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万能薬を飲まされ長寿になった私は安住の地を手に入れたい。  作者: おもち
第二章 グランディール帝国の旅

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32.奴隷の元騎士




 ルーナたちを乗せた馬車は、東の方角へ、いつも通っていた森を迂回するように道を進んで行く。今回は乗合馬車で、座席がある分前回の馬車移動よりはお尻へのダメージが少ない。向かう場所もプロスペール侯爵領内の隣町だ。


 次の町の名前はアンバーナ町。プロスペールの南門から出て、馬車で一時間半の町だ。

 町の周りには小麦畑が広がっていて、今の時期は土から顔を出したばかりの小さな青い芽が規則正しく並んでいる。ゆっくりと羽根を回す風車がぽつりぽつりと佇み、収穫前を想像すると、周りで重く垂れた麦の穂が波打って琥珀色に輝く、ノスタルジックな情景が目に浮かぶ。

 町は塀で囲まれているが、プロスペールの城壁を見た後だと頼りなく思える。ど田舎のティモロ町に比べたら立派な塀なんだけどね。


 ルーナたちは町の前の停留所で馬車を降り、門へと向かう。門には門番さんが二人。プロスペールから来た馬車に乗って来たのが分かっているためか、簡単なチェックだけで町へと入れた。薬師ギルドのギルドカードを使うとおばあちゃんの居場所がすぐにバレてしまうため、今回は早速ジェイドたちの紹介状を使った。


「ああ、ジェイドさんたちの紹介ですか、どうぞ。」


 紹介状を見せるとこれだけで済んだ。Aランク冒険者の名の信頼は絶大だ。


 アンバーナ町の主産業は小麦栽培のようだが、大きな街から近いためか、お店の数も多い。

 宿も何件かあったので、おばあちゃんが一番きれいそうな宿を選んだ。おばあちゃんはこの街に何か用があるらしく、今日はここで一泊する。セリーナさんの宿と同じくらいの大きさだが、部屋数が多く少し狭い。長期の宿泊でなければ十分だ。食事は出ないが、宿の隣に食堂が併設されている。宿の中にあるより静かでいいかもしれない。


 宿をとった後は、早速町の散策に出かけた。想像していた通りだが、小麦を使った料理を出す店が多い。


「あ、おばあちゃんここパスタあるよ。」


「いいねぇ。昼は女将のお弁当があるから夕方また来よう。お、デザートはここのケーキにしよう。」


 すぐに今日の夕食とデザートが決まった。


「ここは風車が多いようだね。一番大きいのは⋯あそこの風車を見に行ってみようか。」


「うん!」


 おばあちゃんの言う通り、町の中でも風車が回っている。気になるので一番目立っている大きな風車を見に行くことにした。

 近くに来ると、回っている四枚の羽根は大きくて迫力がある。風車小屋からは、袋詰めされた粉を運び出す人の姿が見える。どうやらこの街の風車は、粉挽きをするための物のようだ。ここで作られた小麦粉が、帝都やプロスペールの食卓を支えているのだろう。


 そんなことを考えているとお腹が空いてきたので、この辺りで座れる場所を探して、風車を眺めながらお弁当を食べることにした。

 お弁当の中身は、ベーコンとポテトのキッシュ、野菜のマリネ、カレー味で焼いた魔鳥肉だ。


 あれ?カレー味?プロスペールにカレー粉を売っている店などない。スパイスを調合して一から作らなければカレーは作れないはずだ。


「女将さんすごい!カレーの研究までしてたんだね。」


「さすがだ、もう少し長くいたらカレーが食べられたかもしれないね。」


 ルーナがカレー好きだと知って、一生懸命研究してくれていたのかなと思うと、また涙が溢れそうになった。


 お弁当を食べ終わると、おばあちゃんはルーナを連れて商業ギルドへと向かった。なんの用事だろう?

 この町の商業ギルドはプロスペールほど大きなギルドではない。中へ入るとカウンターは三ヶ所だけで、そのうち一つに新規と書いてある。とりあえず最初はあそこに行けということだろう。分かりやすくていい。おばあちゃんとルーナが新規のカウンターに行くと、女性の職員さんが対応してくれた。


「初めての方ですね。今日はどのようなご要件でしょうか。」


「ああ、奴隷商を紹介してもらえないかと思ってね。」


 はい!?


 ルーナは目を丸くしておばあちゃんを見上げた。奴隷を買うなんて聞いていない。まさか用とはこのことだったのだろうか。


「奴隷の購入希望ですね。奴隷商の店でしたら、この角を右に曲がって、この、少し行ったところの左手の建物です。」


 職員さんがおばあちゃんに地図を見せながら、奴隷を買える店を教えてくれている。ルーナは唖然としながらその様子を見ていることしかできない。


「ありがとう。」


 おばあちゃんは職員さんにお礼を言うと、ルーナを連れて商業ギルドを出た。


「おばあちゃん、奴隷ってどういうこと!?」


 商業ギルドを出るとすぐにおばあちゃんを問いただした。


「ああ、この先私たち二人だけだといろいろと面倒だろう?プロスペールではジェイドたちがいたから良かったが、町の外を護衛もなしに歩いているだけで不審に思われる。私は賢者だから心配しなくても大丈夫だと言えればいいんだがな。奴隷ならば契約魔術で縛れるから秘密も漏れない。だから見た目が強そうな奴隷を雇おうと思ってね。」


「なるほど⋯。」


 ルーナは言わずもがな、おばあちゃんは一見強そうには見えない。たしかに二人だけだと面倒だ。無用なトラブルで正体バレしないためにも、一人は強そうな人がいた方がいい。


 奴隷のお店は、怪しげな裏路地⋯ではなく、普通の雑貨屋さんや民家が並ぶ通りにあった。店の中も明るく、清潔感のある空間だ。ルーナたちはソファーに案内されると、奴隷たちの情報が載ったカタログを渡された。先ずはこの中から気になった人を選ぶらしい。

 ここにいる奴隷たちは借金奴隷だけだ。犯罪奴隷は完全に国が管理しており、個人のやり取りでは扱えない。借金奴隷になるのも、借金を返せなくなった人が借金額に応じて決められた期間働いて返す、救済システムのようなものだ。契約魔術で、犯罪行為や明らかに危険な場所で働かされたりなどはできないようにしている。


「どのような人材をお探しですか?」


 奴隷商のおじさんも、丁寧に対応してくれる。この国での奴隷商は、国の厳しい審査や試験を通り、契約魔術の使用を許されたエリートだ。


「見た目が強そうな男性を探している。今は旅の途中で、こう見えてもその辺のやつには負けない自信があるんだが、私とこの子だけだといちいち面倒が多くてね。だから戦闘力はあってもなくてもいい。一緒に旅する予定だからまともそうなやつで頼む。」


「それでしたら⋯⋯この男性がよろしいかと思います。最近奴隷になったばかりの元騎士です。お値段は高めですが、元貴族で教養もあります。条件には合うでしょう。何年くらいの契約をご希望ですか?」


 それから暫くおばあちゃんと奴隷商さんは細かい契約内容を話し合って、とりあえずその男性と会わせてもらうことになった。これで問題なければ契約するらしい。


 奴隷商さんに連れられてきたのは、33歳の元騎士の男性。赤毛の短髪で、がっしりしていて強そうだ。元々子爵家の三男で、家族に借金を押し付けられて奴隷になったそうだ。この人も家族に苦労させられたのかと思うと妙な親近感がわいた。


「問題ないね。契約するよ。」


「ありがとうございます。では、先程のご相談の通り、30年の契約で白金貨8枚と大金貨3枚になります。」


 高っ!!

 あれ?でも、今朝渡していた超級ポーションが1本白金貨1枚ってジェイドが言ってたな⋯。そんなに高くない?


 ルーナの感覚はおばあちゃんのせいでおかしくなっていた。帝都に土地を買って家が建つ値段だ。


「これでいいかい?」


「はい、たしかに。」


 おばあちゃんはさらっと白金貨8枚と大金貨3枚を支払って契約魔術を結んだ。


「これからよろしく頼むよ、リアム。私の名前はマーリンだ。それでこっちは孫のルーナだ。」


「ルーナです。リアムさん、よろしくね。」


「リアム・ジーグレインと申します!どうぞよろしくお願い致します!それからルーナ様、私は奴隷なので、敬称は不要です。」


「わかった。私も平民の子供だから、様は目立つしいらないよ。」


 リアムはすごく真面目そうだ⋯。


 それからルーナたちは店をまわって、リアムの身の回りの物を買い揃えた。宿の部屋ももう一部屋追加し、そこで奴隷用の簡素な服から新しく買った旅用の服に着替えてもらった。武器屋で買った剣も装備すると、とても強そうだ。


「よし、いい感じだ。とりあえずこれでいい。」


 おばあちゃんも満足したらしい。リアムがいれば、徒歩で町を移動しても不審に思う人はいないだろう。


「ありがとうございます!それで、私は何をすればいいのでしょうか?」


「ただ同行してくれればいい。」


「えっと⋯。」


 元騎士で戦闘力も高く、教養もあるリアムは奴隷の中では高額だった。それがまさか、ただ同行してもらうだけの仕事をさせられるとは思ってもみなかったのだろう。リアムは戸惑っているようだ。


「お互いのことは後でゆっくり話そう。それより食事の時間だ。」


「パスタだね!」


「はあ。」


 きっと今話したところで戸惑うのは同じだろう。今は美味しいパスタの方が優先だ。


 そうして足早にパスタの店に向かい、中へ入ると、空いていた窓側の席に座った。おばあちゃんは魚介系のスープパスタ、ルーナとリアムはミートソースパスタを頼んだ。具が沢山入ったパスタもいいが、今日はコクのあるミートソースを味わいたい気分だ。

 注文してから10分程で、ルーナの元へとパスタが運ばれて来た。美味しそうなミートソースの匂いだけで生唾が湧く。ルーナが思っていたような挽き肉ではなく、肉はゴロゴロと大きめだ。パスタと絡めて口へ運ぶと、トマトの酸味や玉ねぎの甘みと共に、肉の旨みがジュワッと広がって美味しい。小さな体のルーナだが、一人前をペロリと平らげだ。


「リアムはそれで足りるの?」


 リアムはルーナの体重の五倍くらいはあるだろう。一人前じゃ足りない気がする。


「自分のことはお構いなく、奴隷になってこんな美味しい食事を頂けるとは思っていませんでした。」


 奴隷商のところでは、皆平等にパンとスープだけだったらしい。ルーナたちは贅沢な暮らしをしている方で、この世界の平民なら割と普通だ。


「好きなだけ頼みな。私もまだ食べる。リアムが痩せ細って弱そうになったら困るしね。食べるのも仕事だ。」


 おばあちゃんもまだ足りなかったらしく、ワインとグラタンを追加した。


「では⋯遠慮なく⋯。」


 リアムもやはり足りなかったらしく、なんと三人前も追加していた。見ていて気持ちがいいくらいの食べっぷりだ。もしかしたら三人前でも遠慮していたのかもしれない。


 そして、パスタの次はデザートのケーキだ。ルーナは一つでお腹いっぱいだったが、おばあちゃんとリアムは四つずつ食べた。リアムはともかく、おばあちゃんは甘味専用の胃袋でもあるのだろうか?

 ふと前世世界の芸人さんが言ってた、ゼロカロリーになる理論を思い出す。

 潰したら小さくなるもんね⋯。きっとそうだ…。カロリーは空気中に抜けていっているんだ⋯。

 ルーナは自分にそう言い聞かせて無理やり納得した。


 その後は宿に帰ってそれぞれ休んだ。この宿は湯船がないので、久しぶりに清浄(クリーン)の魔術をかけてもらった。


「おばあちゃん、まだ清浄(クリーン)の魔術は教えてくれないの?」


「無理ではないが、基礎をしっかりさせてからの方がいい。」


 おばあちゃんがそう言うなら言うことを聞いておこう。ジェイドも魔力コントロールは大事だって言ってたしね。

 そしていつもの練習をして、ルーナは眠った。




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