4-20.魔力の残滓と悪魔の増殖
トリスコール王都西側森林。
背丈の高い樹木がつらつらと立ち並び、真昼間だというのに妙に仄暗く湿気が強い。
日光が届かないためか枯葉や背の高い雑草が多く生息しており、歩く度にガサガサと音がする。
吸血ゴブリンは耳が良いらしいので、この戦場は若干不利だ。
息を殺して背後から襲い掛かる、という戦いの原則が通用しない。
むしろ下手すると、気が付けば背後に回られていた、ということにもなりうる。
十分注意して歩かなければ。
「にぃ様よ、そんなに怯えなくとも大丈夫じゃよ。所詮吸血ゴブリンじゃろうが」
そんなことを言いながら、ラスティは時折樹木に向かって小型の鎌鼬を放っていた。
スパリと小気味良い音が奏でられ、真っ二つになった吸血ゴブリンの死骸がドサリと倒れる。
倒れた場所へすかさず参ると、ギルドで借りてきた小型ナイフで右耳を切り裂いて戻ってくる。
流れ作業のように淡々とした行動だ。
俺の魔法が見たいと言っていたティオも、先ほどからラスティの魔法を見て羨望の眼差しを向けていた。
何か悔しい。
「慣れてますね」
「四大陸で戦争が起きていた頃は、背後から狙われるなど日常茶飯事じゃったからの。
吸血ゴブリンなどとは比較にならん魔物や敵大陸の魔族との戦いで、そういった感覚は洗練されておる」
歩行と同時にスパスパやってくので、吸血ゴブリンの耳はもう既に数十個は集まった。
よそ見もせず行うのに、オークやダークエルフを巻き込んでいないのが流石だ。
オークやダークエルフとも時々すれ違うが、ラスティの姿を見るや否や顔色を変えて逃走する。
オークはまあ別に良いが、美少女ダークエルフに逃げられるのは何となく寂しい。
自分が原因でないことは分かるけど、何だかな。
「魔族たちって、見ただけで相手が自分より上位の魔族だって分かるんですか?」
「全種が全種、分かるわけではない。じゃがオークはインキュバス系統の下級魔族、ダークエルフはサキュバス系統の下級魔族じゃからの。サキュバスの上位魔族と呼ばれるリリムには、本能的な畏怖の感情が芽生えるのじゃろう」
圧倒的強者が纏う、雰囲気みたいなやつでも出てるのかな。
「それかもしかすると、妾の肉体に魔力の残り香が染みついているのかもしれんの。
ここ数百年は魔大陸に引きこもっておったから、それが原因かもしれん。
匂ってないか、ちと嗅いでみてくれんかの?」
ごしごしと背中を擦りながら、ラスティはへそを突き出してきた。
からかわれているのは分かったが、乗ってみるのも面白そうだ。
しゃがみ込み、ラスティのへそ周辺に顔を埋めてクンクンとやってみる。
……別に何も匂わない。
強いて言えば、昨日使ったうちの石鹸の香りがするくらいだ。
「匂いませんよ。大丈夫です」
「……………………ハッ! そ、そうか」
ラスティは顔を赤らめ、照れていた。
何とも言えぬ優越感、これは素晴らしい。
「――ところで、魔力の残り香って何ですか?」
嗅いでから思ったが、そういえばその単語は初耳だった。
「なんじゃ、知らんのか。まあ、魔大陸に足を踏み入れたことのない人族なら仕方ないかもしれんが……。まあ、簡単に言えば、魔力濃度の高い場所に長い期間滞在すると、体内に魔力の残滓が溜まってしまうんじゃよ。魔力の残滓は体内魔力と違って魔法を使う元素とはならん――単なる有害物質じゃの。故に身体が、どうにかして体内から排除しようとする。普通は汗とか尿に混じって出て行くんじゃが、妾みたいに数千年以上も魔力濃度の高い場所に暮らしておると、残滓の許容量が少しずつ増えていってしまう。そうなると、魔力の新陳代謝が悪くなっての。このように魔力濃度の低い場所に参ると、ここぞとばかりに残滓が活性化して、普通以上に残滓が体内から出て行こうとする。それが残り香じゃよ」
体内魔力ではない魔力、か。
体外魔力とは違うのかな。
「残滓自体は、魔大陸にいなくても少しずつ体内に溜まっていくもんじゃがな。とくにエルフ族なんかは体外から魔力を吸い上げて魔法を使いおるから、身体に残滓が溜まり易い。全て放出するためには、綺麗な森林と安らぎの場が必要じゃ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、あまり知られておらんかったの。エルフ族は魔法が使えないと言われておるが、実際は使えるんじゃよ。体内のオドの純度は低いんじゃが、その代わり体外魔力を吸い上げることができて――」
「ちょ、ちょっと待って」
ラスティの説明を途中で停止させ、思案。
エルフ族がマナを利用して魔法を使うことは、俺だって知っている。
俺が知らなかったのは、そっちではない。
「体外魔力を吸い上げて魔法を使うと、体内に残滓が溜まっていってしまうんですか?」
「そりゃそうじゃろ。体外魔力も体内魔力も、世界を循環する魔力には違いないからの。
体内の“器”に少しずつ溜まり、少しずつ排出していく。エルフはハイエルフより残滓が溜まり易く、ハーフエルフはエルフよりも残滓が溜まり易い。故にハイエルフが一番、体外魔力を利用した魔法を使うのが得意なんじゃ、が……」
ラスティは俺を見つめ、言葉を切った。
俺は今、どんな顔でそれを聞いているのだろう。
「残滓が溜まると、どうなるんですか? 例えば、日常的に体外魔力を吸い上げて魔法を使っていたとしたら」
「蓄積された残滓が許容量を超えると、体内の“器”が詰まってしまうから、全てが排出されるまで魔法が使えなくなってしまうの。……まあ、人族であるにぃ様にはあまり関係ないことだとは思うがの」
体内魔力を使用した魔法は、その者の魔力濃度で使用できる量が決まる。
体外魔力を利用した魔法は、限界なく幾らでも使えるものだと思っていたが。
やはり流石に、そんな無制限魔法があるはず、ないか。
最近実験だ何だと魔法を使う回数も増えているし、使用する頻度を下げないといけないかもしれないな。
ちょっとした悩みに明け暮れていると、柔らかな感触が腹の辺りに埋まった。
「……何を心配しているのかは知らんが、にぃ様から残滓の香りはせんぞ?」
さっき俺がしたように、腹に顔を埋めて深呼吸をするラスティ。
一通り嗅ぎ終わったのか、顎を腹に付けたまま顔を上へ向けてみせた。
「大体、にぃ様はマナを吸い上げることなど出来るわけなかろう?
人族程度のオドの純度ならば、喩えマナの吸い上げ方を知っていても、体内を循環するはずがないからの」
「それはまあ、そうなんだけど……」
しかしまあ、そうか。世界のマナを幾らでも使えるなら、今頃エルフ族が世界を統治しているはずだろうからな。
この世界で力を示すには、どれだけ多く上位の魔法が使えるかということが重要になる。
下級魔族や中級魔族が、同一系統の上級魔族を恐れるのもそれが理由だろう。
オドの純度など関係無く、マナを吸い上げ、半永久的に魔法を使える種族。
そんなものがいたら、世界の秩序が狂ってしまう。
思案に暮れながらふと前を見ると、一匹の吸血ゴブリンが周囲を伺いながら雑草の陰に身を隠匿しているのが見えた。
ラスティやティオは気が付いていないようなので、そっと傍の樹木に手を宛がい、少量のマナを吸い上げる。
土魔法で拳大の砲弾を三発ほど生成し、時間差で撃ち込む。
一発目は頭蓋に当たり、よろめいた腹部に二発目、最後の一発が顎に激突し、吸血ゴブリンは動かなくなった。
「見事じゃの、流石はにぃ様じゃ」
「アヤメお兄さん、格好良い……!」
後方から奏でられる、ソプラノボイスの協奏曲。
もっと褒めてくれたって良いんだぜ?
◇ ◇ ◇
ラスティの風魔法と俺の土魔法で、吸血ゴブリンは次々に骸と化した。
周囲の枯草を踏みしめる足音が聞こえなくなってきた。
ラスティ曰く、危険を察知して逃げたのだろうとのことだ。
粗方片付いたので、今日はこれで終わりにしようと思う。
周囲に吸血ゴブリンの残党がいる気配もしないし、わざわざ追い込んでも大した結果は得られないだろう。
「しかし人族の里は良いのぅ。魔物の数が少なく、しかも穏健派のものが多い。
吸血ゴブリンは確かに危険じゃが、その辺を歩いている魔獣はさほど危なくないしの」
ラスティの指さす方を見てみると、官能的な格好をしたダークエルフの姉ちゃんが、尻尾が二つある犬のような獣を散歩させていた。
魔獣の討伐は、ギルドの依頼にはほとんど張られない。
きっと下級魔族のペットのような扱いなのだろう。
「じゃがそういえば、先日にぃ様が悪魔を打倒したとか言っておったな。王都付近で出たとか言っておったが、あれはいつの話なんじゃ?」
ああ、そういえばそんな話もしたっけか。
俺のことをどこで知ったのか、気になった時に聞いたんだな、確か。
「つい――と言うほどでも無いですけど、何か月か前だったかと。二百体くらいの悪魔たちが、広場に集結していたんですよ」
「あ、私もそれ知ってるかも。浮浪者の人たちが、一攫千金目指して戦いに行こうかとか、話してたの聞いた気がする」
そういえばあれは、ティオと出会うより前のことだったか。
実際は、王都来た当日に顔合わせしてるんだけど。
「ふむ、悪魔か……」
ラスティは思案気な顔で空を眺めた。
樹木の背丈が高く葉が生い茂っているので、青い空がくっきりと見えるなんてことはないが。
「あやつらは魔大陸が四つに分かれていた頃から、上級魔族のペット扱いじゃった。飛べるしデカイから、荷物運びとか狩の手伝い、あと護衛なんかにも使えたしの。餌は魔物の死骸で充分じゃし、悪魔は知能が低いから、強い者に絶対服従するからの」
さっきのダークエルフのように、首輪を付けて繋がれているところを想像した。
はっきりいって、悍ましい光景だな。
三メートルくらいの巨躯を、ラスティみたいな見かけ幼女の上級魔族が従えさせるのか。
図体ばかりデカくて、この変態! しょうがないわね、後で可愛がってあげるから、無様に情けない声で鳴きなさい!
――なんかそんな不健全な光景が浮かんだ。
「でもまあ、戦闘力だけを見れば有力な魔物じゃったの。四大陸間での戦争では、真っ先に捨て駒として扱われていたの」
四方向から送り込まれた悪魔同士、命令に従って叩きあうのか。
何か不憫だな。
「じゃが魔物というのは、魔力の歪みからわらわらといくらでも出てくるからの。殺しても殺しても、意味が無いんじゃよ。
で、五代目――じゃったかの、火大陸の魔帝が、悪魔を使用した戦争は禁止しないかと提案したんじゃ。
実際あの頃はどこに行っても悪魔同士で戦っておったし、土地が荒れるだけで、どの大陸も大した成果が出ておらんかったからの。
結局それから数十年――百年後くらいかの? に停戦協定を結んで膠着状態じゃった。
統一されたのは、またそれからかなり後のことじゃがの」
そういえば、局地的獣魔戦争が起きた当時はまだ、四大陸の統一は成されていないんだもんな。
獣族による虐殺行為にも、十何代目魔帝とか出て来てたし。
「しかし、妙じゃの。悪魔は群れて生息する魔物ではあるが、軍隊を作るだけの知能は無かったはず。それにあやつら、数十体と並べておくと、互いにぶつかりあって喧嘩しだすから、使い勝手が悪いんじゃよ。妾も昔、悪魔を従えさせて畑を作ったりしたが、同時に操れるのは数体が限度じゃった。サザンは普通に、二十三十と並べて、城壁やらお堀を作らせていたがの」
やっぱあいつら、肉体労働専門なんだな。
「悪魔って、勝手に増殖したりするんですか?」
兵団が逃がした悪魔は数体だったが、あの時出現した悪魔は二百体以上はいたはず。
ここ周辺では滅多に悪魔を見ないから、住処から出てきたとは考えにくい。
分裂するか、細菌みたいに増殖するのだろうか。
繁殖力が凄まじいとかな。
「まさか、そんな気持ち悪いことあるわけなかろう。万が一悪魔が増えたとすれば、それは確実に人為的な何かが裏で働いているはずじゃ」
「人為的に、裏で、ですか?」
「さよう。例えば四大陸間の戦争では、魔力の歪みから悪魔が誕生する度に連れ出す係りがおって、ある程度成長したら戦地に送り込むという、非道な戦法をとっておった。悪魔は知能が低いから、武力や魔力で押さえつけておけば暴れたりしないからの。……当時の魔大陸では、彼らのことを《軍事兵器》と称する者も少なからずおったしの」
軍事兵器か。
確かにあれだけの腕力をもつ魔物が数十体数百体と繰り出されれば、送り込まれた方は甚大な被害を被るだろう。
実際あの時も、俺とプリムヴェールがいなければ、かなりの被害が出ていたはずだ。
「魔力の歪みがあれば、そこから悪魔が増殖する可能性も、ありますか?」
「魔大陸――もしくはそれだけ魔力濃度の高い場所、もしくは意図的に歪みを作っている場所であればそれも可能じゃろうが――――、ここでは無理じゃな。この程度の魔力濃度なら、悪魔ほどの魔物が生まれるほどの歪みは出現せんじゃろう」
悪魔が魔大陸に多く生息する理由は、魔力の歪みが多いかららしい。
だがここ、トリスコール王都周辺は、魔大陸とは比べ物にならないくらい魔力濃度が薄まっている。
人族や獣族――とくに獣族は魔力の歪みを嫌うため、獣族が住みつく場所というのは、必然的に魔力濃度の薄い場所であることが多いのだとか。
実際局地的獣魔戦争でも、獣族はエルフ族の領土を奪うことは結局行わず、生き残ったエルフを奴隷化するだけで終わらせた。
一応大陸の森林は獣族の領土だと言い張っていたらしいが、いつの間にかエルフ族のもとへ戻っていたらしい。
獣族は魔族やエルフ族と比べて、寿命が短い。
生命を賭けて奪った当時の戦士たちが死に、代替わりした獣族。
滅多に足を運ばないということもあって、次第に魔大陸の一角を占拠したことを忘れていったらしい。
どうせ使ってなかったらしいからな。
森林ってだけで奪ってはみたが、住みにくいから捨てたのだろう。
俺の中で、過去の獣族の株がどんどん下がっていく。
ラスティは思案気に、俺とティオを見やった。
「数体迷い込んだならともかく、百体以上の悪魔が同時に、それも狭い範囲に出現、か……」
言いながら、ラスティは「あれ?」といった顔をした。
次いで何やら口の中で反芻し、びっくりした様子で瞠目する。
「――で、それをにぃ様が一人で全滅させたと言うのか!?」
「一応兵団の人とかプリムヴェールも手を貸してくれたけど、殲滅したのは俺の魔法だよ」
羨望の眼差しが心地良いので、株を上げておく。
事実だし、無駄に謙遜することも無いだろう。どうせラスティは、俺が悪魔を打倒したことを知ってるんだから。
「妾はまた、数体の悪魔を打倒したことを《殲滅》などと過大評価していたのかと思っていた……」
「あの事件での貢献者って、アヤメお兄さんのことだったんだ。……凄い」
ティオのキラキラした瞳が、じっと俺のことを見つめる。
ああ、凄く良い気分。
ラスティも瞠目したまま、俺の顔をじろじろと見つめていた。
幼女二人にそんな風に見つめられるとか、嬉しいけど何か照れるぜ。
「にぃ様は、人を貶めたりからかったりするために嘘をつくような人じゃないものな。信じられない話じゃが、嘘偽りない真実なのじゃろう」
じゃが、と紡ぎ、ラスティは俺の二の腕に手を伸ばした。
ふにふにと指先でこねくり回し、優しく撫でつける。
瑞々しい指先が優しく踊り、くすぐったくて何か気持ちいい。
「にぃ様の体型から見て、剣術などの武力による功績とは考えにくい。
やはりにぃ様は、サザンと同等――もしくはそれ以上の魔法才能を持っているのじゃろう。
何度見ても、眼差しや立ち振る舞いにサザンの面影を感じさせるしの。
優しく、そして強く、驕り高ぶらない謙虚な心。実に、魅力的じゃ」
ラスティの頬が染まり、蠱惑的に口端を歪める。
可愛げと色香を併せ持ったその容姿でそれをされると、腰とか胸が妙にざわついてしまう。
ともかく、ラスティのおかげで思いのほか早く依頼が達成できそうだ。
最低数は無かったはずだから、追い返されるってことは無いだろうし。
今日はもう終わらせて、家でゆっくりしようかな。
ある程度集まったから戻ろうか――などと言おうと振り返った刹那、シュンとした様子で俯いたティオの姿が目に入った。
どうしたんだろう、具合でも悪くなってしまったのか。
「どうした、ティオ。何か、辛そうに見えるけど」
「……アヤメお兄さんの格好良いとこ、ラスティちゃんに見せたかったのに」
そういえば、今回ティオがラスティを呼んだのは、俺の戦っている姿を見せたかったからだったっけか。
ラスティの風魔法が鮮やか過ぎて、つい裏方に徹してしまった。
俺としては別にそれでも構わなかったのだが、ティオとしてはそれではつまらなかったのだろう。
気持ちは分からんでもない。
「妾としては、にぃ様が二百体の悪魔を全滅させたという話だけで、かなり驚いておるんじゃがの」
「でも、やっぱり戦ってるとこを、見て欲しいっていうか……」
ティオの言葉尻が下がり始め、声が小さくなっていった。
自分でも、これは我儘なんじゃないかなどと思い始めているのかもしれない。
そこまで気にするようなことでは無いと思うのだが――。
ティオを宥めようと身体を捻ると、視界の端で何かが動いた。
吸血ゴブリンでは――ないが、黒っぽい体表をした獣だ。先ほどダークエルフが連れていた獣と似ているが、目付きや風体が全く違う。
先ほどの獣は飼い犬っぽさがあったが、こちらは完全なる猛獣だ。
口端からは獣臭い雫が垂れ、長く冷たい犬歯が鋭く伸びている。
周囲にダークエルフやオークの姿はない。
彼らが魔獣を飼う際は、基本的に首輪を付けて接しているはずだ。
完全にこの魔獣は、魔物の一種だろう。
ラスティもティオも、まだその存在に気が付いていない。
普通なら、ここは戦闘経験の高いラスティに処遇を決定してもらいところなのだが――。
ティオの前で、そんな格好悪いことできるか。
「水の球」
「水魔法って――、あ!」
「む、魔獣か」
傍にあった樹木に手を宛がい、突き出した方の手のひらから水の球を噴出。
凄まじい勢いで飛び出した水の球は魔獣の顎を捉え、弾き飛ばした。
死んではいないと思うが、気を失っているはずだ。
「今の魔獣は、魔物でしょうか?」
「どうじゃろな、じゃが先ほどダークエルフが連れていた魔獣とは別の種族じゃの。誰かに飼育されていたような形跡もない」
ラスティの言葉を聞き終えたところで、俺はティオに目線を送った。
ティオはびっくりした様子で瞳を大きく見開いていたが、俺を視認した刹那、キラキラとした羨望の眼差しに早変わり。
どうやら面目は保たれたらしい。
良かった。
◇ ◇ ◇
二人を連れてギルドに戻ると、柔らかい微笑みを見せるイヌミミさんが手招きをしていた。
一応エイムの姿を探してみたが、休憩時間なのか彼女の姿は見えない。
「ご成果の方は、どうでしたか」
「一応、これくらいです」
吸血ゴブリンの右耳が詰め込まれた布袋をカウンターに置き、中身を検めてもらう。
イヌミミさんはカウンター裏で布袋を逆さまにすると、量りのような形をした魔道具に中身を乗せて何やら測り始めた。
暫し待つと、イヌミミさんは耳を他の袋へ移し、カウンターに向き直った。
「はい、確かに。
それにしても、流石は賢者様ですね。これほどの短時間で、こんなにたくさん吸血ゴブリンを倒してしまうなんて」
「今回は、この娘たちが頑張ってくれたからですよ」
「ふふ、ご謙遜なさらずに。……あ、報酬はこちらになります。またどうぞ」
報酬を受け取る際、出した手を優しく包み込まれた。
ケモミミの受付嬢さんって、何か癒されるな。
大銀貨数枚を受け取ってから、ころころとした笑みに見送られながらギルドを退出した。




