第28話 教祖様と再びご対面
(今日は...震えてない)
ゴーストシューターを握る自分の手は、今日は落ち着いているようだ。
僕は、臆病だ。戦いを前に、震えることがある。
さっきまでも、この絶望的な状況に怯えていた。
けれども、いざゴーストシューターを握り、覚悟を決めた時、僕の心はもう、震えていなかった。震えるどころか、非常に落ち着いていて、意識が研ぎ澄まされるような感覚さえある。
(なんで今日はこんなに、冷静なんだろうなぁ...)
子供誘拐事件での、絶望的状況からの生還が、僕にほんの少し、自信をつけさせ、その自信が僕に余裕をもたらしてくれたのかもしれない。
(まあ、結局、こないだの事件は僕1人では解決できなくて、蓮さんに助けてもらっちゃったけどね...。それに、今日も、もこ太に助けてもらったし)
だからこそ。
この戦いは、もう誰の手も借りない。
僕1人で、やり遂げたいんだ。
(産まれてきたら、君に自慢したい。君のパパは、立派なゴーストファイターだって)
決心を固め、一歩一歩踏みしめるように階段を上がる。
そして、登り切る直前、壁伝いに身を潜めながら、部屋の入り口前の様子を伺う。
もこ太の話していた通り、入り口前には、見張りの女性の悪霊が2人いた。
僕は壁から飛び出し、悪霊たちが気づく間もなく、ゴーストシューターで2人の頭を撃ち抜いた。
悪霊は壁に寄りかかるように倒れ、そのまま立てなくなり、足から崩れていく。2人とも床に倒れて動かなくなったのを確認して、僕はポケットにしまっていた、牢屋に落ちていた手のひらサイズの『壁の破片』を取り出して、握りしめた。
(あと2発...)
自分が撃てる残りの残数を頭で確認しながら、僕は躊躇なく、部屋の扉を開けた。勢いよく開けすぎたせいで、ドアが壁にぶつかり、大きな音を立てた。
部屋は床一面に畳が敷き詰められており、和風の部屋に似合う茶色いテーブルやタンスだけではなく、掛け軸や小さな提灯まで飾られている。ただし、なぜか寝具だけは和式に似合わない大きな様式のダブルベッドが、部屋の隅に置かれている。
僕が最初に案内された部屋に似ているようだが、壁の色や置いてある家具などが少し違うため、どうやら別の部屋のようだ。教祖のプライベートルーム...だろうか。
もこ太の言う通り、教祖以外誰も見当たらない。
部屋の中央の黒い椅子にふんぞりかえるように腰掛けている教祖が、威厳もなく金魚のように口をパクパクと動かして、僕を指差している。
「お、お前は、さっきのゴーストファイター!!と、捕えたのではなかったのか!?」
よほど驚いているのだろうか。僕を指差すその腕が、驚きか、はたまた恐怖かで、上下に小刻みに震えている。
「僕はゴーストファイター。あなたのような、生きている人間に危害を加える霊を、もう一度あの世に還す。それが、僕のお仕事です」
僕の言葉を聞くと、教祖は震える足で必死に立ち上がりながら、扉に向かって大声で叫び始めた。
「お、おい!!見張りの信者たちは、どこだ!?
何をしている、っ...い、早く、こっちに来い!!わた、私を、私を、ま、守るんっ...だぁ!!!」
「...あの2人は、もうここには来ません」
僕はゆっくりと教祖に近づく。
教祖の顔はみるみるうちに青ざめていく。
「ち、地下室!!地下室の悪霊たちは...ど、どうしてぇ...!!!」
「今ごろ、可愛いワンちゃんと戯れています」
「ひっ...く、来るなあぁああ!!」
教祖は腰を抜かし床に座り込み、震えて動かない足の代わりに手を地面につけ、床に這いつくばりながら進み、タンスに手を伸ばした。大慌てでタンスの中をかき荒らし、そしてタンスから大量の札束をばら撒いた。
「か、金だろ!?これだけあれば、満足だろ!?ほら、持ってけ!!」
大量の札束が部屋を舞い、頭上から何枚ものお札が僕の元へと落ちていく。
しかし、僕はそれを手に取ろうとはしなかった。
「...最期に言い残した言葉は、それだけですか?」
地面に落ちている札束には目もくれず、ただ一点、目の前の教祖から視線を逸らさない。
僕のその様子が予想外だったのだろうか、教祖はさらに怯えたような表情をして、自分の失態を取り返そうとするように、早口で話し始めた。
「足りないならまた信者から搾り取ればいいんだよ!!この仕事やってたら、金なんていくらでも手に入るんだから!!
だから、そ、そうだ。
私を生かしてくれれば、巻き上げた金の10%...い、いや、もっとお前に渡したっていい!」
教祖は地面に落ちた大量のお札を両手で抱えながら、歯を剥き出しにして不敵に笑っている。
「......」
(こないだ、蓮さんに『悪霊に、同情するな』って、言われたけど。もこ太みたいな悪霊だっているんだから、僕はやっぱり、悪霊の最後の言葉だけでも、聞いてあげたい。そう思った...でも、
こいつには本当に、
聞く価値すら、
ない)
立ち止まっていた足をゆっくりと動し、僕は教祖に近づき、こめかみに向かって銃を構えた。その瞬間--------
「ああああ...クソ、クソっ!!
おい!眠ってないで助けろ!私を助けろ!!出てこい!!」
その言葉を叫んだ途端、教祖の腹から渦を巻く黒いブラックホールのようなものが浮き出てきた。
そして、そのブラックホールから手が生え、僕を突き飛ばした。
「っえ!!??」
僕は体制を崩し、後ろにあった机に背中をぶつけてしまった。
(いった...)
背中をさすりながら顔を上げると、ブラックホールから、手だけではなく、上半身が顕になっている。
(教祖のお腹から...別の悪霊が飛び出している!?)
そして、その悪霊はついに全身を出し、ブラックホールから足を出すようにして、腹の外に這い出てきた。
ブラックホールは、煙のように部屋に漂い、天井へ昇るにつれてその色はどんどんと薄くなり、やがて消えていった。
出てきたのは女性の悪霊で、赤い着物に紺色の羽織を身に付け、黒く長い髪を靡かせている。
見張りや地下室の悪霊たちとは違い、霊力が多い。
(...ってか、この悪霊!!僕に向かって発砲してきた悪霊じゃん!!)
拳銃で足を撃たれたことを思い出し、かすり傷で済んだ足がじんじんと痛み出した。
「罪深きゴーストファイターが。その穢れた体で教祖様に近づくな」
女性の悪霊は、侮蔑と憎悪の眼差しで僕を見下ろしている。




