25.お祭り二日目(後編)
占いのお店を後にして、気になる出店を探しつつ、二人はリバーシ大会の会場へと向かっている。今日からは、それぞれの宿で勝ち残った者たちが戦うトーナメント戦だ。一度負ければそこで終わり。ルーナも昨日とは違い、緊張でそわそわしている。その様子を察してか、ジェイドがルーナのヒリついた空気を鼻で笑い飛ばした。
「ふっ、子供の部ならおチビが優勝だろ。学生の部で出てもいい線行けるんじゃねぇか?」
「油断大敵だよジェイド、ここにいるのは宿の予選を勝ち残った猛者達なんだからね。」
ルーナは昨日一戦しかしていないが、予選会場の宿に集まった人数によっては、何戦もして勝ち上がってきた猛者がいるかもしれないのだ。余裕だと気を抜いて負けるわけにはいかない。ルーナは真剣な目をして気合を入れている。
「はあ、俺はお前と当たるやつが不憫でならねぇ。」
ジェイドが何か呟いた気がするが、ルーナの耳には届かない。
会場の宿に到着すると、ジェイドはやれやれといった感じで、まあ程々に頑張れよとルーナを送り出した。
ここにいるのは16人。今日はこの中からベスト4まで決められる。さすがにルーナよりも小さい子はいないようで、初戦でルーナと当たればラッキーみたいなことを言っている子達もいる。
お前らの顔は覚えたからな、と聞き捨てならない発言をした子供達に、ルーナは心の中で宣戦布告した。
そして、対戦相手を決めるくじ引きが始まった。受付を済ませた順番に、箱の中から番号が書かれた紙を取り出す。ルーナが引いたのは3番で、4番を引いた子と戦うことになる。
ここには4セットのリバーシがあり、3番のルーナが戦うのは2巡目だ。自分達の番を待っている間に、残った子供たちで各々対戦相手を確認する。
「俺4番、3番は誰だ?」
すぐに見つかった。今度の相手は7、8歳の男の子だ。ルーナは3番の紙を見せながら、その男の子に近づいて声をかけた。
「3番は私だよ、よろしくね。」
男の子は上から見定めるようにルーナを見て首を傾げた。
「お前いくつだ?」
「5歳だよ。」
「だよな、やっぱ見たまんまか。」
どうやらこの男の子は強い相手と戦いたいようだ。相手が5歳のルーナでは不満らしく、明らさまにつまらなそうな顔をして、お前じゃ相手にならないとでも言いたげだ。
「だいたいお前、ルールはわかるのか?」
思いっきり馬鹿にしている。子供の部は人数が少ないので、誰とも戦わずに運良く本戦出場できたとでも思っているのだろう。強い相手がお望みなら、お望み通り手加減は一切なしだ。
「心配しなくても大丈夫だよ。」
すぐにボコボコにしてあげるからね、と心の中で付け足して、にこりと笑顔を向けた。
「あっそ。」
もうルーナへの興味は失ったようで、1番と2番の子達の対戦を見に行っている。ルーナは徹底的にやり込めてやると心に決めた。
そして、ルーナたちの戦いが始まった。序盤から、ひたすら数を多く取れるところにばかり石を置く男の子。ルーナは男の子が石を置ける場所の選択肢を減らしていく。半分くらいのマスが埋まると、とうとう男の子は角の隣のマスに石を置くしかなくなった。そこに置いたらルーナが角を取れるような状態だ。男の子もそれを分かっているのだろう渋々といった感じでそこに置いた。そこからは形勢逆転だ。ルーナが沢山あった男の子の石を次々にひっくり返していった。最後に残った男の子の石は4つだけ。またもやルーナの圧勝だ。対戦相手の男の子は俯いて暗い顔をしているが、馬鹿にしたのが悪いのだ。
「ジェイド勝ったよー。」
「だろうな。序盤は相手が勝ってるように見せかけておいて嵌めただろ。どう考えても5歳の子供のやり方じゃねーんだよ。」
ジェイドには相手が可哀想だからもう少し手加減してやれと言われた。
なので、次の対戦もルーナが勝ったが、今度は負けない程度に石を残してあげた。たしかにさっきは馬鹿にされたことに腹を立てていたのもあるが、またやりすぎていたかもしれない。
今日の対戦が終わって、ルーナたちはまた出店回りに戻ることにした。
「お、あそこの酒場は激辛魔猪肉煮込みか、挑戦してきていいか?」
ジェイドは辛いもの好きなので興味があるようだ。制限時間15分以内に完食すると、壁に貼ってある大きな紙に名前が書けるようで、完食した人達の名前が沢山並んでいる。辛いもの好きな人ならなんとか食べ切れるくらいの辛さなのだろう。ルーナは食べ切れる気がしないので、ジェイドの隣で応援に専念することにした。
待つこと数分、ジェイドの元にも熱々の煮込みが運ばれてきた。匂いは美味しそうだが、汁は赤くて見るからに辛そうだ。
一口目、ジェイドが慎重に、少しだけ掬った煮込みを口に入れる。
「これならいけるな。」
よしよしと頷いて、初めのうちは余裕だとばかりにテンポ良く煮込みを口に運んでいた。
だが、
「うーわ⋯、だんだん口が痛くなってきた⋯。」
あとから来るんだよね、こういうのって。三割ほど食べたジェイドの顔からは大量の汗が噴き出している。時間はまだあるが、明らかにペースが落ちてきた。
最終的に、最後の1分になって涙目になりながら、残りを気合いと根性で口に詰め込んでいた。そして店主に合格をもらうと、誇らしそうに壁に名前を書いて店を出た。祭りが終わって暫くは、出店を出していた酒場にこの紙が張り出されるらしい。
日が傾き始めた頃、一通り出店を見て回って中央広場に戻ると、ステージでは侯爵軍の騎士たちによる、剣舞の披露が始まった。魔術を使った演出がされていて、4人の騎士たちが剣を持って舞うと同時に炎も舞う。騎士たちの一糸乱れぬ動きと相まって、見応えのあるステージだ。
ルーナたちは剣舞を観ながら飲み物を飲んで休憩している。ルーナは果実水でジェイドはお酒だ。
「すごい迫力だね、これ毎年やってるの?」
「ああ、ここの名物だ。俺ら冒険者じゃああいう統率された動きはできねぇ。日頃の鍛錬の賜物って感じですげーよな。」
ジェイドはこの剣舞が好きで、毎年観ているそうだ。憧れの眼差しで騎士たちの剣舞を観ている。冒険者の剣士として優秀でも、それとこれとは全然別物のようだ。
剣舞が終わり、ルーナたちは一度戻ろうと宿に向かって歩いていた。皆が揃ったらまた、夕食に串焼き肉をもらいに行く予定だ。
「あら、今日はハムタリアンなのね。ハムタリアンも可愛いわね。」
途中、昨日クロシェットを買いに来てくれた恋の精霊のおばさんに声をかけられた。今日のおばさんの頭の上には、モフモフの猫耳らしきものが乗っている。
「ありがとうございます。今日は⋯猫ですか?」
「そう、猫の獣人よ、自分で作ったの。」
「えっ!すごい!」
まさか自作とは思わなかった。なかなかクオリティが高い。ついでに尻尾もちゃんと付いている。
「そうそう、今日の昼間勇者様に会ったのよ!なんだかセリーナさん家の宿のことを聞いて回ってたみたいだけど、何かあったの?私もどんな人が泊まってるか知らないかって聞かれたわ。」
ルーナはジェイドと顔を見合わせる。勇者カインは、実行犯を殺した人を探しているのだろう。
「宿で何かあったわけじゃねー。勇者は探してる物があるらしくて、昨日宿にも来て俺らも聞かれた。勇者がなんで宿のことを聞き回ってるかは俺も知らねぇな。」
「あらそうなの、なんだかよく分からないけど早く見つかるといいわねぇ。」
おばさんも近所で何か起きているのではないかと心配そうだ。
おばさんと別れて宿に戻ると、ジェイドが皆にこの事を報告した。おばあちゃんも既に戻っている。
ところで実は、ルーナは薄々勘づいていて、気になっていることがある。皆が隠したがってるようなので、ルーナはずっと聞くのを躊躇っていたのだが、ジェイドやフェルナンドさんたちが、勇者カインへの対策を話し合っている間に、おばあちゃんに小声でコソッと聞くことにした。
「ねぇ、やっぱり誘拐の実行犯殺したのっておばあちゃんなの?それと、誘拐犯ってオルランドさんだったんじゃない?」
「おや、バレてたのかい。ルーナがショックを受けるかと思って黙ってたんだが、バレたなら仕方がないね。」
隠したがってるようだからずっと聞かずにいたのに、おばあちゃんは隠していたお菓子が見つかっちゃったくらいの調子でさらっと認めた。
「あぁ、⋯バレちゃったんですね。」
他の皆は心配してくれているのか気まずいのか、ルーナの様子を伺っているのが分かる。すごく居心地が悪い。
こういう空気になると思ったから小声で聞いたのにと思ったが、二人きりの時に聞くべきだったのだ。後悔先に立たず⋯どうしようかこの空気?
「まあ、さておき、オルランドを殺したのが私だと知っているのはここにいる人間と、後は冒険者ギルドのギルド長だけかい?」
おばあちゃんが場の空気を流すように平然と質問したことで、気まずい空気は霧散した。
「ああ、そのはずだ。グレゴリオが漏らしてなきゃな。」
「なら勇者がいくら近所で聞き回ったところで、ギルド長から漏れなければ、私がやったとは思わないだろうさ。」
「たしかにそうですね。気にしすぎも良くありませんね。」
「その通りだな。」
「そうね、さすがにギルド長なら大丈夫よね。」
「ああ、腹減った。串焼き肉もらいに行くぞ。」
あれ?フェルナンドさんのこと喋ったのってグレゴリオさんじゃなかったっけ?となんか嫌な予感がしているのはルーナだけなのだろうか⋯。
その後は今日も皆で中央広場に行って串焼き肉をもらった。
「今日もいるみたいだね。」
勇者がいると周りがざわつくのですぐに分かる。
「ああ、こっち見てるな。おチビとばあさんのことも確認してんじゃねーか?」
おばあちゃんはというと、素知らぬ顔で肉に齧り付いていた。ルーナも強くなればあれくらい図太くなれるのだろうか?と少し羨ましく思う。
「⋯まあ、おばあちゃんなら大丈夫じゃない?」
「⋯みたいだな。」
串焼き肉を食べた後は、相変わらずジェイドに抱かれたまま、昨日と同様に屋台を回り、ファビエラさんにもお土産を買って帰った。今日はほとんど歩いていない気がする。
ジェイドは寝る時もハムタリアンの衣装を着せて一緒に寝るつもりだったようだが、さすがに暑苦しいのでハムタリアンの衣装だけは断固拒否した。占いで言われたことをおばあちゃんに説明して何やら交渉し、ルーナと寝る権利は勝取ったようだ。
今日はジェイドの部屋に桶を持ってきて、いつものように水魔術の練習をする。ルーナが水の矢を作っていると、ジェイドは驚いたようだ。
「おい、おチビ、もうそんなことまでできんのか。」
「これって基礎なんじゃないの?」
ルーナは何に驚かれたのか分からず首を傾げる。
「まあたしかに魔力コントロールは基礎だけどよぉ、冒険者でも低ランクのやつらなんて、魔力量に任せて打ち出すことしかできねぇのばっかだ。的に当てるだけがコントロールじゃねぇのにな。さすがはばあさんの孫だな。」
おばあちゃん以外の人にそう言われると嬉しい。いや、おばあちゃんに言われても嬉しいけどそれ以上だ。
「ふふ、さすがでしょ?でも、ただ打ち出すだけで戦うって魔力量どれだけ必要になるの?」
形を変えるだけでも貫通力とか変わるのに、かなり魔力の無駄遣いだと思う。
「いや、いくら魔力量が多くたってそんな戦い方してりゃすぐに切れる。だから低ランクなんだ。ばあさんみたいに小さくても硬くて貫通力のある形のを、スピードに魔力使って飛ばした方が使う魔力は少なくて済むのにな。」
「へー、ジェイド詳しいね。おばあちゃんもそこまで説明してくれなかったよ。」
と言うかおばあちゃんはだいたいいつも説明が足りない気がする。
「俺は一応魔術もある程度使えるからな。けどフェルナンドがいれば必要ねぇ。」
「なるほど。」
フェルナンドさんのことを信頼している感じ、いいねぇとニマニマしていると、だんだん魔力が無くなってきた。
「ジェイド、もう寝る。」
「おう。」
ジェイドは寝かしつけてくれる気らしい。ルーナをひょいと抱き上げて一緒にベッドに入った。
モフモフの着ぐるみを着ている時は平気だったのに、薄い寝巻きだとやっぱりドキドキしてしまう。さっさと魔力を使い切って気絶してしまおう。
「ジェイドおやすみ⋯⋯。」




