第26話 天才もこ太様のかくれんぼ
「どうやって?って、ただ隠れてただけだよ」
「隠れて...た?」
僕が首を傾げるのを見て、犬も真似して首を傾げている。
「最初は、私1人でこの部屋に向かったが、悪霊に見つかって追いかけられてな。慌てて逃げた部屋にこの犬がいたんだよ」
もこ太は犬の頭の上に飛び乗って、優しく犬を撫でている。
犬は舌を出しながらはあはあと言って、嬉しそうに尻尾を振っている...可愛い...。
「この犬は悪霊が見えているようでな。ここの悪霊たちに飼われているのかなぁ?人懐っこいのか悪霊懐っこいのか知らんが、私にもすぐ懐いてくれたよ」
「おお、悪霊が見える犬なんですね!ゴーストバスター犬に向いてるかも!」
こないだ、クリスチーヌさんが連れてきたポンデフル...えっと、ポンデフルなんとか、というゴーストバスター犬と犬種が違うようだが、この子も悪霊が見えているということは、それだけでゴーストバスター犬の素質があるのだろうか。
初めてゴーストバスター犬を見たあと、蓮さんに色々聞いたところ、匂いを嗅ぎ分けられるだけではなく、中には一緒に戦ってくれる犬もいるらしい。
『人件費削減のため、事務所は少人数精鋭だ!!!』と、蓮さんが常々口うるさく言うせいで、僕の事務所の人数はたったの3人。一人当たりの業務量も多い。
結局、蓮さんが大量の仕事も簡単にこなせてしまうから、成り立っているんだろうけど...
もしこの子にゴーストバスター犬の素質があるのならば、ぜひ、この人手不足の僕たちの事務所で働いてください!と歓迎したいところだ。
そう思い、僕は目を輝かせながら、犬に期待の眼差しを向けていた。
「ご期待に胸を膨らませているところ申し訳ねーが、こいつには向いてないだろ。匂いの嗅ぎ分けは訓練で出来るようになるかもしれないけど、悪霊にもしっぽ振り撒いて懐いてしまうってところが、ゴーストバスター犬としては不合格かな」
僕がガクッと肩を落とすと、犬は何を言われているか分からないといった様子で、僕たちにはお構いなくずーっと嬉しそうにしっぽを振っている。ゴーストバスター犬としては不合格でも、可愛さは満点合格だ。
(ゴーストバスター犬の素質があるなら、この窮地を一緒に戦ってもらおう!!...なんて考えたけど、まあ、そんな都合の良い話、あるわけないか)
「で、話を戻すけど、この犬がいた部屋に、ドッグフードだけではなく、お前のスマホとバッグが置いてあった。それを見た天才もこ太様は閃いた。
ここに隠れて、やり過ごそうってな」
もこ太は犬の頭の上に寝そべりながら、羽を使って下を指差した。そのまま目線を下げると、犬の首には、僕のショルダーバッグがぶら下がっている。
「...ショルダーバッグに隠れていたってこと?」
「そっ。そういうこと。悪霊たちは、この犬には一切攻撃的にならないどころか、人によっては撫でてくるやつもいたからな。
それで、この犬にショルダーバッグをぶらさげて、私はその中に隠れてやり過ごしたってわけ」
もこ太は『どうだ?天才だろ?』と言わんばかりのドヤ顔で、僕を見ている。
それくらいの作戦なら僕だって思いつく、と言い返したかったが文句を言われるのも面倒なので、黙っておいた。
「大変だったよ、隠れたはいいものの、犬は言葉が通じない。どう指示を出せばいいか、分からなくてな。
こいつ、悪霊に撫でられたら気持ちよくなってその場に座って動かなくなるし、反対方向に歩こうとした時もあったし。
ショルダーバッグの中から必死に引っ張ったり、部屋にあったドッグフードをバッグに入れておいて、バッグの中から私の進みたい方向に餌を投げたりして、なんとか誘導してここまで来れたよ」
ショルダーバッグの中身を確認すると、ドッグフードがわずかに残っていた。
「なるほど、それは大変だったね。そのあと、悪霊たちはこの部屋までついてこなかったの?」
「ああ、犬を撫でたりジロジロと見てきたりはしたが、ついて来なかった。あそこで見張っておくのがやつらの仕事なんじゃねーの?緊急事態でも発生しない限り、自分の持ち場を離れようとはしないってことだな。
これが、ここまで辿り着けた方法だ。どうだ?これがお前の脱出のヒントになったか?」
悪霊と戦うのではなく、隠れてやり過ごす。
もこ太みたいに、霊力が少なくて戦うことができない悪霊ならではの作戦だ。
「ヒントになった気がする!!だって、僕もそのバックの中に隠れたら良いってことだもんね!!
って出来るかーーーい!!!人間が入れるサイズじゃない!!!」
僕は膝から崩れ落ちながら地面に手をつき絶望した。その姿を見て、もこ太は再びお腹を抱えながら楽しそうにゲラゲラと笑っている。
「あーおもしろっ。絶望しているところ悪いんだが、お前にもう一つ絶望のプレゼントをしなくちゃならねーんだよなぁ」
「え?」
青ざめた顔で僕はもこ太を見上げた。
「ここは教会の地下室。この牢屋から出て、悪霊道を突破できたら、そこには階段がある。
その階段を上がると、目の前に部屋があるんだが、まあ結論から言うとそれが教祖の部屋なんだよな」
「あーえっと...つまり?」
「この協会から外に出るには、地下室の階段を上がって外に出るしかない。でも、階段を上がった目の前には、教祖の部屋がある。
結局、悪霊道を突破できたとしても、教祖との戦いは避けられないだろうなって話」
「う、嘘だ...」
僕は絶望のあまり、全身に力が入らず脱力し、床の上でうつ伏せになって倒れ込んでいる。
そんな僕に追い打ちをかけるように、もこ太は続けた。
「ちなみに、その部屋には見張りの悪霊の女が2人いたなぁ。まあ霊力の少ない雑魚悪霊だし、見つかっても簡単に倒せるだろう」
「いやいや、そうかもしれないけど...僕、あと4発しか撃てないんですけど...」
「やーい、やーい、霊力量カスの雑魚ゴーストファイターがよー」
そう言いながら、もこ太は僕の背中を踏みつけてトランポリンのように跳ねている。
「ちょっと跳ねないでもこ太...背中に変な感触する...」
僕は、背中にいるもこ太を手で払いのけながら体を起こした。
「お前が絶望してうつ伏せになってるから、起こそうと思ってさぁ」
「だって、だってさ...。仮にこの地下を0発で突破して階段を上がっても、見張りに悪霊が2人いるんでしょう?そこで2発使ったら、僕の霊力だと、もう残り2発しか残ってない...」
もこ太は背中で跳ねるのが飽きたのか、今度は僕の頭に移動して髪の毛をいじりながら遊んでいる。
「安心しろ。このもこ太様が、天井の小さい隙間から、屋根裏に侵入して教祖の部屋を覗いてみたけど、部屋の中は教祖1人だけだったよ。残り2発あれば、ちょうど足りるだろ?」
(ちょうどって、僕が1回外す前提で言ってるのか...?)
確かに、2発もあれば教祖を成仏させることは出来るかもしれない。ただ、それは『2回外したらおわり』ということにも繋がる。
「で、でもさ、どこかに拳銃を持った悪霊もいるかもしれなくて...」
「なーにビビってんだよ。そんなの、そいつより早く銃を撃てばいいだけだろ?
もともと教祖を倒すのは頼まれてた仕事だろう。あの幽霊の目的も果たせるし、こっちはここから出られるし、一石二鳥で良いじゃないか」
僕の気も知らずに、もこ太は楽観的に捉えているようだ。
「ハハハ、ソウダヨネ...」
犬は相変わらず楽しそうに尻尾を振っている。こちらに近寄ってきて、すりすりと体を擦り付けてくる。
(ああ、僕も今だけは犬になって、何も考えたくないなぁ...)




