6.プロスペール到着
3005年05月05日
朝目覚めるとおばあちゃんの隣にいた。寝ている間にちゃんと返してくれていたらしい。ルーナはぐっすり眠っていて気づかなかった。
「おはよう。」
「おはよう。もう、おばあちゃん酷いよ!」
口を尖らせおばあちゃんに文句を言う。
「なんだい、満更でもなさそうな感じだったじゃないか。」
「そん⋯なことないもん⋯。」
ジェイドの顔を思い出し、恥ずかしくなって語尾が小さくなる。
微笑ましそうにおばあちゃんが笑う。
テントの中で身支度を整えると、皆で朝食を食べた。昨日の残りのスープとパンだ。
「交代でジェイドを起こしに行った時に、ルーナちゃんを抱いて寝ていたからびっくりしたよ。連れ込むにしても、まだ5歳の女の子だなんて⋯。」
「そうですね、僕も誘拐してきたのかと疑いました。」
オルランドさんとベンジャミンさんがクスクスと笑う。
「おいやめてくれ、こいつがあまりにも昔飼ってたハムタリアンに似てるからつい⋯だ。」
ジェイドがバツが悪そうに言う。
「つい⋯ですか。」
「つい⋯ね、犯罪者の言い分だな。」
「何もしてねぇよ!」
ジェイドとオルランドさんは何度もベンジャミンさんの護衛をしているそうで、三人は仲が良い。因みにオルランドさんはソロ冒険者で、ジェイドも冒険者だそうだが、普段は別に相方がいるらしい。駆け出しの頃にベンジャミンさんのお父さんに世話になったらしく、手が空いている時はベンジャミンさんの護衛の依頼を受けているそうだ。
「ルーナちゃん、ジェイドさんには気をつけてね。」
ベンジャミンさんがわざと心配そうな顔をする。
「うん、ジェイドに何かされたらベンジャミンさん助けてね。」
「ふっ、ルーナに何かした時にはこの世からいなくなってるさ。」
「おい、ばあさん笑えねーよ!それにおチビ、なんで俺だけ呼び捨てなんだ?」
ジェイドが顔を引き攣らせる。おばあちゃんが怖い。本当に私に何かした日にはこの世から消されてるかもしれない⋯。いや、冗談だよね?
「ジェイドがおチビって言うのやめてくれたら、さん付けで呼んであげる。」
「生意気だな、ハムタリアン。」
「ハムタリアンでもダメでーす。」
「ちっ、もういい。」
朝食の後は片付けをしてすぐに出発した。
◆◆◆◆◆
馬車旅二日目は、小型の魔物を撃退しつつ順調に進み、日が暮れる頃プロスペールに到着した。プロスペールの街は大きな街だけあって、石造りの高い城壁で囲まれていた。近くまで来ると威圧的な印象を受ける。
「うわあ⋯大きいね。」
感嘆の息を漏らす。ずっと昔からこの街を守ってきたのかな、いったいいつからあるんだろう?長くいるならこの街の歴史を調べるのも楽しいかもしれない。
「近年はここまで攻めてくるような国もないが、この街は何百年も昔、防衛の要だったらしいからね。」
それは街の中の観光も楽しみだ。歴史ある街っていいよね、雰囲気を感じるだけでも気分が高揚する。城壁を眺めてうっとりしているとベンジャミンさんが声をかけてきた。
「お二人はどうしましょうか?マーリンさん身分証はお持ちですか?」
どうやら身分証を持っていないとベンジャミンさんの馬車で一緒には入れないらしい。ルーナはまだ小さいのでいらないが、身分証を持っていない大人は別の列に並ばないといけないようだ。危険人物を街に入れないように、チェックが厳しくなるらしい。因みに貴族は貴族用の入口がある。
「ああ、持ってないから私とルーナは別で入るよ。」
「わかりました。ではここで一度お別れですね。」
「ああ、道中ルーナにも良くしてくれて助かった。また街で会ったら声をかける。」
「ベンジャミンさん、ありがとう。オルランドさんもジェイドもありがとう。」
三人に御礼を言って手を振った。なんとなくすぐ会える気がする。
「おう、宿には言っておいてやる。」
「助かるよ。」
もうおばあちゃんが宿の場所は聞いているらしい。これから探さなくていいのはありがたい。
ルーナたちは身分証を持っていない人の列に並ぶ。そんなに人数はいないが、一人一人のチェックが厳しいので時間がかかる。前には三人並んでいた。衛兵さんが厳しい目つきでいろいろ質問している。わざと厳しい目つきの人を配置してるのだろうか?
「次。」
おばあちゃんの番が来た。衛兵さんの目がちょっと怖いのでおばあちゃんの影に隠れて様子を見る。
「どこから来た?」
「南部のティモロ町って町からさ。」
「南部か、遠いな。どうやってきた?」
「この街に向かう商人の馬車に乗せてもらったのさ。」
「この街の商人か?誰だ?」
「ベンジャミンって名前の若い商人さ。」
「あー、あいつか。」
どうやらベンジャミンさんのことは知っているらしく、衛兵さんの怖かった表情が少しだけ緩んだ。その後も何個か質問されて大銀貨5枚を払って許可証をもらった。大銀貨5枚は高いと思ったが、保証金のようなものらしく、二週間以内に身分証を作れば身分証の発行料が無料になるようだ。身分証を手に入れる一番簡単な方法は、いずれかのギルドに登録することで、登録すればギルドカードが身分証になる。他には、この町の住人だと領主様に認めてもらって居住証明を出してもらう方法もある。おばあちゃんはこの先のためにも薬師ギルドに登録するそうだ。ギルドカードはこの国ならどこの街でも使えるので便利だ。
街の中に入ると沢山の人で通りが賑わっている。外はもう暗い時間だが、石畳の敷かれた大通りは、酒場や屋台の魔道具の灯りがあちらこちらで灯っていて明るい。
なんだかこの人の多さと夜でも明るい感じが懐かしく感じるなぁ⋯
通りを歩きながらキョロキョロと忙しなく視線を走らせる姿は、どこからどう見てもお上りさんだ。
大通りを暫く歩いて雰囲気のいい酒場の先で道を曲がる。少し行くと一軒の宿屋に着いた。二階建てで大きくはないが静かそうでいい。中に入ると、少しふくよかでおっとりした感じの緑髪の女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、ジェイドが言っていたお二人ね。」
「ああ、今日この街に来たばかりでね。よろしく頼むよ。」
「ええ、何泊にしましょう?」
「とりあえず5泊で頼むよ。」
「5泊ね、二階の角の部屋でいいかしら?」
「ああ。」
女将さんに5泊分の料金大銀貨1枚と小銀貨7枚を支払って鍵を受け取る。ヴェール町の時よりだいぶ高いなと思いながら、二階へと階段を上る。二階には全部で5部屋あり、階段を上がってすぐの角部屋がルーナたちの部屋だ。部屋の中は二人でもゆったり寝られる大きさのベッドが一台と、机、テーブル、椅子、備え付けの棚とクローゼット、全身鏡もある。随分充実した部屋だ。 一階にはお風呂や食堂などの共有スペースと、女将さんたちの生活スペースがある。
荷物を下ろし、ローブを脱ぐと久しぶりのお風呂だ。この宿のお風呂には広めの湯船が設置されていた。これは凄く嬉しい!ここの女将さんは魔術も得意らしく、魔術で簡単にお湯を貯められるそうだ。ジェイドはいい宿を紹介してくれたと思う。
ゆっくりお湯に浸かっている間に、晩御飯を用意してくれていた。メニューは魔魚のアクアパッツァと、パン、焼いた腸詰肉だ。久しぶりの魚が嬉しい。アクアパッツァにパンを浸して食べるとついつい食べすぎてしまってお腹がパンパンだ。腸詰肉もハーブが入っていて風味が良く美味しかった。
この宿は基本的に食事が付いていて、言っておけば作ってくれる。食堂は宿泊者専用で、自分で作りたい時は空いている時間ならキッチンも貸してくれるそうだ。部屋数を少なくしている分値段は高くなるが、設備が整ったいろいろと融通がきく宿だ。
「おばあちゃん、ここいい宿だね。」
「ああ、食事もおいしい。」
パンパンになったお腹を擦りながら 休憩していると、ガチャっと入口の扉が開いた。
「ただいまー」
「あ、ジェイド。」
ジェイドと、もう一人緑髪の男性が入ってきた。なんか女将さんと雰囲気が似てる?
「おう、無事に来れたか。この宿はどうだ?」
「いい宿だね、気に入ったよ。」
おばあちゃんが嬉しそうに答えた。
大きなテーブルの反対側にジェイドたちが座る。ジェイドたちもここで晩御飯を食べるようだ。
「おチビ、ここの飯は美味いだろ?」
「うん、おいしかった。食べ過ぎて苦しいよ⋯」
「ふふ、気に入ってくれて嬉しいよ。俺の名前はフェルナンド、ここの宿の息子でジェイドの相方だ。よろしくね。」
この穏やかそうな爽やかお兄さんがジェイドの相方さんか!うぅ、その優しい微笑みに私の何かが浄化されてゆく⋯女将さんと雰囲気が似てると思ったら親子だったのね!納得。
「ルーナです、お世話になります。」
「マーリンだ、しばらく世話になる。よろしく頼むよ。」
「マーリンさんもよろしくお願いします。ここは気の荒い人は入れてないので、お二人とも安心してゆっくり過ごしてくださいね。俺とジェイドもここに住んでるので、何かあったら言ってください。俺は一階でジェイドは奥の角部屋です。あと真ん中の部屋にもう一人泊まっているので後で紹介します。」
あ、ジェイドもここに住んでるのね。おばあちゃんが早速街案内をしてもらう約束をしている。今回の取引材料はいい酒だそうだ。またルーナの貸し出しじゃなくて良かったが、一緒に飲む気満々だなぁ。じとっとした目を向けておく。
部屋に戻り、一時間ほど魔力感知の練習をすると、二日ぶりのベッドで沈むように眠った。




