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異世界に来たけど魔力が無いから賢者になった  作者: 山科碧葵
第4章 異世界召喚は長寿ロリとともに
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4-19.害獣駆除の依頼

 朝飯を終えた俺は、ティオとともに台所で食器を洗浄していた。

 ぴょこぴょこ跳ねる桃色のポニーテールと、じんわりと滲んだ額の汗。

 台の上で背伸びをしながら一生懸命お皿を洗うティオを横目に見ながら、俺は心の中で溜息をついていた。


 昨日、心の中で誓ったばかりだって言うのに……。


 本の虫だった俺にとって、青春やら恋愛という言葉はもはや創作物の中でのみ楽しむ、一種のイベントのようなものだった。

 学園ものやラブコメものを読めば、始終それらは付いて回る。

 とはいえバトル系や現代異能系の小説にも、恋愛・青春描写が一切でてこない作品は近年少なくなっている。

 むしろそういったジャンルの恋愛描写は、深いものがあって俺は好きだ。


 俺の好みは置いておいて、話を続けよう。

 ともかく俺にとって、人を好きになるという感情ははっきり言って理解し難い事象だった。

 それは勿論学生生活を送っていれば、可愛いなと思う女の子の一人や二人には出会う。

 だがそれが恋に発展するかと言えば、答えはノーだった。

 面倒くさいことだと重々承知しているが、その頃の俺は、恋愛感情というのは永く辛い死闘の末にお互いを信頼し合い、それでこそ芽生えるものだと思っていた。


 明らかに何かの影響なのだが、俺にとって『人を好きになる』というのは、特別な境遇の二人がお互いに陥るものだと勝手に思っていた。

 とくにそういった感情に敏感になるであろう中学高校時代、俺は人間関係をほぼ断絶していた。

 燃えるような恋も、甘酸っぱい失恋も、ときめくような告白も受けたことがない。

 この世界に来てプリムヴェールと出会って、俺は初めて同年代の女の子に恋をしたのだ。

 そして、幸せな時を感じながら結ばれた。

 それで、俺の初恋は完全に終結したはず、だったのに。


「二人同時に好きになるとか、俺って浮気性だったのかな……」


 無意識のうちに、ティオの姿を目で追っている自分がいる。

 勿論俺はプリムヴェールのことが好きだ、大好きだ。他愛もない話をするだけで幸せな気持ちになるし、出来るだけ長い時間、一緒にいたいなとか思う。

 これが恋でないなら、何なのかって感じだ。

 

 だが今俺はそれを、――同じだけの感情をティオにも抱いてしまっている。

 何でもいいから会話がしたい。俺の話を聞いたティオが、嬉しそうに笑うのが見たい。

 叶うのなら、いつまでも一緒にいたい。


「――メお兄さん」


 ティオがこっちを見ている。

 腕まくりして露出した瑞々しい腕で、額の汗を拭ってみせる。

 疲れたのか口端から甘い吐息が漏れており、頬がほんの少しだけ赤らんでいる。


「――ヤメお兄さん」


 薄紅色の瞳も、小さくてスッとした鼻も、薄くて柔らかそうな唇も。

 どれもこれも、全てが魅力的だ。

 触っても、怒られないかな。


「アヤメお兄さん!」

「は、はい!」


 ティオは不機嫌そうな顔で俺のことを見つめていた。

 ああ、怒った顔も可愛いよ。

 いや、そうじゃなくて。


「ごめん、何かしちゃったかな」

「さっきから呼んでるのに、ボーっとしてるんだもん。早く終わらせて、ギルドに行こうよ!」


 ふと見れば、ティオが洗う分の皿は綺麗に磨かれて並べられていた。

 手元に視線をやると、洗剤塗れのタライの中に皿が二枚ほど沈んでいる。

 俺が洗う分の皿だ。


「……もしかして、具合でも悪いの? 治癒魔法かけてあげよっか」


 スッと手を伸ばされ、ティオの顔がずいと近づく。

 ヒンヤリした手のひらが額に宛がわれ、触れた相手を癒すエネルギーが身体の中を循環する。

 普段ならば、単に心地良いと感じるだけの至福の時間だ。

 だが今は、そうも言っていられない。

 不意に近寄られたことで、如何せん鼓動が速まってしまう。


「だ、大丈夫だよ。ちょっと、眠くなっちゃっただけだから」


 額に触れたティオの腕をどけて、俺は自分に任された分の皿洗いへ意識を向けた。

 これ以上ティオと向かい合っているわけにはいかない。

 恥ずかしいほどに真っ赤になった顔を、そんな間近で見られたくない。


 ティオは暫く心配そうな顔で俺を見ていたが、下手なウィンクと笑顔のセットを贈ってみせると、安心した様子でリビングへ戻っていった。

 少し経つと、ラスティとティオの笑い声が聞こえてきた。

 何の話をしているのかな。

 俺の話だったりして。だとしたら、ちょっと嬉しい。

 

 高まる鼓動を胸に感じながら、俺は頬の火照りが無くなるまで、二枚の皿を丁寧にタライの中で洗っていた。



        ◇          ◇          ◇



 皿洗いが終わってリビングへ戻ると、三角帽子を被ったティオがとてとてと駆け寄ってきた。

 ついでに腹の辺りに顔を埋め、背中に手を回してきた。

 視界の端で、桃色のポニーテールがぴょこぴょこと跳ねる。


「早く行こ、アヤメお兄さん」


 嬉しそうに俺の手を引くティオに連れられ、リビングを出て玄関へ。

 スタッフは――今日は置いて行くか。

 ちょっとした依頼を請けるだけの予定だし、今回はティオに魔法を見せるのが目的だ。

 屋内の依頼を請けるつもりはないから、マナの扱いに不便を感じることは無いだろう。


 そんなことを思いつつ、魔導書だけを抱えてティオに続く。

 ついでに、ラスティに留守番を頼まなければならないな。

 屋内では魔法を使わないこと、万が一のことを考えて勝手に外に出ないこと。

 容姿だけだと、幼気な童女と大差ないからな。


 下手に森林周辺をうろついて、ダークエルフとかに襲われたら――いや、上級魔族だからそれは問題無いか。

 うん、でも油断は禁物だ。

 盗賊とかがいるかもしれないし、もしかしたら魔族を封じ込めるようなよからぬ魔道具なんかを持っているかもしれないし。

 そんなものが存在しているのかどうか、俺は知らないが。


 そういえば、リビングにラスティの姿は見えなかったな。


「ティオ、ラスティさんがどこにいるか知らないか?」

「ラスティちゃ――さん? あの娘なら、もう玄関にいると思うよ」


 ロッドをくるくる遊ばせながら、ティオは何の気なしにそんなことを言う。

 玄関だと? どゆこと。


「おぉ、ようやく終わったか」


 扉の前で、召喚時と全く同じ格好をしたラスティが仁王立ちをしていた。

 レザー系のブーツに、同じくレザー系のショートパンツ。申し訳程度のショート丈トップスを纏い、平たい胸をさりげなく隠す。

 トップスの端がはためく度に、漆黒のチューブトップがチラチラと顔を出す。


 これだけ並べるとちゃんと衣服を纏っているようにも見えるが、とんでもない。

 真っ平らな腹も、へそも、寸胴も、太腿も。発展途上というか未成熟というか何とも瑞々しい素肌を、惜しげもなく外気に晒している。

 こんな格好の幼女を連れ歩いていたら、間違いなく変な視線を向けられるだろう。


「……あー、その、えっと?」

「ラスティちゃ――さんも、アヤメお兄さんの魔法が見たいんだって。

 アヤメお兄さんが魔物と戦うところ、見に行くって言ったの。

 そしたら、一緒に行きたいって」

「そういうことじゃ。魔導書を抱えたにぃ様は、何となくサザンと似ておるからの。どのような魔法を使うのか、楽しみじゃな」


 小さなお手手を口端に寄せ、妖しく口元を緩めてみせる。

 くっと顎を上げるその仕草が、幼気なラスティに大人の色香を感じさせる。


 ラスティから視線を剥がし、ティオの方へ顔を向ける。

 純粋さを絵に描いたような、キラキラした薄紅瞳がこっちを見つめていた。


 ティオの考えは、何となく分かる。

 自分が尊敬する、もしくは大好きなものというのは、他の人にも見せてあげたくなるものだ。

 きっとティオは、俺が魔法を使うという勇ましい姿を、ラスティにも見て欲しいと思ったのだろう。

 可愛い奴め。


「そうか、ティオは俺の戦っている姿を、ラスティにも見せたかったのか」

「うん! アヤメお兄さんが魔法使ってるとこ、すっごく格好良いもん!」


 魔法使ってるとこ、すっごく格好良いもん!

 格好良いもん!

 格好良いもん!


 ――純真な眼差しでそんなことを言われて、無碍に断る道理があるだろうか。

 あるとすれば、それは人道に反する行いとなるだろう。

 ティオの期待を裏切る行為、それは絶対に行ってはいけないことだ。

 俺個人の評価云々だけでなく、両親を失ったティオにとって、裏切りという名の心の傷は、今も根強く残っているはずだから。

 

 とか何とか言い訳してるけど、ヤバい、今のは実にヤバい。

 ティオを女の子として意識してしまったせいか、さっきの科白を反芻する度に鼓動がめちゃくちゃ速まっていく。

 そういえば、ティオは前に俺のことを『格好良いから、好き』とか言ってくれたような気がする。

 ティオの中では、俺って格好良い男の子として存在しているのか!


「――にぃ様も悦んでおるようじゃし。決まりじゃな」


 ラスティに留守番させるのは、また今度だ。

 今回は、三人でギルドに赴き、依頼を請けることにしよう。

 


        ◇          ◇          ◇



 魔女っ娘装束のティオとボンデージファッションなラスティを連れて、俺はトリスコールの冒険者ギルドへ赴いた。

 前者はともかく、後者は明らかに防御手薄に見える。だが実際は、そういうことはないらしい。

 ラスティが身に着けている普段着ボンデージは、頑丈かつ高性能である立派な防具なのだとか。

 リリムという種族がら、ラスティは戦闘経験は意外と豊富らしい。

 

 ラスティが住んでいた魔大陸とは、魔力マナの濃度が濃い大陸である。

 魔力が濃いだけでは何の問題もないのだが、魔力の濃度が高いと、その分“歪み”が生じやすくなる。

 魔力の歪みから、この世界の魔物は生まれると言われている。

 迷宮内で魔物が無限に生み出される理論と同じようなことだ。

 

 魔大陸とは火、水、風、土と呼ばれる四大陸を統合した全域を示す名称だ。

 故に思想や暮らしも大陸によって若干の差異があり、相容れるのは困難だったのだとか。

 それが数千年前――火大陸が三十数代目の魔帝を即位させた頃に、ようやく四大陸が統一されたのだとか。


 当時は丁度局地的獣魔戦争により、獣族の手によって森林を荒らされていたらしいからな。

 こんな状況で敵対していても無意味だ! とか何とか、お偉いさん同士で集まって決定したらしい。

 所謂、停戦協定って感じのやつだろうか。

 結局その後も四大陸の間で争い事が勃発することはなく、現在は平和に暮らしているらしい。


 少し話が逸れた。

 まあそんなところで、魔大陸というのは魔力の歪みが生まれやすい地域なのだ。

 魔物が多く生息するということは、その分戦う機会も増える。

 結果、魔大陸ではよりよい装備・訓練・剣技・魔法術を求めて発達してきたのだとか。


 その一つが、今もラスティが身に着けている防具ボンデージだ。

 魔大陸のリリムやサキュバスは、ラスティのような幼女からグラマラスな姉ちゃんまで、ほとんどがボンテージファッションで森林付近を練り歩いているらしい。

 まあそれだけ大勢のリリムたちが認めるほどの、耐久性・耐魔性を有しているらしいのだ。


「じゃから、妾の装備に関しては心配せんでよい。この格好は単に殿方を誘惑するためだけのものではないのじゃ」


 ない胸を張って、トンと叩いてみせる。

 本人が言うのなら、心配は無いのだろう。

 それに一応、マナさえあれば俺も治癒魔法を使えるからな。万が一何かあったとしても、取り返しのつかない事態に陥るようなことにはならないだろう。



 そうこうしている間に、ギルドに到着した。

 ティオとラスティと並んで、三人で一緒に闖入する。

 中に入ると、ギルド内に屯していた冒険者たちが一斉にこっちを見るが、すぐに興味は逸らされる。

 幼女を二人連れた少年も、とくに珍しい存在ではない。

 奴隷だったり近所の知り合いだったりと関係は様々だが、幼少の娘たちとパーティを組む冒険者も、いないわけではないのだ。


 いつものようにエイムのもとへ参ろうとしたが、彼女は今他の冒険者を相手に何か話している。

 ふと見ると隣のイヌミミさんが暇そうにしていたので、そちらへ向かうことにした。


「あ、アヤメのお兄さん!」


 幼女二人を連れだって受付まで歩を進めていると、入り口の方から声をかけられた。

 振り返ると、ネコ耳を生やした少女とイヌミミの少年がこちらに向かって手を振っている。


 誰だったかと記憶を掘り返すと――、ああ、前に依頼を手伝った少年パーティの子たちだ。

 確か水魔法を使える魔術師がいないから、水魔法が必要な依頼を請ける度にご指名されていたのだ。 

 前回会った時は手を繋ぎ合っていた二人が、今日は腕を絡め合っていた。

 心なしか、少年の方は顔を赤らめているようにも見える。

 進展したらしい。

 初々しくて可愛らしいな。


 可愛がっていた従弟に恋人が出来たような感覚にほっこりしていると、うちの童女様にローブの裾を引っ張られた。


「ふっふっふ、にぃ様もやはり恥ずかしがり屋なのじゃな。遠慮することはなかろうに」


 そう言って、ラスティは俺の腕に腕を絡めてきた。

 どうやら何か勘違いされたらしい。

 俺は別に、あの二人を羨ましいなどとは思っていないのだが。


 トップス越しの矮躯を左腕で感じていると、突如右腕が重たくなった。

 見ると、ティオがコアラのように俺の腕へとしがみついていた。

 ラスティばっかりずるい! てな感じの台詞が聞こえてきそうな状況だ。

 というか、先ほど剥がれたはずの興味がまたこちらへ集結してしまったじゃないか。

 顔を向けると、仲間内で談笑していた冒険者集団が、チラチラとこっちを窺っているのが見えた。

 

 何となく居心地が悪くなってきたので、俺はケモミミ少年たちに手を振ってから、イヌミミ受付嬢のもとへ足を急がせた。

 ころころした感じのイヌミミ受付嬢お姉さんは、微笑ましいものを見るような目でこちらを見ていた。

 良かった。変な誤解は生じさせずに済んだようだ。


 安堵の溜息とともにふと隣のエイムへ視線を向けると、エイムはいつも通りの笑顔で小首を傾げてみせた。

 だが彼女は何かを察したようで、花のような笑顔の裏に何らかの感情が見え隠れしている。

 何か言いに行かなければならないような空気。

 だがエイムは現在他の冒険者相手に依頼の説明をしているようなので、俺はこちらのイヌミミさんのところで受注することにしよう。

 決して、逃げたわけではない。


 このイヌミミ受付嬢さんとは、一応面識がある。

 エイムがいない時や、今のように忙しいときなどに何回か依頼の斡旋をしてもらったのだ。

 当然、ティオとも顔見知りだ。


「ティオちゃんは火魔法が得意なんだっけ。そっちの娘は、属性魔法はどれが得意かな?」

「妾は何だってできるぞ! 四属性魔法は勿論、治癒でも解毒でも、魔物の従属でもどんとこいじゃ!」


 ない胸を張って、ラスティはニマリと口元に弧を描く。

 それを見て、イヌミミさんは嬉しそうに笑みを零す。

 頭の上で丸まった愛らしいミミを動かしながら、イヌミミ受付嬢さんは俺の方に向き直り、


「それではアヤメさん。今回受注可能な依頼はこちらになりますが、どれになさいますか?」


 保母さんのような微笑みを見せ、小首を傾げてみせた。


「な!? し、信じておらんな? 妾は本当に、本当に――」


 笑顔で一蹴されたラスティは何か言いたげな顔をしていたが、自分の体躯を見下ろして、不意に黙った。

 結局抗議するのは諦めたらしい。

 物哀しそうな表情でペタペタと胸や腹を触っている。


 ブツブツと、「この身体では仕方がないかの……」などと呟いているのが耳に入った。

 可哀想だけど、ならば見せてやる! とか言って騒ぎを起こすようなことにならなくて助かった。

 一応信頼はしてるんだが、上級魔族としてのプライドもあるだろうからな。

 どんな一言がきっかけに、傷ついたりするか分からない。


 さて、それよりまずはどの依頼を請けるか吟味しなければな。

 基本的には運搬と王都内の弱小魔物駆除と、素材集めか。こういった依頼は、いつでもあるな。

 道路舗装の治癒魔法係りとかもあるけど、大してカネにならないからパス。

 フレドールの時計塔、文字盤周辺の掃除ってのもあるけど、これも同じく。

 戦う方法も分からなかったあの頃はとても助かったが、今は必要ない。


「そうですね、二人を連れていくので――。短期、というか本日中に終わるもので、王都周辺の森林か高原での依頼が良いのですが」

「王都周辺で、本日中に終わるもの――。ということは、期限が無制限な出来高性のものが良いかもしれませんね。これなんかいかがでしょう? 兵団からの依頼なのですが、西側の森林に大量発生した吸血ゴブリンを掃討して欲しい、というものです。期限や最低討伐数などはなく、狩れるだけ狩ったら、その分報酬を出すといったものです」


 兵団がそんな依頼を出すのか。

 とか思って依頼書をよく見ると、森林の生態系を崩さないため、というのが理由らしい。

 肉付きの良いダークエルフや、脂肪の多いオークなどが生息する森林。

 それらは肉食獣である吸血ゴブリンの良いエサになる。

 ダークエルフやオークは下級魔族であり、トリスコールの王都では人族や獣族などと同じ立場として扱われる。

 故に生活圏に被害が出る場合は、こうして依頼を張り出すことも多いのだ。


「でもこれ、どうしてわざわざ兵団が出しているんでしょうね」


 吸血ゴブリンは、所謂害虫ならぬ害獣だ。

 王都周辺を囲う城壁を越えられぬため、吸血ゴブリンが人里で暴れることは滅多にない。

 だがダークエルフやオークは森林に住処があるため、寝込みなどを襲われると危険だ。

 だから、兵団が守ってやっているのだろうか。


「……あくまでも噂ですけど、ちょっと耳を」


 イヌミミさんに手招きをされたので、顔を横にして身を乗り出す。

 耳朶に甘い吐息がかかった。

 あ、一瞬だけ柔らかいのがちょっとだけ触れたような……。


「実は最近、兵団の所有している()()()()に、ダークエルフによる()()()を導入することが決まったらしくて。低賃金でそういったお仕事をしてくれるダークエルフさんを、迎え入れることになったらしいです。だから兵団としては、ダークエルフが減ってしまうのは困るみたいです」


 建前としては、弱き下級魔族は国が守らなければ、といった趣旨なのだろう。

 だが実際は、自分たちを楽しませる愛玩動物が、減ってしまうのを危惧しているためか。

 事実ダークエルフは娼館などで賃金の安い兵士たちを癒してくれるらしいので、今も間接的には兵団に貢献しているわけだし、理に適っていると言うべきではあるか。


「分かりました、では、それにしましょうか」

「はい、ではこの袋に吸血ゴブリンの右耳を入れて来てください。

 左耳でも構いませんが、左右混合されていると正確な総数が分からなくなってしまいますので、そこだけご注意ください」


 イヌミミさんから布袋を受け取り、ティオに手渡す。

 中身が重くなってきたら俺が運ぶが、それまではティオに持っていてもらおう。

 俺はイヌミミさんに挨拶をして、二人の幼女に絡みつかれたままの状態でギルドを後にした。

 


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