最初は肝心
そうと決めたら行動は早い方がいい。
サーシャと話したいことは沢山あるけれど出来れば2人きりで話したいし、その為ならやはり護衛になるのが1番かしら。
魔法使いであるというのも上手に使う必要がありそうね。
サーシャに頼んで責任のある方の元に向かい、逃げ回ってごめんなさい、急なことで驚いてしまって…と素直に謝ったら向こうもこちらも説明不足で申し訳なかった、と頭を下げてくれた。どうやらやはり魔法使いという事は大きい。この様子だと多少の我侭は聞いて貰えそうであるけれど…
「私が言うことではないと思いますが、貴方顔色が悪いですね?」
「あ…いや、これはお恥ずかしい。」
この私が我侭を言い出すことを躊躇するほどには顔色悪く目の下の隈をなぞっていた。
よほど忙しいのであろう目の前の紳士はこの国の宰相であるらしい。
そんな忙しい中急に私みたいなのが現れたら厄介なものだと思うけれど、目の前の彼からは嫌な空気は出されておらず、むしろ私を見てほっとしたような気さえする。
その事から察するにやはり王子の婚約者候補の選別が忙しい主な理由なのであろう。あんなに大々的に募集をかけているように見えましたし…ゲストルームなのであろう座り心地の良いソファで美味しい紅茶を頂いて一つ息を吐いた。
「お忙しい所申し訳ありませんが、少し、お聞きしても良いかしら?」
「ええ、私に応えられる事でしたら。」
「ありがとうございます。まず、正直にお話します。私は先日倒れていた所をアキラという方に助けられ、見覚えのあったサーシャに会いにこちらに向かいました。サーシャと実際に話した所、恐らく前世の記憶かと。」
「前世…」
「ええ。サーシャにとっては。けれど私はその時の私のままここに来たのだと思います。つまり、この国の事を全く知りません。」
アキラに会ってからここまで、街を見てきたが、わかったことは平和である、ということだけである。魔王はいないし、魔物が襲ってくるという事を心配している人もいなかった。
私の知識とはそれだけなのだ。
「王子と婚約となればもちろんこの国を少なからず率いて行くことになりますわね?この国を全く知らない私が適任であると本当にお思いですか?」
私であったらそんな人に上に立ってもらいたくないだろう。そう思ったから聞いたのだが不思議そうにこちらを見る宰相閣下にこちらも不思議な気持ちになってしまう。
「いやはや、そんな事をお気にされていたのですか!実に思慮深い…私はそのお言葉でますます貴女様を推薦したく思います。」
にこり、と人の良い顔で微笑んだ宰相閣下に驚く。
「そんな事…ですか?」
「ええ…いえ、悪い意味でなく、心配には及ばないということでして…つまり、別世界から魔法使い様が来られることは預言の通りでございますので、その為の準備は長いことされておりました。なので、大抵の事は問題ないかと。」
「必要な事はわかりやすいようにまとめてあるって事ね。」
「はい。」
魔法使いとなるといなやあれよあれよと流されたのもそのせいかしら。
なんの問題もないように言っているけれど、ここで流される私ではない事を見せていかなくてはいけない。
一見目の前の方も悪い人には見えないけれど、舐められたらいいように使われるのは自然の摂理と同じようなものだと思うから。
「だからそれがなんだと言うの?」
「はい?」
「異世界から来た魔法使いにわかりやすいように歴史をまとめてあるとする。この世界になんの思い入れもない私がそれをわざわざ覚えて望んでもいない相手と結婚する理由があると思いますか?」
「いえ、衣食住など迷わぬようこちらで…」
「あら、あなた達が用意しなくては路頭に迷うような女に見えますか?せっかくの魔法使いなんですもの。各地を回って何でも屋なんてのも面白そうですわね。」
現実的に考えれば城で身柄を預かってもらうのが1番安全ではあるけれど、その対価としてこの国を背負わされるのならば身が重いというもの。王子の婚約者になるとなるとまたそれ以上に重荷であることは間違いない。
私は私の力を1番知っている。自信過剰ではなくこの国の役にたてることを知っている。
いざ城内や国の状況を理解すればより良い方向に動かすことが必ず出来る能力は持っている。
だからこそ、用意されたものではなく、こちらからお願いしたものに私は対価を払いたいのだ。
微笑んだまましっかりと目の前の紳士を観察する。本当に信頼に値する方かしら。
この方を味方につけておけば恐らく今後かなり楽になる…という言い方は悪いが、そうなるはず。
さて、どう…え、泣いてる!?
「ちょっと貴方…どうなされたの?私の言い方はキツかったかしら?」
「いえ…いえ、本当に頼もしい方がいらしたと感動してしまいまして…。どうかこの国をお救い下さい。」
「うーん…」
流石に私も予想外な反応を見て頭を回転させた。




