26.お祭り最終日(前編)
3005年10月12日
今日はお祭り最終日だ。おばあちゃんも救護所のお手伝いは昨日までで、今日は一緒にお祭りを回れる。ジェイドも一緒だ。そしてルーナは今日もハムタリアンを着せられている。
「ばぁさんはこれな。」
そう言ってジェイドはおばあちゃんに何かの衣装を手渡した。紫紺色に、金の刺繍ときれいな青の石も付いている。
「私にもあるのかい。一体なんの衣装だい?」
ジェイドに尋ねながらおばあちゃんが衣装を広げてみる。
あ、もしかして⋯
「賢者だ。」
「ブハッ、おばあちゃん、ピッタリだね。」
笑いを堪えきれずに吹き出してしまっておばあちゃんに睨まれた。
「だろ?ばぁさんにはこれしかねぇと思ったんだ。」
「あらぴったりね。」
「似合いそうですね。」
女将さんとフェルナンドさんまで賛同している。おばあちゃんも観念して着るしかないだろう。
「そうかい、折角用意してもらったし着るかね。」
おばあちゃんは溜息を吐きながら二階の部屋へと着替えに向かった。
「ねぇ、あの衣装も特注なの?」
「ああ、おチビのと一緒に頼んでおいた。」
一番お祭りを楽しみにしていたのはジェイドなのかもしれない。それにしても衣装選びのセンスがいい。まさか本物の賢者に賢者の仮装をさせるとはさすがだ。
「おばあちゃん絶対眉間に皺寄せて出てくるよ。」
ルーナはあの衣装に着替えて出てくるおばあちゃんを想像してクスクスと笑う。
数分後、衣装に着替えで部屋から出てきたおばあちゃんはやはり眉間に皺を寄せていた。
「やっぱり!ばぁさんなら似合うと思ったんだよ!」
「ジェイド、討伐してやろうかい?お前は魔王だろう?」
嬉しそうに笑う魔王ジェイドに脅しをかける賢者マーリン。魔王の命はもう長くないかもしれない。
「身内に気をつけろってこういうことか!?勘弁してくれ、俺は友好的な魔王なんだ。な、ハムタリアン。」
そう言ってハムタリアンのルーナを抱き上げ盾にする魔王。卑怯だ。
「クスクス、楽しそうだね。俺も今日は午後から合流するよ。先に楽しんでて。」
最終日の今日は、クロシェットの追加はあまりいらないので、午後からは女将さんが販売にまわれるそうだ。
「まずは朝飯だな。賢者様は何か食べてぇもんあるか?」
「甘い物が食べたいね。」
今日もルーナはジェイドに抱かれたままだ。疲れないし祭りがよく見えていい。おばあちゃんのリクエストに応えて、まずはクロシェットの店を何ヶ所か回り、唐揚げとおやきのような物を買って、昨日と同様ステージの前に座った。今日はおばあちゃんが薬草茶を持参している。
「今日は何のステージなの?」
ステージには学校にあるような机と椅子が6席分並んでいる。
「これから学院主催のクイズ大会の決勝だ。」
「面白そうじゃないか。」
「楽しそう。」
そんな大会もやってたんだね。知らないところでも様々な大会が開催されているようだ。
朝ごはんを食べながら待っていると、司会の男の子が出てきた。学院の学生らしい。
男の子が拡声の魔導具で決勝戦の開催を宣言し、出場者が並んでステージに出てくる。クイズ大会の出場は9歳からだそうで、部門は別れていない。出てきた6人のうち、2人が学院の制服を着ている。
司会の男の子が簡単に6人の紹介をして、クイズが始まった。出された質問の答えを用意された紙に書いて、正解した数を競うようだ。
「第1問!この街のこの祭りで毎年開催されているクロシェットの大会。昨年の優勝者の名前は?」
そんなの知るか!と思ったが、この街の住民にとってはサービス問題らしい。
「簡単だな。サフィラだろ?」
回答者たちも書き終わるのが早い。
「時間です!回答者の皆さん、紙を見えるように向けてください!」
回答者の紙にはジェイドの言った通り皆、サフィラと書いてある。
「正解は⋯サフィラ!!皆さん正解です!これはサービス問題ですね。次からは難しくなります!」
今年もし女将さんが優勝したら、この街の有名人になるんだね。
「では第2問!なんでも治すと言われている幻の薬、万能薬。では、万能薬の素材で特に集めるのが難しいと言われている三種の素材はなんでしょう?」
「なんだ常識じゃないか。」
「そればぁさんだけだろ!そんなあるかどうかも分からねぇ薬の材料なんか知らねぇよ!」
だよね、飲んだルーナだって二つしか分からない。うんうんとジェイドに同意して頷く。
「まだ悩んでいる方もいるようですが、時間です!紙を前に向けてください!」
魔王の心臓、竜の爪、竜の鱗、竜王の鱗、人魚の涙、ユニコーンの角、世界樹の葉、世界樹の枝⋯回答はバラバラだ。
「正解は⋯魔王の心臓、竜王の鱗、世界樹の葉です!正解は二人ですね!」
「「へーそうなんだ。」」
たぶんルーナが作ることはないだろう⋯。
「覚えときな。」
心の中を見透かされたようで、おばあちゃんに冷ややかな目で睨まれた。こわいこわい。
問題は第10問まで続き、正解数の多かった二人がこれからまた戦うようだ。ルーナたちはここまでにして、出店回りを始めた。
ジェイドに、甘い物好きならいい店があると言われて、中央通りを途中で右に曲がった。こっちに行くと職人街がある。この辺りは職人が作った工芸品や道具などの店が並んでいて、見ているだけでも楽しい。
そして、連れてこられたのは飴細工の屋台だ。色とりどりの花や動物、魔物の形をしたきれいな飴が並んでいる。
「わぁー!かわいい!」
「これは⋯、きれいだねぇ!」
ルーナも嬉しかったが、おばあちゃんがそれ以上に目を輝かせて喜んでいる。
「だろぉ?きれいだよな。」
「うん!」
「ああ。」
おばあちゃんはこの店に並んでいた飴の半分を買った。これでも全部買い占めたらいけないと遠慮して半分にしたらしい。宝物のように大事にアイテムバッグにしまっていた。おばあちゃんは飴細工を見るのも初めてのようで、これが全部飴でできているのかと感動していた。
飴細工の店の後は、中央通りに戻り、南門の方へ向かった。歩いていると、「賢者様だ!」という声が彼方此方から聞こえてくる。賢者の衣装を着た人はたまに見かけるが、おばあちゃん以上のクオリティの人はいない。
「おばあちゃん注目浴びてるね。」
「俺の中ではハムタリアンも負けてねぇが、ばぁさんはなんか自然だよな。」
まぁ、本物だからね、と心の中で呟く。
「歳のせいだよ。」
そう言っているが、おばあちゃんは賢者としての振る舞いが堂に入っているのだと思う。
南門前に出ると、スープの炊き出しをやっていた。この炊き出しは食品を扱う商会が毎年やっているらしい。美味しそうな匂いだ。沢山の人が並んでいる。
ルーナたちも列に並んで待っていると、おばあちゃんのところに近くにいた子供たちが寄ってきた。
「賢者様だ!」
「すげー!本物だ!魔術見せて!」
「なんかやって!」
おばあちゃんは相手が子供だからか、仕方ないねぇと言って、何かを見せてあげるつもりのようだ。ルーナとジェイドも興味があるので二人でニヤニヤしながら見ている。
おばあちゃんが大きな魔石の付いたロッドを、懐から出したように見せかけて、アイテムバッグから取り出した。それだけで「おおおおお!」と声が上がる。
「あれ本物だろ。」
「だね。」
ロッドを掲げ、魔力を込めるとロッドの先の魔石が光り、光でできた小鳥たちが、子供たちの周囲を飛び回る。そして、小鳥は空へと舞い上がり、光の粒となってキラキラと雪のように降り注いだ。光の粒が子供たちに触れると小さく弾けて消える。美しく幻想的な光景だ。子供たちだけでなく、周囲にいた皆から「わああ。」と感嘆の声が上がった。
「⋯さすが賢者様だな。」
見入っていたジェイドからもそんな声が吐息とともに小さく漏れた。
スープの列が進み、ルーナたちの番になると、スープを配っていた人からも、いいもの見せてもらったからと言って多めによそってもらえた。
少し目立ってしまったので、人の少ない方まで歩いてくると、ここでも何かの大会をやっている。何の大会なのかと周りで見ていた人に聞いたところ、一時間でひたすら銅貨を高く積み上げる大会だそうだ。見学するには地味な大会だ。優勝者は積み上げた分の銅貨がもらえるらしい。
「こんな地味な大会もあるんだね。」
「たまたまでも優勝すりゃ積み上げた分もらえるんだから、参加するやつにはいいんじゃねーの。」
「食べながらぼーっと見てるくらいで丁度いいね。」
ルーナたちは銅貨の積み上げ大会を眺めながら具沢山な美味しいスープを食べた。お祭りの賑やかさから少し離れてホッとした気分になる。そして、食べ終わってまたジェイドに抱っこされていると眠くなってきた。
「なんだハムタリアンはお眠か、よちよちリバーシ大会まで寝てろ。」
ハムタリアン姿だと甘やかしモードのジェイドに背中をポンポンされる。
「ふっ、随分慣れてるじゃないか、ジェイド。」
「うるせぇ、起きちまうだろ。」
ルーナは眠気に抗えず、眠ってしまった。
◆◆◆◆◆
ルーナがすやすや眠っている頃、勇者カインは冒険者ギルドを訪れていた。
昨日は怪しい場所を聞いて回ったが、オルランドを殺ったやつの情報が出てこねぇ。祭りは今日までなのに埒が明かねぇ。俺に不自由させないようにとか言われてつけられた、見張りらしきやつらも邪魔だ。
「ギルド長に話がある。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
「俺が話があるって言ってんだ、いいから通せ。」
対応したギルド職員にそう命令し払い除けると、許可の返事も待たぬまま、まるで自分の屋敷であるかのようにギルド長室の前まで歩いていった。
「お前らはここで待ってろ。ギルド長と内密な話がある。」
世話係として付けられた見張り役たちにもそう告げて、勇者カインは一人でノックもせずにずけずけとギルド長室へと入っていった。
「勇者様!?」
グレゴリオも驚いたようで、椅子から立ち上がって何事かと目を泳がせている。
「二人きりで話したい。他のやつは入れるな。」
勇者カインは部屋に入るなりそう告げて、来客用の椅子にどかっと座った。この部屋にいたのは元々グレゴリオだけだ。勇者カインの他に、ノックもなしに勝手に入ってくる人間はいないだろう。
「承知しました。それで、私に話とは?」
勇者カインの勘では、まだグレゴリオが情報を隠していると踏んでいる。調べて見つかればそれでも良かったのだが、何も出てこないので強硬手段に出ることにしたのだ。
「単刀直入に聞く。お前、まだ俺に隠してることあるだろ?」
「それはなんのことでしょう。私には心当たりがございません。」
平然とした顔でグレゴリオはそう言い放った。
「まぁいい。」
勇者カインは立ち上がり、ゆっくりと部屋の中を歩き出した。
グレゴリオは執務机の前に立ったまま、警戒しつつも悟られぬよう、平常心を装っている。
「なぁ、知らねぇやつが自分のところの冒険者殺して、こいつが誘拐犯でしたって死体持ってこられて、普通信じるか?」
勇者カインは少しずつグレゴリオの方へ近付いて行く。
「あ?どうなんだ?」
「機密情報です⋯お答えいたしかねます⋯」
声が震えないよう、必死に力を込めている。
「お前ら、本当はオルランドを殺したやつのこと、知ってるんじゃねぇか?」
グレゴリオに手が届く距離まで近付いた。グレゴリオの額からは汗が流れている。
「いえ⋯」
「そうか。」
そう言いながらグレゴリオの頭に宥めるように優しく手を置いた。
「隷属。それでそいつはどこにいるんだ?」
ほとんど抵抗もできずにグレゴリオは隷属させられた。
「フェルナンドの家の宿に泊まっています。」
「そうか、昨日一緒にいたばばぁだったか。」
勇者カインは不敵な笑みを浮かべた。
「そうだな、俺のことがバレると面倒だから、今日ギルドの仕事が終わってからでいい。バレねぇようにそのばばあを殺して転移の魔導具を探してこい。邪魔するやつも殺せ。俺の奴隷になってることは絶対にバレねぇようにしろよ。普段通りに仕事して普段通りに生活するんだ。わかったな?」
「承知しました。」
「よし。」
たしか昨日はフェルナンドも宿の前で菓子売ってたよな?
ふと昨日のフェルナンドの姿を思い浮かべてほくそ笑む。
そして、何事も無かったかのようにギルド長室を出ると、ここにはもう用はないとばかりに早足で次の目的地へと向かった。




