第24話 悪霊のハーレム
(ああ、あともう少し、もう少しだ。これで、僕も救われる...どうか、どうか僕の罪をお許しください)
心の中で神に祈りを捧げながら、ゆっくりと包丁に手を伸ばしていく。あと、もう少し。もう少し、届かない。
僕は正座を崩し、体勢を変えて包丁を取ろうとしたその時...
「いっ!!!!」
思いっきり前のめりに倒れて、床に頭をぶつけてしまった。慣れない正座で足が痺れていたせいで、バランスを崩してしまったようだ。
「...!!??」
(僕は...僕は一体、何をやっていたんだ!!)
先ほどまで頭にあったモヤが晴れるような感覚がした。
悪霊である相手に、自分の本名や職業を話してしまったことも信じられないし、死が自分の贖罪になると本気で思っていたことが、今はもう馬鹿らしい。
急いでバックからゴーストシューターを取り出そうとするが、...ない。
(ああ...そういや、さっき渡しちゃったじゃん!!)
ついさっき、教祖の言葉を聞いてゴーストシューターを渡してしまったところだった。
痺れる足にムチを打つようにして走り出し、御簾の布をめくり中に入る。
そこには50歳くらいの男性が立っていて、目を目開き怯えた様子でこちらを見ている。
赤色の派手な柄の袈裟を着ていて、腕や首元には、袈裟には似合わない豪華な金色のアクセサリーを身につけている。
足元に僕のゴーストシューターが落ちているのを発見して、すかさず拾い上げた。
「皆さん!!罪深き者が現れました!!すぐに浄化を始めるのです!!」
教祖は、この狭い教会の全てに響き渡るほどの大声で叫んだ。すると、教祖の背後にある扉から複数の女性が現れた。
(全員、悪霊だ...)
人数は10人ほどだろうか。女性たちはみな一様に青黒い霊力を纏っている。そして、全員が「教祖様、教祖様...」と言いながら、虚な目をしてフラフラと立っている。
一人一人の霊力はかなり少ない。個人の能力の強さに関しては、たいしたことなさそうだ。
問題は、数の多さにある。
ゴーストシューターは、持ち主の霊力を弾丸にして発射する。つまり、霊力が多い人ほど撃てる回数が多くなる。
僕の限界は、1日連続で10発程度...数時間の休みを挟んで霊力を回復すれば、もう少し撃てるようになるけど、この状況で、数時間の休みを挟む余裕なんて、おそらくないだろう。
全弾当たれば全員成仏させられるかもしれないが、外してしまえば弾不足になり、誰かをやりそこねる可能性がある。
弾には限りがあるからこそ、誰を優先して倒さないといけないか、考えなければいけない。
そして、この悪霊たちを率いているのが教祖の可能性が高いと考えると...
(やっぱり、まずは教祖を優先して成仏させるべきだ)
僕は教祖の頭目掛けて、銃を撃ち込んだ。
教祖はとっさに、女性たちの悪霊のうち1番近くにいた女性の首を掴み、自分の前に置いて盾代わりにして弾丸を受け止めた。
教祖の代わりに撃たれた女性は力無く倒れ、霊力を失っていく。
(あの教祖、他の悪霊を盾に...!!)
そんな惨状を目撃しながらも、女性の悪霊たちはあいも変わらず「教祖様、教祖様...」と、教祖を崇めながらゆっくりとこちらに歩み寄っていく。
僕がその光景に動揺している隙に、教祖は後ろの扉から走って逃げていく。
「あ、待て!!」
追いかけようとする僕に、悪霊達が襲いかかってきた。
僕は1人ずつゴーストシューターで撃っていくが、彼女らは恐れを知らないのだろうか。
目の前で1人撃たれ倒れても、かまわず僕に向かってくる。
「ちょ、掴まないで!」
1人の悪霊に腕を掴まれて重心がよろめく。必死に体勢を立て直して、銃で相手の体を撃ち抜くと、悪霊の手は僕の腕から離れ、そのまま地面に倒れた。
「ふぅ...いって!!」
安堵したのも束の間、椅子が左肩に直撃して痛い。
どうやら、目の前の悪霊が椅子を投げつけてきたらしい。
よろめいて尻もちをついた僕を、さらに別の悪霊が後ろから素手で僕の頭を殴打してくる。
(あぁ、もう、やりたい放題かよ...!!)
僕は、殴打してくる悪霊に向かって、投げられて足の折れた可哀想な椅子を投げつける。悪霊の体に当たり、衝撃で立たずに倒れ込んだところを、撃ち抜いた。
休む暇もなく、別の悪霊から部屋にある物を次々と投げつけられる。
「もう!!そんなに!!物を投げちゃいけないでしょーが!!」
僕はキレ台詞を吐きながら悪霊に向かって銃を撃つ。
撃たれた悪霊は膝から力を失って崩れ落ちていくように倒れた。
すると、その崩れ落ちた悪霊の背後の扉付近に女性の悪霊がもう1人立っている。この女性だけは、他の悪霊と違い、霊力が多い。
(さっきまではいなかった。...扉から入ってきたのかな)
その悪霊は僕に向かって、拳銃を構えた。
「なっ...!?」
あれは、ゴーストシューターではない。鉛の弾が入った、人間を殺すことが出来る拳銃だ。
『バンッ!!!!!』
銃声が鳴り響く。
銃を見て、反射的に逃げようと駆け出した僕の足を銃弾が掠めて、僕は転んでしまった。
「全員、そいつを取り押さえろ」
そう指示すると、女性は拳銃を持ったまま扉から出て行った。僕は悪霊たちに両腕と両足を抑えられて身動きが取れなくなってしまった。
その後、1人の悪霊が僕の耳元で小さく子守唄を歌い始めた。
(なんだ?この、子守唄は...すごく眠くなる。寝たらダメ、寝たらダメなのに...意識が、もたない)
次第に僕の意識は遠のき、そのまま眠りについてしまった。




