九十一、情報の共有
ちょうど練習が終わり、自宅で昼飯を作っていると、スマホが鳴り始めた。俺は鍋を見つめながら、スマホを手に取り電話に出た。
「あ、もしもし神山君?」
「仁美さん……急にすみませんでした……香奈さん大丈夫でしたか?」
俺は鍋の中身をおたまでくるくるしながら、話し続けた。
「電話も繋がらないので、倒れてたらどうしようかと思って……。」
「そうだよね!行ったときは、精神も体力もヤバそうだったけど、今はおかゆ食べて、ゆっくり寝てるから心配しないで。」
俺はそれを聞いて一安心した。何かあったら、香奈の両親にも顔向けできない。
「…………ちなみに………………話……聞きました?」
「どっちの?」
「どっち……ってなんすか。」
「あーーーーー……そうだよね……言ってないんだった………………はは。」
「なんすか?」
「うーーん……これ、私から言っていいのか悩む。」
仁美さんはどうしようかなと電話の向こうでずっとうんうん唸っていた。よっぽどのことなんだろうなと俺は一旦、鍋の火を消して、ダイニングソファに水の入ったペットボトルを持って腰をおろしてから口を開いた。
「仁美さんは聞いてどうでした?」
「衝撃的すぎて、口あんぐりだった。」
「………………………俺、聞いたら、どうなりそうですか?」
「遠距離やめて、こっちに来たら?って言いそうだけど、なんだかんだで香奈の意志を尊重するから、結果このままなんじゃないかな。」
「マジっすか………………。」
内容は分からないものの、香奈がギリギリまで言わなかったのはたぶん俺に変な心配をかけない為だろう。自分のことより、他人を優先しがちな人だから……。それを思うとさらに俺は参ったなと思いながら頭をかいた。すると仁美さんは急な質問をぶっ混んできた。
「織咲……ってなんなの?」
「呼び捨てこわいっす。」
「私の勘が女の敵って言ってる。」
「……好意を向けられてはいて、散々断ってるんすけど、チームのスポンサーが絡んでて面倒なんすよ。」
「うわ、さらに最悪。」
「チーム……はいいんすけどねー。」
俺はペットボトルに入った水を飲み始めた。
「神山君、結婚したら?」
その一言に俺は水が気管に入りむせた。
「ゲホッ、ごほっ………………はぁ、、け、結婚?」
「え、割りと本気なんだが。」
「ガチなんすね……。」
「さすがに既婚者に手を出すマネージャーはダメでしょ……。」
俺は落ち着いた後に確かに一理あるなとは思った。そうなればしつこくもされないし、あちらも世間体だって気にしないといけないはずだ。
「…………ありっすね………………でもお互いの環境は、現状変えられないっすね……。」
「別居婚でいいじゃん。」
「さっきからすごいこと言いますね……仁美さん。」
「時代はフリーダムよ、神山君?……事実婚、別居婚、同性婚だってこれからもっと指示されるかもだし……それに……。」
「それに……?」
「…………たぶん香奈にとってもそれが抑止になると思う……守れると思う。」
「……………………………………誰かに言い寄られてるんすね。」
「その、誰か………が面倒で、しかもなぜにと思うくらい信じられないやつ。」
「…はぁーー、直接話してぇーー。」
俺はソファに寝そべりながらそう返すと、仁美さんは無理でしょ、香奈があんな感じではそれに距離が……と言った。しかしそれを言った後に思い出したかのように仁美さんは逆にそんなことないかと言い始めた。
「ファイナルシーズン入ったら、ほぼこっちで過ごすじゃん。」
「……まぁ残れば……っすね。」
「なに……弱気じゃん。」
「弱気じゃなくて、まだ分からないんで、何とも言えないっす……まぁいい感じではありますが、こればっかりは……。」
「こっちもこっちで真面目かい……君たち、ホントに似た者同士ね……。」
そう言うと仁美さんからなかなか大きいタメ息が聞こえた。正直ぶっちぎりに調子がいいと言うわけではなかった。今のチームはまだメンバーが新しい人ばかりで、チームワークという点ではまだ他のチームには劣る部分はあるのが現状だった。
「……仁美さんは、、、朝比奈さんと結婚してどうですか?」
俺はふと聞いてみた。やっぱ結婚したら変わるものもあるんだろうか…。誰かと一緒になりたいなんて思う日が俺に訪れると思わなかった故に、たまに俺で大丈夫だろうかとそこだけは自信が持てないのは正直ある。誰かの為に必死になってしまう人だからこそ、本当に俺といて幸せって思ってくれるだろうか。
「幸せですけど、なにか……?なに、その質問。」
「即答さすがっすね。」
仁美さんの返答に俺は心底感動した。やっぱ学生の時から付き合ってるからこその信頼もあるんだろう。
「はぁ……でも神山君も、幸せになれるでしょ?」
「……え、俺っすか?」
「えー、実感ないの?……正直、神山君は顔とお金取ったら、わりと欠落してる人だと思ってたんだけどさ……。」
「……いま言うことっすか?……否定はできないっすけど……。」
朝比奈さんみたいな人を選んだ仁美さんからしたら、たぶん俺は色々と問題ある人間に見えるんだろう。
「だから香奈が神山君好き…ってなった時、、、香奈がまた傷つくかな……って思ったけど……余計なお世話だった。」
「…………え。」
「……なんだかんだ、香奈には優しいし、一途だし……あのお花だって……今回も香奈の為にわりと行動するんだって……だからさ、、、。」
「……………………。」
「早く結婚しちゃってくれない?」
「……………待たせて………すみません。」
俺がそう言うと、仁美さんはまぁこっちは任せてよと言って、電話を切った。俺ははぁ~と言いながら、スマホを置いて、天井を見つめた。
「…………朝比奈さんの言ったとおり、プロポーズとっととすべきだったかぁ~…………。」
やっぱりあの夫婦には頭が上がらないと、俺はただ反省した。そして再度スマホを手に取り、自分のスケジュールを確認して、チームマネージャーに電話をかけた。善は急げとはこのことなんだろうと心の中で呟いた。




