第41話 図書館
「ん...。ここは?」
僕は、見知らぬ部屋の床の上で目を覚ました。
体を起こし部屋を見渡すと、部屋中が本で埋め尽くされていて、見上げるほどの高い本棚が連なり、それはまるで巨大な図書館のようだった。
「なんだこれ...。随分と、大きな図書館だな」
「よお、目が覚めたか」
もこ太は一番近くの、少し背が低い本棚の上から僕を見下ろしている。
「もこ太、ここは一体どこ?僕はさっきまで自分の部屋にいたはずなのに...」
目をこすりながら再度辺りを見渡すが、どうやら僕が寝ぼけているわけではなく、この光景は本物らしい。
「私は、ここを『時の図書館』と呼んでいる」
「時の図書館...?」
「お前は、私をなんの力も持たない非力な悪霊だと思っていただろう?」
「うん...。だってもこ太の霊力ってスカスカだし、能力といえば、飛べるくらいなのかなって...」
「ばっかやろう!あの最強のゴーストファイター西葉蓮様が悪霊になってそんな弱いわけねーだろ!」
もこ太は、本棚から急降下してツッコミを入れるよように僕の頭に体当たりしてくる。
「私の能力は、簡単に言うと『時を遡る』能力だ」
「ええええ!!!それって、漫画とかアニメでよく見るやつ!!最強の能力だ!」
「まあ...実際は、漫画やアニメのように万能ではないけどな。
お前、よく私の霊力をカスにも等しいほど少ないって馬鹿にしてたよな?」
「はい、カスにも等しいほど少ないと思っています...」
「ほら、あそこ見てみろ」
もこ太が指差す先には、大きな球体が浮かんでいた。
球体のほとんどは透明のガラスのような物で出来いて、それを囲うように金色の縁取りが施されている。
球体の中には青黒の霊力が格納されていて、まるで風に舞う煙のようにゆらゆらと揺らいでいる。
「私の霊力が普段少ないのは、ほとんどあそこに格納されているからだ。
私の霊力は、『時を遡る時のみ』解放される。
その代わり、普段はほとんど霊力がない、何も出来ない非力な悪霊になってしまう、ということだな。
いいか?つまりな、私は見た目より大量に霊力があるんだよ!!
普段から霊力をフル開放していれば、私はもっと強いしもっと速く動けるしもっと高く飛べるから!!私はもっと強いから!分かったか!」
「あー、はいはい、分かったから...」
僕に弱いと馬鹿にされていたのがそんなに悔しかったのだろうか...、もこ太は熱弁しながら僕の頭を、その柔らかい羽でペチペチと叩いている。
「そして、見てみろ。ここには大量の本があるだろう?」
「本当に数えきれないほどの本があるね。特に、背表紙が青色の本がたくさん...。その次に多いのが緑の本、そしてちらほら赤色の本があるけど、この色分けには何か意味があるの?」
もこ太は一番近くの本棚から青い本を取り出して、僕のところまで運び、あるページを見せた。
そのページには、もこ太の行動が分刻みで記録されていて、ほとんどを寝て過ごしたことが記されていた。
「...なにこれ?もこ太の睡眠日記?」
「この本は、私の一日の行動、そして私が見た景色が事細かに記載されている。
一日が終わると、勝手に本が作成されて、本棚に本が増えていく仕組みだ。
何も起こらなかった日は、この本のようにページの少ない薄い本になるし、事件やイベントがあった日はページ数の多い分厚い本や、一冊に収まらず複数冊になったりもする。
こうやって一日の出来事を刻むのが『青い本』の役割だ」
僕が詳しく本を読もうと手を伸ばすと、手の甲を羽で叩かれ「勝手に人の私生活覗こうとしてんじゃない、変態!」と怒られてしまった。
そしてもこ太は先ほどの青い本を本棚に戻して、今度は緑の本を取り出した。
「そして次に緑の本。これはいわゆる『セーブポイント』だ」
「セーブ?なんだか、ゲームみたいだなぁ...」
僕は昔遊んだRPGのゲームを頭に思い浮かべていた。
「ゲームとして考えてくれた方が分かりやすいからな。
そうだなぁ...。例えば、お前が今日、死んでしまったとする」
「え、僕死んじゃうんですか!?」
「だぁーから、例え話だよ。お前ってほんと、例え話でも大袈裟に反応するよなぁ...。
それで、この私がお前の死を取り消すために、仕方なく過去に遡るとするだろう?」
「仕方なくってなんですか。もうちょい意欲的に取り組んでよ...」
と言ったものの、もこ太は『不服です』と言った表情を崩さない。
「その場合、一番手取り早いのはお前が死んだ一日前の青い本に戻ることだが...それは不可能だ。
なぜなら、青い本は活動を記録するだけの役割しか持たないからだ。
過去に戻れるのは、『緑の本』だけ。
この緑の本ってのが厄介でよ。
いつ緑の本が作成されるか予想がつかない。
三日前に緑の本が作られることもあれば、二ヶ月も経っているのに新しい緑の本が一冊も作られないこともある。完全ランダム作成なんだよ」
「えーっと...色々頭の整理が追いつかないんですが、そもそも、その緑の本の中身は青い本とは違うんですか?」
「いや、本の中身は色に関わらず全て同じだ。青も緑も赤も、一日の活動記録が記載されている。ただ、役割が違うだけだ。
さっきの話に戻るが、お前が死ぬ前の日付で緑の本を探すと、一週間前に作成されていたとする。
その場合、お前ごときを助けるためにわさわざ一週間も戻らないといけないってことだ。はあ...めんどくさいだろ?」
もこ太は大きなため息をついている。
「お前ごときって言わないで!」
「まあ一週間ならまだマシだよ。これが二ヶ月前とか三ヶ月前とかならもうダルくてダルくて仕方ねぇ...。
なんか、お前が死んでても別にいっかって気分にすらなる」
もこ太は近くの茶色い机の上に寝そべって、腹を羽で気怠げにポリポリと掻いている。
「ちょっとー!!別に良くないから!!諦めないで!!人命救助めんどくさくならないで!!」
僕はもこ太が寝そべる机を、両の手のひらで激しく叩きながら抗議した。
「でも、なんとなく分かったよ。
そもそも、過去に遡るには『本』を使わないとダメなんだね。そして、遡れるのは緑色の本だけ。
つまり、今回の例え話だと、一週間前に作成された緑の本を使って、その時点に遡れば僕の死はなかったことに出来るってことだよね!」
「いや、無理だね。お前は死ぬ」
「なんでやねーーーーーん」
僕は再び強く机を叩き、その衝撃で少しだけもこ太の体が浮かんだ。が、気にもしない様子で依然とダルそうに寝転がっている。
「お前の死は覆せない。その原因が赤い本だ」




