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異世界に来たけど魔力が無いから賢者になった  作者: 山科碧葵
第3章 異世界生活は美幼女とともに
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3-14.幼女と始める異世界生活

 ようやくティオも落ち着いたようなので、泣き疲れてぐったりしたティオをプリムヴェールに預けて、俺は周囲を囲った土壁を崩した。


 砂のお城が風に攫われるように、堅牢な土壁は精緻な砂粒となって崩れ、やがて周囲の石材へ吸収されていった。

 あれが魔力の残滓というものなのか。

 吸い出して具現化したマナが還元されていくところを見るのは、もしかしたらこれが初めてかもしれないな。


 土壁が消失すると、周囲を兵士が囲っていた。

 肩で息をして、総員がこちらを見据えている。

 伏し目がちで無表情を貫いているため、彼らが何を考えているのかは分からない。

 ただはっきりと分かるのは、俺に向けられた感情があまり良いものでは無いということだ。


 敵意は感じられない。

 手出しをしようと、身構えているようにも見えない。

 膠着状態ってやつだ。

 お互いに何も出来ず、見つめ合っているだけの状態だ。

 向こうはそれでも良いかもしれないが、俺としては早く帰宅して、ティオを温かいベッドで寝かせてやりたい。

 このまま兵士とお見合いを続けているわけにもいかないのだ。


「指揮官さんを、呼んでもらえますか?」



 指揮官はすぐに来た。



        ◇          ◇          ◇



 指揮官と俺だけでは話にならないので、住民や兵士同士の喧嘩や意見違いなどの場において仲裁人としての権限を持つ、役所ギルドの受付嬢を間に挟んでの論議となる。

 この場に存在するのは兵士側では、指揮官と捜索隊裏路地方面担当の兵長、そして数人の兵士たち。

 俺側は、俺とバルテルスと、当事者であるティオ本人だけだ。

 プリムヴェールやターニャにはこれ以上迷惑をかけるわけにもいかないので、お引き取り願った。

 バルテルスがいるのは、俺一人では兵士たちに言いくるめられてしまうのではないか、と彼が心配してくれたからだ。


 ちなみに座り順は、俺、ティオ、バルテルスの順だ。

 バルテルスの隣に幼女を置くのは心配に見えるかもしれないが、その辺りは問題無い。

 バルテルス曰く、体格がどうであれ年齢が二桁に入った女子は幼女では無く、童女または少女になるのだとか。

 だから彼は、ティオに手を出すことはしない、と言っていた。


 言い訳らしいけどな。

 俺は知っているぞ。薄手のワンピース姿で居住まいを正すティオのことを、さっきからチラチラと目で追っているバルテルスの行動を。

 まあ助けてもらったのは事実だし、手を出さないと上述の通り遠まわしに言ってくれたので、その辺は目を瞑っておく。

 実際バルテルスがいなければ、今頃ティオは兵団に捕縛されていただろうからな。


「罰則金に関しての、話ですけど」

「……ええ、ようやく計算し終えましたので」


 羊皮紙を渡され、俺はそこに書いてある文面をじっくりと読む。

 子供――十五歳未満の人間が罪を犯した際の、律法や細かな手続きに関する書面だ。


 実の両親が行方不明もしくは死亡している場合、冒険者としての審査を受け、生命にかかわらぬ簡単な依頼を受注して、損害金の一部を返さなければならない。

 審査に通らない場合は、奴隷堕ちして前科を洗い流す。

 まあ審査に通らないなんてことは、滅多に無いらしいけどな。


 親族の行方が知れずとも、保護者代わりの人間がいれば、その者が肩代わりすることは許されている。

 今回の場合は後付けのようなものだが、その辺りはバルテルスの――エドガール家の権力で何とかなったようだ。


 後から聞いた話だが、どうやらエドガール家のお嬢様は指揮官だけでなく、犯罪系統の処遇を決定するお偉いさんとも肉体関係をお持ちだったらしい。

 だから迷宮で俺と別れた際に、事件に巻き込まれても助けてやる、と言ったのだとか。

 アトリア・ローズ・エドガールお嬢様にとって、その程度の律法の捻じ曲げは朝飯前らしい。

 痛くも痒くもない、とそう言っていた。


 ちなみに罰則金は、大銀貨三枚という高いんだか安いんだかよく分からない金額だった。

 普通の子供が起こす無銭飲食の罰則金は銅貨三枚でも多い方らしいので、破格の金額であることは分かるのだが。

 まあ余計なことを言って金額が上がっても困るので、素直に支払っておいた。


 ティオの処遇だが、一応俺のメイドとして扱うということで、話は着いた。

 罰則金を支払ったため前科は無しとして扱ってはくれるが、もし次大人になってから何かしでかしたら、その時は許されないからな、と厳重注意されていた。

 ティオも悪い子では無いので、素直に元気よく首肯していた。

 無銭飲食させるような生活はさせないつもりだ。

 多分ティオの言った通り、大丈夫だろうと思う。



 その他だと、ターニャやビリーさんの処遇だろうか。

 もしかして国家反逆罪とか、公務執行妨害とか何やら課されてしまうのではと内心気が気では無かったのだが、そういったことは無いと断言してくれた。


 桃色髪の少女なんて王都にはいくらでもいるし、あの二人は嘘をついているように見えなかったからだ、とか言ってくれた。

 実際は、多分そっち方面のお偉いさんも、アトリアお嬢様に良くしてもらったのだろう。

 いや本当、アトリアお嬢様には足を向けて眠れないな。

 今度誘われたら、フルフェイスの兜でも被って足でも舐めてさしあげようかしら。

 すべすべして透き通るような素肌をしていたし、体格は好みって言ってくれたから、意外と喜ぶんじゃないかな。

 冗談だけど。



 バルテルスには感謝してもしきれないので、論議が終わった後で、彼には小石からマナを吸い上げて使用する治癒魔法を一つだけ教示してやった。

 彼は隔世遺伝で体内魔力オドが使えないため、小石から体外魔力マナを吸い出す技術は問題無く使用できるらしい。

 わざと腕に傷を付けては、小石を宛がい治癒させたりして、はしゃいでいた。


 ついでに、道路舗装のバイトも教えておいた。

 あれから何度か工事現場を目撃したが、やはり治癒魔法を施す人はシスターさんが多いからな。

 幼女童女少女たちは、他の奴らが治癒魔法をかけてやらなければならない。


 奉仕環境と行うべきことを教えてやったら、それだけで前かがみになっていた。

 自警団の人もいるし、多分問題は起こさないだろう。

 ティオに対しても、妙な手つきで頭を撫でてやったりはしていたが、ティオが嫌がるようなことはしなかったし、口に出すことも無かった。 

 ターニャに対する愛念はちと度が過ぎてるが、根は真面目なのだろう。

 きっと今頃、健康的に幼女ハーレムを満喫していると思うよ。

 バルテルスは幼女には優しいから、結構好かれると思うしな。



 そんな感じでティオ脱走事件は幕を閉じた。

 


        ◇          ◇          ◇



「えと、これからもよろしくお願いします。……アヤメ、お兄さん」

「うん、よろしくね。ティオ」


 ブラックを基調とした丸首シャツにショートパンツを穿いたティオが、ベッドの端に腰かけながら上目遣いに俺を見つめる。

 これからティオはメイドという扱いになるが、服装や呼び方はこのまま変えないでいこうと思っている。


 ご主人様って呼ばれるのも嬉しいけど、上目遣いでお兄さんって呼ばれるのも中々素晴らしい。

 どうせならお兄ちゃんの方が良いんだけど、呼んでくれない。


 さて、メイドとは言ったが、本格的にティオをメイド扱いすることは、はっきり言って不可能だ。

 何故か。まずティオは、掃除含めて家事が全く出来ないのだ。

 いや、全くと言うと語弊があるか。

 火魔法を使えるため、火を通す料理に関しては俺よりかはレベルが高かった。

 洗濯は――まあ、生地が傷むことを前提に考えれば、汚れは落ちるから、許したい。


 だが掃除はいかん。

 むしろティオが掃除をすると、部屋が散らかっていく。

 片付けられない人なのか、掃除が得意な俺としては、どうやったらここまで散らかせるんだろう、と至極疑問だ。


 ともかく、ティオが満足に行えるのは、火を通す料理のみだけなのだ。

 もしティオが奴隷堕ちしてたら、失礼だが多分性奴隷にされてたと思う。

 可愛いからな。

 愛玩メイドとしてなら、十分合格点だ。

 可愛いは正義だからな。

 大事なことなので二度言った。


 俺が昔日本で読んだ漫画に、メイドや執事は高位な立場の人間しかなれず、破格の戦闘能力を持っていなければならない、とか書いてあった気がする。

 十歳の少女にそれを望むのは間違っているということは分かっているのだが、何もさせずに置いておくのは、何かなぁ……。

 ティオなら十分、戦闘メイドとしても合格点に行くだろうが。


「アヤメさん。本当に、ティオちゃんはこれからメイドさんになるんですか?」

「うーん……。俺もそれを、ちょっと迷っている」


 右肩にしなだれかかりながら、プリムヴェールがポツリと呟いた。

 今俺は、右側にプリムヴェールを座らせ、左側にティオを腰かけさせ、その間に挟まれるような恰好で座っている。

 右側からは甘い香り、左側からはほんのり温い子供体温。

 ああ、何かいいな、こういうの。


「私がメイドになるのは、変ですか?」

「変じゃ無いけど、本来メイドさんっていうのは、ご主人様を立てる優秀なお姉さんがなるもの、だから」


 プリムヴェールの意見としては、無理にティオを使用人にしなくても良いんじゃないか、ということだ。

 先日妙な書物を読んだらしく、メイド=夜に如何わしいお仕事をする人、という変な方程式が出来上がっているらしい。

 ティオは可愛いけど、流石に()()手を出そうとは思わない。

 俺はロリコン(バルテルス)じゃあ無いからな。


「メイドさんがダメ……。あ、じゃあ、『おしかけにょうぼう』ってやつになります!」

「にょ、女房!?」


 プリムヴェールが「何ですって!?」という感じで、ガタンとベッドを押した。


「ティオ、その言葉をどこで聞いた?」

「ターニャちゃんが、この間言ってました。アヤメお兄さんに可愛がられて、癒すのが私のお仕事です」


 えへん、と胸を張ってから、プリムヴェールのようにしなだれかかってくる。

 腕に胸をすり寄せてくるが、コリコリとした何かが触れるだけだ。

 ……多分、上の下着は着けてないんだと思う。


「ア、アヤメさんに可愛がられて、い、癒すのは……。わたしのお仕事ですから、ティオちゃんはやらなくて大丈夫です」


 そう言って、プリムヴェールも胸を腕に押し付けてくる。

 温かくて柔らかい感触が俺の腕を包み込む。

 同じ部位を押し付けているというのに、双方とも全く感触が違う。

 こうしてみると、何かティオの発展途上な体躯も捨てがたいなと思ってみたり……。


「アヤメさん!」

「は、はい!」


 思わずプリムヴェールの方を向くと、目の前に彼女の顔があった。

 というか、鼻と鼻が触れ合って、前髪同士が触れ合って――――。


「…………ぷは」


 甘い吐息が混ざり合い、ゆっくりとプリムヴェールの顔が放れて行く。

 顔が真っ赤だ。

 多分俺も、同じように赤くなっているんだと思う。


「少し取り乱しました。でも、わたしは本気でアヤメさんのことを――」

「すごーい、良いなー。私もするー!」


 余韻に浸る時間も与えられず、今度はティオの顔が目の前に現れた。

 同時に唇を祝福する、甘美な感触。

 肩に腕を回され、がっしりとホールドされている。

 ……触れ合っている時間が、結構長い。


「えへへ、しちゃった」


 唇を放すと、ティオは嬉しそうに顔を赤らめた。


 愛しの彼女(プリムヴェール)の前なのに、思わず惚けてしまう。

 感触も香りも違う、二つの甘い感覚。

 同時に味わうなんて、普通は不可能なのに。


 ティオとの接触にほわんとしていると、細く長い指に左腕をギュッと掴まれた。

 あら、妬いてくださるなんて、アヤメさん嬉しいわ――って。


 心の中でふざけていると、腕を掴む力が強くなった。

 あ、痛い、痛い痛い痛いです!

 もうしません、許して!

 二の腕ふにふにされるのは嬉しいけど、握るのはダメぇ!


 俺が嫉妬と独占欲と痛みの籠った愛念を左腕に受けている間、ティオは嬉しそうに膝の上に頭を乗せて転がり始めた。

 プリムヴェールは暫く俺とティオを見比べていたが、ふっと笑顔を見せてクスリと笑った。


「今日は、アヤメさんを真ん中にして寝ましょうか」

「アヤメお兄さん真ん中ー」


 プリムヴェールがベッドの端っこに寝転がり、誘うような目つきで俺を手招きする。

 一瞬変な期待を持ってしまったが、膝に乗っている感覚ですぐ我に返る。

 それはまた今度か。


 俺を真ん中にして、少し崩れた“小”の字になってベッドに転がった。

 ベッドに寝転がると、ティオはすぐに寝息をたててしまう。

 寝つきの良い子だ。

 まあすぐに寝れるということは、この環境に不安を感じていないということだろうから、喜んでいいことなのだろう。


「アヤメさん」


 プリムヴェールに呼ばれて顔だけそちらへ向けると、ふわっとした香りとともにまた唇を奪われた。


「ティオちゃんを救えて、本当に良かったです」

「プリムヴェールには、感謝してもしきれないな」


 ティオの身の危険を教えてくれたのも、一緒に探してくれたのも、壊れかけた心を癒してくれたのもプリムヴェールの所業だ。

 今回の行動は、誰か一人欠けても成し遂げることなどできなかった。


 じっと見つめると、ルビーの瞳が瞬いた。

 ほんのりと顔が赤らんでいる。

 照れてるのかな。


 美麗な顔立ちに癒されていると、不意に視線が胸に行った。

 仕事着の上からでも存在感を醸し出す、魅惑のボディ。

 触っても怒られないかな。


「…………」


 結局手を伸ばした挙句、胸――では無く、頭に手をやって撫でてあげた。

 多分二人の関係が進まないのは、俺がへたれてるからだな。

 次はもう少し、強く進んでみよう。

 出会ったのも思いを伝えあったのも一番なのに、いつまで経っても進展せず、他の女の子と同じ位置にいたらプリムヴェールだって不安だろうから。



 ネコのように目を細めて幸せそうな表情を浮かべるプリムヴェールを見つめながら、俺はゆっくりと夢の世界へと沈んでいった。



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