第39話 些細な変化
『ここ最近盗みを働く悪霊が出没しているとの話だ。
盗む物は様々、洋服、雑貨、食べ物など。基本的に高価なものや一点物などが盗まれているところが共通点だな。まあ、とりあえず資料に目を通してくれ』
蓮さんが手渡した資料は、重要な部分に付箋が貼り付けられ、中身も読みやすいよう綺麗にまとめられていた。
(蓮さんの資料って、いつもページがバラバラだったり、誤字脱字が多いけど、今日は珍しく読みやすいなぁ)
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怖くない、大丈夫。
怖くない、怖くない、怖くない、怖くない。
僕はできる、僕は立派なゴーストファイターになって、
子供に胸を張れる、立派なパパになるんだ。
『大丈夫だ。私のアジトの調査が終わったら、すぐに春野ところへ向かう。それに、君は強い。安心しろ』
震える僕の右手の上に、蓮さんの手のひらが優しく添えられる。
(...いつもだったら「おい!ビビるな!シャキッとしろ!!」と喝を入れてくるのに、最近は、優しいな。愛美も妊娠して、これから大変だって時期だから色々気を遣ってくれたり...してるのかな)
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『私の部下から手を離せ』
突如、破片を持つ女の片腕が地面にポトリと音を立て落ちた。
切られた女の片腕は傷口から霊力が漏れ出し、そのままスッと消えていく。
蓮さんだ。蓮さんが助けに来てくれた。
ゴーストファイター専用の剣、ゴーストソードを持っている。
(あれ?いつもゴーストシューターを使っているのに、どうして今日はゴーストソードを持っているんだろう。
...そもそも、最後に蓮さんがゴーストシューター使っているのを見たのは、いつだっけ)
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『春野、大丈夫か?お前が戯言うわごとのように、妻に心配をかけたくないから病院だけは嫌だ...と言っていたのでな...クリスチーヌさんに治療をお願いしたが、体は、本当に、大丈夫そうか?』
蓮さんは心配そうに痛めた僕の体を見つめている。
(いつもなら、『このくらいの怪我、なんてことないだろ!働け働け!』と笑いながら言うけど、流石に今回は心配してくれているのかな?)
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『よく考えてよ、榎本君。あの蓮さんだよ?
今まで仕事一筋で、「俺は休みなんていらね!!とにかく仕事がしたい!」って言ってた人間だよ?』
『あれはあれで労働基準法に反してそうでしたけどね』
『それはぐうの音もでないけども...今はそこじゃなくて!!そんな仕事一筋の蓮さんが、最近月に1回ほど休みを取っている。これは...ずばり......』
『恋だよね!!!!』
ここ最近の蓮さんは、態度や言葉遣いが少し落ち着いて丸くなったように思える。もしかして、すでに誰かと交際していて、その人の影響を受けているのかもしれない。
(ふふ、蓮さんはどんな人に恋してるのかな?)
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『いやいやお前...大丈夫って、拳銃で撃たれたんだろう?』
『掠っただけですって!本当に大丈夫ですよ!』
『春野、お前はここ最近、ずっと怪我続きだろう。そんな無理しなくても...』
『もうどうしたんですかー、蓮さん!らしくない!いつも働け働け!っていうのに』
いつもの蓮さんなら、よほどの怪我ではない限り『甘えるな!動けるやつは働け!!』と口うるさい。それなのに最近の蓮さんは、やけに心配症になっている。
『らしくない』と指摘されて、蓮さんは口を閉ざしてしまった。
(...蓮さん?どうして、そんな表情...するの...?)
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全て、些細な変化だった。
それは、人なら誰しも起こり得そうな、本当に小さな、日常の些細な変化に過ぎないんだ。
でも、ゴーストファイターの僕なら気づけたかもしれない。その些細な変化は、“偽物”が成りすましているからだって。
(...知っていたのに。悪霊が人に化けるってことを...分かっていたのに)
それが自分の身近な人に成り代わっているなんて。この仕事を3年も続けているにも関わらず、想像、したことがなかったんだ。
だから僕は、蓮さんが最近変わったことを恋してるだの結婚したいだの、自分に都合のいい解釈にして、納得してしまった。
(嫌だよ...蓮さんが悪霊なんて、思いたくない。
だって、今の蓮さんが、悪霊が成りすましている蓮さんだとしたら、
本物の蓮さんは、もう...死んでるってことだよね?)




