第23話 教祖様とご対面
「こちらのお部屋です。さあ、どうぞお入りください」
僕は、受付の人に案内されるがままに部屋へと入った。
部屋の中の電気はついているが、薄暗い。少し赤みがかったライトを使っているのだろうか、部屋全体がうっすらと紅色に包まれていて、居心地が悪い。
部屋の中央には紫色の座布団が置かれていて、僕はその上で正座した。
目の前には、歴史の漫画や映画で見たことのある御簾のような、薄い布か何かで覆われた四角いスペースがある。
中の人の顔は見えない。うっすらと、椅子に座っている人影のような輪郭が見えるだけだ。
ただ、顔は見えずとも、僕には、霊力が見えている。布越しであるためぼんやりとしか見えないが、人の霊力に混じって、悪霊の薄暗い青色の霊力があるのを、僕は見逃さなかった。
人に化ける能力の悪霊は多い。その中には霊力さえも完璧に化ける悪霊もいるが、どうやら目の前の悪霊はそうではないようだ。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
丁寧にお辞儀をして、受付の女性は部屋を出て行った。
2人だけになり、沈黙になる。
今、ここで、銃を抜いて撃つ方がいいだろうか。
...いや、村上さんの情報によると、まだ他にも悪霊がいるはずだ。その悪霊の場所を特定するために、ここは話題を振って探りを入れるべきか。
自分の行動に迷っていると、僕よりも先に、目の前の人物が口を開いた。
「あなたは、今、幸せですか?それとも、不幸ですか?」
「は、はい?」
「それは、なぜですか?満たされているから?それとも、不満があるからですか?愛されているからですか?
愛が足りないからですか?」
「え、えっと、その」
立て続けに意味の分からない話をする相手に、僕は当惑した。
「あなたは、もし、今日、この世から去ることになるとしたら、何を考えますか?そして、何を思い出し、何を後悔しますか?
あなたは、現世に未練がありますか?」
「えっと、僕はそのぉ」
「失礼、困惑させてしまいましたね。これは、私が生まれて初めて、最初に聞いた神のお告げです」
僕は口をあけてただ呆然としていた。
悪霊の言葉だ、おそらくそんなお告げは聞いていないのだろう。しかし、妙に真実味があるように感じてしまった。もっとこの人の話を聞きたい。そう、思えるほどに。
「私は、神のこのお告げを聞いて、自分の人生について改めて考え直しました。そして、私は、この世に未練があると、結論を出したのです。
なぜなら、私は、多くの人を救いたい。そのような気持ちが若い頃からあったにも関わらず、まだ、達成できていない。
その気持ちを神にお伝えしたところ、神は私にいたく感動し、今後は神の神言を人々に伝えるのが私の役目だと、そう、おっしゃったのです」
「そうなんですね。それは...それは、素晴らしいです!」
もしこの悪霊が村上さんの言う偽の教祖なら、同情の余地がないほど悪行を重ねているはずだ。
しかし、話を聞く限り、そんな人には見えない。
そもそも、僕は村上さんを根拠もなくただ信用していたが、彼の話は真実なのだろうか。
村上さんの話していたことがすべて嘘で、この人は神の言葉に従って人々を救っているだけかもしれない。
もっと話を聞きたい。この人から、もっと話を聞かないといけない。
「はじめまして、ですよね。まずは、あなたのお名前を教えていただけますか?」
「はい、僕の名前は春野匡希です」
偽名を使う予定だったが、本名を口走ってしまった。でもいいんだ。この人は悪い人じゃない。だから、本当のことを話さないといけない。
「春野さん、本日は、どのような悩みでこちらに?」
少しずつ頭に霧がかかるように、意識がぼんやりとしていく。最近、疲れが溜まっていたせいだろうか。
「はい、僕はゴーストファイターです。今日は、この教会の悪霊を退治するために来ました」
僕は、何を、言っているんだろう。
でもすごく、気分が、良い。
「ああ、なんということでしょう。春野さん、悪霊を人間の手で成仏させるなど、神の意思に反する行為です。
償わなければなりません。さあ、まずは武器をこちらに捨てて」
言われるがままに、僕はバックからゴーストシューターを取り出して、床を滑らすようにして、向こう側に投げ渡した。教祖様は手を伸ばし拾い上げ、御簾の中にしまった。
「春野さん、ありがとうございます。しかし、まだこれだけでは償いきれません。この世の穢れの最大の要因はお金です。そのお金を、あなたの体から削ぎ落とさなければなりません。さあ、持てる全てのお金を神に捧げ、身も心も浄化してもらいましょう!」
その言葉を聞いて、僕はすぐにお金を下ろしに行こうと考えたが、妻の顔がよぎり、それと同時に脳の中に鈍い痛みが広がった。
「すいま...せん。お金は、無理です...。妻と子供のために、貯金、しないと...いけないん、です」
「ああ、でしたら残された救済方法は一つしかありません」
教祖様のお姿は見えないが、椅子から立ち上がり両手を広げる人影が見える。
「死です。それで、あなたは救われます。さあ、これを」
教祖様は、御簾の向こう側から包丁を差し出して床に置いた。出刃包丁だろうか。切れ味が良さそうだ。
(僕の罪は、死んで初めて償えるんだ。
救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい、救われたい)
僕は床に置かれた包丁に、ゆっくりと手を伸ばした。




