たちに残された方法
「えー!!??なんでここで由実さんの名前が!?」
想定していない人の名前が突然話題に上がってきて、驚き目を丸くする。
「どうして彼女なのか、その理由が分からないんだよな...。そもそも、蘇らせた人が哀宮由実だって特定したのも、割と最近のループだからな。
...知ってそうなやつに聞いても、教えてくれないし」
「知ってそうなやつって、榎本君のこと?」
「いや、まあ...誰でもいいだろう」
もこ太は顔を逸らして、歯切れの悪い回答をする。
「あいつが西葉蓮に成り代わったのも、この事務所に『榎本がいる』って理由もあるのかもな。榎本からいつでも彼女の情報が聞けるように」
たしかに、ただ強い悪霊を狩るためなら、蓮さんにこだわる必要はない。
むしろ、うちの事務所よりも大手の事務所の方が仕事も、悪霊についての情報も多く手に入る。
どうせ成り代わるなら、大手で働くゴーストファイターに成り代わる方がお得だ。
それなのに、わざわさうちの事務所の蓮さんに成り代わることを選んだのは、『榎本君』という、由実さんと最も親しい人間がここにいるから、という理由が付属するなら、納得がいく。
「『死者を蘇らせる能力』についてまだ詳細を話していなかったな。
本来、死んだやつが蘇ったら、記憶のズレが生じるが、死者が蘇った時点で、その人が『死んでいた事実』が、みんなの記憶から抹消される。
まるで昨日まで普通に生きていたかのように、いつも通りの日常が始まるのさ。
そして、蘇った者は、一見、普通の人間の体をしているが...その実態は、人間というよりも『悪霊』の体に近い。
人間と違い怪我や傷を負っても立ち所に治してしまう。強い悪霊も同じだろ?どんなにゴーストシューターで体を撃っても、核となる頭を打たなければすぐに回復してしまう。
今回の場合、核となる部分は心臓だ。...ここは普通の人間と同じだな。
この心臓、見た目は普通の人間の心臓と同じなんだが...その中には大量の...霊力が入っているんだ。その霊力が活発に活動し、本来動くはずのない、死者の心臓を動かしている。
心臓を壊せば、そこから霊力が漏れて、蘇らせた死者の体も、悪霊のようにスーッと天に召され成仏してしまう。
これが、私が何度も過去を遡ってようやく解明出来たこの能力の全貌なんだよ」
「それって、なんだか...」
姿形は人間で、死んだ本人も、自覚も記憶すらない。でも、その正体は人間というよりは、もうほとんど悪霊に近い存在になってしまっている、ということだろうか。
自分の一番愛しい人の体が、もはや人間と呼べるものではなく、自分たちが退治するべき悪霊の体になっていることを知ったら...榎本君は、どんな気持ちになるのだろう。
「過去のループで、哀宮由実が私の目の前で不慮の事故で大怪我をしてしまったことが一度だけあってな。彼女の心臓は無事だったから、すぐに傷が塞がり、剥がれていた皮膚も元通りになった。そして、本人は怪我をした記憶も無くし、何事もなかったかのように起き上がっていたよ。
私は確信した。人間ではあり得ない。あの偽物野郎が蘇らせた人物は、こいつだと。
...そのループでは結局ミスって、初日からやり直しになっちまったけどな」
もこ太は、覚悟を決めたような表情で、拳を握り締める。
「ようやくだ...。ようやく見つけたんだよ。あの偽物野郎が蘇らせた人を。
私が、彼女の魂を天に還す...いや、ダメだな。そんな綺麗な言葉は、使わない。
私の手で彼女を殺すことで、このループを終わりにしたいんだ」
真っ直ぐと未来を見据えるように前だけを見ているもこ太に対し、僕は、いまいち状況が整理出来ない...。
「いやいや!ちょっと待って!!色々と聞きたいことはあるけど...仮に由実さんを殺しても、その魂がまた呼び戻されちゃったらどうするの!無限に復活するだけじゃん!」
「その可能性は0ではないな。でも、考えてみろよ。
私たちが退治した悪霊と、全く同じ悪霊が現世で発見されました、なんてデータは、ゴーストファイター協会の資料や本を探しても、どこにも記載が無いだろ?
あの世のことなんて大して知らねーが、もしかすると、死んだ魂がこの世に戻って来れるのは一度だけなのかもしれないな」
「それは...そうだけど。
でも、そもそもさ!由実さんを殺す以前に、偽物の蓮さんを成仏させれば済む話でしょ?」
「お前なぁ〜。よくもまあ、そんな気楽に言ってくれるよなぁ?
ワープ能力、武器を体に格納して自在に出し入れする能力、口から火を吹く能力、空から槍を飛ばす能力、相手の視界の一部を奪う能力...これらの他にもまだ未知数の多種多様な能力を持っている可能性がある。
そんな化け物に、勝てると思うのか?」
「...それは、一人では無理かもしれないけど」
「あのなー、そんなことはもう試したんだよ!」
僕の次の言葉を全て理解しているのか、僕が言い終わる前に間髪入れず言葉を返された。
「私はとあるループで、大手事務所のゴーストファイター達をなんとか説得することが出来た。
そして、あの偽物野郎に全面戦争をぶっかけてやったがよぉ...でも...はは。全然ダメだったよ。
みんな..命を賭して戦ってくれたけど...歯が立たなかった。何十人という人数で挑んだのに...」
「そんな...それじゃ、一体誰が勝てるんですか!?」
僕の質問に対して、もこ太は視線を落とし、暗い表情をしている。
「...勝つことは無理だ。無理だと決めたら潔く諦める、これも賢い作戦だ。
だが、このままやつを野放しにすれば、あいつは毎月必ず誰かを殺し続ける。それを防ぐために、その殺人の目的である哀宮由実を殺す。
そうすれば、あいつはもう誰も殺さなくなる...かもしれない...。これが私の考えだ」
(そんな...それは...それは、全部憶測じゃないか!!
由実さんを殺したって、偽物の蓮さんが必ず人殺しを辞めるとは限らない。もしかしたら、殺しを辞めるどころかヤケになって暴走して、大量殺人をするかもしれない。
そもそも、由実さんを殺しても、もし由実さんをもう一度、蘇らせることが出来たら?そしたらきっと、あの人は何度も蘇らせてしまうだろう。
その度に、由実さんを...榎本君の彼女を、殺さなきゃいけないの!?
こんな、こんな方法しか、僕たちには残されてないの...!?)
呆然と立ち尽くす僕に、もこ太は、この図書館の隅にひっそりと立つ古臭い茶色の扉を指差した。
「ここは、ずっと鍵がかかっていてな。どんなに力強くドアノブを引っ張っても押しても、開かなかったんだよ。
でも、あの日。私が『蘇らせた人物は哀宮由実』だと特定しその日、ついに、扉が開いたんだ」




