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異世界に来たけど魔力が無いから賢者になった  作者: 山科碧葵
第4章 異世界召喚は長寿ロリとともに
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4-8.褐色肌の訪客

 とはいえ、魔導書に書き込んだからといって、その魔法が実際に使えるかどうかは分からない。


 試さなければ。そう、端的に言ってしまえば、実験をしようということだ。

 召喚・転移魔法は、この世界に存在しない。

 故に今ここで、俺が記した手順で何かが召喚される――はたまた転移されてくることがあれば、俺の仮説が正しいと証明するきっかけとなる。

 無論この魔導書が、伝説の魔導書――ユグドラシルの魔導書だと仮定しての話になるがね。


 大きめの紙をリビングの床に敷き、先ほど書物に描いた通りの魔法陣を間違えないように描き込む。

 バルテルスとティオは、そんな俺の作業を熱心に見つめている。

 何が始まるのか、予想もつかないのだろう。

 もしこの実験が成功したら、二人の反応が楽しみだな。

 どんな反応を見せてくれるんだろう。

 良い感じの雰囲気になったら、「フハハハハ」とかいって高笑いしてやろうかしら。


 そんなことを考えながら、魔法陣を完成させる。

 うむ、我ながらいい出来だ。ドラゴンとか魔王でも召喚できそうな、立派な魔法陣だ。

 実際は王都周辺の魔物か下級魔族が召喚されるはずなのだが。


「あ、そうだバルテルス。これからする実験は多少危険なものになるから、異変があったらすぐに対応して欲しいんだ」

「異変だァ? まァ、大概のことならァ、任せてもらって大丈夫だぜェ。なにせオレァ最強だからな」


 胸を叩いて清々しいほどのドヤ顔。

 頼もしいな。


「よし、じゃあ始めるぞ」


 魔法陣も描き終わったところで、俺はスタッフを片手に、魔法陣へと魔力マナを流し込んだ。

 スタッフから流れ出した魔力が、腕や体内を巡って左手から放出される。尋常では無い量の魔力だ。もしこの魔法が、他の人にも使えたら色々と面倒だからな。間違って使っちゃった、てへぺろ、なんてことの無いようにしなければならないからな。

 やがて魔力の注入が終了したのか、スタッフから流れ出す魔力が止まり、魔法陣がぼんやりと光を放ち始めた。

 青白い光だ。ゲームか何かの回復ゾーンみたいな感じの輝きに包まれ、少しずつ光が強くなっていく。


 刹那、凄まじい閃光が天井を貫いた。

 魔力の放出が始まったのだ。この世界の魔力は、どういう原理か循環している。

 残滓は世界へ還元され、また新たな魔法を使うためのエネルギーとなるのだ。


 光の柱が天井と魔法陣とを繋ぎ、少しずつ輝きが弱まっていく。

 ぼんやりと、光の柱の中に薄暗いシルエットが浮かび上がった。よく見えないが、女性的な影だ。光が弱まるにつれて、シルエットがくっきりと浮かび上がる。


 薄くなる光のカーテンに浮かび上がった体躯は、こんがりと妬けたような褐色肌だ。

 肉付きがよく、スレンダーだが出るとこ出ていて曲線美を持つ魅惑のボディ。髪色はサキュバスのような金色で光の加減では若干銀色にも見える。

 完全に光が消失したところで、ようやくその肢体が視界に浮かび上がった。


「……おお、お、おおお」


 召喚されたのは森林付近に生息する下級魔族、ダークエルフだった。


 ダークエルフというと、褐色肌で白濁なドロッとした液体で汚される美少女というイメージが強いが、その想像で大体間違っていないようだ。

 弾けるような褐色肌に、局部とその周辺だけを隠すような扇情的な衣装。幼気な表情でキョロキョロと周囲を見渡し、物欲しそうに指先をくわえている。


 俺はダークエルフの年齢が幾つくらいかは分からないが、バルテルスが反応していないところから察するに、十歳は超えているのだろう。

 顔つきこそ子供っぽいが、胸とか腰とか尻とかは、思わず触りたくなるような形状をしているし。


 切れ長な双眸を揺らめかせ、俺の顔をじっと見つめてくる。

 ペロリと口端を湿らせ、艶めかしい吐息を漏らした。

 思わず視線を落とすと、そこには惜しげも無く晒された肩、鎖骨、下乳、へそ、くびれ、太もも、ふくらはぎ。


 豊満な双丘には薄紫をした薄い布が巻かれており、目を凝らすと先端が少し透けて見える。多分綺麗な桜色だ。

 キュッとしたくびれに刻まれたおへそも美麗な縦筋で、真っ平らと言うか、ぺったんこ。

 広がった腰に引っかけられた紫色のパレオもヒラヒラとはためいており、太もも越しに女の子の部分がチラチラと見えそうだ。

 俺がまだ魔法使いだったら、理性を失ってかぶりついていたかもしれない。

 危ないところだった。


「……え、えと」

「ん、んーん」


 艶めかしく腰を振りながら、腰に引っかけた布をバサリと脱ぎ捨てる。

 思わず目を逸らしかけたが、中には純白のビキニを着用していたらしく、大変なものが露出するということにはならずに済んだ。


 片目を瞑り、髪に付けたカラフルな石のアクセを弄ってみせる。

 一つ一つの仕草が、非常に妖艶だ。ビキニの紐の部分を引っ張ってみたり、股座を開いてくねくねしてみたり。

 誘ってるんじゃなかろうか。


 ともかく、言葉が通じるかどうかの確認からだな。

 言葉が通じなかったら――、その時は、その時だ。


「こ、こんにちは」

「こんにちはー、何かご用かな?」


 甘くとろけるようなソプラノボイスで、ダークエルフは首を傾げてみせる。

 突然の召喚に怒っていたり、取り乱したりはしていないようだ、良かった。


 ダークエルフは俺をじっくりと見つめた後、ティオとバルテルスへ視線を移し、やがてなるほどといった顔で頷いた。

 顔が赤らんでいる。

 キュッと腕で胸を挟み、股座を閉じて上目遣い。艶めかしくくねくねと動かす肢体が、やけにエロい。


「ん、分かったよ。男の子は二人なのに、女の子が一人しかいなくて喧嘩になっちゃったのかな? それに女の子の方は、まだちょっと小さいもんね。大丈夫だよ、わたしはこれでもダークエルフ。年頃の男の子二人くらいなら、問題無く相手できるよ」


 言いつつ、ダークエルフはペロリと舌を出して誘うような目つき。


「まずは口からで良いかな? お口が寂しいの」


 そう言って、ギラついた目をしたダークエルフは、手始めにバルテルスへ飛び掛かった。



        ◇          ◇          ◇



「賢者師匠ォォォ! こいつァオレが押さえてッから、早く何とかしてくれやァ!」 


 腰や尻をエロティックに振りながら、ダークエルフは甘ったるい吐息を漏らしていた。


 ダークエルフとは、サキュバス系統の魔族だ。確かリリムが上級魔族で、サキュバスが中級魔族、ダークエルフが下級魔族という関係で成り立っていたはずだ。

 様々な種族がごった返している魔族にも、派閥というか、類似した魔族の関係はある。

 よく知らないが、オークやインキュバスにも同じような段階があったはずだ。


 ダークエルフは、言わば理性を痺れさせる程の力を持たぬサキュバスみたいな魔族だ。

 性欲旺盛で、いつでも発情している。異性が大好きで、ダークエルフの集落は毎晩常時盛っているのだとか。

 危険性は無いが、だからといって家に置いておくわけにもいかないだろう。


「ね、良いでしょ良いでしょ? ちょっとだけでいいからさぁ!」


 必死に抵抗するバルテルスと手を握り合い、ダークエルフは接吻の雨を降らす。

 それを見て、ティオは「きゃー」とか「はわー」とか歓声を上げながら、両目を手で隠している。指に隙間が空いているが。

 ティオの教育上にもよくない光景だ。

 どうにかしてやめさせたいが、どうやって止めよう。


 この展開は予測できなかった。一番危険な魔物でも、吸血ゴブリン程度だろうと考えていた。 

 どうにかしなければ。

 でも、どうやって?

 一番手っ取り早いのは、もう一度このダークエルフを森林へ送り返すことだ。だが今から新たな転移魔法を描いていては、時間がかかりすぎる。


 今はまだバルテルスで充分満足しているみたいだが、彼に飽きたらきっと今度は俺に飛び掛かってくるだろう。

 バルテルスは筋力もあるし容赦もないが、俺は女の子を無理矢理振りほどくような真似など到底成し遂げられない。

 きっといいように組み敷かれ、プリムヴェールにしか見せたことのない恥ずかしい部分を広げられてしまうのだろう。

 迅速に、手早く事を終息させることのできる手立ては何か無いか――。


 付け焼刃っぽい案だが、一つ思いついた。

 わざわざ新たな魔法を描き直さなくても、今の魔法に()()()()()()も書き込めば良いんだ。

 送り出すにはこう、送り返すための手順はこう、ってそんな感じに。

 というか、最初からそれくらい考えて実地すれば良かったな。

 召喚して送り返さない異世界人の物語など、元の世界で幾度となく読んだだろうに。


 ユグドラシルの魔導書とペンを手に取り、先ほどのページに手順を追加する。

 召喚した個体を、元の場所に戻す方法――っと、ちゃんと書き込めるな。


 付け足しの書き込みが出来るかどうか少し心配だったが、問題無く記すことができた。

 魔法陣で送り返す方が格好良いけど、一刻を争う場面の時もあるだろうからな。出来るだけ簡単にしておこう。


 ――召喚に使用した魔法陣に魔力を流し込みながら、詠唱を唱える。これで充分だ。


「バルテルス! そいつを魔法陣の上に戻してくれ!」

「がッてンさァ、賢者師匠ォ!」 


 顔中にキスマークを付けたバルテルスが、息を弾ませたダークエルフをしっかりと抱きしめる。

 いくらダークエルフが性欲の塊と言えど、迷宮を全速力で走れるようなスタミナの持ち主を振りほどくことはできない。 

 相撲か何かのように体躯の全面を密着させ合いながら、バルテルスとダークエルフは揃って魔法陣の上に乗る。

 ダークエルフを振りほどき、バルテルスは後方に飛び退く。刹那俺は魔法陣に魔力を流し込み、会心の詠唱を唱えた。


「戻れ――完全回帰アンインストール!」


 魔法陣を青白い光が包み込み、物欲しそうな顔をしたダークエルフを飲み込んでいく。


「えーっ! まだ触るどころか、見せてもらってもいないのにーっ!」


 悔しそうな怨嗟の声を最後に、ダークエルフは魔法陣に吸い込まれるようにして、リビングから消失した。


 残ったのは、ダークエルフ召喚に要した大きな紙だけだ。

 魔法陣が誤作動しても困るので、召喚帰還併せて使用した後は、描き込んだ模様は消えるようにしてある。

 よって、この紙は再利用が可能だ。

 ケチじゃない。リサイクル精神に長けているだけだ。


 真っ白になった紙を見下ろしながら、バルテルスとティオは口を半開きにして突っ立っていた。

 何だったんだろう、って感じの顔だ。

 驚かせてしまったかな。ここで話しの通じない野蛮な魔族や魔物が出なかったのは僥倖だったが、まさかあんなことになるとはな。


 バルテルスだって、幼女以外の女の子に組み敷かれてしまって不快だっただろう。

 呼び出したダークエルフもダークエルフで、健康的な男の子二人をお預けされて。

 召喚魔法も楽しいけど、あまり世に広めるものでもないな。

 今回の実験で、得をしたのは俺だけだ。

 支払った代償も多いしな。

 スタッフの魔力を回復しに、森林をぐるっと回ってこなければ。


 しかしまあ、得をしたと言えば。


「さっきのダークエルフ、エロかったなぁ……」


 プリムヴェールに負けず劣らずのわがままボディに、健康的な褐色肌。サキュバスみたいな金髪に、西洋風の整った顔立ち。なのに理性を痺れさせ精力を吸い上げるような暴挙は行わず、ただお互いに快楽を求め合うだけ。


 ビキニずらして、肩をなでなでして。俺がまだ魔法使いだったら、ちょっと危なかったかもしれない。

 起伏に富んだ肢体と、艶めいた素肌というのは非常に官能的だからな。

 きっとダークエルフの男衆は、毎晩あのような娘たちとくんずほぐれつしているのだろう。

 羨まけしからん。


 ただ今回初めて対面して、彼女らが娼婦館にいるという理由も、何となく分かった気がするが。


「あァ、確かに男好きのしそうな容姿はしてッと思うぜェ。ダークエルフは見た目からエルフっぽく言われてッけど、サキュバスとかリリムに近い魔族として知られてッからなァ。その中では一番大人しくて従順だから、まァ運が良かったと言やァ良かったんじゃァねェかなァ」


 顔中虫刺されのようになっているが、あまりバルテルスはそのことに関して気にしていないらしい。

 あんなに扇情的な美女と絡み合っていたというのに、息も荒げず清らかな表情だ。

 真正の少女趣味ロリコンはある意味最強だな。


 ちなみにさっきから何度か名前の挙がるリリムだが、()()らは魔大陸の奥にしか生息していない。

 リリムはどちらかというと戦闘を得意とする魔族であり、それでいて割と穏健派だ。わざわざ魔大陸から現れ、人を襲うようなことはしないらしい。


 性的な意味で一番危険なのはサキュバスで、リリムやダークエルフはちょっぴり性的好奇心が強い程度なのだとか。

 とはいえ、リリムもサキュバスの上位種だ。アトリアお嬢様とは比べ物にならないくらい性欲旺盛なため、日常的にお相手するにはそれ相応の精力が必要なのだとか。

 まあ、リリムと日常的にまぐわりたいなんて特殊性癖、普通の人族にはいないんだろうけどな。 


 そういった理由で、リリムやダークエルフは大抵ゴブリンなどの魔物や、オークなどの下級魔族の住処に入り浸って性生活を満喫しているらしい。

 この森林には、少数だが確かオークも暮らしていたはずだ。 

 餌がいる場所に獲物を求めた肉食獣が集まるのは、自然の摂理なのだろう。

 容姿が醜いオークが、絶滅することなく子孫を多く残すことにも関係しているのだろうな。


 ハーフオークという亜人族も結構いるらしいが、もしかすると大抵はダークエルフかサキュバスとのハーフなのだろうか。

 顔はオークで身体がダークエルフと、顔面はダークエルフで肉体がオーク。

 ……想像できないな。

 


 しかし……。ダークエルフなんかが出てきたせいで、驚いてすっかり忘れていたが……。


「バルテルスよ」

「あァ、賢者師匠。ダークエルフにばかり気を取られてて、すっかり忘れッちまッてたんだけどよォ」


 バルテルスは犬歯を口端から覗かせ、睨みつけるように瞳を細めた。

 バルテルス、お前もか。俺もお前と同じく、言いたいことがあったんだ。


 男同士顔を見合わせ、静かに頷き合う。

 きっとバルテルスも、俺と同じことを考えているに違いないさ。


「成功した……」

「なァんで床下からダークエルフなんかが出てくンだよ」


 同時に口から零された言葉は、どう言い換えても相容れることのない正反対な台詞だった。


 ……………………あれ?

 ここはほら、実験の成功を喜んで、分かち合う場面じゃないのか?


「まさかあいつら、穴でも掘って地下を進んでここまで来たのかァ? いや、だがお嬢様の結界は、天から地中までを全て封殺するものだったはずなンだがァ……。いったい、どうやったんだァ?」


 ブツブツ何やら呟きながら、バルテルスはかつて魔法陣が描かれていた紙の上でピョンピョンと飛び跳ねている。

 穴が開いていたり腐ったりしていないか、確認しているようだ。


 ティオの様子も、少し見てみる。

 ティオはティオで、やはり何か気になることがあるらしく、バルテルスが念入りに踏みつけている紙を捲りあげ、しげしげと床を覗き込んでいる。

 仕掛けのあるトランプか何かを、熱心に確認している客のようだ。

 手品とかじゃないんだけどな……。


「ともッかく、周囲の警戒を怠らねェようにしなくちゃァな。ティオちゃんもいることだし、次またこんなことが夜中にでも起きたら、安心して生活できねェだろ」

「不思議。タネも仕掛けも無いのに、ダークエルフのお姉さんが消えちゃった」


 ティオは羨望の眼差しで、俺のことを見つめていた。

 夜にでも、もう一回同じのやって! とかせがまれそうだ。

 

 しかし、予想外というか何というか、奇妙な反応だったな。


 やはり召喚や転移という概念の無い世界では、今起きた状況を理解してもらうのは難しいらしい。

 とくにティオやバルテルスは、そういった部分に関しては純粋だからな。

 プリムヴェールもそんな感じだろう。『すごい! 今のどうやったんですか?』とか、目をキラキラさせながら言いそうだ。

 逆にビリーとかエイムとかなら、何となく察してくれそうだけどな。



 ユグドラシルの魔導書、か……。


 俺が書き込んだ内容とは、至って簡単なものだ。

 膨大なマナを体外から吸収し、残らず魔法陣へ流し込む。半径数十メートルから数百メートル以内に生息する魔物、もしくは抵抗の意思を見せぬ下級魔族がいたら、そいつを魔法陣の上に転移させる。


 目標が一体も存在しない、もしくは選択肢全てに抵抗された場合は、魔法の発動は失敗。

 召喚した生物を送り返す場合は、魔法陣の上に乗せて、『完全回帰アンインストール』 と、詠唱を唱える。

 送還終了後は、描いた魔法陣は消滅する。

 これは魔力の残滓か何かに反応して、目標を再召喚したり魔法が暴発すると困るからだ。

 面倒かもしれないが、一応念には念を入れておいた。


 召喚されたのは、この森林周辺に生息する下級魔族ダークエルフだ。

 咄嗟に思いついた詠唱で、送り返すこともできた。

 触ったり会話したり、バルテルスに熱烈なキスをしていたから、幻影だとか蜃気楼ってことは無いはずだ。


 生身の魔族――ちゃんと生きている生物、生命体だ。

 感情も、思考能力も、会話能力も判別能力も、筋肉も血液も皮膚も何もかも、生命維持に必要な肉体は欠かすことなく持ち合わせていた。

 召喚の最中に、事故などに巻き込まれた形跡もない。


「……ここまで来たら、もう信じるしかねえな」


 魔導書に魔法の使い方を書き込むと、その魔法が使えるようになる、ということで間違いないのだろうか。

 偶然や偶発的事象とは考えにくい。バルテルスに書かせようとしたら、魔導書がインクを弾いていたからな。

 弾くというより、寄せ付けないような、そんな感じがあった。


 どういうことなのだろうか。

 賢者の皮を被った愚者である俺が必死に考えを巡らせたところで、推測の域を出ることはない。

 だがこのまま放っておけるような事項でもない。

 必死に考えを巡らせた。


「持ち主――魔導書に選ばれた者のみが、魔法を書き込めるという解釈で良いのだろうか」


 俺が書き込んだのは“日本語”だ。

 この世界で使われているミミズがのたくったような記号文字ではなく、漢字カタカナひらがなの入り混じった、小学生の書いた作文のような文章だ。


 だが書き込めた――正確に言えば、手が勝手に動くような感覚があった。

 思い描いた事象を、何も知らない他人にも性格に教示できるように。言葉を知ったばかりの人でも、ちゃんと理解が出来るように。

 だが日本語だ。幼少時から慣れ親しんだ、懐かしい言語。その文字が、魔導書の最終頁にしっかりと刻まれているのだ。


 どのような魔法でも、俺が書き込めば使えるようになるのだろうか。


 これに関しては、要検証ってところだな。

 白紙のページだって残り少ないんだし、気を付けて使う――いや、節約しなければ。


 それともう一つ、懸念事項が生まれてしまった。

 今俺は、膨大なマナを使用して「誰か」を召喚する魔法を魔導書に書き込んだ。

 魔導書に書かれた他の魔法は、使い方さえ知っていれば誰にでも使えるのだ。

 攻撃目標を押し潰す風魔法は、プリムヴェールが。生命を探査する魔法は、プリムヴェールの知り合いが。火の雨を降らせる魔法は、ティオが。 

 


 ――ユグドラシルの魔導書は、この世の全ての魔法を記している。



 この言葉が正しいのだとしたら、新たに書き込んだ魔法も、この()()に誕生してしまうということではないのか。

 何となくで書き込んでしまったが、俺はもしかして取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。

 世界に描き込む、という制覇譚の一文が重くのしかかってくる。

  



 世界に新たな魔法概念――《召喚》が誕生した瞬間だった。  

    


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