↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/48

第30話 洗脳

(ああ、懐かしいな。僕が事務所に入ってまだ数ヶ月の頃、合体する悪霊について教えてもらったなぁ...。実際に見るのは、これが初めてだ)


教祖の腹から出てきた女性の悪霊に、後ろに突き飛ばされた僕は、ゆっくりと体勢を立て直した。


女性の悪霊は、僕から視線を逸らさず、そして教祖を庇うように右手を前に出している。


僕の読んだ教本の通りであれば、合体する悪霊は二つの能力が使えるはずだ。

おそらく、今回の場合、二つの能力のうち一つは『人に化ける能力』。そして、もう一つの能力が...


(そうか!!それが『洗脳』だったのか...!!)


もこ太と話した時に感じた違和感。人に化ける能力と洗脳では、能力の内容があまりに乖離している...と思っていたけれども、『1人の悪霊の能力』ではなく、『別々の悪霊の能力』であるなら、全く違う能力を持っていることにも納得がいく。


この女性の悪霊は、見たところ通常の悪霊より霊力が多い。僕の経験上、人に化ける能力しかない悪霊が、ここまで霊力を持っているというパターンを、見たことがない。


つまり、『人に化ける』能力は教祖で、『洗脳』はこの女性の悪霊である可能性が高い。

僕が初めて会話した時もすでに、二人は合体していて、教祖の体で洗脳を発動させていたのだろう。


でも、分からない...。どうして...。


(『逆』なら、しっくり来るんだけどなぁ。

どうして、強い能力を持つ女性が教祖の体に入って、教祖に力を貸しているんだろう。


女性からしたら、教祖を洗脳させて、自分の体に取り込んで自由に能力を使えばいいだけなのに...)


教祖は、女性の悪霊の背後で足を小刻みに震わせながら、人差し指で僕を指差している。


「お、おいぃ、お前!!!あ、あいつを、つ、捕まえたのではなかったのか!?だから私は、あ、あれほど、殺せと言っただろ!!」


教祖は唾を飛ばしながら、早口で捲(まく)し立てるように女性を責める言葉を吐く。女性は焦る様子はなく、静かに片膝をつき跪(ひざまず)いている。


「申し訳ございません、教祖様。あの者(もの)から情報を抜き取るために、牢屋に捕(と)らえたはずですが...どうやら、何(なん)らかの方法を使って脱獄してきたようです」


「だ、だから、お前!!あ、あれを、どうするんだ!!」


「教祖様は、すぐに後ろの扉からお逃げください。その間に、私があの者を始末いたしますので」


女性は教祖に対し跪く姿勢は崩さずに、そのまま視線を後ろに向けて僕を睨みつけている。


「ああ、ああ。そうだ。お前は特別だ!!他の悪霊たちとは違う!!」


その言葉を聞いた瞬間、ほんの一瞬だけ、女性の顔が緩み微笑んでいるように見えた。...すぐに僕を睨みつける形相(ぎょうそう)に戻ったけれども。


「そうだ、お前がやるんだ!!神に背くあの者に天罰を与えるのです!!」


そう言うと、教祖は震える足で何とか立ち上がり、後ろの扉に向かって走り出した。


(逃がしてたまるか...!!)


僕は近くにあった机を持ち上げ、教祖を向かって渾身のフルスイングで投げ飛ばした。


「ひ、ひぃ!!!!」


教祖には当たらず、机は扉に直撃してドアノブがひしゃげている。教祖は腰を抜かし、またも足をガクガクと震わせている。


「教祖様!!!大丈ですか!?」


女性が後ろを振り向き、教祖の安否を確認する間に、僕はすかさず近づき銃を撃とうと構える。


が、女性はすぐに僕に視線を戻し、距離を取りながら後退し、奥の木箱から何かを取り出した。


(あれは...拳銃だ。悪霊ではなく人を殺す...そう、ここでは僕を殺すための、武器だ)


僕が、一瞬だけ拳銃に怯(ひる)んだその時-------





「命令だ、“私と教祖様の楽園を穢(けが)すな”」


女性のその言葉が、僕の頭に何度も鳴り響き、思考力が低下してぼーっとするような感覚に陥(おちい)る。


(これは、あの時と同じだ。洗脳が、発動された...?)


自分の体はまだ動く。

僕は、洗脳を解除するために、牢屋から持ってきた壁の破片を自分の足に突き立てようとする。が...



「っ...いったーーい!!!」


破片が足を突き立てるよりも早く、僕の腕を銃弾をかすめた。その痛みで、破片を落としてしまった。


「こんな時に、破片を大事そうに握っているなんて、不自然。それを見れば、あなたが私の『洗脳』を警戒しているということくらい、容易に分かる」


僕は腕を押さえながら床に座り込んでいる。

先ほど落としてしまった破片が目の前に落ちていて、僕すぐに手を伸ばしたが、女性が先に取り上げ、遠くへ投げ捨ててしまった。


「破片が...!!!」


「“動くな”」


その言葉が耳に入ると、再び、頭にモヤがかかり、体が重くなる。


(もっと長いクールタイムがあると思ったのに...!!数秒程度のクールタイムで洗脳を発動させることができるの...!?)


僕は足に力を入れて何とか立ち上がるが、すぐに力無く崩れるようにして、また床に座り込んでしまった。


女性はゆっくりと近づき、洗脳で体の動きを封じた僕の頭に向かって、拳銃を構える。


「...教祖様を信じ、教祖様のために生きていれば、あなたも幸せになれたのに」


その言葉を最後に、引き金を引こうとした。


その瞬間----------




僕は素早く立ち上がり、拳銃を構える女性の腕を掴み、ゴーストシューターを構える。


(....これなら、絶対に外さない)


腕を掴まれ動けなくなった女性の頭を、僕はゴーストシューターで撃ち抜いた。


「な、なぜ!!??ど、どうして、動ける...!!」


女性の悪霊は、訳が分からないといった表情で目を丸くし、そのまま天井を仰ぐように仰向けで倒れていく。





僕は、蓮さんと比べて、霊力が少ない。

どれだけ頑張っても、一日に撃てる弾の数が、蓮さんを越えることはないだろう。


子供の頃から武道を習っていた蓮さんとは違って、僕には対した戦闘スキルもなければ、体力や反射神経もまだまだだ。


蓮さんみたいに、霊力の量と戦闘スキルで敵を圧倒して勝つことができたら、きっと、凄くかっこいい。ゴーストファイターとしては最高の姿だ。

いつも軽口を叩く榎本君からも称賛されるだろう。


けれど、『弱い』僕にはそれができない。

僕は、蓮さんと同じ戦い方では、駄目なんだ。


それでも、勝たなければならない。

勝たなければ、悪霊からこの世界を守ることができない。

勝たなければ、家に帰って、愛美に「ただいま」と伝えることができない。

勝たなければ、もうすぐ生まれてくる子供に、「愛してる」と伝えることも、できない。


弾の数は、残り二発。

それを確実に当てるには、僕なりの戦い方で、戦うしかないんだ。



「ああ、痛かった...」


僕は片方の靴を脱いで逆さまにした。靴から音を立てて、大量の小さな破片がボロボロと落ちていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。