7.プロスペール観光(前編)
3005年05月06日
今朝はスッキリと目覚めた。やっぱりベッドで眠ると疲れがよく取れるね。身支度を整え食堂に行くと、女将さんとフェルナンドさんの優しい笑顔に癒される。フェルナンドさんも朝食を食べている。今日のメニューは、きのことベーコンのキッシュ、豆が入ったトマトスープのようだ。
「おはよう、昨日はゆっくり眠れたかな?」
「おはようございます、はい!」
ルーナたちも席に座り食べ始める。キッシュを一口食べると、ベーコンの塩気ときのこの旨みが口いっぱいに広がる。少し酸味のあるトマトスープと交互に食べると無限に食べられてしまいそうだ。
「おばあちゃん、今日はジェイドに街案内してもらうんだよね?」
「ああ、午前中店が開き出す頃に出発だ。」
「わかった。」
まだ出発まで時間あるから少しくらい食べすぎても大丈夫かな⋯。
「ふっ、あんまり食べすぎると動けなくなるから程々にしておきな。」
何故考えてることがバレた?うちのおばあちゃんはたまにエスパーだ。仕方ないのでご馳走様をする。こちらの世界でも、食事を食べ終わったあとはご馳走様と言うのが礼儀だ。貴族になるともっと長いお祈りをするらしい。
「ふふ、楽しそうだ。俺も休みだから同行させてもらおうかな。マーリンさん、ご一緒してもいいですか?」
「ああ、構わないよ。こちらも街のことをいろいろ教えてもらえると助かる。」
「任せてください。俺は生まれも育ちもこの街ですから。」
フェルナンドさんも一緒に案内してくれることになった。今は皆の食べ終わった食器を慣れた様子で片付けてくれている。
それから、出かけるまでの時間に魔力感知の練習をしようとしていたら、暇だからとフェルナンドさんが手伝ってくれた。いつもおばあちゃんにしてもらっているように、魔力を流してもらう。見た目通りだが、フェルナンドさんも魔術師らしい。フェルナンドさんは、どう見ても剣や槍を振るっているイメージが持てない。肉弾戦はもっと想像できない。冒険者と聞いた時から、この人魔法職だろうなー、と思っていた。
ルーナが自分の魔力を微かにしか感じられていないと言うと、コツを教えてくれた。魔力は、鳩尾の奥の辺りから全身に流れているようで、流れを意識すると分かりやすいようだ。言われた通り流れを意識してみると、たしかに今まで微かに感じるだけだった自分の魔力が、体の中で動いているのが分かる。すごい進歩だ!ここまでくればルーナ一人でも感知できる。感知ができたら次は、自分の意思で魔力を動かし放出する訓練だ。放出して魔力が枯渇すると、動けなくなってしまうので今はここまでだ。
ルーナたちが食堂でのんびりしていると、やっとジェイドが起きてきた。いつもの事なのか、フェルナンドさんがいつの間にか温め直していたスープとキッシュをジェイドに出してあげている。ちょっとフェルナンドさんがジェイドのお母さんみたいに見えてきた⋯。ルーナたちはお茶を飲みながらジェイド待ちだ。ジェイドが食べ終わって、準備ができたらプロスペール観光に出発する。楽しみでそわそわしながらまだかまだかとジェイドをチラ見する。
「おい、そんなチラチラチラチラ見られたら落ち着いて食べられねーだろーが。」
「ジェイドが遅いからだよ!はーやーくー!」
ルーナが頬を膨らませながらジェイドを急かす。
「わーかったから待ってろハムタリアン。逃げやしねーんだから。」
むぅぅ⋯
ジェイドの準備ができるとついにプロスペール観光だ。宿から出ると、先ずは街の中央広場に向かう。宿からは歩いて五分ちょっとの場所で、昨日ルーナたちが入ってきた街の南門から、中央に伸びる大通りを北に行くとある。この広場の中央には大きな噴水があり、この街人気のスポットになっていて、待ち合わせ場所にもよく使われる。そして中央広場の周りには、冒険者ギルド、その隣に薬師ギルド、広場の向かい側に商業ギルドと、各種ギルドが集まっている。一番にここに来たのもこのためだ。
「では先に、マーリンさんのギルド登録を済ませてしまいましょう。」
「悪いね、すぐに済ませるよ。」
四人が薬師ギルドに入ると、職員さんたちの視線が一斉にこちらを向く。何しに来たのか分かりかねているようだ。そりゃそうだよね、冒険者二人と子供と年配の女性の組み合わせなんて、よく考えると変な組み合わせだよね。
「あのー⋯、どういったご用件でしょうか?」
一番近くにいた職員さんが戸惑った様子で声をかけてくれた。
「このばあさんのギルド登録を頼む。」
「新規での登録ですか?それならあちらの右のカウンターになります。」
「ああ、ありがとう。」
おばあちゃんがお礼を言い、案内してくれた職員が手を向けた方のカウンターに向かう。カウンター内には、灰色の髪をきっちり後ろに纏めた、几帳面そうなおじさんが座っていた。
「新規のご登録の方ですか?」
「ああ、初めての登録だ。」
「かしこまりました。私は受付担当のアーネストです。初めてということですので、薬師ギルドについて簡単に説明させて頂きます。」
「ああ、よろしく頼む。」
アーネストさんは簡単にと言っていたが、かなり丁寧に説明してくれた。長くなりそうだったので、ルーナたち三人は壁際にあったベンチに座って聞いていた。要約すると、ランクはAからEまであって、そのランクにあった依頼を決まった数達成することでランクアップ試験が受けられますよということ、一定期間依頼を受けなかったり納品した薬の品質が悪かったりするとランクダウン、もしくは資格剥奪になるということ、期限は守りましょうねということ、調薬のための素材は自分でとってきてもいいが、薬師ギルドでも売ってますよということだ。他にも細かいことをいろいろ説明していた。で、最後に詳細は後で冊子をお渡ししますって言ってたけど⋯ほぼ説明したんじゃない?この人。
思ったよりも時間がかかったが、無事に登録できたようだ。初めは皆Eランクからで、Eランクに登録するための試験は、筆記だけの簡単なものだったそうだ。Eランクの依頼は常時受付の依頼しかないので、数を作ればすぐにランクアップ試験が受けられるようだ。
「待たせたね。」
「アーネストさん、説明長かったですね。」
フェルナンドさんが苦笑する。癒し効果のないフェルナンドさんの笑顔を初めて見た気がする!
ルーナたちは薬師ギルドを出て、広場を北へ通り抜けた。広場の北、南門から見て街の奥に行くと、東から西に水路が流れている。水路には三本の橋が架けられていて、橋を渡らないとここより北には行けないようになっている。西側の橋の先は、この街を治めるプロスペール侯爵家の侯爵軍の基地があり、一般人は入れない。中央の橋の先は、領主館や迎賓館があり、こちらも庶民が行くことはないだろう。最後に、東側の橋の先には学術地区がある。学術地区には街に入るための通行許可証では入れないが、一般人でも身分証があれば入れるのだ。子供は身分証がなくても大丈夫だ。今日は、これからお昼ご飯を食べた後に学術地区に行く予定だ。
お昼ご飯は、水路沿いの屋台で美味しそうなものを探した。ルーナはジェイドおすすめの分厚いオーク肉のサンドイッチと、揚げたポテトに辛いソースがかかったものにした。オーク肉のサンドイッチはお肉がジューシーで食べごたえがある。ポテトはちょっとルーナには辛すぎた。頑張って食べていたが、「ふっ、おチビにはまだ早かったな。」と言ってジェイドとフェルナンドさんが残りを食べてくれた。「後で罰ゲームな。」とも言われた。怖い。おばあちゃんとフェルナンドさんは、何かの肉と野菜を細かく刻んでソースに絡めたものが巻いてあるクレープみたいなものを食べていて、それも美味しそうだった。次きた時は食べてみよう。
お昼ご飯を済ませたら、東側の橋を渡る。橋を渡ったところに門があり、そこで身分証の確認をしている。おばあちゃんは午前中に作ったばかりのギルドカードを見せていくつか質問に答える。なんの目的で学術地区に入りたいのかなど、最初に街に入った時よりは簡単な質問だけだ。全員無事に通り抜けると、大きな公園のような場所に出た。




