第43話 血で染まる手
(テレビで話題になっている、『佐瀬市連続殺人事件』...)
佐瀬市では、数ヶ月前から複数の遺体が発見され、死因がどれも同じことと、死体が発見されるのが毎月20日〜24日であることから、同一犯による犯行の可能性が高いとみて捜査が進んでいるらしい。
殺される人の共通点は『佐瀬市』で殺されたということくらい。年齢、性別、職業、友人関係などを調べても共通点は見つからなかったようだ。
比較的治安の良い佐瀬市で、ここ最近の治安が少し乱れているのは、数ヶ月に渡って続く未解決連続殺人事件が佐瀬市の人々の心に不安を募らせ、治安の悪化につながっている...なんて論ずるニュースもあるくらい、僕たちが住む佐瀬市とは切っても切り離せない事件だ。
「あの人が、連続殺人...の、犯人...。それってつまり、人を、たくさん殺してるって、こと...?」
「んだよ。わざわざ言わせんなよ。それ以外ねーだろ」
悪霊に殺されそうになった僕を、助けてくれたあの人が。
僕の悪霊への優しさが、命の危険に繋がると...諭し止めようとしてくれたあの人が。
不安と恐怖で震える僕の手の上に、優しく重ねてくれたあの人の手は、何人も殺めた血に染まった手だったの?
あの人の口から出る言葉はすべて、蓮さんを真似するための言葉に過ぎなくて、その裏は、ただの人殺しだったの?
(...あの人が、平気で人を殺せるような人だとは、思えない)
「“あの人が、人を殺して平気でいられる人じゃありません!!”なんて言わないよな?」
「ぎょっぐ!!え、えっと」
自分の心をほとんどそのまま言い当てられてしまい驚いて肩をびくつかせる。
(そっか...。この話も、もこ太にとっては初めての経験じゃないんだ。こういう時に僕が何を考えてるかも、お見通しってことか...)
もこ太は怒った顔で説教モードにスイッチしており、机の上で羽を腕組みのようにしながらこちらを見ている。
「お前にとって、あいつは本物の西葉蓮とちょっくら違うだけで、立派な上司だったのかもしれない。けどそれは、あいつが『西葉蓮』を演じていたからに過ぎないんだよ。
演技を辞めたあいつの本性は...お前の憧れのゴーストファイターなんかじゃない、ただの卑劣な人殺しだ!」
「...実際に、見たの?...その、現場を...」
もしかしたら、もこ太が言っているのはただの妄想や憶測で、何かの間違いかもしれない。
そう思いながらもどこか自信がなさそうな僕の心を見透かすように、もこ太は続けた。
「...信じたくない気持ちがあるんだろうけど、残念だったな。私はこの目ではっきりと見たよ。
別の目的で過去を遡っている時に、偶然、あいつが人を殺す場面を目撃したんだ」
「...でも、でもさ!!僕の見てきたあの人...偽物の蓮さんは、何の意味もなく殺人をする人だとは思えないよ」
もこ太は両羽を広げて「やれやれ...」と呆れた声を出している。
「だぁーからさぁ、あいつは西葉蓮を演じてただけだって。お前、あんま肩入れすんなよ?
まあ、たしかにお前の言う通り、意味のない殺人ではない。あいつはあいつなりに、目的はある。
そうだな、まず、順を追って話そう。あいつの悪霊の能力は、簡単に説明すると『コピー』だ」
「コピー?」
「『自分が殺した悪霊の能力をコピー』する、それがあいつの能力だ。
滑稽だよな。表では西葉蓮を演じて、裏でも誰かの模造品でしかない能力なんだからよ」
「模造品...」
一説には、悪霊の能力には生前の自分の望みが反映されると言われている。
偽物の蓮さんがコピー能力を持つということは、もしかたら彼は...自分ではない他の誰かに、成りたかったのだろうか。
「あいつがなんで『西葉蓮』に狙いを付けたか分かるか?
私の事務所はちっちぇ規模の割にでっかい仕事が舞い込んでくることが多かった。なんてったってこの『西葉蓮』がいる事務所だからな。
つまり、あいつからしたらこの事務所は、わざわざ強い悪霊を探さなくとも、仕事として強い悪霊退治の依頼がポンポンと舞い込んでくる絶好のスポットなんだよ。だから『成り代わる先』として、私を選んだんだろう。
あいつが今まで、どうやって悪霊を殺して能力を集めてきたのかは分からない。
ただ、私が殺された時は、あいつはすでに複数の能力を所持していた」
「それって、例えばどんな能力?」
「そうだな。ワープ能力、武器を体に格納して自在に出し入れする能力、口から火を吹く能力、空から槍を飛ばす能力、相手の視界の一部を奪う能力...言い出すとキリがないな」
(なんだぁ...そりゃ...)
まるで『強い能力の詰め合わせセット』のような、盛りだくさんの能力に僕は唖然としてしまった。
悪霊は合体しない限り複数の能力を持つことはない。自分の能力が進化して、そこから派生して別の能力が生まれることはあるが、あくまで似た系統の能力。
全く別の能力を手に入れるには、合体するしかない。
「正直に言うとだな、あいつの持っている全ての能力を把握している訳ではないんだ。
しかも、私が『以前のループ』で見た能力が、『今のループ』で持っているかも分からない。同じ日、同じ月を繰り返していても、過去は変わり続けているからな...。
今回のループだと、私はあいつの体に格納されていた日本刀のような刀で殺されたから、武器を体に格納する能力は持っているようだが...
他の能力については、今回はあいつにはあまり近付いてないから、よく分かんねーんだよ...」
「なるほど...ここまでめちゃくちゃな能力だったから、あの強かった蓮さんが負けちゃったんですね!」
「おい!!お前!!でかい声で負けたとか言うなよ!『強かった』って、過去形にしてんじゃねーぞ!!」
もこ太(というか蓮さん)のプライドを傷つけてしまったのだろうか、その柔らかい両羽を使って交互に僕のほっぺを突きながら怒っている。
「ちょやめて!なんかくすぐったい...ふふ!!」
少しくすぐったくて笑ってしまった僕が腹立たしかったのか、突きの威力とスピードが二倍になって返ってきた。
「仕方ないだろ!能力複数持ちってだけでこっちが圧倒的に不利なのに、相手の能力が何個あるかも分からない、しかも一つ一つが馬鹿みたいに強い!!そんな理不尽なゲーム、勝てるかボケェーーー!!!!」
フィナーレを飾るかの如く、もこ太はブチギレながら超高速連続チョップを怒りのままに僕の頬に繰り出している。
「あー痛い痛いって!!僕が悪かったから!全力で突くのやめて!!」
もこ太は膨れっ面のままは不服そうに羽をしまった。
「...ただ一つ。あいつが必ず持っている能力がある。おそらく、私が死ぬもっと前から持っている能力だ。
それが、『死者を蘇らせる』能力だ」
死者を蘇らせる能力と聞いて、僕は真っ先に蓮さんを思い浮かべ、蓮さんの死を無かったことにしたいと強く願った。
きっと...僕みたいに身近な誰かを亡くした人は、みんな喉から手が出るほど欲しがる、夢の能力なのかもしれない。
「この能力の内容を特定するのに、何回時間を巻き戻したことか...。苦労したよ。
この能力は、死者を蘇らせることができる。が、そんな幸せでハッピーな内容じゃない。代償はある。
蘇らせた死者が現世で生き続けるには、毎月一人、生きている人間をそいつの身代わりとして殺して、命を捧げなければならない。
...酷い能力だよな。本来死んでるやつが生き続けるためには、本来生きていられた誰かの命を天に捧げ続けろってことだよ。
あの偽物野郎には、蘇らせたい人がいた。実際に、その人を蘇らせた。
そして、そいつが現世で生き延びる為に、罪のない人を毎月一人殺している。それが佐瀬市連続殺人事件の真相ってことだ」
先ほどまで喉から手が出るほど欲しいと感じていた能力が、途端に恐ろしい能力に感じてしまう。
(僕には無理だ...誰かを殺し続けてまで、自分の都合で、誰かを蘇らせるなんて...)
でも、もし。誰かを殺し続けてでも守りたい人が、出来てしまったら。その時、この能力を手に入れたら。
その人はどんなに心の優しい人でも、その手を血で染めてしまうのだろうか。
「で、その蘇らせた人ってのが、榎本の彼女...哀宮由実だよ」




