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第27話 凡人春野のかくれんぼ

「お前さ〜...やっぱりビビってる?」


もこ太は僕を怪しむように目を細めて、顔を覗き込んでいる。


「ははっ、ま、まさか!!!ビビってないよ!!」


震える声を隠すために、僕はわざと大きな声を上げた。何も言わずに、より至近距離で僕の顔をじっーと覗き込んで怪訝そうにしているもこ太に、誤魔化すように話題をすり替えた。


「あー、なんか、右手が痛くなってきたなぁ。もこ太が叩いたせいだよ、これ!

というか、牢屋の鍵を持っているなら、そんなことしないですぐ開けてくれればよかったのに!あー、痛いなぁー!」


僕はこれ見よがしに右手をぶらぶらとさせ、痛みのアピールをした。


「はあ?やだよ、洗脳を解く前に鍵を開けて、お前に変なことされたら困るだろ?ったく、こっちは非力な弱い悪霊なんだからさ」


「え...洗脳?」


「おいおい...お前、まだ気が付いてなかったのか?」


もこ太はやれやれといった表情で、小さく息を吐いた。


僕は右手の痛い痛いアピールもすっかり忘れて、『洗脳』について考え始める。


僕が教祖と会話をした時、頭の中ではっきりと思考ができなくなって、質問にすべて正直に答えてしまった。自分の死が贖罪など、今考えるとおぞましいことさえ心から信じて。そして、包丁を手に取ろうとしたその時、うっかり体勢を崩してしまい頭をぶつけたその瞬間、意識や思考がはっきりと目を覚ました。


牢屋に捕えられた時も、『牢屋からの脱出』を最優先で考えるべきなのに、僕はその考えを放棄してただぼーっとしていた。もこ太に殴られるまでは。


(つまり...僕は『洗脳』されていた?そして、何かしらの衝撃...というか、体に痛みを感じることで、洗脳が解けた、ということ??)


「もこ太の言う通り、教祖の能力が『洗脳』だとしたら、今までの話と辻褄が合う。よく気がついたね、もこ太」


「まあ、この天才もこ太様に分からないことなんて存在しねーからな!」


しかし、ここで僕には1つの疑問が生じた。


「...あれ、でもちょっと待って?教祖の能力は人に化ける能力だよね。二つ能力を持つ悪霊なんて聞いたことがないけど...


人に化ける能力の派生、というか応用のような能力なら可能だと思うよ。でも、洗脳って、全く違う能力だよね。


ねえ?もこ太、これってどういうこと?」


「ん?...あー、さあな。どういうことなんだろうな」


「天才もこ太様に分からないことは無いって言ったよね!?」


「何でも答えを聞くな!自分で考えろ!!」


もこ太は両羽で腕を組むような仕草をしている。まるで上司から説教されている気分だ...。


もこ太の見た目から、どうしても子供っぽく感じていたけれども、今思えば、もこ太の生きていた頃の実年齢を聞いたことがなかった。見た目とは裏腹に、核心をつくような発言が多いから、もしかしたら、実年齢は結構上なのだろうか。


「で、お前は教祖の能力が『洗脳』かもしれないと知って、その能力について他に気がついたことはあるか?」


もこ太に聞かれて、僕は顎に手を当て、今までのことを思い返した。


「うーん、そうだな。仮に能力が二つあって、そのうちの一つが『洗脳』だとしても、ものすごく万能!!ではなく、クールタイムのような制限があるんじゃないかな」


「...ほう、それはどんな制限だ?」


「洗脳をかけられたタイミングはよく分からないんだよなぁ。教祖が話し始めた時は、僕の意識もまだしっかりしていたような気がするし...もしかしたら、その時から洗脳をかけられていたのかもしれないし。


ただはっきり言えることは、僕の洗脳が解けた時、その後、すぐにまた洗脳をかければ良かっただけ、だと思うんだよね。でも、そうしなかった。

自分は逃げて、悪霊たちに僕を襲わせた。


だから、一度、相手に洗脳を解かれた場合、その直後30秒、もしくは5分までは再び洗脳をかけることができない、みたいな縛りがあるんじゃないかなって思うんだ」


もこ太は口を開け、珍しく感心したような表情で僕を見ている。


「なるほど、お前にしては賢い考察だな。


それで結局どうすんのさ?ゴーストファイターさん。


この悪霊だらけの地下室をどうやって突破するか、そしておそらく『洗脳』の能力を持つ教祖に、お前はどうやって勝つ?」


「そうだね、僕は...」














----------------------------------------




「ワン!!ワン!!クゥーン」


悪霊たちに囲まれている犬は、嬉しそうにしっぽをぶんぶんと振り、悪霊たちに擦り寄って甘えている。その人懐っこい(というか、悪霊懐っこい?)犬に、悪霊たちは夢中のようで、犬を少し離れたところからただ眺めているだけの悪霊もいれば、しゃがんで優しく撫でている悪霊もいる。


犬はたくさん撫でられて満足したのか、自分の部屋に帰ろうとする。が、突然、犬のぶら下げているショルダーバッグから逆方向にドッグフードが飛び出し、犬は興奮しながらドッグフードを追いかけて、くんくんと探している。


そして、その背後には大きな薄汚れた段ボールが一つ。


(こ、この姿勢、痛ーーーい!!!)


段ボールの中には成人男性が1人...というか、僕が入っている。


僕は、先ほどいた牢屋の部屋で、大きな段ボールを見つけた。中には、非常食として有名なカンパンや美味しそうなフルーツの缶詰など、食料が大量に入っていた。


僕はダンボールの中身を全て取り出し、空の段ボールを上から被り、しゃがんで、全身を覆うように隠しながら、部屋を出た。


段ボールには指でこじ開けた小さな穴が二つ。

そこから外の状況を確認しつつ、悪霊たちの注目が犬に向かっている間に、段ボールに息を潜めながら、少しずつ進んでいく。


僕の『可愛いワンチャンおとり大作戦!!』によって、悪霊の目を盗みつつ、目的地の階段まで辿り着く、というスーパーミッションが達成できそうだ!!


悪霊たちの顔ぶれの中には、見覚えのある人もいた。僕を襲った時にいた悪霊たちがここにもいるようだ。あの時と同じように、虚な目をしている。


...ある程度予想はしていたけれども、もしかしたら、この悪霊たちも洗脳されていて、自らの意思、というよりは、ただ教祖の指示に従っているだけなのかもしれない。


注意深い人間相手なら、段ボールが動いていることに気づかれるかもかもしれない。

が、洗脳されて意識がはっきりしない相手なら、この作戦の成功は確実だ!!


と、余裕の心構えをしている僕の段ボールに、1人の悪霊が近づいてくる。


(え、まずいまずい...バレた?段ボールを取られて中身を見られたらおしまいだよ...)


僕は必死にダンボールを掴み、剥がされないようにする。...が、何も起こらない。

代わりに、段ボールの上に、何か重みのあるものが落ちてきた...ような気がする。


穴から外を確認すると、目の前に悪霊の足が見える。


...これは、先ほどの悪霊が、段ボールの上に座って休んでいる、ということだろうか。身動きが、取れなくなってしまった。



(あああ...動けない...もこ太ぁああ、助けてーー!!)











---------------数十分後----------


(はぁ...もう二度とやらない、こんなこと...)


悪霊たちの道を切り抜け、角を曲がり、ようやく階段が見えた。

あたりに悪霊がいないのを確認して、僕は段ボールを外し、縮こめていた体をストレッチするように背伸びをした。


(あの悪霊が段ボールの上にずっと座っていたせいで、大変だった...。途中で退いてくれたからよかったけど。あー、あの姿勢、痛かったなぁ...)


その時のもこ太は、ショルダーバッグから顔を出して状況を把握していたが、ニヤニヤと笑うだけで助けてはくれなかった...。


痛めた背中を優しくさすりながら、僕は音を立てないように、ゆっくりと階段を登っていく。片手に、ゴーストシューターを持ちながら。





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