11.ジェイドたちの帰宅
3005年05月14日
今日は図書館の日、そしてジェイドたちが帰ってくる日だ。もう少し寂しくなるかな、と思っていたが、毎日森と図書館に通い始めたせいで、ヘトヘトのルーナにそんな余裕はない。ベッドに入った後も、魔力を使い切り気絶して、朝まで目覚めないので考える暇がなかった。やっと今図書館に来て、一人でぼーっとする時間ができたので考えている。
元気かなーお土産は何かなー?美味しいものがいいなー。
そんなことを考えているとお腹がなりそうだ。静かな閲覧室で、お腹の音が響くのは恥ずかしい。ルーナは慌てて本に目を向ける。
いつもならおばあちゃんがずっと一緒にいるのだが、今日はルーナを図書館に送り届けると、薬師ギルドにランクアップ試験を受けに行った。Dランクの試験は受ける人数が多いので日時が決まっているのだ。
今回は、筆記の試験に加えて簡単な実技試験もあるそうだ。ルーナが一緒に行っても待つことしかできないので行かなかった。図書館はこの街の中でもかなり安全な場所なので、ルーナだけでもここから出なければ平気だ。
ルーナは今、勇者と魔王の本を書き写している。ファンタジーだねぇ。全部写し終わったら自分用に製本する予定だ。可愛いブックカバーも作ろうかな、ふふふ。
この世界の勇者は、百年に一度、三人ずつ勝手に召喚されるらしい。大陸東のグランディール帝国に一人、中央のレナトルシア連合王国に一人、北西のシルヴィア王国に一人現れる。前回がおばあちゃんが若かった頃だから、次が現れるのはまだだいぶ先だ。
日本人も召喚されてくるかもしれないな⋯あ、今のおばあちゃん世代にも日本人がどこかにいるかも?長い人生のどこかでそんな勇者にも会えるかもしれないなぁ。会えたら酒でも飲みながらいろいろ語り合いたい。
魔王の方は、魔王が倒されると自動的に一番魔力量の多い存在が魔王にされるらしい。だいたいは魔族から出るが、魔物がなることもあるようだ。いきなりあなたが今日から魔王です!って言われても困るよねぇ。けど、魔物を従えられる能力は羨ましい⋯。可愛い魔物を愛でたり、乗せてもらって空を飛んだりしたい。
そういえば!飼える魔物もいるんだっけ!
ルーナはいつも、ジェイドにハムタリアン呼ばわりされていることを思い出す。
二階って言ってたよね?前に調べたって言ってたはず。魔族領から輸入されてるんだったよね。
ルーナは二階の閲覧室に行くと、魔族領の魔物図鑑を探す。図鑑が並んでいる辺りで見つけた。ルーナは図鑑を開いてハムタリアンのページを探した。
あった!なっ!
見た目は⋯⋯ジャンガリアンハムスター?の少し大きいの?可愛いけど⋯可愛いけどもさ⋯⋯喜べない⋯。
ハムタリアンは魔族領の保護区に生息しているらしい。愛らしい見た目で、長く魔族や人間に飼育されているため、野生の魔獣としての能力は失われてきているそうだ。こっちでもそういう魔獣がいるんだね⋯。ぱらぱらと他のページも流し読みすると、図鑑をとじて棚に戻した。
一階に戻ってまた暫く勇者と魔王の本を書き写していると、おばあちゃんが迎えに来たので本を片付けて図書館を出た。
「ランクアップ試験どうだった?」
「勿論受かったさ。簡単な試験で待ち時間が長くて退屈だったね。」
さすがおばあちゃん。飛び級できれば楽なのにね。
「実技はなんの薬を作ったの?」
「いつもの低級ポーションさ。ランクアップ試験までに納品した物を、ちゃんと自分で作っているかどうかの確認だそうだ。」
あーなるほどね、けど自分で作れないの分かってるなら、そもそも実技があるって分かってる試験なんて受けなくない?
「それ落ちる人いるの?」
「今日は三人いた。」
「え、作れないのに受けたの?」
「いいや。二人筆記で落ちたやつらがいて、もう一人は中級ポーション作ってCランクにしろって騒いで落ちてたね。馬鹿がいたもんだ。あいつのせいで無駄に試験が長引いたよ。」
おばあちゃんはやれやれと肩を竦め、ため息をついた。自己アピールのために、依頼した薬と違う薬を作ってくる薬師なんて受かるはずがないだろう。
「大変だったんだね。」
「本当にね、私も馬鹿が治る薬を作れればいいんだが、生憎それだけは作れなくてね。困ったもんさ。」
うん、それは万能薬でも治りそうにないもんね⋯。
中央広場に戻ってくると、魚料理が食べられる食堂に入った。ジェイドとフェルナンドさんが帰ってくる今日の夕食は絶対に肉だ。そう思ったので魚料理にした。
頼んだのは、シンプルに塩とハーブで焼いた魚に、柑橘系の実が輪切りで添えられたものだ。外はカリッと中はふわっとしていて美味しかった。
その後で今日は買い物に行った。一番の目的はおばあちゃんの酒だ。ジェイドたちと一緒に飲むつもりなのだろう、ワインと蒸留酒を買っていた。
ルーナは魔導具店で腕輪を買ってもらった。おばあちゃんの腕輪と対になっていて、魔力を流すと居場所を相手に教えられるものだ。これではぐれてもおばあちゃんに見つけてもらえる。ルーナが魔力を流せるようになって、魔導具が使えるようになったのだ。腕輪に腕を通すと、すっとルーナにぴったりのサイズになった。これは便利だ。
他にも気になった店に何軒か寄って宿に帰った。
◆◆◆◆◆
夕食前になるとジェイドとフェルナンドさんが帰って来た。
「おかえりなさい!」
「おう、運動してたか?」
「ただいまルーナちゃん。」
ジェイドは第一声がそれか!そして久しぶりの癒しの笑顔!効果が上がっているような気がする。
「運動なら毎日してたよ。東側の森までと図書館までを交互に。毎日ヘトヘトだよぉ⋯。けど今フェルナンドさん見たら元気出た。」
「ふふ、俺もルーナちゃん見てると元気が出るよ。」
「俺は!?」
ジェイドはイケメンなんだけど癒し系ではないんだよなぁ。
「んー⋯、ジャンルが違う!」
「ジャンルってなんなんだ?ジャンルって⋯」
「なんだろう。俺にも分からないね。」
わかってくれなくて大丈夫です。私の脳内で楽しみます。ルーナはニコリと微笑んで流した。
ジェイドとフェルナンドさんが、お土産にきれいな瓶に入った砂糖菓子を買ってきてくれた。宝石が入っているみたいで可愛い。すぐに食べてしまうのが勿体なくて、とりあえず部屋の机の上に飾っておいた。頑張った日のご褒美に少しずつ食べたい。
夕食はやはり、肉だった。メインは魔牛肉のステーキ。付け合せにポテトと、オニオンスープ、サラダ、パンが今日のメニューだ。魔牛肉のステーキは脂がのっていて美味しい。ジェイドなんてルーナの顔より大きなステーキをおかわりしていた。ファビエラさんも宿にいるようで、相変わらず女将さんが二階の部屋に運んでいた。
ステーキを食べながら、ルーナはここ一週間の出来事を話した。ベンさんと再会してお友達ができたことも話したら、ジェイドはティアとノエルを知っているようで、あのガキ共か⋯、と顔を引き攣らせていた。可愛い子たちだけど、ジェイドは元気な子供が苦手なのだろうか?ルーナにはすぐちょっかいをかけてくるくせにさ。
そんな思考が顔に出ていたのか、ジェイドがふっと鼻で笑って口の端を上げる。
「お前はハムタリアンみたいだからいいんだ。」
そうだ、この件もあった。ルーナはようやくハムタリアンが何か分かったのだ。
「そういえば今日、図書館でハムタリアン調べたよ。そんなに似てなくない?」
じとりとした目で睨む。
「似てるだろ。膨れた時の顔とか、おチビなところとか、野生で生きていけなさそうなところとかな。何より俺を見る目が似てる。生意気なところも飼ってたやつにそっくりだな。あと⋯」
「すぐ巣穴に籠るところもそっくりじゃないかい?」
おばあちゃんまで!酷い!
「もういいです!」
ルーナは頬を膨らませてプイッとする。
「そうそれだ!ははっ!」
「ふふ、たしかに似てるね。」
フェルナンドさんまで⋯
この議論に勝てないと悟ったルーナは話を切り替えることにした。
「フェルナンドさんたちは暫くプロスペールにいられるの?」
「んーそうだねー、内緒にしていてほしいんだけど、今俺たちはプロスペールと帝都の間で起きている事件の調査中でね。だからまた調査の進展次第で帝都まで行かないとならないんだ。俺たちが調査していることを犯人に知られたくないんだけど、冒険者にも裏切り者がいるみたいでね。どこから情報が漏れるか分からないから、ルーナちゃんも誰にも言っちゃだめだよ。できるかな?」
フェルナンドさんの目を見てコクコクと頷いた。
「そういえばばあさんも昔冒険者だったよな?」
「ああ。もう三十年も昔だけどね。」
今でもこんなに強いおばあちゃんは当時どれだけ強かったのだろうか⋯。一目散に逃げて行く可哀想な魔物たちの姿を思い出す。
「この街や帝都から、衛兵たちの厳しいチェックや魔力探知も掻い潜って、何度も誰にも見つからずに生きた人間を街から出せる。そういう魔導具や魔術って知らないか?」
おばあちゃんなら余裕だね⋯ルーナは何も知らない風な顔を精一杯装った。おばあちゃんは眉間を寄せている。何も知らない、何も知らないよ、私!
「そうだねぇ⋯転移の魔導具かもしくは、壁抜けの魔導具なら上手く使えばできるね。魔術だと転移魔術か、壁抜けの魔導具のような異空間系の魔術を使えるやつがいればできるんじゃないかい?」
それって、ネズミが嫌いな青い猫が持ってるようなやつだよね!通り抜け○○○!この世界には実在するんだね!
「転移の方はギルド長に聞いたやつだな。もう一つの壁抜けの魔導具ってどんなやつなんだ?」
「壁抜けの魔導具は、その名の通り建物の壁を通り抜けられる魔導具だ。壁のこちら側から向こう側に穴を開けるようなものさ。通ったあとの穴は残らないがね。」
「そんな魔導具もあるんですね⋯」
フェルナンドさんは顎を指で摘んで、深刻そうに何かを考えているようだ。
「ただ、これも転移と同じで、壁に穴を開けるまで壁の向こう側に何があるか分からないのが難点でね。穴を開けてみたら壁の反対側に敵がいて襲われるなんてこともある。穴が開いていれば向こう側からも通れるからね。」
「運任せで使うのは怖えな。けど使えなくもない。その魔導具は簡単に手に入る物なのか?」
「いいや。古代魔導具で一点物だからね。それにその魔導具は持っているやつを知ってる。事件には関係ないね。」
あー、絶対持ってるのおばあちゃんだ。
「誰だよ。」
「それは言えないね。ただそいつは絶対に犯人とは違うとだけ言っておくよ。」
「そうですか⋯。」
「さて、私とルーナはそろそろ寝るよ。」
ルーナとおばあちゃんはおやすみを言うと部屋に戻った。
「なかなか簡単には見つからないものだね。」
「ああ、勇者か賢者以外の選択肢が欲しいんだがな⋯。」




