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第18話 蓮さんの恋愛事情

『今朝未明、佐瀬市させしでまた新たな遺体が発見されました。現在、警察は事件を調査中とのことですが、先月から続く殺人事件との関連があると------』



僕はリモコンの電源ボタンを押して、何も言わずにテレビを消した。

どの番組も佐瀬市の遺体発見の話題で持ちきりだ。

仕事の気分転換にでもなれば、と思ってテレビをつけたが、これでは気分転換どころか暗いニュースばかりで気が病みそうだ。


「またこの事件か...」


佐瀬市では数ヶ月前から複数の遺体が発見されており、どれも犯人はまだ特定されていない。

どの遺体も心臓を貫かれ即死。そして毎月20日〜24日の間に遺体が見つかること。このことから、警察は犯人が同一人物であるとして事件を捜査している、らしい。


暗くなった心を明るく鼓舞しようとし、僕はわざとらしくおちゃらけて見せた。


「も〜、ゴーストファイターの僕たちはこーんなに頑張ってるんだから、警察ももっと頑張ってほしいよね!早く逮捕してくれって感じ〜」


「...こないだ悪霊にボコされて泣きながら事務所に帰ってきた人がよく言いますね」


「な、泣いてないよ!!」


榎本君から言葉のボディブローをくらい、腹ではなく心のみぞおちが痛い。

たしかに、僕はこないだの悪霊との戦いで、1人で勝つことができなかった。結局最後は蓮さんにとどめを刺してもらった上に、そもそも一回戦目に関しては、怪我してボロボロの体を蓮さんに事務所まで運んでもらえなかったら、今頃どうなっていたか分からない。


あの悪霊事件からもう3日。


『春野、念の為休みをとって身体をしっかり休ませろ。いいか、これは命令だ』


という心優しきパワハラを蓮さんから受けたため、僕は3日間家でお休みをもらっていた。


ゴーストファイターは調査や解決した事件について報告書をまとめておく必要がある。国が運営するゴーストファイター協会に定期的に提出する必要があるからだ。


報告書は僕が休んでいる間に、榎本君と蓮さんがほとんど取り纏めてくれたようだ。今日の僕の仕事は、残りの報告書の記載と、その他事務作業になる。

これも蓮さんの命令で、今週いっぱいは体も万全ではないだろうから事務作業をやれ、とのこと。体を張る仕事は私に任せろと、ゴーストファイター業界では上司に言われたいセリフNo. 1のお言葉を頂き、ありがたく享受している状況だ。


「蓮さん、今日は休みか...」


そんな蓮さんも今日はお休みしているようだ。蓮さんから、本日のお休みを連絡するメールの中に『よほど緊急性の高い仕事以外は、すべて断れ。事務仕事だけしていろ』と連絡があったので、今日は僕と榎本君2人で、事務所でコツコツと作業をしている。


「ああ、蓮さんですか。先輩のとこにもメールが来てましたよね?仕事の残業続きで体調が悪いから休むって」


僕がお休みをもらっているせいで蓮さんに負担をかけてしまったかもしれない、と一瞬だけ想像したが蓮さんはそんなやわな人間ではない。体力はおそらくゴリラと同等、いやそれ以上だと思っている。


そんな蓮さんが、休みを取る理由は『1つ』に決まっている。


僕は机を乗り出して、榎本君を見ながら、ニヤニヤとした表情で話しかける。


「ねえねえ榎本君、怪しいと思わない?」


僕は親指と人差し指を顎に添え、調査に乗り出す探偵のような仕草をした。


「何がですか?」


「蓮さん、最近よく休んでるだろ?」


「そうですか?いっても、月に一回くらいじゃないですか?」


「そう!!それなんだよ~~!!」


僕は机をばんばんと叩き、「それそれ〜!」と言いながら、人差し指で蓮さんの机を何度も指差した。


「せんぱぁい、なんでチンパンジーみたいに興奮してるんですか。月に1回くらい休むのなんて普通でしょ。自分だって、寝坊して会社に間に合わない時は、体調悪いので休みますって嘘ついて休んでますよ」


「何サラッと、とんでもない事実言ってるの!?ダメだからね!寝坊したからって諦めてまた寝ようとしないの!ちゃんと会社来て!」


(榎本君から、たまに始業時間前に『体調が悪いので休みます』って連絡がくる事があったけど、も、もしかしてあれ全部サボりか...?元々、かなり遅刻癖やサボり癖があるタイプではあったけども!!)


榎本君の相変わらずのマイペースさに取り乱してしまったが、僕は仕切り直して蓮さんの話を再度始めた。


「ま、まあ、今は榎本君の話はいいや。

 よく考えてよ、榎本君。あの蓮さんだよ?

 今まで仕事一筋で、『俺は休みなんていらね!!とにかく仕事がしたい!』って言ってた人間だよ?」


「あれはあれで労働基準法に反してそうでしたけどね」


「それはぐうの音もでないけども...今はそこじゃなくて!!そんな仕事一筋の蓮さんが、最近月に1回ほど休みを取っている。これは...ずばり......」









「恋だよね!!!!」


僕は興奮する気持ちを抑えられず、席を立ち上がり目をキラキラさせ榎本くんに向かい合う。


「頭の回転が女子中学生みたいになっちゃったんですかぁ?先輩」


榎本君に鋭い突っ込みをされて、なだれるように椅子に座り込む。机に顔を伏せ、子供のように足をジタバタさせながら榎本君の意見に対抗する。


「違うんだよ榎本君聞いてよぉ~!蓮さんは半年前くらいに結婚したいって言ってたんだよ!前まではあーんなに興味が無さそうだったのに、そろそろ歳だし考えないとなって。

それから少しして、急に月1回休んだり早退したりしてるでしょ?


だからさ、絶対女性に会ってると思うんだよね!」


「はあ」


榎本君は全く興味が無いようだ。片手でアイスを食べながら片手でパソコンをいじっている。


「あーーー!!なんでそんな興味無さそうなの!!あの仕事にしか関心のない蓮さんが、恋をしてるかもしれないんだよ!?」


あの蓮さんの『恋愛事情』は僕にとっては一大ニュースそのものだ。


「他人の恋愛事情なんて興味無いっすよ・・・あ、当たり出た」


榎本君は『当たり!』と書かれたアイスの棒を平然とした顔で眺めている。


「はあ~~気になるな、あの蓮さんが好きになる女性、一体どんな人なんだろうなぁ〜」


「...先輩、今日は事務仕事担当ですよね?会社にかかってくる電話とかも絶対出てくださいよ。僕はちょっとこのアイスの棒洗ってくるので」


「はーいはいー!分かってるよ!」


そう言い残すと、榎本君は当たり棒を片手に部屋を出ていった。


僕は蓮さんの席を見つめながら物思いにふけていた。


蓮さんは、どんな人に恋をするのだろうか。


気が強い相手だと、蓮さんと性格が似ているのでぶつかってしまうのだろうか。それとも似た物同士と言う言葉もあるように、案外相性が良いのかもしれない。


逆に大人しい相手だと、蓮さんの性格が強すぎて萎縮してしまう可能性がある。ただ、蓮さんも榎本君とはまた違った意味でマイペース(というか、我が道をいくスタイル)な性格なので、大人しい相手の方が蓮さんに合わせてくれるのかもしれない。


そもそも、ここ最近の蓮さんは、態度や言葉遣いが少し落ち着いて丸くなったように思える。もしかして、すでに誰かと交際していて、その人の影響を受けているのかもしれない。


(そ、それで、もし結婚することになったら、僕も結婚式に呼ばれ、てスピーチとか頼まれちゃう...かも!?)


気が早すぎる想像をして、僕はしまりのない笑みを顔に浮かべていると...




『ジリリリリリリィッッ!!!!』


突然会社の電話が鳴り出した。


「うわぁ!!」


蓮さんの恋愛事情に僕の頭をフル回転させていたため、驚きの声が出てしまった。

頭の中はまだ仕事に切り替わってはいないが、僕は急いで電話に出た。


「も、もしもし。西葉事務所でしゅ」


(し、しまった、噛んじゃった...!)


僕の脳みそは右脳も左脳も蓮さんのことで頭がいっぱいで、集中力を欠いていたせいで思わず噛んでしまった。...ちょっと、恥ずかしい。


「ちゃーんと仕事してくだしゃいね、先輩」


電話越しから馬鹿にしたような榎本君の声が聞こえてきた、と思ったらスマホを片手に電話している榎本君が部屋に入ってきた。


榎本君は悪い顔で僕を見ながら笑い、電話を切ってスマホをポケットにしまった。


(もう、榎本君は...)


どうやら僕が蓮さんのことで、仕事も手につかず上の空だったことに気がついて、わざと自分のスマホで事務所に電話をかけたようだ。彼はこういう悪戯いたずらを僕にしてくることが多い...。


「先輩をからかうんじゃない!」


「からかってませーん、ちゃんと仕事してるか確認しただけですよ」


「はぁ、本当に榎本君はいじわるするんだから...。

僕は蓮さんの恋愛事情が気になるけど、榎本君は発明と彼女以外に興味ないもんね...。そういや、彼女のお父さんが亡くなってから、彼女の元気が無いって言ってたけど...今は大丈夫?」


数ヶ月...いや、半年以上前だったか覚えていないが、榎本君がひどく落ち込んでいた時期があった。

榎本君の交際している彼女の父親が亡くなり、彼女の元気が途端になくなってしまった、励ましの言葉をかけても元気にならない、と。めったに弱音を吐かない榎本君が珍しく僕と蓮さんに相談してきたのをふと思い出した。


あれから数ヶ月以上経過したとは言え、なんとなく話題に出すのを躊躇ためらっていた。が、今日も元気に悪戯をかましてくる榎本君を見て、今ならこの話題を振っても、場が暗くならないかもしれないと考え思い切って質問してみた。


「彼女ですか?だいぶ元気になりましたよ。...まあ、自分がついてますから。もし仮に、あと何年も何十年も元気が戻らなかったとしても、ずっとそばにいて励ましますよ」


(あぁ、こういうところ、なんだよな)


榎本君の、『こういうところ』が憎めない、可愛い後輩なんだなと改めて実感したと同時に、彼女さんも榎本君も当時より少し元気が戻ったようで安堵した。


恋は、人を変えてくれる。


本人曰く、榎本君は、彼女と出会う前は本当に冷たい人間だったらしい。が、彼女と話し向き合う時間の中で自分が変化していくのを感じたと話してくれたことがあった。



「ふふ、蓮さんは、どんな女性に恋するのかな」


そして、恋をした蓮さんは、一体、どんな風に変わるのだろうか。

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