番外編1 悩殺天使ティオちゃん
――それはプリムヴェールとの同棲が始まり、毎日同じ屋根の下で生活するという現実に少しずつ慣れてきた頃のことだった。
「アヤメお兄さーん。お夕食、出来たよー!」
食事の用意が出来たとティオに呼ばれた俺は、読みかけの書物に栞を挟んでリビングに向かった。
こうしてみると、普段から食事の用意をこれっぽっちも手伝っていない無精者にも見えるが、そういうわけではない。
何でも、今日は珍しい食材が手に入ったので、出来上がるまで台所には入るなと釘を刺されていたのだ。
ちなみに、卵では無いらしい。
ただ「アヤメお兄さんもきっと食べたことがない食材だと思うよ」と言われたので、この世界では非常に珍しい食材なのだろうとは思う。
ティオの喜び具合から察するに、珍味と称される辺鄙な食物では無さそうだ。
流石の俺でも、虫とか爬虫類とかを出されたら、たとえ最愛の美少女が作った夕餉だとしても美味しそうな顔で咀嚼するのは無理だろう。
そこまでの演技力と忍耐力は持ち合わせていない。
不安と期待をない交ぜにしながらリビングの扉を開けると、嗅ぎ覚えのある香りがむわっと廊下まで広がってきた。
嫌な臭いではない。
だがこの芳しい香り――、この世界に来る前にどこかで嗅いだことがあるはずだが。
「……この匂いは?」
「んふふー。これだよ、アヤメお兄さん」
テーブルに並べられた食事は、いつもと大差ないものだった――が、普段より一つだけお皿の種類が増えている。
黒パンに、果物に、燻製肉。
そこにもう一つだけ、奇妙な食材が湯気を漂わせながら静かにお皿の上にて重なり合っていた。
「これって、もしかして」
「それねー、“きのこ”って言うんだって! 遠い国の森林なんかで、よく採れるんだって!」
ティオに手渡されたお皿を鼻先に持っていき、くんくんと匂いを嗅いでみる。
うむ、なるほど。同姓同名の別人――ということはなく、元の世界でも食べたことのある「きのこ」に間違い無さそうだ。
香りだけをいえば、シイタケが一番近いだろうか。
とはいってもここ一年近くきのことは無縁だったので、実際どうなのかは俺にも分からない。
けど。
「確かに珍しい食材だな。――どこで手に入れたんだ?」
「遠方から旅してきた、行商人の方から購入致しました。形状は少し卑猥でしたが、香りも良く、お肉にも合うとのことでしたので」
台所から出てきたシュネアによって、その答えは明かされた。
それを見てティオは不満げに口を尖らせてみせる。
どうやら「どこで買ったでしょう?」とか何とか、俺にクイズを出したかったらしい。
「遠方の食材とは申しましたが、調理前に解毒魔法をかけておきましたから、安心して食すことが出来ると思いますよ」
そうだな。
この世界のきのこはどうだか知らないが、元の世界じゃ素人が適当に採ったきのこで食中毒なんて事件が結構起きていた。
弱い毒ならば腹痛か何かで済むらしいが、酷いものだと死亡する可能性もあるらしいからな。
大抵そういうきのこって、傘の部分が赤いドットの模様になってるんだよね。
「やっぱり、アヤメさんも“きのこ”を見るのは初めてですか?」
最後に台所から出てきたプリムヴェールは静かに腰を下ろし、湯呑を片手にそんなことを俺に問うてきた。
「うん、初めてだよ。プリムヴェールは?」
「わたしも初めてです。……似たような形状のものは、見たことがあったんですけど」
プリムヴェールがそう言うと、シュネアも気まずそうに視線を逸らす。
ティオは不思議そうな顔で、妙な反応をみせる二人の姿を目で追っていた。
割と清楚で清純な二人が揃って同じ発想をするほどに、この世界のきのこはそれに似ているのだろうか。
確かに世の年齢制限のかかっていない創作物では、喩えとして扱われることも稀にあるけども。
思春期真っ盛りの男子中学生でもなければ、普通それとこれとは結びつかないと思うんだよね。
ということは、理由は一つしか無いだろう。
俺は紳士的に事を運ぶために、そっとプリムヴェールへと歩み寄り、小声でそっと囁いてあげた。
「欲求不満なんだったら、俺がいつでも解消してあげるからね」
「こら、アヤメさん。お食事前に、女の子に向かって変なこと言わないでください」
年下の少年を叱るような声音とともに、ピンと鼻先を突っつかれた。
そうですね、昨晩したばかりですもんね。
昨日の今日でそんなになってたら、俺は相手するだけで大変ですもん。
話が逸れてしまった。
ええと、何だっけ。
「とにかく、早くいただきましょう。せっかくのお料理が冷めてしまいますから」
四人とも食卓前に腰を下ろし、普段よりも一品多い夕餉を咀嚼する。
真っ先に手を付けたのは、やはり今晩の主役であろうきのこだ。
湯気とともに広がる香りは、元の世界で食した焼きシイタケを彷彿とさせる。
不安げな美少女三人の視線を浴びながら、俺は薄くスライスされたきのこを口に運んだ。
噛みしめた途端、口いっぱいに広がるきのこの香り。
だが塩や胡椒なんかの調味料が元の世界と比べて発展していないためか、若干味が薄いような感じがする。
食感は良く知るきのこそのものだ。
もっちゃもっちゃと噛みしめ、ある程度柔らかくなったところで喉を鳴らしてゴクンと飲み込む。
ふぅと溜息をつくまで、シュネアもティオもプリムヴェールも、じっと俺の顔を見つめていた。
「お、お味の方はどうですか? アヤメさんのお口に合いましたか?」
不安げな声音で、プリムヴェールが俺に問いかけてきた。
「うん、美味しいよ」
「そうですか! それは良かったです」
俺が食べたのを確認してから、三人は安堵したような表情できのこを咀嚼し始めた。
ちょっと待って。もしかして俺、毒見係りにでもされたのか?
「うん、美味しいです」
「本当だ、美味しいね」
「変わった味ですが、悪くは無いですね」
三人が楽しそうに箸を進める姿を横目に、俺はやれやれと心の中で溜息をつく。
まあ、無事だったみたいだし良いか。
ちゃんと調理前に解毒魔法もかけていたみたいだし。
それにしても、この世界でもきのこは食材としてちゃんと存在していたんだな。
パッとみた感じではどう見ても美味しそうには見えないし、食べられるかどうか不安なビジュアルをしているし、誰か勇気のある人間が食して安全を確認しなければ、食卓に並ぶことはまずないような代物だろう。
それともこの世界では解毒魔法とか治癒魔法が流通しているから、毒とかを心配して食べない、という文化はあまり無いのだろうか。
魔物の肉なんかも普通に商店街で売っているみたいだし。
食に対する貪欲さの水準は、かなり高い部類に入るのかもしれない。
「ところで、このきのこどこで採れたんだ? 遠方ってことは、トリスコールじゃないんでしょ?」
「知らないけど、魔力濃度の高い地域で採れたらしいよ。魔大陸じゃないとは言ってたけど」
「まさかの産地不詳!?」
元の世界では基本的に国産かもしくは信頼できそうな国の食材しか食べていなかった現代人の俺にとって、産地不明の食材なんて言われると途端に不安が押し寄せてくる。
とはいえ、飛行機やら貨物車両も存在しないこの世界では、異国の食材を手に入れるには行商人を通して購入するしか方法がない。
行商人は気まぐれだから、「この国から来た行商人からしか買いません」なんてことは実質不可能だ。
仕方ないことだとは思う。
「魔力濃度が高いってことは、何か特殊な効能があってもおかしくないな……」
「特殊な効能? これ食べたら、おっぱい大きくなったりするのかなあ?」
自身の胸を撫でながらティオがそんなことをのたまうと、シュネアの耳が刹那的にピクンと動いた。
「流石にそれは……、どうだろうなあ」
「もしそうだとしたら、プリムお姉さん大変なことになっちゃうね」
ティオの発言に、今度はプリムヴェールが動揺して咳き込んだ。
俺も危うくきのこの破片を口から噴き出すところだったよ。
しかし、それよりも。
「シュネア、そんなに急いで食べなくてもきのこは逃げないよ」
ティオの言葉を真に受けてきのこをかきこむシュネアが、きのこを喉に詰まらせないかどうかの方が心配だった。
◇ ◇ ◇
――それが、昨晩の話である。
あの後シュネアは案の定きのこを喉に詰まらせ、酷く咳き込んでいた。
プリムヴェールは夕餉を食べ終わった後で、自宅へと戻って行った。
どうやら明日は早番らしく、早朝に図書館へ出向かなければならないのだとか。
無理に引き留めるのも悪いので、「明日も頑張れるようにおまじない」と言ってギュッと抱きしめるだけにしておいた。
変に接触して、その気にさせちゃっても悪いからな。
「――――ん、もう朝か」
窓から差し込む眩い陽射しに瞼を焼かれ、じんわりと脳が覚醒していく。
反射的にその眩しさから逃れようと寝返りを打つと、ぼよんとした何かに顔が埋まってしまった。
柔らかくて弾力があって、人間の体温特有の独特な生温かさ。
期待に胸やら何やらを膨らませて目を開けると、予想通り視界には艶やかな肌色がいっぱいに広がっていた。
目覚めと同時に女の子の素肌を体感できるとは、俺も素晴らしい身分を手に入れたものである。
半分寝惚けていたせいもあって、俺はその肌色の双丘に向かってずいと顔を突っ込んでみた。
「ひゃぅっ!?」
その接触と連鎖するように、可愛らしくも色めかしい悲鳴が上の方から聞こえてきた。
あれ、プリムヴェールの声じゃない。
そうだ、プリムヴェールは昨日お仕事があるからって帰ったじゃないか。
ということは、消去法によりこの双丘の持ち主はティオだということになる。
あ、――ってことはこれ、ティオのお尻か。
間違っても胸ではなかろう。
「寝ている間に、寝間着が脱げちゃったのかな」
最近ようやく、ティオにも年頃の女の子らしい羞恥心が芽生えてきた。
目が覚めた時、こんな姿を晒していたことに気が付いたら、ティオだって恥ずかしいだろう。
下着とズボンくらいは、ちゃんと穿かせておいてあげよう。
そんなことを思いつつ肌色の双丘から顔を放すと、あるはずのないものが視界に飛び込んできた。
胸に尻がある女人なら7つの球を探し求める漫画にも出てきたが、その逆は俺も聞いたことがない。
肌色の双丘の先端に顔を出す、ぷっくりとしたサクランボが二つ。
まさかこんな変なところに、同時期に同じ大きさのおできや吹き出物が出来るわきゃあなかろう。
嫌な予感がしつつも、ゆっくりと身体を放して布団の中を芋虫のように這って顔を出す。
さっきよりも強い日差しに目眩を覚えながらも、俺の隣で寝息をたてる少女の姿を確認する。
女の子にしてはよく鍛えられた腕に、気の強そうな顔つき。艶めかしい曲線をもった起伏に、プリムヴェールのを彷彿とさせる大きなおっぱい。
美少女剣士なんて称号がいかにも似合いそうな容姿に、鮮やかな桃色の髪はよく映える。
寝顔だけで言えば、まあ俺の好みの女性ではある。
「…………」
端正な顔を気持ちよさそうに緩めながら熟睡する桃色髪の女性を睥睨しながら、俺は頭の中に浮かんだ煩悩を即座に消し去る。
まて、状況を整理しよう。
今俺は、見知らぬ女性と一緒に――同じ布団で寝ている。しかも全裸だ。文字通り、一糸まとわぬすっぽんぽんである。
髪色はティオに類似しており体型――主に胸周りはプリムヴェールに似ているが、どう見てもその二人とは違う人物である。
え、待って。俺はいつの間に、プリムヴェールでもティオでもない女の子と、身体まで許し合うような親しい関係になったって言うんだ。
昨晩のことをどうにかして思い出そうとするが、誰かを家に招き入れたり、女の子を誘い込んだような記憶は蘇って来ない。
記憶がすっぽり抜け落ちているのだろうか。
そういえば昨日変なきのこを喰ったな。
もしかして、それが原因なのだろうか。
俺は昨晩本能のみになって街へ飛び出し、手頃な女の子を連れ込んで一緒に寝てしまったのだろうか。
どうしよう……。記憶があればともかく、全然覚えてない。
これでもしこの娘が目覚めて、顔を赤らめながら迫ってきたらどうするよ。
もしくはこの娘にも記憶が無くて、変質者扱いされたらどうしよう。
「と、とにかくシュネアを呼ばなければ」
同い年くらいの女性がいれば、興奮のあまり即座に激昂して暴れまわったりするなんてことにはならないだろう。
それにもしかすると、シュネアは昨晩起きた事象を知っているかもしれないし。
それならティオでも――いや、流石に十一歳の少女にこの状況を見せるのは教育上良くないか。
「と、とにかくこの娘が目を覚ます前にどうにかこの状況を打開しなければ――」
普通なら「不法侵入!」って感じに俺が叫ぶ方なのだろうが、イマイチ自分の理性を信頼できないのでどうしようもない。
しかも裸だっていうのがキツイな。
これでちゃんと服を着ていれば、もう少し穏便に事を進められたかもしれないのに。
そんなことを思いつつシーツに手を着くと、指先に小さな布キレが引っかかった。
何だろうかと拾い上げてみると、見慣れた布地。普段洗濯の時に眺めている、ティオのショーツである。
「ティオは……、シュネアの部屋にいるんじゃないのか?」
よく探すと、布団の中からティオの寝間着一式が全て見つかった。
まさか寝惚けて、自分で脱いでどこかへ行ったということはありえないだろう。
誰かに無理やり脱がされて、そのままどこかに攫われたのだろうか。
だとすると、この見知らぬ女性はその事件に関与している可能性が高い。
これはもしかすると、久しぶりに俺の推理小説の知識が覚醒する場面なのではないか。
消えた童女、残された衣服。突如現れた全裸の女。記憶を失った賢者。
冒頭からこれだけの謎が散りばめられている場合、大抵この女は犯人ではないのだ。
攫われた相棒の代わりに、探偵とともに謎を解きあかす重要な人物。下手すると情報を掴んだ挙句、犯人にそれを気付かれて無残に殺されたりすることもあるのだが。
推理小説好きな一般人とか、探究心溢れる素人が色々な角度で事件を暴くのも中々好みの展開だ。
最後にはこう言ってやろう、「なぜカザミ・アヤメに頼まなかったのか」と。
大量の睡眠薬を飲まされて密室に閉じ込められるのはごめんだけどね!
とにかく、状況が変わった。
ティオの衣服が無ければ、単に俺がこの女性と致すためにティオを追い出しただけとも考えられたが。状況から察するに、この娘が全面的な被害者だということは無さそうだ。
それならばせっかくだし、こういった場面の定石ともいえる台詞でも叫ぶことにしようか。
「誰だこの人――――!!!」
家中に聞こえるような大声で、ずっと抱えていた疑問を吐き出すことに成功した。
「………………んぅ?」
俺が叫んだ数秒後、桃色髪の女性はその身を捩じらせながら艶めかしい溜息を漏らした。
腕を伸ばして気持ちよさそうに伸びをして、ピンクサファイアな双眸をゆっくりと開いてみせる。
そのまま身体を隠そうとすることもせず体躯を起こすと、俺の姿を目の端に捉え、優しげに目を細めて首を傾けた。
「おはよ、アヤメお兄さん」
「あ、う……、えっと」
「どしたの、そんなに慌てて?」
叫ばれたり動揺のあまり茫然とする展開は予測していたが、こうも馴れ馴れしく話しかけられるという展開は予測しきれなかった。
もしかして俺は昨晩の内に、これほどまでに信頼関係を結ぶような何かをしたのだろうか。
というかプリムヴェールので見慣れているとはいえ、流石に初対面の女性のお胸をそんな風に見せびらかされると――。
「ちょ、直視できない……」
しかも「アヤメお兄さん」だと。
呼び方はティオと同じそれだが、この娘の声音は一味違う。気の強そうな外見に似つかわしい、堂々とした声音。そして若干ハスキーな雰囲気を纏っていた。
「どうしたの、顔赤いよ?」
四つん這いになってずいと近寄ると、遠慮の欠片もなく額と額をごっつんこしてきた。
困ったような顔をした美少女が目の前に現れ、頬が熱くなるのを感じる。
思わずそのまま後ろへ倒れ込み、桃色髪の女性に押し倒されたような体勢に。
気の強そうな瞳に見下ろされた俺は、思わずぷいと顔を逸らしてしまった。
まるで何かのはずみで押し倒されてしまった、創作物のサブヒロインのように。
「き、昨日もそうやって俺のことを誑かしたんですかぁ!?」
「ど、どうしたのアヤメお兄さん。何か、いつもより小さくなってない?」
「そ、そりゃあそーゆーことしてるときは大きくなってるかもしれませんけど、普段からそんなサイズで生活してるわけじゃないんですよ!?」
「アヤメお兄さんって、日によって大きさが変わるの!? ベトローバみたいに?」
ベトローバが何を示すのかは知らないが、名称から察するに魔物なのだろうということは把握できた。
多分興奮すると肥大化する、えっちな魔物さんなのだろう。
「ど、どうしよう。プリムお姉さんもラスティちゃんもいないし、シュネアちゃん呼ばなきゃ。アヤメお兄さんが何かおかしいよ!」
…………。
プリムお姉さんにラスティちゃんと、それにシュネアちゃん――――だと。
興奮と焦燥のあまり沸騰しかけていた頭が、少しずつ落ち着いて行く。
シュネアはともかく、この娘は前者二人と出会っている――しかも名前まで知っている関係ということか。
それに、その呼び方だ。二人をそう呼ぶ人物を、俺は一人しか知らない。
少なくとも昨晩知り合ったばかりの人間が、ラスティ・ネイルの名前を知っているはずがない。
「……もしかして、ティオか?」
「もしかしなくてもティオだよ。大丈夫、アヤメお兄さん? 何か顔も赤いし、さっきから視線は安定しないし、いつもより小さく見えるんだけど……」
いつもより俺が小さく見える――。
その発言から鑑みるに、ティオは彼女自身の体躯が成長したことにまだ気が付いていないということか。
どうしよう。突如自分の身体が見たことのないものと変貌していたら、それは驚くだろう――もしかするとショックを受けるかもしれない。
割とポジティブなティオのことだから、それでふさぎ込んだり落ち込んだりするとは思わないが。
「どうしたの、アヤメお兄さん。私の顔に何か付いてる?」
「いや、か、顔には何も付いてないけど……」
意図したわけではない。本能的なものだ。本能的に――、思わずティオの魅惑的なロケットおっぱいへと視線が吸い込まれてしまう。
ツンと突き出た健康的な膨らみは、多分プリムヴェールのものと比較すると若干小ぶりなのだろう。
だがティオの双丘は、プリムヴェールのもの以上にハリがあって艶がある。上質な素肌に包まれた暴力的な鞠である。
よく見ると腰から太ももへの曲線も見事なものだし。
ああ、これがあのティオが成長した姿なのだと思うと、理性が効かなくなってくる。
あの絶賛発育中の未熟な体躯は、将来的にこんなバランスのとれたプロポーションへと変貌を遂げるのか。
神に感謝である。
「アヤメお兄さんったら、さっきからどこをそんなに見て――――」
ティオの視線が胸元まで下がり、口端から「え……」と声が漏れた。
元々突き出されたロケットの先端が持ち主の手によって寄せて上げられ、さらに官能的な形状へと発展する。
しかもその俺のものではない手は、ティオの暴力的な胸を容赦なく撫でまわし、形状を確認する。
目の前でくにくにふにふにと形を変える二つの鞠から、どうしても目が離せない。
「わ、わ、わぁー! アヤメお兄さん、見て見て! おっぱいが、おっぱいがすっごく大きくなってるよ!」
物凄く幸せそうに顔を蕩けさせ、ティオは両手で寄せた胸を「ほらほら」と見せつけてきた。
それも誘惑するような汚らわしい行為ではなく、純粋に俺に見せたいという意思でだ。
俺を興奮させようだとか誘おうとかそういう意味ではなく、単に自分のすごいところを見て欲しいという純正な感情。
それはちゃんと分かっているのだ。
だからといって、目の前にこんなものを突き出されて正気でいられるわけがないだろうが。
「ティ、ティオ。も、もう少し羞恥心を持って、お願い」
「ねえもっと見て! すごーい、何だか急に胸のあたりが重くなったみたい!」
俺のか細い懇願は、ティオの喜びの悲鳴によってかき消された。
ティオはそのままベッドから飛び出すと、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら、頭の後ろで腕を組んでみせた。
「見て見て、アヤメお兄さん!」
これは――所謂、あれだ。可愛いお洋服を買ってもらった女の子が、それを着てパパに見せてるような感じだろう。
ティオは幼少時に、父親を紛争で亡くしている。
こうして自らを着飾った(今は全裸だが)姿を、最愛の男性に見せて褒めてもらうという経験をしていないのだろう。
だとすれば、俺は今ティオの身体を見て発情などしてはならない。
純粋に「可愛いね」とか「似合ってるよ」――はおかしいけど、とにかく評価して褒めてあげなければならないのだ。
ティオは俺にエロいものを見せようとしているのではなく、大人なビジュアルに変身した姿を見せたくて堪らないだけなのだろうから。
「あ、そのティオ……、そのだな」
十歳――十一歳の童女がやっているのなら、確かにそれはいかがわしさの欠片もなく、とても可愛らしい光景だったのだろう。
だが今のティオは、頭のてっぺんからつま先まで、十七歳前後の食べ頃体型である。
成長しているのは、何も胸だけの話では無いのだ。
「……ごめ、ティオ。そのビジュアルでされると、ちょっとだけ困る」
十七歳前後の体躯を手に入れた少女にされて、平静を保てるような状況ではなかった。




