5-12.平穏な日常[前編]
ラスティが俺の頭に被せてくれた下着は、ちゃんとその日の内に洗濯しておいた。
というか、本当にこれは下着なんだろうか。
プリムヴェールやティオのと比べて(何てものと比べているのか)布地が少ないような気がする。
紐とまではいかないが、何ていうか。
ラスティは普段こんな刺激的な下着を身に着けていたというのか。
シュネアがラスティのショーツを洗濯しているところを興味本位で眺めていると、買い物から帰ってきたティオに耳を引っ張られた。
どうやら俺が下世話なものに反応するのが嫌なようだ。
ティオは意外と、お上品な娘なのかもしれない。
単に嫉妬しているだけかもしれないが。
◇ ◇ ◇
ラスティがいなくなったとはいっても、俺の一日は正常に機能している。
朝目を覚まし、ティオと抱きしめ合っておはようのキス。
ティオの着替えを待たずに階下へ向かい、朝食の用意中のシュネアと合流。
すぐにティオも降りてきて、三人で並んで朝ご飯だ。
普段と同じ。
作る料理が一人分少ないだけだ。
シュネアには食事なども遠慮しないよう躾けているため、大人一人前を普通に食す。
ティオも最近また食欲が出てきたらしく、シュネアの倍以上をものすごい勢いで完食する。
この中で小食なのは俺だけだ。
今日の献立は黒パンに燻製肉、果物とあと試しに買ってみた卵である。
魔物の卵という素材は、王都の商店街にも幾つか売っている。
だがそれらのほとんどは、家畜として育てるためのものであり食料品ではない。
食べたら普通に腹を壊すらしい。
解毒すれば食えるかと問うたところ、信じられないという顔で見られた。
魔物――とくに家畜として使用される蜥蜴や馬っぽい魔物の卵(馬みたいな魔物が卵から生まれることには驚いた)は、黒い斑模様でどう見ても美味そうには見えない。
故に食べてみようとは誰も思わなかったらしい。
いや、過去に一人――何代か前の国王がゲテモノ食いで食していたらしい。
ちなみにその国王は、生の卵に剣先で傷を付け、ドロドロぐちょぐちょした中身をちゅぅちゅぅ吸っていたのだとか。
無論解毒魔法のスペシャリスト数人に囲まれながらの食事である。
周りからは、間違いなく早死にするだろうと陰で噂されていたらしい。
だがその国王は、他の代の国王と比べても十年近く長生きしたのだとか。
治癒魔法の発達により病死がほとんどないこの世界では、平均より十年長生きというのは異常なことなのだとか。
体格も良く、死ぬまで元気だったらしい。
それを聞いて俺も食べてみたくなったのだが――、流石に真っ黒な卵を喰えるほどの冒険心はない。
それに、これからせっかく生まれるはずだった生命を、興味本位で食べてしまうのも何か嫌だ。美味いと分かっているのなら、元の世界と同じく別に気にしたりはしないのだが。
だが結局、探究心と食欲が恐れを勝った。
一番小さくて中でも新鮮な卵を(流石に馬っぽいのはやめてもらった)購入し、今回初めて卵焼きとして食卓に並べてもらったのだ。
卵焼きとはいっても、黄色くて綺麗なあれとは違う。
所謂黄身に当たる場所が紫色をしていたので、紫色の卵焼きである。
無論ティオやシュネアの分はない。
一口いるかと勧めたら、冷蔵庫みたいに冷たい目で見つめられた。
紫色の卵を切り分け口に運ぶと、ティオの顔があからさまに歪んだ。
そこまで嫌か。
シュネアは素知らぬ風で静かに食事を続けていたが、俺が卵焼きを口に含んだのを見届けた瞬間急にむせた。
まったく、失礼な娘たちだ。
卵ってのは栄養があって、現代人の食生活には大切なものなのだよ――――。
「――む、ぐん! ぐふっ、えふ、えふ、えふん!」
即座にスタッフを拾い上げ、治癒魔法だとか解毒魔法だとかをとにかく自分にかけまくる。
絵の具の味がした。
パープルかバイオレットの絵の具をチューブから直接吸ったような――、とにかく物凄い味がした。
それと調味料をいくつか使ったので、それの味もした。
塩コショウで味付けした絵の具の味って言えば、一番近いだろうか。
「あーあもう、アヤメお兄さんったら」
「大丈夫ですか、ご主人様?」
二人は言葉では心配しながらも、表情はうんざりというか呆れたようなそれをしていた。
あんなに止めたのに……、とでも聞こえてきそうな顔である。
うう、うちの食卓に卵が並ぶ日は来るのだろうか。
「でもアヤメお兄さん、何で魔物の卵なんて食べようと思ったの?」
「た、食べられると思ったんだよ……」
食べられると思ったから食べてみた。理由なんてこれだけで充分だろう。
「鳥系統の魔物が産み落とす卵は食べられるかもしれませんけど、蜥蜴の卵は流石に食べられないと思いますよ」
「分かってたけど、トリスコールには鳥系統の魔物なんて滅多に出て来ないから、仕方なく……」
「分かってたなら諦めれば良かったのに。どうするのそれ、まだ大分残ってるよ?」
ティオが指さした先には、一口だけ削られた紫色の塊が皿の上にて鎮座なさっていた。
生まれるはずだった生命を犠牲にしてまで、熱してまぶして食した残りだ。
捨てるわけには、いかない。
「わ、分かってるよ」
「ほら、アヤメお兄さん。あーんして」
ティオのフォークが絵の具の塊を串刺し、俺の口元へと押し付けてくる。
待って、食べるからちょっと待ってよ。
桃色の瞳を嬉しそうに細め、ぐいぐいと絵の具の塊を俺の口腔内へと押し込んでくる。
ティオってもしかして、ちょっぴりSなところがあるんでしょうかね。
「はい、おいちいおいちい」
「――――っ!!! えのっ、絵の具! 絵の具ーっ!!!」
少し興奮したような表情のティオに見惚れている間に、口の中いっぱいに絵の具の味が広がった。
何か俺、卵恐怖症になりそう。
◇ ◇ ◇
朝から色々とあったが、無事朝食は終了した。
シュネアとティオが皿洗いをしている間、俺はゆったりと腰を下ろして食後のお茶を楽しんでいる。
普段は皿洗いを手伝うのだが、今日は遠慮させてもらった。
「はーぁ、お茶が美味しい」
絵の具の後に飲食するものなら、大抵のものが美味しく感じるだろう。
とても穏やかな時間だ。
ここに本があれば、この時間はさらに充実したものとなったであろうが。
「借りた本を汚しても困るし、それは無理だろうな。
自分のための本を、本棚一杯埋め尽くすくらい手に入れたいなー」
家具のほとんど置いていない部屋を見渡しながら、本棚が並んでいる妄想をしてみる。
あの辺りに魔法の本を置いて、あそこには歴史小説を置こう。
テーブルがある場所に大きなベッドを置いて、寝転がりながら研究を纏めた書物を書いて暮らす。
ああ、何て素晴らしい生活なのだろうか。
もっともこの世界においても本は高価なものであるため、部屋中に本を並べるなんてこと、一般市民である俺には到底不可能なことだろう。
カネを積んだからとか以前に、そもそも個人で所有して良い本自体が少ないからな。
そんなことを考えながらお茶を啜っていると、玄関の扉がトントンとノックされた。
誰だろうか。
思わず腰を浮かせかけたが、台所から出てきたシュネアに、
「私が出ます」
と、止められた。
ついでにティオも、
「私も行く!」
と言ってついていった。
俺だけ退け者みたいだ。
来客なんて珍しいななんて思いつつ湯呑の中を空にすると、突如リビングの扉がバーンと開かれた。
次いで、ティオがものすごい勢いで転がり込んできた。
「どうしたんだ、忙しない」
「ア、アヤメお兄さん。す、すぐに来た方が、良いと思うよ!?」
ティオの反応が尋常ではなかったので、空になった湯呑をテーブルに置いてすぐさま玄関へ。
来客は、物凄い美少女だった。
まず目を引くのは、その透き通るような混じりけのない銀髪。
理知的な面差しを彩るのは、ルビーのように濁りのない真紅の双眸。
呼吸を忘れるほどに美麗な顔が乗っかったその体躯も見事なものだ。
クリーム色のトップスには艶めかしい起伏が浮き彫りになっており、まるで生身の肉体に直接布地を纏っただけのような曲線美。
キュッと絞られた腰から伸びる長い脚は処女雪のように白く、オリーブグリーンのロングスカートから見える脚は細く滑らかだ。
その佇まいも美術的で、一言で言ってしまえばお人形さんのような風貌である。
いつまでも眺めていたい美貌とは、このような御方のことを言うのだろう。
そして俺は、その願望を叶えることが出来る。
何せこのお方の名はプリムヴェール。
俺の大事な大事な、彼女さんなのだから。
「…………」
だが愛しのプリムヴェールは、俺のことなど一片も見ていなかった。
玄関にてオロオロするシュネアの顔をじっと見たまま、その表情を彫刻のように凍りつけている。
「ご、ご主人様……」
「ご、ご主人様……?」
「どうしよう」とオロオロするシュネアと、彫刻のプリムヴェールが同時に俺の方を見た。
俺が見ていたのはシュネアではなく、プリムヴェールの方である。故に最初に目が合ったのは、プリムヴェールの方だった。
ヤベえ、忘れてた。
久しぶりに恋人の家に来て、見知らぬ娘が増えていたらそれは驚くだろう。
俺だって、プリムヴェールの家に行って見知らぬイケメンと鉢合わせしたら、頭の中が真っ白になってしまう。
何て弁解すれば――。新しいお手伝いさんだよ、とかそれで良いんだよな。
別に一緒の布団で寝てるわけでもないし、そういう意味で買ったわけでもない。
奴隷とはいっても、単に家事の手伝い――ティオの手助けをしてもらうために買っただけだ。
でも黙ってたのは良くなかったかな。
その気がないとは言っても、異性と同棲するわけだから。
うん、やっぱり黙ってるのは良くなかった。それ以前に、こういうことは相談するべきだったな。
「アヤメさんの、う、浮気ものぉ……っ!」
真紅の瞳に雫が溜まり、眦がじわじわと濡れて行く。
すごーく悲しそうな色に顔を歪め、プリムヴェールに泣かれた。
カザミ・アヤメは、プリムヴェールを泣かせた。
◇ ◇ ◇
数々の弁解と真摯な対応を経て、ようやくプリムヴェールは落ち着いてくれた。
「――というわけで、本当にごめんね。勝手にその、女の子の奴隷を買うなんてことをして」
機会が無かったとは言えない。
ちゃんとそこまで気が回っていれば、図書館でも自宅でもいつでも会いにいくことは出来たはずだ。
この件については全面的に俺の落ち度だ。
「まあわたしもアヤメさんの生活を束縛しようとは思いませんし、別にどうとも思ってません、けど!」
鼻先に指を突き立て、立ち上がった反動で大きな膨らみがたゆんと揺れる。
「アヤメさんはもう少し、自分が魅力的な人だってことに気付いてください。アヤメさんが女の子を連れて歩いているのと、わたしが男の子を連れて歩いているのでは全然違うんですよ」
「プリムヴェールが見知らぬ男の子と楽しそうに歩いてるところに遭遇したら、俺多分心的外傷で高熱出して寝込んじゃうと思うよ」
それと同じようなことをしたと考えると、申し訳なさで胃がキリキリしてくる。
しかも俺がしてたのは同棲だろ。
プリムヴェールが他の男と同棲してて、しかもそれを俺に黙っていたとする。
――想像してみる。
銀髪灼眼のイケメンインキュバスに背後から抱かれ、その胸板に身体を預けるプリムヴェール。
一線を越えるようなことはしてないよと言いながらも、同じ湯船に浸かり、同じ部屋の空気を吸って過ごす。
甲斐甲斐しく働くインキュバスの背中を眺めながら、プリムヴェールは幸せそうに瞳を細め――。
「プ、プリムヴェールぅぅ……」
「アヤメさん、ああ、アヤメさん。分かりましたか? わたしが感じた寂しさと苦しさ、分かってくれましたか?」
「もうしない。絶対にもうしないよ。プリムヴェールを傷つけるようなこと、俺は絶対にしないから!」
程度の低い演劇のような台詞を紡ぎながら、俺とプリムヴェールは立ち上がって抱擁。
体躯の全面を密着させ、お互いに腕を回して引っ付き合う。
身体を擦りつけるように互いの起伏を感じ合いながら、頬や耳元に吐息が漂う。
それを見て、シュネアの視線がちょっぴり下がった。
俺とプリムヴェールが抱きしめ合う場面――正確には抱きしめ合っている胸の辺りをボーっと眺めながら、ペタペタと自身の胸元を触っていた。
何となく既視感。
元の世界の創作物でも、この世界に来てからも、何度か目にした光景だ。
一通り自身の胸元をこねくり回し終えたシュネアは、何かに納得した様子でポンと手のひらを拳で叩いた。
「ご主人様が私めに手を出さない理由が、またしても分かりました!」
「何を見たのか知らないけど、多分絶対確実にそれは違う!」
プリムヴェールの胸の中にしっかりと抱かれながら、シュネアの発言を真っ向から全否定。
いや、確かにシュネアに手を出さないのは、プリムヴェールという愛しい愛しい大切な彼女がいるからだ。
だが今シュネアは、別のところを見ていたような――そんな気がする。
ここで肯定すると、何かとっても面倒くさいことになりそうな、そんな予感がするのだ。
シュネアの方へ顔を向けて否定の言葉を考えていると、今度は体躯の真正面からじっと睨みつけるような視線を感じた。
燃えるような真紅の双眸が、じっと俺の顔を捉えている。
「久しぶりに会ったのに、アヤメさんは他の女の子のことばかり気にしているんですね」
唇を尖らせ、拗ねたような声音でそんなことを言われた。
無論分かっててやっているのだろう。
確かに、今のは俺が悪い。久々に再開した恋人と熱い抱擁をしているのに、気持ちは傍にいる奴隷へと傾いている。
字面だけ見たら完全に浮気ものである。
家政婦は見たではなく、家政婦を見たである。
この世界でも妻子持ちの主が奴隷に心奪われる――というどろっどろな昼ドラ展開を描く書物はあるようだが。
そんなものは、創作物の中だけでいい。
現実の身体は一つだけなのだ。
「アヤメさんがわたしのことを見てくれないのは、とても寂しいです」
プリムヴェールは、俺が彼女に甘えられることが大好きなことを知っている。
知ったうえでこの反応を見せるということは――恋人として、彼女がなにを意図しているのか察してやらねばなるまい。
「シュネア」
「は、はいご主人様」
「悪いけど、外で洗濯もの干してるティオを連れて、買い物に行ってきてくれないかな」
「ティオお嬢様と一緒に買い物……。は! しょ、承知いたしました。今すぐにっ!」
姿勢を正してパッと敬礼すると、シュネアは一昔前のロボットのようにぎこちない動きでリビングから退出していった。
リビングの扉が閉まるのを確認してから、俺はプリムヴェールを抱きしめたまま床に寝転がる。
プリムヴェールが上で、俺が下だ。
服の上からでも生々しい感触を与えてくる二つの膨らみに押し潰されそうになりながら、俺はここから始まる甘いラブロマンスを頭に思い描く。
少し期間が空いてるけど、前みたいにちゃんと出来るかな。
プリムヴェールの体躯をギュッと抱きしめ、身体を引き寄せる。
ああ、柔らかくて良い気持ち。
「プリムヴェール、大好きだよ」
「……あの、アヤメさん。お気持ちは嬉しいんですけど、流石にこんな明るい時間からは良くないと思うんです」
ヤる気に満ち溢れた俺とは裏腹に、プリムヴェールは若干冷めたような顔で俺のことを見ていた。
あれ? 待って、めくるめくこれからの現実に期待して興奮してるのは俺だけですか。
それとも俺が現実だと信じて疑わなかった銀色の花園は、俺の脳内で造り上げただけの虚構に過ぎなかったというわけですか。
「そ、そんな身内が亡くなった時のような顔しないでください! 別に――し、しないといったわけではないんですから……」
頬を染め、もぞもぞと体躯を押し付けてくるプリムヴェール。
あらやだ可愛らしい。こんな娘を恋人にした男性は世界一の幸せ者でしょうね。
「プリムヴェール、プリムヴェールっ」
「ん……、耳を舐めないでください。それより、大丈夫なんですか? その、あんなこと言って……」
世界一の幸せ者は、世界一の幸せ者の恋人から告げられた言葉の意味を察することが出来なかった。
「俺、何か変なこと言ったっけ」
世界一の幸せ者の恋人は、世界一の幸せ者の顔をチラリと見てから、扉の方にそっと目を向けた。
世界一の幸せ者の恋人――もういいか。プリムヴェールは、リビングの扉を不安げに伺いながら、
「あの奴隷さんは、本当に信用できるんですか?」
と、聞こえるか聞こえないかの声量で問いかけてきた。
信用。
そうだ。信頼ではなく、信用だ。
今までは絶対権力者(魔法的な意味で)であるラスティがいつでも目を光らせていたから忘れていたが、シュネアとはまだ出会って二週間も経っていない。
同じ同居人であるラスティとは、立場が違う。
ティオを盾にとって、俺を脅してくるかもしれな――いや、それをしてシュネアに何のメリットがある?
もう既に、シュネアはカザミ・アヤメの奴隷だという書類は提出している。
それに俺は、シュネアに恨まれるようなことはしていないはず。
「……すみません、わたしの知り合いが昔奴隷に裏切られたことがあったもので。アヤメさんには、同じ道を辿って欲しく無いなと思って」
いや、分かってる。
うちの奴隷を何で信じてやらないんだ! なんて、そんな偉そうなことを言うつもりはない。
ただ――、俺はシュネアを信用したい。
この一週間、俺やティオの寝首を掻くチャンスはいくらでもあったはずだ。
元の世界の創作物――とくに俺が好んで読んでいたものでは、奴隷は絶対に主を裏切らなかった。
そのイメージが強かったため、俺は最初からシュネアに対して無防備に接していたはずだ。
スタッフを持たずに接したことも、背中を見せたことも、目の前で昼寝したこともあった。
だがシュネアは、俺に何もしてこなかった。
殺意や怨嗟の欠片も感じなかった。
だから――俺はこの一週間ちょっとの期間で、シュネアのことを“信頼”出来たんだと思う。
「俺は、シュネアを信じたいな。多分あの娘は、悪いことが出来ない娘だ」
「……本当に、アヤメさんは優しいんですね」
呆れるというよりかは、やっぱりかって感じの表情でクスリと微笑んでみせる。
「そういうとこ、嫌い?」
「いえ、そういうところも含めて、わたしはアヤメさんのことが大好きです」
プリムヴェールの指先が、俺の鼻の頭をくりくりと撫でる。
密着しているが故に共有する感覚が脊髄を駆け抜け、プリムヴェールは視線を下方へ逸らして頬を染めた。
照れ隠しか、顔を赤らめたままつんつんと頬を突っついてきた。
今現在この家には、俺とプリムヴェールしかいない。
この雰囲気、この体勢。
久しぶりに、プリムヴェールと愛し合うことが出来るのかもしれない。
そう思うと、本能的にどうしようもなくなってしまうものだ。
しかもこの体勢だと、身体の全面が密着しているプリムヴェールにもその気持ちは伝わっている。
受け止めて、この想い!
「プリムヴェール、愛してるよ!」
「はい、わたしもアヤメさんのことは好きですよ。……でも、まだお日様が高いので、それはまた後でということで」
そういって身体を起こすと、プリムヴェールは花のような笑みでニコリ。
まあ俺も性獣では無いので、ちょっとくらいのおあずけは我慢出来るけどさ。
「ねー、今にしない? せっかく二人きりなんだもんさー」
「ダメですよ。……司書仲間から聞いた話ですが、どうやら愛し合った後というのは、その、えっちな匂いがしてしまうそうなので」
「プリムヴェールからえっちな匂いがしてても、俺は全然気にしないから!」
「そういう問題じゃありません!」
真っ赤な顔をしたプリムヴェールの叫び声が、家中に響き渡った。




