新しい世界
「ところでサーシャ、貴女前世の記憶はどのくらい残っているの?」
先程ロイに遮られて応えを聞けていなかった問いをもう一度する。
私と同じように少しずつ蘇るのかしら。
自分達がしっかり最後まで…魔王を倒せたのかも気になる所。もしかして失敗してここにいるのでは?という可能性もある。
「全部…覚えてる。」
「そう。魔王は?」
「説得できたよ。」
「そう。」
良かった。少なからずあの場所を放置した訳ではないという事が分かってホッとしたのだけど、それにしてはサーシャの顔色が優れないのが気になる。
「サーシャ?」
「勇者が魔王を倒せれば、なんでも望みが叶うって。」
「そうだったわね。」
「魔物と人間が共存できる世界、そして私とカレンをその世界にってお願いしたの。」
作り替えられたのが今の世界。
その言葉に驚いた私以外の人達を落ち着かせて続きを促した。
「魔物はほとんどいないんだと思う…シビを見るまでいなくなったんだと思ってた。その代わり獣人という種族がいたの。」
「なるほど、つまり…共存できる世界の為に意思疎通ができる獣人、という存在ができたって事ね。」
「多分、そういうことだと思う。」
まあ、それが事実でも仮説でもおそらく限りなく事実には近いことだろう。
シビが魔物だという時に、ロイがピクリと反応した事も見えたし、シビが何かを言いたそうに私の足を叩いたのにも気づいたので、ん?とシビを撫でながら見下ろすと、私の膝から降りたシビが1尾状態から4尾状態に変化し、そのままアルバートの元に歩いた。
「キュー」
「なんとシビ様は…キュウビ様でしたか。」
アルバートは驚いて焦った顔をしていたが、ロイの方はもう震えているようにも見える。
アルバートの言葉に答えることなく、チラリと彼を見て私に何かを訴えるシビにうなづいた。
「シビ、おいで。」
「キュウン」
あの2人がなんだか可哀想だ。
そう思ってシビを呼んだのだが…
「キュウビ様にその様な」
「ロイ!」
「しかし父上…」
呆れたようにロイを諭したアルバートに、私を睨みつけるロイ。シビがアルバートを見て何かを訴えたということは…
「アルバート、後継が順調に育っていないというのは、王子達に限ったことではないのね。」
「お恥ずかしながら…その通りでございます。」
「父上…!」
ギリリと歯ぎしりの音が聞こえそうな程こちらを憎々しげに見てくるロイにため息が出そうになった。
「アルバートもロイも獣人なのね。恐らく狐でシオンに変化について教えたのもアルバート。」
「なにを…!」
「シビがアルバートを助けて欲しいと私に頼んできたことからアルバートはシビと近い存在であること。シオンの母親が育児放棄をしたならば、変化を教えられるのは人間には無理だし、何よりアルバートは宰相とはいえ、シオンにとても詳しかったわ。となるとそうとしか思えないのだけれど、違う?」
「仰る通りでございます。」
「父上!」
「キュウン!」
「分かっているわシビ。貴方の頼みだもの。」
「カレン、お前すごいな…」
俺、全然わからん。と言ったアキラに聞きたいことあったらまた後で説明するわ、と伝えながら、ふと疑問が湧いた。
パーティの皆、扱いは各々なものの、それなりの地位にいるのに、何故アキラは狩人のままだったのだろうか。
騎士になりたいと言っていたし、サーシャの考えが正しいとすれば、王宮の騎士にでもなれたのではないか?チラリとサーシャを見ると、何かを言いたい様子ではあったけれど、この場では言い難い、と言った様子。
「シビ、ロイの事は任せていい?」
「キュッ!?」
こっそりシビに伝えたら、驚いたようにこちらを見上げてイヤイヤと首を振っていたが、お願い、ともう一度頭を撫でるとわかった、と言うようにしっぽを垂らしてくれた。
「私はサーシャともう少し話があるから、アキラとシビで先にこのお城の部屋を覚えておいて欲しいのよ。アキラそういうの得意でしょ?」
「ああ、道を覚えるのは得意だけど…そうか前世でも?」
「そうね、当たり前のように言ってしまって気を悪くしたならごめんなさい。」
「いや、変な感じはするけど…気にしなくていいよ。」
「ありがとう。じゃあ、道案内は…」
わざとそこで切ると、察したシビが仕方ないとばかりに起き上がり、ロイの所に飛んでその足を尻尾で叩いた。
「キュウビ様!」
感極まった様子で喜んだロイに引いた様子で1尾になり、アキラの肩に乗ったシビを見て、今度はアキラがロイに睨まれていたけれど、アキラはその事に気づかず、シビが懐くの珍しいな、と笑顔でシビを撫でているし、さっさと案内しろとばかりに、いつものキュウキュウ声でなくグルルと唸ったシビに分かりましたと挨拶もなく部屋を出たロイとまた後で、と言ったアキラ達を見送った。




