貴方は誰
アキラが私を覚えていない事を鑑みて、シビという声を耐えて、動いてしまった口を押さえたが、こちらを見上げてきゅうーん!と鳴いたシビは、ちぎれんばかりに尻尾を振っていて、もしかしてこの子は私の事を覚えているのでは、と腕を広げたら後ろ足を蹴りあげて飛んだシビが綺麗に私の腕の中に飛び込んできた。
「え、キュウビが一瞬で?」
「あなたが見つけてくれたのね…ありがとう。」
ふわふわの毛並に顔を埋めて抱きしめて撫でた。フンフンと鼻をこすりつけられて、匂いを嗅いでくる感じを見ると、記憶はないけどにおいは覚えてるってところだろうか…私を覚えていないけれどシビとアキラが一緒にいる、ということは、時間が巻き戻ったわけではなさそうね。
「オレにもそんなに懐いてきた事ないのに…てか、どこいったのかと思ったら水浴びしてきたな!?綺麗になってる…」
「ふふ、ふわふわになってきてくれたのね。」
「キューン!」
なでてなでてとばかりに押し付けられるふわふわの毛をなでて堪能しながらアキラから恋愛相談された記憶を思い出す。私の知るアキラはサーシャの事が好きだった。
私を発見し、目が覚めたなら、サーシャはどこだと聞いてもいいくらいには。
そして、心ゆくまで撫でさせてもらった後、私の横にぴったりと寄り添って座ったシビのことを、この目の前のアキラはキュウビと呼んだ。
ということは、やはり私の知るアキラとシビでは無い。
でもシビは私に懐いてくれているし、アキラとも行動を共にしている。
と、いうことは…もしかして、
「私は死んだのかしら。」
「え、いやいや、生きてるよ、幽霊じゃないよな?え、違うよな?触れたし…」
サーシャがこちらの世界で死んで、人生を繰り返したといった話は聞いていたのでそういうことかと思ったことが思わず口に出てしまった。サーシャの場合死んだ記憶が残っていると言っていたし、私は勇者ではないから曖昧なのか?
手首についていたはずの命共有の腕輪が無くなっている事でその可能性は高いのでは、と目の前で、いや、変なところは触ってない!変なところというか、普通にここまで運んだだけだから!と1人慌てているアキラをみて、恐らくそれが一番正解に近い答えであると予想する。パラレルワールド、多分そういうことだ。
「そんなに慌てなくてもわかっているわ。あなたが信用に足る存在だと。」
「へ?」
「衣服の乱れも見られないし、痛みもない。無事に慎重に運んでくれた証じゃない。ありがとう。」
「い、いや…」
「それに…」
「?」
「いえ、この子がそんなに懐いているんだもの。悪い人では無いのはわかるわ。」
クゥンと鳴いたシビを撫でながら、危ない危ないと誤魔化し、高鳴った心臓をおちつかせた。
優しい面倒見のいい男だって知ってる。だから私は貴方が好きだったのだから。そう口にしてしまう所だった。




