第40話 西葉蓮
「だからそんな顔すんなって、話したこっちが気まずくなるだろう」
もこ太は、力の抜けた僕の手からすり抜けて、目の前をふわふわと飛んでいる。
「もこ太...。蓮さんが、悪霊だって、証拠はあるの?
だって...人は変わるものでしょう?たまたま蓮さんが、最近ちょっと心の変化があって、変わっただけかもしれないから...」
「うーん、証拠は無いけど、証明は出来るかもしれないな」
「証明って...どうやって?」
「そもそも、本物の西葉蓮は私だし」
「................えええええぇえええ!!!???」
僕は驚きベッドから転び落ちて、お尻を強打する。
普段なら痛くて悶えてるところが、今はそんなことはどうでもいい。
(も、もこ太が本物の蓮さんだって!!??)
「れれれ蓮さんが、こんなふわふわでもこもこで可愛い悪霊になるわけない!!!」
「おい!!お前、どこに反論してるんだよ!!」
もこ太に片羽で頭をチョップされ突っ込まれる。
「だって、でも、もこ太が蓮さんなんて...」
「そんなに疑うんなら、『本物の西葉蓮』にしか分からなことを、私に聞いてみろよ」
蓮さんがいつから偽物にすり替わっていたのかは分からない。
でも、蓮さんの変化を感じたのは、ここ数ヶ月だ。
だから、少なくても僕が事務所に入社した3年前は、本物の蓮さんのはず。
「...じゃあ、さ。ぼ、僕が、初仕事で、やっちゃったことは?」
僕は体をもじもじしながら、頬から耳まで真っ赤に染めて質問をした。
「ちょっと漏らしたことだろ?」
「うわあああああやめて!!言わないでよ!!なんで言うの!!!」
僕は再びベッドにダイブし、枕に顔を埋めて恥ずかしさのあまり、叫びながら足をジタバタとさせている。
「いや、お前が質問したから答えただけだろ!」
もこ太が蓮さんだと分かると、この少し荒い口調も蓮さんそのものに感じる。
どこか先輩ヅラしていたところも、ハイドリングやポケット探知機のことを知っていたことも、彼が『本物の西葉蓮』なら、納得がいく。
(なんでもっと早く気がつかなかったんだろう...って思うけど、もこ太の言う通り。自分の身近な人が悪霊にすり替わっているとも思わないし、まさか身近にいた悪霊が、自分の上司だったなんて...。
他人事じゃなくて、自分事だからこそ、気が付かないこともあるんだ...)
「本当に、もこ太は蓮さんなんだね...?」
「おーう、だからそう言ってんだろ!」
「もこ太...いや、蓮さん、えっと」
今まで、もこ太にはタメ語で話をしていたけれども、蓮さんに対しては敬語を使っている。この場合、タメ語を使うべきか、それとも敬語を使うべきなのか、僕が迷っていると
「いいよ、別に今まで通りで、もこ太呼びのタメ語で許可してやろう」
ベッドに着地し、両羽をまるで腕組みのようにして偉そうにしている『もこ太』こと『蓮さん』から許可が降りた。
「でも...でもさ!!もこ太が本当に蓮さんなら、分からないことだらけだよ!!
なんでもっと早く真実を話してくれなかったんですか!?
そもそも、もこ太は悪霊になってるってことは...いつ...いつ死んじゃったの!?」
僕は涙目になりながら、いつもより早口で話してしまった。
もこ太と話しているのか蓮さんと話しているの自分の脳内でぐちゃぐちゃになってしまい、タメ語で良いと言われたのに、タメ語と敬語が入り混じってしまう。
「それに、さっきは由実さんに拳銃を向けてた!!蓮さんは悪霊には容赦ないところはあったけど、人を殺して平気な人じゃない!!」
「あーまぁ、あれだ。色々事情があって、説明が長くなるから、いったん見せた方が早そうだな」
「...見せる?」
その瞬間、もこ太から白く眩しい光が放たれる。
(なっ...!!前が、見えない!!)
その光はどんどん強くなり、僕の目の前は真っ白な光に包まれ、部屋も、もこ太ももう見えない。
眩しさのあまり目も開けられなくなったその時、僕の意識は途絶えてしまった。




