第31話 勝ち方
(ああ、破片を入れすぎたな。こんなに入れなくても良かったか...)
地面に落ちていく破片を眺めながら、傷ついた足の裏を撫でる。
僕が教祖と戦う際に、一番気をつけなければならないのは、洗脳の能力だ。
発動条件、クールタイムなど、能力の詳細は分からないが、確実に判明していることが一つだけある。
それは、『痛み』で洗脳が解除されるということだ。
だから、僕は牢屋から2種類の壁の破片を持ってきた。
大きな破片と小さな破片だ。僕は大きな破片を片手で握り、小さな破片を左足の靴の中に、わざと自分の足に食い込むように入れていた。
僕は知っていた。
僕は弱い。強くなんか、ない。
こないだの、子供を誘拐していた悪霊に、手も足も出なかった。
真っ当に戦っても、到底勝てない。だからこそ僕は自分の弱さを利用したんだ。
僕の弱さと勝ちを確信できる状況に、あの悪霊はわずかに油断した。それと同じように、今回も。
僕はわざと大きな破片を片手に持ち、相手の視界に入るようにしていた。
そしていかにも『これを使って洗脳を解く』と思わせる行動をとったが、実は僕の足には小さな破片が入っていて、歩くたびに痛い。歩く、というか、足に力を入れて立とうとするだけでも痛い。痛くて本当に嫌になっちゃう、けれどもこの痛みで洗脳を解くことができる。
足も腕も怪我してぼろぼろで、とてもスマートでかっこいいと言える勝ち方ではない。
蓮さんならきっと、もっと別の方法を考えつくだろう。
嘘をつくのも、誰かを騙すことも、本当は好きじゃない...けれども、弱い僕に、勝つ方法なんて選べない。
これでしか勝てないなら、その選択肢を取るだけだ。
「教祖様...教祖様...お、お逃げください...」
撃たれた悪霊の額からは、霊力が漏れ出していく。残された力を振り絞るように声を出して、教祖に逃げるように伝えている。
教祖は後ろの扉から逃げようとするが、先ほど僕が机を投げつけた衝撃でドアノブが変形してしまい、扉がうまく開かないようだ。
何度もガシャガシャとドアノブを揺らし、開かないと悟ると、教祖は再び地面に座り込み、恐怖からか、足を震わせている。
「あああ、あの女ぁああ!!!使える能力だから、そ、そばにおいてやったものを!!役立たずが!!」
僕は、痛めた足を引き摺りながら、教祖に一歩一歩近づいていく。
「ああ、やめろやめろやめろ、こっちに来るな!!私は...お、俺は何も悪くなぁい!!こ、こいつに洗脳をされて仕方なくやってたんだよ!!そうだ、仕方なく、俺は、俺は悪くないぃい!」
「きょ、教祖様、何を...言って...?」
女性の悪霊は、教祖の言葉にショックを受けて目を見開いている。
「死が救済?神の声が聞こえる?そんなの全部嘘に決まってるだろう!!
お、俺は死にたくない!!いやだ、いやだ、『また』死にたくない!!誰か俺を助けろ!!身代わりになれ!!
い、今までお前らを『救って』やっただろ!!なあ!!」
教祖は涙と鼻水を垂れ流しながら、教会全体に響き渡るほどの大声で叫んでいる。
惨めに泣きじゃくる教祖を、女性の悪霊は失望するような目で見つめていた。
(この教祖は...自分のことしか、考えていない。その上、自分の力で乗り越えようともしない。
自分は戦わずに、安全な場所でふんぞりかえっている。
他の悪霊たちを洗脳させ、まるで使い捨てのように使って...。
生きている人や、死んでいる悪霊までも、言葉巧みに騙してきて、自分さえ幸せであればそれで満足だったんだろう。自分が幸福になることが、彼の中では最も重要なんだ。
たとえそれで、何人が傷つき、何人が死のうとも。
...僕は、この悪霊を、許すことは、できない)
「っ!!!!ひ、ひぃ!!!」
僕の表情から憎悪を読み取ったのか、教祖は足だけではなく全身震え始めた。
怯える教祖に慈悲をかけることもなく、僕は教祖に近づき頭を掴み、逃げられないようにした。
教祖は足をジタバタと動かし、両手で僕の腕を掴み抵抗するが、全身に力が入っていないのか、抵抗も虚しく僕の腕を剥がすことはできない。
「い、やだ!!いやだいやだ死にたくないぃ!!!やめて、やめてください!撃たないで!!
死にたくない!!やだぁあああ!!」
教祖は、涙や鼻水だけではなく、涎も垂らしながら、まるで子供のように大粒の涙を流しながら泣いている。
「...最期に言い残した言葉は、それで、いいんですね」
僕は片手で教祖の頭を掴みながら、もう片方の手に握るゴーストシューターを、頭に突きつけた。
「あ、ああああ!!!お、お前のせいだ!!お前が、洗脳の能力を持っておきながら、なんの役にも立たなかった!!俺を守るためだけに、俺のためだけに、そばに置いてやったのに!!
お、お前の家族が死んだのも、どうせお前が役に立た」
教祖の言葉が言い終わる前に、ゴーストシューターで頭を撃ち抜いた。教祖は白目を向き、そのまま左に崩れるように倒れていった。




