サーシャの気持ち
4回目。自分が勇者であると思い出すのは4回目だ。
だけど、今までと違う事があった。
カレンの存在である。
今までの彼女は綺麗で魔力は強いが傲慢でプライドの高い女性であった。
常に周りに手下の様な形で誰かを従わせ、その魔力も自分の得にしか使っていなかったように思う。
けど、今回のカレンは違う。
カレンの周りは下僕の様な人々ではなく、明るい笑顔で溢れていた。
私に興味のない父親が唯一私に与えたものが勇者の本であった。別世界を救い、この世界をも救うであろう勇者は、膨大な魔力を用いてそれを成すであろう。
勇者になる人はどんな人なんだろう?そう想像する事がその頃の私の唯一の楽しみで、勇者こそが憧れであった。
『大丈夫?』
差し伸べられた暖かい手を忘れていない。
今でもあの時の気持ちを思い出せるし思っている。ああ、この子…カレンこそが私の勇者だ、と。
カレンの考え方は柔軟だった。
こちらの物を持って行って換金する。
魔物を仲間にする。
どちらも3回行った私も思いついていないことであった。
襲ってこないなら手は出さない。
そう決めた後、言葉巧みに私達の世界の物を商人に売りつけ資金を膨大に手に入れたカレンもかっこよかった。
何より1番驚いたのは、この世界と勇者についてのカレンの考察であった。
最初の街の宿、明日は塔に行こう、と決めた夜ふと彼女が口にしたのだ。
「ねえサーシャ。何故この世界を救うのがこの世界の住人じゃないのか考えたことある?」
「え?」
「なぜサーシャが勇者に選ばれたのか。」
あるともいえないし、ないと言えば嘘になる。
なんで私が、と毎回死ぬ瞬間に思っていたし、何故私が、とも思っていた。
運命のようなもので、自分がやらなくてはいけないんだ、と、無理やり納得していたのだ。
「勘違いしないでね、貴女が勇者に相応しくないとか、そういうんじゃないの。ただ、今日この世界の人達と色々話してきて思ったのよ。この世界の人じゃダメだって。あくまで私がそう思うだけなんだけどね。」
「?」
「何故サーシャだったのかはよく分からないけれど、違う世界からわざわざっていうのは、この世界の事をまっさらな気持ちで見れるからなんじゃないかしら。」
世界を救うということは、魔王を倒すという事ではなく、共存できる世界に変えるということなのではないか。
この世界の人間と魔物はお互いに敵同士だと幼い頃から認識しているけれど、私達は違う。
カレンの話は多分限りなく正解に近いのではないかと、シビやシオンを見ると思うのだ。シオンが一言口にしただけで彼の言いたいことを推測できる頭の良さや観察力は膨大な魔力を使いこなす為に必要なそれも超えている気がした。まさに天才なのだ。彼女がいれば魔王とも話し合い出来るのではないか、と。確かに思える。一緒にご飯を作ったり、希望が見えたことで気づいた。
「アキラ、シオン、はい、お弁当頼むわね。」
「は!?あーまあそうか。作ってもらったしな。持つよ。」
「まかせて。」
「シビ、周りへの警戒お願いね。」
「キュウン!」
胸がモヤモヤする。
私はここまでに何をしただろうか。
カレンに頼られるのは大体、いつもアキラで、シオンが仲間になったことで、カレンと話す時間も減ってしまった。
もちろんいい事だとは理解してるけど…
「サーシャ、シオンをお願いできる?」
「!私でよければ!」
やっと頼られたと思ったが、シオンに手を差し出して、握られてわかる。
シオンが不安で怖いというのが嘘な訳では無い、けど、1人で歩けない程ではない。きっと、ただカレンと手を繋いでいたかっただけだ。私は必要なかった。
先を歩くカレンに寄り添うシビが、たまに軽口を言い合うアキラが、羨ましい。
無言でシオンと手を繋いだままだいぶ歩いて、そろそろ日もくれそうだ、と思う時、シオンが口を開いた。
「サーシャ、カレン、好き、」
「えっ、」
「ボクも、好き。」
「そう、なんだ。」
『頼られたいんでしょ。カレンの役に立ちたい。』
「!」
「負けない」
雷にうたれた様な気持ちになる。
カレンが好きで役に立ちたいと思っているのは私だけじゃない。
カレンと一緒に居たいのなら、私だって負けてなどいられない。
この気持ちは昨日今日のものじゃないんだから。




