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異世界に来たけど魔力が無いから賢者になった  作者: 山科碧葵
第4章 異世界召喚は長寿ロリとともに
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4-4.招かれざる尾行者

 プリムヴェールと結ばれて数日後。

 俺はティオを連れて、高原の下見にやってきていた。


 言うまでもなく、引っ越し先の立地条件を細かく把握するためだ。

 日当たりとか、周辺を闊歩する魔物の数とか、食料調達の難易、そして王都との距離――色々だ。

 基本的にティオと二人きりという時間が多くなるだろうが、一応来客なんかの接待も出来るような場所に建てたい。


 以前の俺だったら、「本に囲まれて生活出来るのに、これ以上何を望むか! 来客? 俺は隠居するんだ、ほっといてくれ」とかのたまっただろうが、今は今、昔は昔だ。

 プリムヴェールとの逢瀬もあるだろうし、泊まっていくこともあるかもしれない。


 いや、絶対あるね。

 近隣住民とかに気を使うこともない、良い場所を選んでおきますよと言ったら、顔を真っ赤にしてはにかんでたからな。

 誘えば絶対来る。もしかしたら、誘わなくても来るかもしれない。

 この前は(声とかを)遠慮していたらしいからな。

 遠慮や振る舞いの無い、完全なるプリムヴェールの御姿……。

 楽しみだぜ。


「アヤメお兄さん、肩車してくれませんか?」


 お手手を繋いで歩いていたティオが、上目遣いに俺のことを見つめてきた。

 潤んだ瞳に、唇をキュッと結んだ「お願い」のポーズ。

 どこでこんなあざとい業を覚えてきたんだと思ったら、案の定ターニャ経由だった。


 ティオは立場上メイドということになっているが、彼女だってまだまだ甘えたい年頃なのだ。

 その程度のお願いを、無碍に断ろうとは思わない。


「いいよ、ほら、見えるか?」


 膝を着いておぶってやると、ティオは俺の背中を勝手によじ登って行った。

 童女らしくペタペタする手のひらが首筋やらほっぺたを触り、スベスベぷにぷにした太ももが頬を挟み込む。


 ティオの今日の格好は、お下がりの丸首シャツにスパッツっぽい生地のショートパンツだ。

 だから肩車をすると、惜しげもなく晒された生脚が俺の顔を挟む。

 ヒンヤリした素肌が遠慮なく擦りつけられる。

 まだ幼いから平気だが、数年後もこれをされたら少しヤバいかもしれないな。

 いや、今でも多少、ワンピース姿の時にこれをされると少しヤバい。

 薄手のショーツ越しに、生々しい感触が後頭部に当たるからな。


「何が見える?」

「青いお空と、広い高原が見えます。あ、お空を何かが飛んでます!」


 顔を上げると、飛龍っぽい影が空を滑空していた。

 竜族っていうやつだろうか。

 前に本で読んでから少し調べてみたのだが、どうやら竜族とは、龍族の下僕――ペットみたいなやつらしい。

 竜族とか龍族とか紛らわしいため、大抵は竜族のことを魔竜と呼ぶ。


 龍族とは、言ってみれば魔族とかエルフ族とか人族とか――そういった種類のことだ。

 だが特殊な種族らしく、他の種族との間に子が生まれることは無いらしい。

 不老不死と言われるほどの長寿で、身内同士の婚姻も一般的に行われる種族なのだとか。

 まあ、神聖な種族と言われ、龍族の里に隠居しているらしいので、普通に生活していれば出会うことはない。


「それじゃ、そろそろ下ろすよ」

「はい、とっても大きくて、すっごく満足しました。風が顔に当たって気持ち良かったです」

「……それも、ターニャの教え?」

「いえ、違いますけど……。どうしてそう思ったのですか?」


 違うなら良いか。

 わざとじゃないなら、矯正させる必要は無いな。



 ティオと手を繋ぎながら、燦々と輝く太陽の下を歩む。

 懐かしいな。

 確かこの辺りで兵士さんとか行商人の荷竜車と出会ったんだっけ。

 果物を齧っては、あまりの不味さに顔を顰めていたあの頃が懐かしい。

 一度も腹を下さなかったのは幸運だったな。 


 しみじみと感慨深い思いに浸っていると、突如ティオが服の裾を引っ張った。

 何だろう、お腹でも痛くなっちゃったかな。


「アヤメお兄さん。……何か、誰かに尾けられているような気がするの」

「気配を感じるってことか?」


 問うと、ティオは小さく首肯。

 俺には気配を察知する特殊能力は無いので、ティオの言葉が本当かどうかは分からない。

 だがティオは、王都の裏道を駆け回り、追っ手を撒いてきた経験の持ち主だ。

 尾行者を察する力があっても、おかしいことはない。


「何人くらいだ?」

「一人、かなぁ……。少しずつ、近くなってる気がするの」


 ここは見晴らしの良い高原だ。

 後方から尾行するには、はっきり言って適していない。

 姿を透明化するような魔法とか、そんな便利なものはこの世界に存在しない。

 魔道具だろうか。

 もしくは、尾行がバレたらバレたで、切り抜ける方法を持っているとか。


 振り向くべきだろうか。

 兵団との禍根は残していないつもりだし、恨まれるようなことは――(プリムヴェールの初めてを貰ったこと以外)していない。

 振り向いた瞬間、背後に回ってバサリ、なんてことにはならないと思うが……。


「ティオは、前方を確認していてくれ」

「うん、分かったの」


 腰に差していたスタッフを握り締め、いつでも魔法が使えるように臨戦態勢を整える。

 真っ先に思い浮かべるのは、欠損一つ即座に治す上級レベルの治癒魔法だ。

 魔法の力で負けるとは思わないが、不意打ちは怖い。


「…………」


 気が付いていることに悟られぬよう、歩く速度を緩めることもせず、さりげなく振り向く。

 おっと、しまった。ポケットから大銀貨が一枚落ちてしまったぞ――――、


「誰だ!」


 いないだろうなと思いつつも、出来るだけドスの効いた声音で叫んだ。



「チッ、バレちまったならァ、仕方ねェ」



 ……そいつは、仁王立ちをして高原に悠然と立っていた。

 言葉通り逃げも隠れもせず、無防備に腕を組んで、肩幅に股を開いている。


 漆黒のベストに、黄色い蝶ネクタイ。

 誰も得しないヘソチラに、ずり下がった高級スラックス。

 そして裸足。

 腕にはさらしのような包帯をグルグル巻にしており、妖怪退治を専門にしている巫女さんよろしく腋を全開にしている。

 俺はこんな奇抜な格好をする輩など見たことがない。

 たった一人を除いて。


「バルテルス・グレイハウンド!?」

「幼女と二人で、仲良く散歩かァ? いーィ趣味してんじゃァねェか。オレも混ぜろよ」


 犬歯を剥きだしにして清々しいドヤ顔を披露するクォーター、バルテルス・グレイハウンドがそこにいた。



        ◇          ◇          ◇ 



 バルテルス・グレイハウンド。

 自堕落で退廃的で性欲旺盛なエドガール家のお嬢様に仕える、魔法の使えないクォーター親衛隊だ。


 ティオの捜索に力を貸してくれたり、逆に俺とプリムヴェールとでお嬢様を助けたりと、所謂貸し借りの関係だと思っていたのだが、バルテルス本人は俺を賢者師匠と讃え、出掛け先へ時折引っ付いてくる。


 ちなみに、ロリコンだ。

 年齢が二桁になったら冷める、と豪語するほどの真正少女趣味の持ち主だ。

 だが人並みに性欲と若干の倫理的思考力はあるらしく、経験者だが幼子に手を出したことはない。

 男と見れば所構わず食い散らかす、彼の雇用主とは大違いだ。


「しッかしィ、まさか賢者師匠に尾行がバレるとは思わなかったぜ」

「こんな見晴らしの良い高原で、よく後を尾けようと思ったな」


 王都入り口に存在する凱旋門がくっきり見えるほどに、何も無い場所だ。

 もっとも、ここに来るまで尾行に気が付かなかった俺が言えるようなことでも無いけどな。


「……こんにちは、バルテルスお兄さん」


 俺の太ももに手を回しながら、ティオは遠慮がちに腰を折る。

 膝を握る力が少し強い。

 こっそり尾行されていたからか、警戒しているのだろう。

 まあ、警戒は怠らない方がいい。

 ティオには手を出さないと堅く誓ってはくれているが、その誓いを掲げたのは、丁度バルテルスがターニャを連れている時だったからな。

 賢者モードの時なら、何だって誓えるさ。


「ところでバルテルスよ。敵対どころか、顔見知りで仕事の斡旋までしてやった俺を、どうしてこっそり尾行する必要があった?」


 確かバルテルスには、合法的に幼女と触れ合うことのできる仕事を教えてやったはずだ。

 字面だけだと犯罪臭いが、ショタコンのシスターさんも同じような仕事に従事しているような世界だから、多分問題無いんだと思う。


 仕事内容を思い出したのか、バルテルスは恍惚とした表情で己の右手を頬擦りする。

 想像するだけで寒気がするので、深くは突っ込まない。


「あァ、そうそう。凱旋門の辺りで賢者師匠を見つけてなァ。ちィっと朗報を掴んでたンで、それを伝えに来たんだァ」

「朗報だと?」


 こいつの朗報なんて、碌なことじゃ無さそうだが。

 奴隷市場で愛くるしい幼女奴隷が見つかったとか、そんな感じだろうな。


「なァにシケた面ァしてんだァ? 賢者師匠もティオちゃんも、聞けば絶対に喜ぶと思うんだけどなァ」


 ほぅ! ティオも喜ぶことか。

 何だろう。


「二人は今、引っ越し先を探してンだろ? それも高原か森林に建てるとみた。

 王都の土地は高っけェからなァ。その考えは間違っちゃァいねェと思う。

 とはいえ安全かつ見通しも良く、王都までの道のりもそうかからない場所なんて、そんな都合のいい場所はそう簡単には見つからねェ」


 脳内を覗かれたように正確な解答を示され、思わず感嘆する。

 凄いな、まるで超能力者みたいだ。

 ここに来るまでの会話を残らず聴いていなければ、そんなこと推理出来るはずがない。

 もしかしてこいつ、シャーロキアンか!?

 どんな事件であろうとも、真実は一つしか無いんだよとか言うんだろうか。


「流石だ、バルテルスくん。その変態的な嗜好さえ無くせば、きっと君は一流の名探偵になれるだろう」

「……探偵? ま、まァな! ずっと背後を尾けていたから、二人の会話は全部耳に入って来たし? 自慢じゃねェけど、オレってば最強だからな!」

「ごめん、褒めた俺がバカだった」


 今の台詞が全て、俺の行動や仕草などから推測した名推理だったら、バルテルスは名探偵になっていただろう。

 ああ、変なこと言ったら推理小説が読みたくなってしまった。

 この世界には無いからな。


 まあいい。

 無いものを渇望しても、どうにもならないからな。

 今はまず、目先のことを優先的に考えよう。


「それで、家――というか立地条件の良い土地を探している俺とティオに、良い報せがあるんだって?」

「おゥ! 実にタイムリーな報せだ。ちィッとこれを見てみなァ」


 そう言うと、バルテルスは裸ベストの内側から一枚の紙を取り出した。

 直に素肌と触れ合っていたためか、じんわりと湿っている。

 正直言って、あまり触りたくない。


「何だ、それは」

「王都周辺――東西の森林が描かれている簡単な地図だなァ。まァ、遠慮せず手に取って見てみろよ」


 嬉々とした表情で湿った地図を突き出され、仕方なく受け取った。

 しなびたレタスみたいな触り心地だ。

 しっとりしたこの湿り気がバルテルスの汗だということは考えないようにしよう。


 指先で摘まみながら、俺は地図の全体像を確認する。

 ひょうたんの形をした茶色いイラストが、地図のド真ん中に描かれている。

 この形状には見覚えがある。

 トリスコールの王都だ。バルテルスの言う通り、王都周辺の地図ということで間違いないらしい。


 北部が山脈で、東西を森林が囲い、南部はここ、だだっ広い高原だ。

 前にエイムから貰った地図と大差ないが、東側の森林に何やらバッテン印が書き込まれていた。

 ライトグリーンの森林内に、円状のベージュが描かれ、そこにバツ印。

 何だこれ、宝の地図か?


「東部森林の一角に、お嬢様が開拓した土地があってなァ。その辺は魔物も出ねェし、安全なんだ。開拓する時にちゃんと解呪とかもしたはずだし、問題無く使えるはずだぜェ」 

 

 お嬢様が開拓した土地。

 ということは、エドガール家の私有地ってことか。

 土地という呼び方をしているってことは、多分建物だとか何かが建設されているわけでもなく、ゴルフ場みたいに芝生が敷かれているとか、そういったことも無いのだろう。

 アトリアお嬢様は結構いい加減な人みたいだし、適当な土地を購入して、開拓だけして飽きたとか、そんな感じだろうか。

 ブルジョアめ。


「気持ちは有難いけど、……良いのか?」


 アトリアお嬢様への貸しは、十分過ぎるほど返してもらった。

 ティオを救い、兵団とのごたごたも無かったことにしてくれたんだからな。

 その上立地条件の良い土地を売ってくれるなんて、夢じゃなかろうか。


 ……いや、待てよ。

 誰も安く売るとは言っていないな。

 もしかすると、いらなくなった土地だから、安くても誰かに買ってもらいたいとか、そういう魂胆か?

 だがまあ、実際既に開拓された土地が手に入るなら、それはもう願ったり適ったりではあるんだけどな。


「あァ、どうせ持ってても邪魔なだけだしなァ。それに、お嬢様とカミーユが賢者師匠をひどくお気に入りでな!」


 バルテルスは「へへん」と笑い、腕を組んでドヤ顔。


 アトリアお嬢様とカミーユが、俺をお気に入りだと?

 気怠げな黒髪ぱっつんお嬢様と、紫髪の凛々しい女騎士様の顔が頭に浮かぶ。

 様々な部分が対照的なお二方。

 でもあの二人とは、そういったフラグを立てた覚えは無いんだけどな。


「賢者師匠がオレに魔法を教えてくれたって報告したら、『あのバカ犬に師匠!?』って、カミーユ共々喜んでなァ。オレが魔法を訓練するにも、丁度いい広さだからなァ。魔法訓練のために、あの場所を好きに使っていいって言われたんだァ。勿論、土地の管理やら何やらはオレがするけどな」


 バルテルスはカラカラと笑い、胸を張る。

 バカ犬て……。エドガール家でのバルテルスの扱いが不憫すぎる。

 

 しかし、そういう理由か。

 タダで献上されるというわけでは無く、魔法の使えない親衛隊を鍛えてくれる代わりに、訓練場として場所を提供しましょう、とそういうことか。

 バルテルスが魔法を使えない理由は、エルフ族の先祖返りによるものだ。

 故に通常ならば、いくら魔法の練習をしたところで、バルテルスが魔法を使えるようになるはずがない。

 体質的なものだからな。


 体外魔力マナを使用した魔法の存在は、あまり知られていない。

 バルテルスも苦労してきたのだろう。

 魔法が使えなくても雇ってもらえるよう、筋力や瞬発力を必死に高めたりして。


 バルテルスはアホだが、努力家で頑張り屋だ。

 マナを吸い上げても気分が悪くならない体質なのであれば、他の魔法を教えることも可能だ。


 無いとは思うが、下手に最強の魔法を教示して寝込みを襲われたりしても困るから、簡単な魔法だけ教えることにしよう。

 基本的に四属性魔法と治癒魔法さえ使えれば、戦闘で困ることは無いだろうし。


「んじゃあ、あれか。魔法教示の報酬が、土地一個って考えれば良いのか」

「まァ、そんな感じだろうなァ。大工雇う金とか、材木やら石材の資金は出せねェけどな」


 木材や石材ね。

 俺流の建設術では、そんなものはいらない。

 カザミ建設が建てる家は、大地を駆け巡るマナのみで造られる。環境に優しい一軒家だ。


 ティオにも魔法を教えているし、その延長線で教示すればいいか。

 ティオは体内魔力オドで、バルテルスは体外魔力マナ

 引っ越すとなると、ターニャの教本を借りることが出来なくなるから、新しいのを購入しなければならないな。

 雑貨屋か何かに売ってるかな。

 紙束っぽいものが販売されているのは、あまり見たこと無いんだけど。

 簡単な詠唱教本くらいなら売ってるだろう。


「土地を見てから考えたいな。連れてってくれるか? 走らずに」


 裸足にスラックスという凄まじく走りにくい格好なのに、短距離走の競技選手並みの速度で長距離を疾走するからな。

 インドア派な俺には、どう足掻いても追走することはできない。


「分ァってるよ。んじゃァ、付いてきな!」


 バルテルスは今にも駆け出しそうなポージングをしていた。

 ……不安だ。


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