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異世界に来たけど魔力が無いから賢者になった  作者: 山科碧葵
第2章 異世界観光は司書さんとともに
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2-5.ユグドラシルの魔導書

 料理屋の建ち並ぶ通りを抜けると、不意に人けのない寂しい道に突き当たった。

 住宅街と酒場を繋ぐ裏通りかなにかだろうか。

 建物はあるがほぼ後ろ向きで、門や入り口のようなものは見当たらない。


 王都ここは、こういった複雑な通りが多い。

 一応空を見上げれば、いつでもどこでもフレドールの時計塔が見えるため、方角を見失うことはなさそうだが。


 これも全て、王宮が近くにあるからなのだろうか。

 昔年の頃、日本でも城など大事な建造物がある周辺は、あえて道順を複雑にしたり迷路のようにしてみたりして、部外者の侵入を抑えていたらしい。

 敵国の兵士を迷い込ませる、これは罠なのだろうか。


 と、自分なりに考察してみたのだが。

 現状この辺りの通りが複雑なのは、各々必要な道を先に造ってから、それらを無理やり細道で繋ぎ合わせたことが原因らしい。

 当時としては国を挙げた大工事だったらしいが、今となってはどうしようもないほどの杜撰な工事だったのだとか。


 結果、こうして無駄な裏通りや小道が量産されてしまったのだ。


「当時はこうして舗装する技術もなくて、山から掘り出した砂利を敷いていたらしいです。ですが竜車などの乗り物がポピュラーになり始めると、その……。車輪がガクガクして、お尻が痛くなっちゃうらしくって」


 竜車というのは、馬車みたいなものという解釈で良いのだろうか。

 確かここに初めて来たときに、でっかい爬虫類が引いた荷台に乗った行商人と何度かすれ違ったな。


「それで舗装技術が発展して、今のようになったわけですか」

「はい、ですが……。衛生管理の関係上、王都では生き物に引かせた乗り物を使用するには結構面倒な許可が必要になりまして。――最近は滅多に見ませんね」


 そこまでして乗るような物好きも、少ないらしい。

 実際そういった面倒な手続きを執事さんやメイドさんにさせてしまうような貴族や、仕事の関係上そういった移動手段が必要不可欠な行商人などは、王都でも竜車を動かしているらしいが。


「そのわりには、落ちてないですね、そういうの」

「肥やしになるので、拾ってく人も少なくないんです」




 裏通りを抜けると、見たことのある通りに出た。

 道の真ん中に街路樹が並んでいる、散策コースだ。

 どこで見たんだっけかと周囲を見渡すと、一本の樹木が目に入り、思い出した。


 初めて王都に来たその日。

 木陰で盛っている獣人にひと睨みされた場所だ。


「夜になると星空が綺麗なので、絶好のデートコースなんですよ」


 デートコース、なるほどね。

 酒場とか料理屋も近くにあるし、そこで軽く呑んでから夜風に当たり、お互いを求めあって木陰にバタンか。

 ここで致している男女を見ても、何も言わないのが大人の接し方というものなのだとか。

 とは言えど、流石に真昼間から事に及んでいる男女はいなかった。

 まあ正午は過ぎたとしても、まだ夕日も出ていない時間帯だ。

 見通しもいいし、わざわざこの時間にここですることも無いのだろう。


 とはいえ、朝から夕方までは普通の散歩コースだ。

 場所が場所なだけに流石に子供はいないが、普通に人々は往来する。


 やけに兵士が多い。

 兵士、兵士、おじさん、兵士、兵士、兵士、おばさん、てな感じだ。

 また悪魔でも出たかと身構えたが、そのような気配は感じない。


 プリムヴェールはそんな俺の姿を見て、耳元に口を寄せた。

 長い銀髪が首筋を舐め、ゾクッとする。

 あ、だめ、プリムヴェールさん。吐息が耳朶をくすぐって、やん!


「場所が場所ですので、見回りには力を入れているようです」


 場所が場所、か。

 確かにデートコースとして有名なら、独り者とか子供はわざわざここを通らないだろうし、必然的に人通りが少なくなってしまうのだろう。

 まあ、快楽を伴う行為に違いはないので、そういった事件はどこの世界でも起こるのだろうな。


「この間も、兵士さんがいない隙を突いて、冒険者の男の子が一人犠牲になったんです」

「……はへ?」


 変な声が漏れた。

 冒険者の男の子が、犠牲になった。この場所で?

 ふと、俺を睨みつけた獣人の顔が蘇る。

 あまりよくは見ていないけど、あの人って、もしかして幼気な少年を相手に事を――。


「よく道路の隅で、サキュバスとかが座り込んでいるんです。――って賢者様、お顔が引きつってますけど、大丈夫ですか?」


 アーッぶない想像が頭を過るより先に、サキュバスという単語で我に返った。

 ああ、あの金髪褐色の魔族さんか。

 顔はよく覚えていないけど、頭と腰から生えた悪戯チックなしっぽがエロ可愛かったな。

 多分そういうのも含めて、男性の理性を吹き飛ばす何かを持っているのだろう。


「賢者様も、サキュバスには気を付けてくださいね。あの人たちには本能的な何かを痺れさせる力があるので、一度目をつけられたら、いくら魔法の腕が一流でも振りほどくことは不可能ですから」


 ようはあれか、近寄ってはいけませんってやつ。

 標的にされたら、死ぬまで搾り取られてしまうのだろう。

 闇夜に現れる金髪魔族、略して闇金。

 気を付けなければ。


 話しながら少し進むと、また見覚えのある路地裏が顔を出した。

 ギルドを探して彷徨っている最中に迷い込み、突然幼女と火の玉が飛んできた場所だ。

 あの食い逃げ犯、もう捕まっただろうか。


 路地裏に入るのかなと思ったが、プリムヴェールはその通りには興味を示さなかった。

 まあ、逃走中の犯人が使うような道だし、あまり綺麗でもないのかな。


「そういえば、賢者様にお聞きしたいことがあったんでした」


 ポンと手を叩き、プリムヴェールは立ち止まった。

 街路樹の立ち並ぶ通りの端。もう少し歩けば、大通りにぶつかるという場所だ。


 風になびく美髪を押さえながら、プリムヴェールは口元を人差し指で撫でつける。

 お聞きしたいこと、何だろう。

 魔法の腕が――とかいう話題だったから、昨日悪魔退治で使った魔法の話だろうか。


「昨日、広場で悪魔を倒す時に使った火魔法のことなのですけど。あれは少し、純粋な人族の方が使う魔法にしては、規模が大きすぎると思いました。どうやって使ったのか、知りたいと思いまして」


 予想通りの問いかけだった。

 さて、どうやって説明するか。


 日本の市立図書館で偶然見つけた、ただの本。

 いっそこの書物を見せれば、何か分かるかもしれないなとも思う。

 いつも普通に抱えているが、兵士や虎っぽい子に「それは何だ」と問われたことはない。

 街を行く魔術師の中にも書物片手に歩む人もいるから、一冊くらい持ち歩いていても大して珍しいものではないのだろう。


 しかし気になることがまだ残っている。

 道路舗装の現場に行く際に行ったエイムとのやり取りだ。

 エイムの話だと、魔法とは体内魔力オドを使用するものであり、体外魔力マナという概念は彼女の中に無いように思えた。

 図書館で読んだ魔法教本にも、体外魔力マナを利用した魔法の使い方は記載されていなかった。

 もし体外魔力マナを勝手に使うことが禁忌なのだとしたら。


 あまり大っぴらに広めることでもないだろう。

 だが事実、この書物に関しての情報収集は手詰まりだ。

 プリムヴェールは司書で、さらに魔法関連の賢者を目指して勉強していたという。

 もしかすると、この書物に関することを何か知っているかもしれない。


「プリムヴェールさん」

「はい」

「実は、俺には隠された賢者としての恐るべしパワーが――」

「そういうの、いいです」


 ぴしゃりと一蹴された。

 どうやらプリムヴェールは、真面目にあの魔法について知りたいようだ。

 しかたない、もしこれが国宝とか発禁本だったら、素直に受け渡すか……。


「実は、これなんだ」


 観念して、俺は菖蒲色の書物を懐から取り出した。

 この世界に飛ばされた原因の元凶であり、この世界で生きていくために何度も世話になった謎の書物。

 もしこの書物が無ければ、きっと俺は高原で死んでいた。


「ちょっと拝見」


 プリムヴェールは書物を取り上げると、真剣な表情で中身に目を通し始めた。

 最初こそ目の動きが本を読んでいるときのそれであったが、半分もいかないうちに読み飛ばすページが増え始め、最後の方はただページを捲っているだけのように見えた。


 やがて一応は目を通し終えたのか、ふぅという溜息とともに書物をパタンと閉じた。


「賢者様は、ここに書かれている文字が読めるのですか?」

「一応何て書いてあるかは分かりますけど……。プリムヴェールさんは読めないんですか?」


 瞑目し、プリムヴェールは寂しそうに首を横に振る。


「幾つか読める場所もありますが、ほとんどが絵とも文字とも似つかない奇妙な字で書かれているように見えます」


 書物を差し出され、俺はそれを捲ってみた。

 火魔法の使い方、水魔法の使い方、風魔法の使い方、土魔法の使い方――うむ、俺は問題無く読める。

 実際何となく読めるだけであり、文字を識別しているわけではないが。


「どのようなことが、そこに記されているのですか?」

「魔法の使い方です。オドの活性化を前提としたものはもちろん、自然界に漂うマナを利用して使う魔法の使い方まで書かれています。さっき悪魔を全滅させるときに使った魔法は、これです」


 嘘偽りなく正直に答える。


 大地からマナを吸い上げ、頭の中に思い描いたビジョンを火魔法として具現化する方法が書かれたページを開き、プリムヴェールに見せてみる。

 プリムヴェールは暫くそのページを凝視していたが、やがて首を横に振って小さく溜息。


「人族の文字とも、父が使用していた魔族の文字とも違います」

「プリムヴェールさんは、魔族の文字も読めるんですか?」

「一応、読むことはできます。その書物ですと、風魔法のことが記されていたページが、確か魔族の文字だったはずです」


 風魔法のページを開き、他のページと見比べてみる。

 大した違いは無さそうにみえた。


「国宝だったり、禁忌が記された発禁本だったりはしませんよね?」

「異種族の言語が入り混じっている時点で、それはありえないことかと。そもそも国宝認定や発禁本として扱う決定は、その種族間で一番の長が行うことですので、もしその書物を国宝認定するとなれば、管理敷地一つ一つの魔王から竜王、国王、さらにはハイエルフの長などが顔を合わせなければなりません。この長い歴史上、全種族の長が集まったことなど無いはずです」


 簡潔に纏めれば、この書物は持っていても何ら問題は無いってことだ。

 言い換えれば、様々な種族の言語が書かれた書物を純粋な人族一人が持っているということは、些かおかしい現象ということになるのか。


「――あっ」


 不意にプリムヴェールの可愛らしい声が跳ね、ポンと手を叩いてみせた。

 刹那思案するように口元に拳を宛がい、「うーん」と唸ってみる。

 手を口元から離して、プリムヴェールはじっと俺の顔を見つめていた。

 やがて瞳を瞬かせると、プリムヴェールは唇を軽く舌で湿らせ、一言だけポツリと呟いた。


「……ユグドラシルの魔導書」


 ユグ?

 ユグドラシルの魔導書?

 なんだその、ゲームに出てくるアイテムみたいな名前。


 聞いたことの無い名称に、思わず首を傾げる。

 ユグドラシルという単語自体は、中学時代に読んだ小説に出てきたような気がする。

 確か神聖なる樹木の名前だったっけか。


「聞いたことがあります。ユグドラシルの魔導書。この世界に存在する魔法と、その使い方の全てが記されているという、伝説の魔導書です」

「伝説の魔導書、ですか」


 随分と大そうな呼称に、思わず変な笑いがこぼれる。

 しかしプリムヴェールの顔は至って真剣だ。

 そんな彼女を笑うのは失礼にあたるので、ぐっと我慢する。


「伝説の魔導書、というと語弊があるかもしれませんね。

 要は、あれです。限りなく歴史書に近い神話などに登場する、一種のキーワードと言いますか。世界を救った勇者の伝記や、賢者の手記など、個人により執筆された歴史書などに時折出てくる、マクガフィンみたいなやつです。

 書物によっては名称だけ登場したり、文献によっては、その魔導書からは新たな魔法が生まれると記されていることもあります」


 動揺しているプリムヴェールの言葉を纏めると、つまり『現物を見て、自分はそれを所持していた』と記す手記は多いものの、その存在が今まで明確に認識されていない書物のことらしい。


 日本で言うところの「卑弥呼の存在」に近いものだろうか。

 存在を裏付ける古い書物は幾つも存在するのに、はっきり「有る」と証明するだけの物的証拠がない。


「もしその書物がユグドラシルの魔導書なのでしたら、種族間でのみ伝授されるハイエルフなどの魔法や、失われた秘術や隠術が載っていても、おかしくありません」

「大地から魔力マナを吸い上げる魔法は、現世に伝えられていないのですか?」

体内魔力オドでしたら、魔族の中には、使う種もいます。例えばサキュバスやインキュバスでしたら、別の人間から精力とともに魔力を奪う魔法を使います。――ですが、それも種族間のみで伝授される秘術です」


 言ってから、プリムヴェールはルビー色の瞳をパチクリと開いた。

 視線が辺りをさまよってから、少し経って俺を捉える。


「……ということは、先ほど賢者様が使った魔法は、現代における秘術か隠術ということになりますか?」

「そう、なりますかね。図書館にあった魔法教本は幾つか読みましたが、俺が使っている魔法の使い方は、記されていませんでしたから」


 エイムにも聞き返されたしな。

 体外魔力マナを使った魔法は、伝えられていないのだろう。

 それが意図的に使用を禁じられた隠術なのか、種族間のみで伝わる秘術なのかまでは分からないが。


 プリムヴェールは暫くびっくりした様子で瞳を瞬かせていたが、やがて落ち着いたのか、照れたように頬を染めてコホンと咳払い。

 ついでに、照れ隠しか毛先を指先で弄り始めた。


「一般開放されていない蔵書室に、ユグドラシルの魔導書に関する文献があったはずです。明日にでも確認しに行きましょう」

「嬉しいお誘いですけど――、いいんですか?」


 一般開放されていない蔵書室に、一般人である俺が入っていいのだろうか。

 まさかこっそり、ばれないようにとか、そんなこと言うんじゃないだろうな。


「司書が一人以上つけば、構いません。万が一の盗難や破損を防ぐための規律ですから」


 そんなものなのか。

 俺はまた国家レベルで隠匿しなければならない重大な書物とか、過去の帳簿のようなものでも仕舞われているのかと思っていたが。

 どうやら単に複製が造られていない書物を大事に仕舞い込んでいるだけらしいな。


「本当に大切な書物は、喩え司書がいても一般の方には閲覧をご遠慮いただいている蔵書室に仕舞われています。

 もちろん国宝、知識という名の国の宝であるため、喩え国王様でも入室には許可が必要です。

 いち司書であるわたしも、一人で入ることは許されておりません」


 国王でも許可が必要な蔵書室。

 きっと掃除もされてなくて、埃だらけなのだろうな。

 司書でも一人では入れないなんて、いったいどんなイケナイ書物が仕舞い込まれているのやら……。


「隠された書物と言えど、春本などではありませんよ」

「分かっています」


 ニヤけが顔に出ていたかな。

 気を付けないと、プリムヴェールはそういった内容が嫌いそうだから。

 いかがわしい液体で床を汚すサキュバスのことも、個人的に嫌っているみたいだしな。


 でも父親がインキュバスなんだよな。

 意外と実はそういった感情を押さえつけていて、あるときふと我慢ができなくなってよからぬことを――なんて、ありえないな。

 自重自重。


「では、明日ですね」

「――え? も、もうお帰りになられるんですか?」


 約束の日時を復唱しただけなのだが。

 プリムヴェールは割と真面目に心配そうな表情で、俺の服の裾を掴んでいた。

 行かないで! とか言われてるみたい。


「いえ、ただ約束の日時を確認しただけですけど……。明日の、午前中までには行けると思うので」

「――? あ、そっち! そっちですか! 良かったぁ……。賢者様ったら、もう帰っちゃうのかと思いました」


 いつの間にか日は沈みかけ、橙色の夕焼けが空に映り込んでいた。

 子どもだったら、そろそろ帰ろうとか言い出しそうな時間帯だろう。


「まだお話したいこと、いっぱいあるんですよ」


 裾を摘まんだまま、上目遣いに俺の顔を見た。

 え、なにこれ。

 ここの通りは有名なデートコース、そして今は兵士さえ歩いていない。

 宵闇が顔を覗かせるには若干早く、ほんのりと酔った男女が酒場から出てくる気配も無い。

 だが周囲を建物が囲っているからか、大通りが近い割には見通しもよくない。

 ここからかろうじて見える遠距離の建造物といえば、フレドールの時計塔と冒険者ギルドの屋根の先っぽくらいだ。


 こんな場所で、まだお話したいことがあると。


「お話とは、何でしょうか?」

「いえ、そこまで改まったものでは……」


 背景にバラを添えるように甘ったるい声音を演出してみたのだが、不評。

 ふむ、どうやら恋慕的な内容では無いらしい。

 分かりきっていたことだけどね。


「賢者様はその書物を、どこで手に入れたのかと思いまして」

「え、えぅ?」

「そのような書物は、王都の図書館でも見たことがございません。いったいどういうルートで手に入れたのか、すごく気になります、賢者様」


 胸の前で指を絡め合い、キラキラした目でずいと近寄られた。

 話したいことってこのことか!

 流石司書さん。本に関して興味津々の心を持っていらっしゃる!

 でも何て言えばいい?

 地元の図書館で見つけて、黙って持って来た。

 そんなこと、図書館で働く司書さんに言えるわけがない。

 字面だけ見たら泥棒と同じだ。


 さて、どうするか。

 昔からあまり嘘をつくのは得意ではないのだが――。


「王都に来る途中で数人の行商人とすれ違ったのですが、そのときに売りつけられました」

「……まあ、異種族の言語で書かれた書物を純粋な人族の方が読めるはずがありませんもんね。いらないものだと思われたのでしょう」


 ジトっとした瞳で、拗ねるように呟いた。

 即興の嘘にしては上手くいったと思ったのに、信じて貰えなかったらしい。


 だが実際、勘弁してほしいところだ。

 この魔導書は俺も幾度となく読んだが、召喚魔法や転移魔法などは記されていなかった。

 となると俺がどうやってここに来たのかという話になってしまうが、俺だってそんなこと分からない。


 この魔導書が本当にユグドラシルの魔導書で、世界中の魔法が載っていると仮定すると、召喚魔法や転移魔法とは、そもそもこの世界には存在しない。

 召喚魔法が存在しないのであれば、ここで正直に「俺は異世界人だ」と言っても、信じて貰えないだろう。

 むしろ「そういうの、いいです」とか言われそうだ。


 真実を話したのに突飛な嘘をついたと思われるよりかは、何かを隠しているな、という雰囲気を漂わせている方がまだマシだろう。

 わざわざ話すことでもあるまい。

 何か裏付ける理由があって、「異世界人ですか?」とか聞かれたら、その時の状況に身を任せようとは思うが。


「ほら、賢者様、行きますよ。時間が許す限り、今日はわたしと一緒にいてください!」


 頬を染めたプリムヴェールに手を差し出され、恐る恐る握り返す。

 こっちを見ていたプリムヴェールが、愛らしくにへりと笑った。



 周囲が闇に包まれ空に星が浮かぶまで、その日はプリムヴェールと二人で王都中を観光した。


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