ヤオフー
「私は…」
いかが致しましょう、と確認するアルバートに、今日の予定を聞いておく。
今までの話が全て真実ならば、恐らく今この国を動かしているのはアルバートだ。
聞きたいことは沢山あるけれど、そんな彼をこの場に留めておいて大丈夫だろうか。
「アルバートにはまだいて欲しい…けれど、忙しいのだったらまた後日で大丈夫よ。」
「私は魔法使い様がいらした場合の説明係でもありますので、本日の時間は全てカレン様の為にあります。」
1日ならば部下達で何とかなります、と人の良い笑みを作るアルバートに、優秀な部下は少なからずいる様子でほっとしつつ、なら聞きたいことを聞かせて貰おう、と今聞きたいことをもう一度頭で整理した。
サーシャを見ると、カレンの好きなようにして、とばかりに微笑まれてしまったので、頷いてアルバートに向かい合った。
「貴方に失礼な事だったら断ってくれて構わないのだけれど、変化する瞬間を見せて欲しいの。」
「構いません。確かに強要をすることは好ましくありませんが、人によります。」
「見せてもいい相手かどうか、そして本人の変化についての意識の問題ね。」
「ええ。私はヤオフー。カレン様のご想像通り狐の獣人です。ヤオフーは変化を得意としていますので、信頼関係があれば変化を断ることはありません。もし獣の姿に戻ったとしてもすぐに人間の姿に戻れますから。そして、私はカレン様の望む事であれば協力を惜しむことはありません。シビ様の信頼された方であれば当然のことですが、もちろん私自身もカレン様を好ましく思っております。」
「ありがとう。私もアルバートの事は好ましく思っているわ。」
「もったいないお言葉…。」
「私が1番気になるところは私自身がこの世界について何も知らないという事。アルバートが丁寧に説明してくれて助かっているわ。変化を見せて欲しいというのは、どこまで変化出来るのかという事と魔法に近いものなのか確認したいからよ。シビの変化と違うのかも確認したいし…ああ、シビのことに関しては後でシビに聞くから。」
「かしこまりました。シビ様の変化は私達よりももっと高度なもの。私達獣人は獣か人かどちらか一方の姿にしか変化出来ません。またその姿も同一のものです。」
「毛色を変えたり顔や体格を変えることは出来ないのね。そして今着ているものは変化の一種ではないという事。」
「はい。髪色と毛色は同一です。そして、だいたいの場合は獣の姿に戻る際、着ているものは脱ぎます。 」
となると、確かに自身の大きさを自在に変えることができるシビの変化は獣人達とはまた違ったものという事ね。
「変化が苦手だと身体の一部が変化しきれなかったりとかはあるの?」
「あります。特にワオンは変化が苦手な種族です。感情が昂ったり、気が動転したりすると、特に耳や尻尾が出る事が多いです。爪や牙等も同様で人間に最も恐れられている獣人であります。」
「なるほど。」
奴隷という言葉を聞いた時から察してはいたけれど、種族間の決別はなくとも、区別や差別はあるようね。
だからシオンも母親も腫れ物扱いされていたと。ならばなぜそのワオンを選んだのかというのは恐らく野暮な事。美しかったのでしょうね。きっと。
立ち上がり、アルバートの肩に手を置いて、着ているものに魔法をかける。
それをじっと動かず待ってくれている事からアルバートは確かにこちらに好意を持ってくれていると分かって微笑んだ。
「アルバートの着ているものに魔法をかけたわ。伸びるように。」
ほらね、と肩の部分を引っ張るとその方向に伸びた衣服にアルバートも頬を染めて感動した様子であった。
この世界の人は本当に魔法を見ると可愛い反応をする、と、思わずアルバートの頭を撫でた。
「あ。」
「…っ!」
ごめんなさい、と口にするよりアルバートが狐に変化する方が早かった。
一瞬にして知っている狐よりも少し大きな狐になったアルバートが、キュウンキュウンと鳴いてすりすりと頭を私に擦り付けてきた。ああふわふわ…
「よしよし、可愛いわね。」
しゃがみこんで頭を撫でたら、今度は頬擦りをするように首筋に懐いてきたので、そのまま抱きしめて毛並みに頬を埋めた。シビほどではないけれど、よく整えられているようなふわふわの毛が心地よい。
「カレン…」
「?」
「アルバートよ?」
「ええ。」
確かにあの紳士が頭を過ぎらないことも無いけれど、撫でてと言っているのだ。撫でて悪いものか。
一瞬だったのでしっかり確認できてはいないけれど、魔法とは違うものということはわかったし、疑問はある程度解決できたので、アルバートに戻るか聞いてみたが、首を振られたので、伸びるよう魔法をかけていた衣服を脱ぐのを手伝ってやり、そばに畳んで置いておいた。
「ありがとう、アルバート。これからサーシャと話すことは聞いていてもいなくても大丈夫よ。休んでいて。」
「クー」
ソファに戻りサーシャの隣に座ると、私の後をアルバートも着いてきて足元に座るもんだから可愛くてしょうがない。
こちらを見上げるアルバートに、膝の上を叩くと少し躊躇したように見えたが、前足をちょこんとのせた時、抱き上げてやればもう逆らうことはなく、気を抜いたように膝の上に頭を乗せて瞼を閉じたので、少しおやすみ、と背中を叩いてサーシャを見た。
サーシャはアルバートに驚いているようだけれど、獣人だということはサーシャも知らなかった事なのね。シオンとレオンは知っているとして…まあ、口に出さなければいいだけか。




