第22話 入信希望のゴーストファイター
「よし、これで準備OK!」
僕は、自分の黒のショルダーバッグにゴーストシューターと、スマホや財布などを詰め込んだ。
着替えや旅行用の荷物を入れる大きいリュックとは別に、小さめのショルダーバッグを持ってきて正解だった。
僕たちゴーストファイターは、非番の時もゴーストシューターを持つことが許可されている。非番の時に悪霊に遭遇し退治した場合、後に報告書を作成してゴーストファイター協会に提出し認められれば、その分のお給料がきちんと上司から支給される、という仕組みになっている。
とはいっても、今日持ち歩いているのはゴーストシューターだけ。ポケット探知機とハイドリングは事務所に置いてきてしまった。
ハイドリングはもこ太に返してもらう、という手もあるが、電車でのあの態度をみるに難しそうだ。隙をついてもこ太から盗むことは出来るかもしれないが、あとで軋轢を生む可能性があるので避けた方がいいだろう。
ポケット探知機があれば悪霊の場所を特定しやすいけど、今回はそもそも場所は特定済み。教祖の悪霊は、平日は必ず教会にいると、村上さんが教えてくれた。
なので、ゴーストシューターだけで問題ない!!...と、思いたい...。
「一応さ、確認しておくけど、増援は呼ばなくていいのか?まあ、私としてはここに強いゴーストファイターが集まるのは困るけど」
もこ太は羽の手入れをしながら、僕に話しかけてきた。
「蓮さんは、別の仕事で今日も明日も予定が埋まってるからね。他の事務所に頼るって方法もあるけど、どのみち、一度現地に行って状況を確認した方がいいだろ?」
「ふーん、まあいいけど」
本当は、増援を呼んだ方がいいのかもしれない。もしくは、日を改めて後日調査に向かう方が、正しいのかもしれない。
現地を確認した方がいいなんてそれっぽいことを言って、それらしい理由をつけたけど、僕はただ、今回の事件を1人で解決してみたいだけなんだ。
こないだの悪霊退治では、僕は周りに助けてもらってばかりで、蓮さん、クリスチーヌさん、榎本君、みんなに迷惑をかけてしまった。怪我をしたことも妻にバレてしまい、とても、とても心配させてしまった。
ゴーストファイターとして、未熟な自分が、情けない。
(完璧なパパになりたい。子供に誇れる、立派なパパに。そのためにはやっぱり、仕事も1人でこなせるようにならないとね)
「今回は人に化ける能力って最初から分かってるからさ!今日の仕事は余裕だよ!!」
僕はもこ太に向かって、両手のピースサイン突き出し余裕の笑みを見せる。
「おいおい、ちゃんと話を聞いてたか?あの幽霊が言ってたろ、偽の教祖が『他の悪霊と話すところ』を見たって。つまり、少なくとも悪霊は教祖含めて2人いる可能性があるってことだ。気ぃ抜いてんじゃねーぞ」
「むむ...ゴーストファイターに退治される側の悪霊であるもこ太に先輩ヅラされるのは、なんか不服...。というか、遊んでるように見えて、ちゃんと話を聞いてたんだね!」
「あ?もちろんだよ、真面目に田中さんの話聞いてたからな」
「いやいや、村上さんだから!!」
「あー、そうだっけ?」
もこ太は思い出すような仕草をしたが、すぐにどうでもよくなり、羽の手入れを再開した。
「皆さん、準備が整いましたか?教会までの道案内は私がしますので、着いてきて下さい」
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「もうやだ...坂道やだ...」
坂道を登ること30分。せっかく温泉で汗を流したのに、今、この坂道の疲労で、体が汗でぐしゃぐしゃになっている。
空を見上げると、雲の色が灰色になっている。雨が降りそうな、独特のじめじめした空気が漂っている。
このじめじめと坂道のせいで、気持ち悪い暑さが体に染み込んできて、気が滅入りそうだ。
「あ、着きましたよ。あそこに見える建物が私の教会です」
草木に囲まれたところに、小さな赤い屋根の建物がある。建物の入り口には、木で作られた古びた看板が立てかけられている。かすれた文字で『神草神託教会』と書かれている。
「入ってすぐ、受付のようなスペースがあります。そこで、『入信希望です』と言えば簡単に中に通してもらええるでしょう。...申し訳ないのですが、私はすでに何度か教会の中を覗いている姿を見られていて、偽の教祖から怪しまれていまして...。そのため、一緒に中に入ることは出来ません。
道案内はここまでとなりますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ!任せてください!ねえもこ太...って、あれ?」
『私も暇だから一緒に行く』と言ってショルダーバッグに入っていたもこ太がいなくなっていた。
もこ太の行方も気になるけど、今は目の前の村上さんから頼まれた仕事が最優先。
僕はバックのチャックを閉じて、心配そうに見つめる村上さんの視線を後ろから感じながら、心の中で気合を入れて教会へと足を踏み入れた。
ドアを開けると、村上さんの話していた通り受付のようなスペースがあった。かなり狭く、椅子が二つと壁際に本が数冊、そして真ん中に受付のカウンターがあるだけだ。本のタイトルは『神のお告げ』や『神と共に生きるあり方』など、おそらくこの教会の教えに関する本だろう。
「初めまして。えっと、入信希望なのですが...」
入信の手続きを進めてもらうために、僕は受付の女性に話しかけた。『入信』ということが人生で初体験なので、少し、緊張する。
(入信費用に多額の金額を請求された場合って、あとで経費で落ちるのかな...)
なんて不安を抱えながら俯いている僕に、受付の方は優しく微笑み話しかけてくれた。
「まあ、入信希望の方ですね!貴方も今日から神に救われる身になりますよ」
「は、はい。えっと、ぜひお願いします」
「それではさっそく中に入っていただいて、教祖様にご挨拶ください」
「え?いきなり教祖様に会えるんですか?」
僕はてっきり、まずは入信のための書類を記入し、その後は教会の職員の人から話を聞いて、全て終わった後に教祖に会える、もしくは僕のような入信したての信者とは会ってくれさえしないのではないか、と考えていた。後者の場合は、教祖と会う方法を考えないといけない、と思っていたけど...。
「ここの教祖様は、信者たちとの距離をとても大切にされています。信者一人一人のお話を親身に聞いてくださるのがこの教会の特徴でもあるんです。
最初は緊張すると思いますが、大丈夫ですよ。教祖様の前では、自然と心が洗われ、偽りのない言葉がすらすらと出てくるのです」
受付の女性は、胸に手を当て、目を瞑り教祖を思い出すようにして頬を赤く染めている。
僕を騙して入信させるために話している、というよりも、心の底から、教祖に心酔しているようだ。
「わ、分かりました!緊張しますけど、さっそく教祖様に会わせてください!」
僕が言うと、受付の人は本当に幸せそうに微笑み、奥の部屋へと案内してくれた。




