15.孤児院での聞き込み
3005年07年01日
「まだやってたのか⋯。」
起きてきたジェイドが、まだ眠そうに欠伸をしながら呟いた。
今日はルーナが起きてきた時から、フェルナンドさん、アイザックさん、レオナルドさん、おばあちゃんの間で魔術議論が交わされているのだ。いや、ジェイドの反応を見た感じだと、昨日からだったみたいだ。まだ寝るには早かったのか、ルーナが寝た後おばあちゃんもまた一階に戻って参加していたようだ。
「干渉力を高めれば実用化も可能だ!」
「いや、あれはそれでも消費魔力が多すぎると思いますよ。」
「干渉力を高めるのも大事だが⋯、お前の場合は魔力効率をあげるべきだね。制御がなってない。」
「そもそも魔術の方向性を変えるべきであろう!」
どうやら今は飛行魔術の実用化についての議論のようで、こんな調子でずっとやっていたようだ。気を利かせたのか、今日の朝ごはんは簡単に食べられるサンドイッチだ。
「ねえ、ジェイド、これ昨日の晩からずっと?」
「ああ、そうみたいだな。長くなりそうだったから俺は先に寝た。」
魔術師でも研究者でもないジェイドには退屈だったのだろう。
「これいつ終わるんだろうね?」
「さあな。」
ルーナは今日おばあちゃんと森に行く予定だったのだが無理そうだ。
「おいおチビ、俺はこいつらに付き合うのはごめんだ。」
わかるわー、と同情の意を込めて首を二回縦に振る。
「よし、一緒に出かけるぞ。」
あの集団に話しかけるのは躊躇われたので、『ジェイドと出かけてきます。ちゃんと休んでね。』と部屋のベッドの上に置き手紙を置いておいた。
「どこに行くの?」
「南門の辺り。」
ジェイドはどこか行きたいところがあるようだ。
中央通りを進み、南門近くになって来たところで左に曲がった。初めて来るエリアで、この辺りは貧困エリアと街では呼ばれている。北の学術地区に近くなると富豪エリアと呼ばれるようになり、土地の値段も北に行くほど上がる。ルーナたちが今いる宿は、間の中間エリアと呼ばれる辺りの富豪エリア寄りだ。治安も北に行くほど良くなっているので、態々この辺りに来ることがなかった。
ジェイドについて行くと、一軒の古そうな建物の前まで来た。
「ここは何?」
「孤児院だ。」
孤児院になんの用事があるのだろうか?寄付でもするのか?言っちゃ悪いから口には出さないが、そんなことしそうに見えない。
「おチビ、お前に頼みたい仕事がある。」
ちょっと何かを企んでそうな顔でジェイドが言う。
「⋯何?嫌な予感がするんだけど⋯。」
ニコリとジェイドが無言で笑みを浮かべる。
「慈悲深い俺は今から孤児院に寄付をしに行く。」
ほお、なんか含みがありそうだが寄付なんて意外だ。ちょっとジェイドを見直した。ジェイドがルーナの目線に合わせて屈み、ルーナの肩に手を置く。
「でだ、お前はその間に孤児院の子供たちから聞き込みをしてきてもらいたい。賢いおチビならできるだろ?」
別にそれくらいしてもいいけど、何を聞くのだろう?
「いいけど何を聞けばいいの?」
「最近この辺りで何人か子供が攫われてる。孤児院のガキなんかを狙ってだ。そこで、その攫われた子がどこで攫われたか詳しく聞きてぇ。それと、犯人を見たやつがいないかもだ。これだけ聞いてくれればいいが、他にも何か情報聞けたら聞いてきてくれ。できるな?」
なるほど、ジェイドは今日仕事で孤児院に来たわけか。さてはこれって本当はフェルナンドさんの役目だったんじゃないの?普段お世話になってるからいいけどさ。
「うん、いいよ。誘拐された場所の詳しい情報と犯人の目撃情報を聞いてくればいいんだよね?」
「おう、やっぱお前は賢いな。」
そう言ってルーナの頭を撫でる。なんかいつもペット扱いされてるせいか、犬になった気分⋯。
孤児院の中に入ると、ジェイドは挨拶をして孤児院長さんと話をし始めた。
「よし、俺は院長と話があるからおチビは子供同士遊んでこい。」
「わかった。」
ルーナがそう返事をすると、孤児院長とジェイドは奥の部屋へ入っていった。
「ねえ、私も一緒に遊んでもらってもいい?」
丁度孤児院長についてきていた子供たちに聞いてみる。
「いいぞ、お前名前は?」
返事をしてくれたのは10歳くらいの、この中では年長っぽい男の子だ。他にも四人の子供達が今この場にいる。
「ありがとう、名前はルーナだよ、よろしくね。」
「俺はトール。こっちから順番にイアン、クラリッサ、スー、トマトだ。」
ん?変なの混ざってない?
「トマト?」
トマトと呼ばれた丸顔の男の子の顔が赤く染まる。なるほど⋯。
「トマトっぽいだろ?だからトマトだ。」
「ふふ、よろしくね、トマト。」
「よろしく⋯」
どうやらトマトは恥ずかしがり屋らしい。
ルーナたちは五人でかくれんぼをした。隠れていい範囲は、ジェイドと孤児院長が話している部屋以外の一階全部だ。今いる食堂みたいな場所の他に一階には三部屋だ。そんなに広くはないが五人なら丁度いいだろう。最初の鬼はクラリッサになった。
さて、ルーナはかくれんぼを本気で楽しんでいるわけにはいかない。早めにクラリッサに見つかって話をする。クラリッサは私より少し大きいくらいの女の子だ。
「ねえ、孤児院には五人しかいないの?」
「もっといっぱいいたけどいなくなっちゃったの。今は二階に大きい子があと二人とまだ遊べない小さい子たちがいるだけ。だから遊ぶのはいつもこのメンバーだよ。」
「そうなんだ、いなくなっちゃった子たちはどうしたの?」
「攫われちゃったんだよ。だから外では遊べないの。あ、スーみっけ!」
「あーうまく隠れたと思ったのに。」
「この前私そこに隠れたもん。」
スーも会話に加わった。スーは8歳くらいかな?ノエルと同じくらいだ。
「攫われたってどこで?」
「この前いなくなった子たちは、院長には行っちゃだめって言われてたのに、この近くの秘密基地にしてた空き家に行ったからそこだと思う。」
「ここより隠れるところがいっぱいあってよかったんだけどねー。孤児院の中だけだとつまらないわ。」
ふむふむ、誘拐事件が起きるまでは皆そこで遊んでいたのかもしれないね。
「へー、面白そう!秘密基地の話もっと聞かせて!」
どうやらこの孤児院より中央通りから見て奥の方にある空き家で、屋根に穴が空き、床も一部抜けているようなボロ家だそうだ。なかなか住む人も現れず、二階建てで地下室もあり、孤児院でかくれんぼするより楽しかったらしい。勿論院長には黙っていたが、誘拐された子が出たことでバレてしまったと言っていた。
「誘拐の犯人って見た人いないの?」
今は全員見つかって、秘密基地の話しで盛り上がってたところだ。
「僕、見たと思ったんだけど消えちゃったんだ。」
「えっ?消えたって?」
トマトが見たらしい。
「黒いローブのフードを被った人が、秘密基地を見てたから、怪しいなと思ってこっそり後についていったんだ。 そしたら近くの家の横にある小屋に入っていって⋯、暫く誰も出てこないからそーっと扉を開けて覗いてみた。その人が入ってから僕ずっと見てたのに、中には誰もいなかったんだ⋯。誘拐犯はレイスかもしれない。」
トマトは怯えている。消えたってどういうことだろう?転移?
「トマトはビビりだなぁ、レイスが昼間から街中出歩いてるわけねーだろ?」
「そうだよー。」
他の子供たちはこの話を信じていないようだ。ルーナはトマトに詳しく話を聞いてみた。小屋の場所は秘密基地から四、五軒先の家。小屋を覗いた時、中には薪などが置いてあったそうだ。それと小屋の中心に四角い変な物⋯。めちゃくちゃ怪しい!
ルーナはジェイドと合流して孤児院を出ると、早速その話をした。ジェイドも孤児院長から話を聞いていたらしく、秘密基地については知っていた。後日フェルナンドさんと確認に行くようだ。
「四角い変な物か⋯。よくやったおチビ、カレー奢ってやる。」
よっしゃカレー!働いた甲斐があった!
「うん!果実水も飲みたい!」
「ああ、いいぞ。」
お昼は店前に置いてあるテーブルを確保してカレーを食べた。前に食べたカレー屋さんだ。ここ、月に一回は食べに来たいな。前世で週に一回はカレーを食べていたルーナには、今の頻度じゃ全然足りない。欲を言えばカレーライスがいいんだけどナンでもいい!⋯⋯ナンだけに。前世の記憶が余計なことを考える⋯。
「ねぇジェイド、月一で来ようよー?」
「ばあさんと来いよ。」
チッ。
「じゃあたまにでいい。」
「こっちに用事があればな。」
よし、ジェイドとこっちに来る用事を考えておこうじゃないか。
「わかったー。」
それから、露店を覗きながら歩いていると、リバーシがあったのでジェイドにこれやろー?とねだって買ってもらった。リバーシも昔の召喚者か転生者が作ったらしく、この世界でもメジャーな遊びだ。
宿に帰ると魔術議論は終了したようで、食堂にいたのは掃除をしている女将さんだけだった。
「ただいま!女将さん、みんなは?」
「おかえり、マーリンさんもフェルナンドも今は寝てるわよ。アイザックとレオナルドさんも学術地区に戻ったわ。お昼前までやってたわよ。」
「ジェイド、出かけてよかったね。」
「だな。」
まさか、昼前までやってたとは思わなかった。
おばあちゃんが寝ているので、ルーナはジェイドの部屋にお邪魔した。ジェイドの部屋もルーナたちの部屋とほぼ同じだが、ジェイドの部屋には三人掛けのソファーが置いてあった。ルーナたちの部屋にも欲しい⋯。ソファーの前のテーブルにリバーシを置いて、二人でソファーに座って対戦する。最初の一階は、ルーナが子供だからと舐めていたのか快勝だったが、その後は五分五分の結果だった。
「なぁ、お前本当に5歳か?」
ジェイドが片眉を上げてそんなことを聞いてくる。
「本当に今は5歳だよ。」
嘘はついていない。今は5歳のルーナだ。
「トマトの話じゃねぇが、おチビの体にレイスでも取り憑いて喋ってんじゃねぇのか?」
ジェイドがそう言って揶揄ってくる。鋭いなぁ、あながち間違いでもないんだよね。
「そうかもね。ふふ、ジェイドに取り憑くかもーよっ!」
ルーナはそう言いながらニヤリと笑って、ジェイドの首に後ろから取り憑いた。
「ゔっ!おい、やーめろ!取り憑くな!首、締まってるっつーの!」
いつも揶揄ってくるお返しだ。
「フハハハハ、我ヲ浄化サセテミタマエー!」
「てめぇ!こんのっ!」
足を掴まれてくるんっと視界が回ったかと思うと、衝撃と共にルーナはソファーの上に倒されていた。
「ゔげっ!」
「ふっ、討伐完了だ。」
ぐぬぬぅぅ⋯。無念!
ジェイドは余裕の顔で見下ろしている。
「そのうちおばあちゃん並に強くなって化けで出てやる。」
ルーナはむくれた顔で体を起こして宣言した。
「うっわ、それは怖えな。」
おばあちゃんを想像したのかジェイドは顔を引き攣らせた。うん、おばあちゃんは怖いよね。
ジェイドの部屋で遊んでいると、いつもお風呂に入る時間になったので、自分たちの部屋に戻った。おばあちゃんはすでに起きていて、丁度ジェイドの部屋に呼びに行こうと思っていたようだ。
後はいつもの流れでお風呂の後に夕食を食べる。夕食の時間にはフェルナンドさんも起きていて、四人揃っている。
今日の夕食は魔鳥肉と野菜のトマト煮、かぼちゃとベーコンのチーズ焼き、パンだ。ルーナはチーズ焼きが気に入った。甘いかぼちゃと塩気の強いベーコン、香ばしく濃厚なチーズを一緒に味わえるのがいい。
「昨晩は盛り上がり過ぎちゃいましたね。」
フェルナンドさんからはまだ疲れが見える。
「ああ、そうだね。ジェイド、ルーナの面倒を任せてしまって悪かったね。」
「おう、こっちもガキ共の聞き込み手伝ってもらったから気にすんな。」
「そうかい。二人は今日何してきたんだい?」
そうおばあちゃんが尋ねたので、ジェイドが今日外であったことを話した。ルーナもジェイドとリバーシをしたことを話すと、今度皆でやろうということになった。この中で一番強いのは誰なのだろう?フェルナンドさんもおばあちゃんも強敵だと思うんだよね⋯。
夕食の後は魔術の練習をして魔力を使い切り、今日もルーナは気絶した。




