4.魔力の感知は難しい
3005年05月03日
今日は、昨日早く寝たせいか、おばあちゃんより早く起きた。いつもより早い時間なので起こさないでおこうと思う。一人で退屈なので、ベッドに横になったまま、早く自分の魔力を感じられるように体内に意識を向ける。
⋯そして二度寝した。
「おはよう、朝ごはん食べに行くよ。」
体を揺すられて目が覚める。
「おはよう⋯二度寝しちゃったみたい⋯。」
「ふふふ、よく寝てたね。」
「今日はおばあちゃんより早く起きたんだよ?」
ルーナはそう言って唇を尖らせる。
「おや、それは珍しい!」
おばあちゃんが大袈裟に驚いた顔をする。
「早く起きたから一人で魔力感じる練習してたら寝ちゃったの!」
ルーナの頬が膨らむ。
「ははは、そのまま続けてれば分かるようになるよ。」
そう言って片手でルーナの頭をワシャワシャと撫でた。
今日の朝食は、いつものパンと昨日の残りのスープだ。それと、ルーナにはおまけで苺のような果物を何個かつけてくれた。頭の中では完全にこれは苺だ。もう苺と呼ぶことにする。苺を食べると練乳が欲しくなるな⋯。
朝食を食べ終わると、今日は北の方角行きの同乗させてくれる馬車を探しに行くことにした。
ルーナ達が今いるヴェール町やティモロ町は、グランディール帝国の南部にある。さらに南にいくと大きな山々が連なっており、そこを超えると魔族領になっている。現在帝国は、魔族との戦争はしていないため、比較的治安の良い地域だ。そしてこれから向かうヴェール町から見て北、帝国の領土の中央の辺りには帝都ゼニスブルクがある。一先ずは、帝都に向かって旅をする予定だ。
昨日の門番さんに、北に行く馬車の心当たりがないか聞きに行こうと、二人は街の入口に向かって歩く。
「ねぇ、転移魔術じゃだめなの?一瞬で行ける方が良くない?」
態々時間のかかる馬車で行く意味が分からない。
「ああ、ここから先は転移魔術が使えないのさ。正確に言うと、帝国内は南部にしか行ったことがないから無理なんだ。転移魔術は一度行ったことがある場所にしか飛べない。それに、転移魔術を他の人に見られるのも困る。中央に近くなれば人も増えるからね、いつどこで見られるか分からない。転移魔術が使える魔術師だなんて、バレたら国に目を付けられて大変なことになるだろうさ。」
おばあちゃんが眉間の皺を深めて嫌そうな顔をする。
おばあちゃんが国に目を付けられるのは私も困る!私一人じゃ何もできないのに⋯、おばあちゃんがいなくなったら生きていけないよ!おばあちゃんの服の裾をギュッと握る。
「おばあちゃんが転移魔術を使えるって誰にも言わない。いなくなったら嫌だよ。」
おばあちゃんが歩きながらルーナの頭を撫でる。
「私の魔術をルーナに教えるまではいなくなるつもりはないよ。頑張って長生きしないと行けないね。」
「私が大人になるまで長生きしてねおばあちゃん。」
「そりゃ流石に無理だ。私をアンデッドにでもするつもりかい?」
おばあちゃんが顔を引き攣らせルーナの頬を軽く抓る。
「いひゃい⋯。」
おばあちゃんがアンデッドになったら、賢者じゃなくて魔王だね⋯。
町の入口に着くと昨日の門番さんがいて、片手をあげて声をかけてくれる。そんなに人の出入りは多くないので暇そうだ。
「よお、どこか行くのか?」
「いいや、ちょっとあんたに聞きたいことがあるのさ。」
「なんだ?」
「北の方に向かいたいんだが、そっちに行く馬車があれば乗せてもらえなかと思ってね。当てはないかい?」
門番さんが少し眉を顰めて腕を組む。
「無くはないが⋯二人で行くつもりか?向こうの方は犯罪も多いし危ないぞ?」
そう言って私のことを心配そうな目で見る。帝都の方は都会で人も多く、盗賊や人攫いなどの犯罪者も多いらしい。
「あぁ、あまりティモロ町の近くにはいたくないんでな。この子のためにもね。それに少しくらいなら自衛もできる。私もこう見えて昔は冒険者やってたんだ。」
おばあちゃんが片手を腰に当て得意げな顔をする。少しはどころじゃないけどね⋯。門番さんは心配してくれてるけど、その辺の魔物なんかひと睨みで逃げていくからね⋯。だって魔王倒して生還した人だよ?見かけは普通のおばあちゃんだけどね⋯。
「そうか⋯大丈夫ならいいんだが⋯、それならベンの馬車がいいかもしれないな。うちの町にも何度か来てる若い商人で、金を払えば乗せてくれるはずだ。あいつは護衛も二人雇ってる。プロスペールの街までだが、それでいいなら聞いてみてやる。」
おお!ありがたい!門番さんに聞いて正解だったね!面倒見の良い門番さんだ。
「ありがとう、頼むよ。金は払う。」
「わかった、今日のうちに聞いておく。夜は宿にいるのか?」
「ああ、いるよ。」
この町には宿が二軒しかないので、どこに泊まってるかすぐに情報が入るそうだ。
「じゃあまた夜に伝えに行く。パン屋の先の宿だろ?」
「そうだ。すまない、助かるよ。お礼だ。」
そう言うとおばあちゃんは門番さんにお金を少し握らせる。
「ありがとう、酒代の足しにする。じゃあまた今晩な。嬢ちゃんもまたな。」
にこりと笑って手を振った。
思ったより早く馬車の当てが見つかったので、お昼用に野菜と魔猪肉を包んだラップを買って、宿に帰ってルーナの魔力感知の練習をすることになった。
今日の練習もおばあちゃんに魔力を流してもらって体内に意識を集中させる。一人でやるより魔力の動きが感じやすくなるらしい。おばあちゃんの魔力はすぐに分かるが、自分の魔力は難しい。二時間程やっていると、じっと深く集中すれば微かに分かるようになった。微かにだか一歩前進した気がする!!
お腹が空いたのでお昼にする。お昼のラップは甘辛いソースと、酸味の効いたソースの二種類から選べたので、一つずつ買っておばあちゃんと半分こした。うーむ⋯、甲乙つけ難い⋯。
お昼の後も練習の続きをしたが、お腹いっぱいになると全然分からなくなった。食べ物を消化しようと内蔵が動いているのがわかる⋯。そうじゃない!満腹なときに集中するって無理だよね。効率が悪いので文字の勉強を教えてもらうことになった。
文字の勉強は前世の記憶を思い出した分簡単になった。文字自体は全然違うが、単語の理解や規則性の理解がただの5歳児のときより格段にしやすい。
お腹が落ち着いてきたら、また魔力感知の練習に戻る。やっぱり微かに分かる程度までしかできなかった。一人でも感知できるようこれから毎日練習しようと思う。
食堂で夕食を食べていると、門番さんがやってきて馬車に乗せてもらえると伝えてくれた。明日の午前中に出発するそうだ。部屋に戻る前に、宿の女将さんに明日出発することを伝え、清浄をかけてもらいベッドに潜り込む。
「おばあちゃんおやすみ。」
「おやすみ。⋯⋯睡眠。」
◆◆◆◆◆
今日もマーリンはルーナを寝かせた後、ティモロ町に来ていた。昨晩は幻術で姿を消してエレノアを尾行していたら、丁度密会の現場に潜り込めた。生存の可能性があることに気づかれたのは面倒だと思ったが、共犯者を見つけられたのとエレノアが逃げる前に消せたのは運が良かった。
今尾行しているのは息子の補佐をしていた男。こいつが今回の首謀者だ。息子の幼なじみで昔から子分のように振舞っていたが、従っているように見せかけて小狡く、息子を使って甘い汁を吸っていた。今回もバカな息子への悪感情が高まるように、上手く立ち回って町長の座を奪うつもりでいたのだろう。
気配を消し、人目が無くなるのを待つ。目撃者がいないのを確認すると、男の腕を掴んで転移する。
「⋯なんだ?」
「久しぶりだな、ダリル。」
「げっ、やっぱ生きてたかぁ。ここどこだ?どうやったんだ?それにやっぱちびも生きてんのか?」
悪びれる風もなく質問を次々と投げかけてくる。
「あんたに教える必要はないさ。寝不足続きで参ってるんだ。今日は早く帰りたいんでね、さっさと終わらせるよ。」
ダリルは余裕そうな態度を崩さない。
「何言ってんだ?ばあさんが俺を殺るつもりか?ぐはっ!笑える!お前ら家族はほんっとバカだな!ははっ!勝てると思ってんのか?」
腹を抱えて笑い出した。
「乾砂。」
「なっ⋯⋯。」
砂の山が一つ増えた。
「さて帰って寝ようかね。」




