16.誘拐犯
3005年07月02日
俺たちは、昨日おチビと行った孤児院近くの空き家に来ている。屋根に空いた穴から雨が入り込み、床は脆くなっていて、大人の俺たちが歩くと今にも抜けそうだ。
「ここ、危ないね。」
「ああ、早く出てぇな。こんなところ犯人も入りたくねーだろ。」
一応中に入ってはみたものの、ここには何もなさそうだ。こんなところ早く出たい。一歩足を踏み出すにも恐る恐るで、こんな場所に何かを仕掛けるとは思えない。
「そうだね、この中には何もなさそうだ。小屋の方に行こうか。」
空き家からはすぐに出て、小屋へと向かう。家には人が住んでいるようだが、この辺の住人は、昼間は外で仕事のやつがほとんどだ。子供が攫われるのも昼間で、こんな小屋なら入ろうと思えば誰でも入れるし、犯人も勝手に使っていたのだと思う。
「さすがに今日は何もねーな。」
「四角い変な物⋯見つかればラッキーだと思ったんだけどね。とりあえず、そろそろ帝都に向かおうか。」
俺たちはまた、帝都に行って調査をしなければならない。
「ああ。閉門までには間に合うな。」
今から向かって、夜になる前には帝都に着ける。足早に南門まで行くと、馬車に乗って出発した。
俺たちは今、帝都とプロスペールで起きている、女児を狙った誘拐事件の調査をしている。何故か犯人は、この二つの街を行き来しているようで、新たな被害者や情報が見つかる度に、こうやって往復させられている。
昨日、おチビのお陰でプロスペールでも新しい情報が見つかったので、今日はこちらからもその話をする予定だ。
今回呼ばれている理由は、一昨日にまた帝都で女児が誘拐され、昨日その死体が見つかったからだ。今まで死体が発見されたことはなく、何か犯人にとって不足の事態が起きたのかもしれない。少しでも何か情報が欲しい。
今はっきりわかっているのは、犯人の狙いは女児で、身寄りのない子供や一時的に街に来ているだけの子供を中心に狙っていること、犯人の中にBランクの冒険者パーティを消せるだけの実力者がいること、その三点だけだ。少なすぎる。
馬車が帝都に着いたのは、閉門一時間前だった。着いて一番に冒険者ギルドへ向かう。宿はギルドで手配してもらったので問題ない。
ギルドに入り、カウンターに行くとすぐにギルド長室に通された。俺らが来るのを待っていたらしい。いつも通りギルド長室のソファーに座り、話を始める。
「遅かったな。」
ギルバートはもう何杯もコーヒーを飲んで待っていたようだ。テーブルの上の、瓶に入った砂糖が半分もない。いつもは職員がコーヒーを出す時に、瓶いっぱいに入れてテーブルの上に置くのだ。
「ああ。あっちでも今日中に調べたかった場所があってな」
「何か見つかったのか?」
ギルバートが身を乗り出してきた。圧がすげぇ。
「まだ情報だけだ。今朝はその確認に行ってきたが何も見つかってねぇ。そっちは?」
「こっちの話はプロスペールのギルドで聞いたと思うが、初めて死体が見つかった。すぐ近くの森で魔物に食い荒らされていたが、服装が一昨日攫われた孤児と同じだった。埋められていたのか服も体も土で汚れていた。穴が浅くて魔物に掘り返されたんだろう。他は何もわかってない。」
「埋められていた場所は見つかっているのですか?」
「いや、それもまだだ。今回はそれも含めて調べてくれ。死体が見つかった場所はここだ。」
そう言ってギルバートが地図を広げ、印のついた場所を指先でコツコツと叩く。近くにあればいいが、この森二人で探すのか?
「二人だけだと時間がかかりそうですね⋯。」
「わかった。Cランクあたりで何人か捜索に向かわせる。」
「よろしくお願いします。」
Cランクか⋯
ジェイドは難しい顔をして考え込む。
「どうした?」
「ああ、そっちの話がそれだけならさっきの話に戻っていいか?」
「ああ、詳しく話してくれ。」
俺は昨日おチビと孤児院に行って聞き込みをしたこと、おチビにもガキ共に聞き込みをさせて、攫われた場所と犯人らしき人物の目撃証言が得られたことを話した。
「それでだ、そのガキが、怪しいやつが消えた小屋の中心に、四角い変な物があったって言ってたらしい。⋯なあ、転移の魔導具ってどんなのだ?」
予想が当たってないといいが⋯
「⋯⋯⋯その子供の証言は信用できるのか?それに、それを聞いてきたのも子供なんだろ?」
ギルバートは信じたくないようだ。当たっていたようだな⋯最悪だ。
「孤児院のガキが信用できるかなんか知らねぇよ。ただ、転移の魔導具が四角い変な物だったとしたら、偶然か?」
「俺たちはその子の証言が、嘘であってくれた方が嬉しいですけどね。敵に勇者がいるなんて荷が勝りますから。」
「で、どうなんだ?転移の魔導具って四角いのか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ああ。」
そう返事をしたギルバートの顔は強張って、額や首から汗が流れてきている。
「そうですか⋯。変な、とはどのような感じでしょう。」
「⋯転移の魔導具は⋯、素材が解明されていない。⋯見た目は黒っぽい、頑丈な何かだ⋯」
「なるほど⋯四角い変な、というのは大人から見ても四角い変な物体なのですね。」
もうほぼ確定だ。勇者カインは敵だな⋯
「カインは、俺が調べる⋯。お前らは街で動き回ってる共犯者を調べてくれ、危険そうならすぐに退いてくれていい。」
「わかりました。」
「ああ、わかった。」
◆◆◆◆◆
今日は予定通りにおばあちゃんと森へ行ってきた。水路の周りの屋台でお昼を食べて、今はティアと中央広場でお喋り中だ。今日はノエルは一緒じゃないらしい。
ティアの家は、広場に面した大きな商会をやっていて、宝石や魔石を中心に、なんでも扱っているらしい。そう言われてみれば、ティアの髪飾りに付いている石はとても綺麗だ。ルーナには宝石か魔石かも分からないけども⋯。
「ねぇ、ルーナって好きな人いないの?」
す、好きな人⋯?唐突に恋バナが始まってルーナは少し焦る。今日はノエルがいないもんね⋯。
「い、いないよそんなの!ティアはいるの?」
「いるわ!」
えっ!?誰?誰!?気になるー!!
「誰!?もしかして⋯ノエル!?」
ルーナは目をキラキラさせてティアに詰め寄る。
「違うわよ!ノエルなわけないでしょ!」
ノエルしか同じくらいの男の子なんて思い浮かばない。ルーナの知らないお友達かな?
「じゃあだーれ?私の知ってる人?」
ティアがルーナの耳元に近づき、両手で周りの人に声が漏れないよう覆う。
え?
えぇぇぇぇ!!!まじかっ!!
「ベンさん!?」
「しっ!!ルーナ!声が大きい!!」
「ごめん⋯。で、なんでベンさんなの?」
ルーナはヒソヒソ声で尋ねる。
「だって、顔もかっこいいし、優しいでしょ?大きくなったら私が冒険者になって、ずーっと守ってあげるのよ!」
あー、ベンさんって優しいし仕事もできそうな人だけど、何となく守ってあげたくなる感じわかるわー。人がいいところがちょっと危うく感じるというかなんというか⋯。大丈夫だし余計なお世話なのだろうけど、悪い人に騙されたりしないかな?大丈夫かな?ってなる感じ。ティアはそういう放っておけないタイプが好みなんだね、うんうん。ティアらしい。
「わかる!私の好みではないけどわかるよ!ティア!」
ちょっと年の差が離れているし、ティアはまだまだ恋愛対象には入らないだろうけど、応援するよ!
「ルーナはどんな人がタイプなの?」
「んー⋯、えーと⋯⋯長生きできる人?」
「はあ?なによそれ?」
ティアが不満そうに顔を顰める。
「け、け健康的な人だよ!強くて健康な人!」
「ふーん。」
誤魔化したつもりだがティアは納得していないようだ。気づかなかったことにしておこう。
「さて、内緒話は終わったかい?もうそろそろ帰るよ。」
近くで果実水を飲みながら見守っていたおばあちゃんが、そう声をかけてきたので、ティアに挨拶をして宿に帰った。
宿に帰るとお風呂に入り、夕食を兼ねた女子会をする。
今日は、ジェイドとフェルナンドさんが帝都で調査中だ。ファビエラさんも学術地区に行っているようで、宿にいるのは三人だけ。女将さんも一緒に三人で、ほんのり甘いパンプキンパイを食べながらお茶を飲む。おばあちゃんと女将さんはワインだ。トマト、チーズ、ハムをスライスしたものとピクルスも置いてある。まだお酒を飲めない年齢なのが悔しい。
女子会が始まると、おばあちゃんが、今日ルーナたちが広場で恋バナをしていたことを話した。
おばあちゃんには聞かれてないと思ってたのに!どこまで聞いてたの!?
「で、ルーナちゃんはどんな人がタイプなの?」
女将さんがにこにこしながら聞いてくる。
「強くて健康的な人⋯。」
「ふっ、私と遊べるくらいには強い男にして欲しいね。」
「あら、厳しいわね。」
おばあちゃんと遊べるくらいって⋯ハードル高くない?
三人での女子会は楽しかったが、暫く話をしていると、長くなりそうな息子トークが始まり、ルーナは眠くなってきたので先に寝ることにした。
今日も寝る前にライトの魔術の練習だ。おばあちゃんには、ただの明かりとしても使えるが、襲われた時の目眩ましにも使えるからしっかり練習しておきなさいと言われている。誘拐事件も起きているし、少しでも自衛手段はあった方がいいよね。そんなことを思っていると、意識が薄れていって気絶した。
◆◆◆◆◆
ルーナとマーリンが寝静まった後、宿には一人の侵入者がいた。どこの部屋に誰が泊まっているかは調べてあるようで、迷うことなく二階のルーナたちの部屋へと向かった。部屋の鍵はかかっていなかったので、音が鳴らないようゆっくりと扉を開き、中へ入ると二人が寝ているベッドに近づく。
「睡眠」
男は小声で睡眠の魔術を二人にかけた。
睡眠をかけたので暫く起きないはずだが、そっと静かに布団をめくり、ルーナを抱きあげようと手を伸ばす。
その時、ピリリと肌に何かが刺さるような感覚がした。
!!
この感覚は殺気だ。男が身を引き、殺気を感じた方に目を向けると、マーリンが目覚めていた。
「うちの孫に何する気だい?」
ベッドの上で身を起こし、男に刺すような視線を向けている。
「な、なんで起きているんですか!?」
男はあからさまに動揺した様子だ。
「お前が知る必要はないね。」
そう言い終えた時には男の眉間に穴が空き、絶命していた。
「お前はジェイドたちが探していたやつだね。昨日一日ルーナの面倒を見てもらった礼にしよう。」
死んだ男に向かってそう言うと、布に包み、マジックバッグの中にしまった。
「清浄」
何もなかったように部屋をきれいにすると、マーリンはもう一度ベッドに入って眠った。




