第7話 「料理教室」
朝の船内。
デッキでコーヒーを飲もうと
歩いていたら…。
(ん?)
掲示板の前で足を止める。
料理教室のお知らせ。
本日の料理教室
〜イタリア家庭料理〜
参加者募集中。
蓮
(……。)
スタッフに近付く。
蓮
「まだ空いてる?」
スタッフ
「はい」
蓮、ニヤッとする
「じゃあ……」
申込用紙を書く。
名前。
駿。
スタッフ
「駿様ですね」
蓮
「よろしく」
その数時間後。
船室。
コンコン。
スタッフ
「駿様」
駿
「はい?」
スタッフ
「本日の料理教室のお時間です」
「……は?」
「いや、申し込んでねぇぞ?」
スタッフ
「こちらにお名前があります」
申込用紙。
駿
駿
「…………」
隣の船室のドアが開く。
蓮、
ニヤニヤしながら出てくる。
駿
「お前かーーー!!」
———
料理教室へ。
先生
「今日はイタリア家庭料理を作っていただきます」
「イタリアで一番代表的な料理は
——パスタですね!」
「シンプルで美味しいパスタを皆さん作りましょうね」
「それでは二人一組になってくださーい」
駿
「……。」
先生
「では、お二人で」
駿
「なんでだよ!」
蓮
「知らねぇ」
先生
「まず鍋にパスタ用のお湯を沸かしておきましょう」
駿、周りの人を見る。
(この鍋か?)
鍋に水を入れ、火をつける。
先生
「次はソースを作りましょう」
「ニンニクを刻んでください」
駿
(刻む?どうやって?)
駿、再び周りの人を見る。
「……。」
(包丁を使うのか!)
ガンッ!
先生
「包丁は……もう少し優しく」
蓮、後ろで笑いながら見てる。
子ども
「お兄ちゃん大丈夫?」
駿
「大丈夫じゃねぇ!」
先生
「次に小鍋にオリーブオイルを入れましょう」
駿
(どれくらいだ?)
(……適当でいいか)
オリーブオイルを――
ドバァァァァァ!
蓮
「待て待て待て!」
駿
「なんだよ」
蓮
「入れすぎ」
小鍋を傾け、
余分なオリーブオイルを別の容器へ移す。
先生、苦笑い。
「最初は皆さん、そのくらい豪快ですよ」
蓮
「火、弱めろ」
駿
「……」
蓮
「熱すぎる」
駿が火を弱める。
蓮
「今」
ニンニクを入れる。
「焦がすなよ」
香りが立ち始める。
トマトソースが出来上がる。
先生
「お上手ですね」
駿
「お前がやれよ!」
蓮
「なんで俺なんだよ」
先生
「では、次はピザを作りましょう」
先生
「生地を丸く、優しく伸ばしてください」
駿、再び周りの人を見る。
「こうか?」
バンッ!
蓮
「だから優しくって言ってんだろ」
先生
「麺棒で伸ばしても大丈夫ですよ」
駿
「最初からそれ言ってくれよ」
先生
「では、生地ができたところでパスタを茹でましょう」
鍋の中のお湯が
グツグツと沸いている。
蓮
「湯が沸いた」
駿
「おう!」
蓮
「パスタを入れるぞ」
駿
「俺がやる!」
駿がパスタを手に取る。
(これは簡単!)
(鍋に入れるだけだろ)
ドンッ!
蓮
「待て!待て!待て!」
「扇状に入れねぇーと!」
駿
「何でだよ」
蓮
「くっ付くんだよ」
先生、感心したように。
「よくご存知ですね」
蓮
「まぁ」
パスタが鍋の中で
ゆっくりとほぐれていく。
先生
「パスタを茹でている間に、ピザを仕上げましょう」
蓮
「パスタは俺が見てる」
二人の立ち位置が変わる。
駿はピザの生地に
トマトソースをすくう。
チラッと蓮を見る。
そして――
ドバッ!
蓮
「多いだろ!」
駿
「お前がやれよ!」
先生
「薄く塗るのがポイントですよ」
駿
「……はい」
今度は少し控えめに塗る。
先生
「そうそう、そのくらいです」
先生
「次はチーズをかけましょう」
駿
(おっ!チーズ!)
ドサァァァァ!
蓮
「……。」
先生
「チーズがお好きなんですね」
駿
「好きです」
蓮
「知ってる」
先生
「最後にバジルを飾って、トースターに入れましょう」
駿
「おう!」
駿がバジルを手に取る。
蓮
「……お前、それ全部乗せる気か?」
駿
「違うのか?」
蓮
「違う」
蓮がバジルを受け取り、
手際よく飾っていく。
先生
「綺麗ですね」
蓮
「こういうのは見た目も大事だからな」
ピザをトースターへ入れる。
カチャ。
先生
「では、あとは焼き上がるのを待ちましょう」
駿はパスタ鍋を覗き込む。
「もういいだろ」
蓮
「まだ早い」
駿
「……。」
木べらを手に取る。
グルグルグルグルグル……
先生
「そんなに混ぜなくても大丈夫ですよ」
駿
「まだ?」
蓮
「まだだ」
グルグル
しばらくして。
先生
「ピザ、そろそろ焼けますよ」
駿
「おお!」
トースターを覗き込む。
チーズが溶け、
表面がこんがりと色づいている。
駿
「うまそう!」
蓮
「いい感じだな」
その時。
蓮
「パスタ、今だ!」
駿
「おう!」
駿が慌てて火を止める。
鍋を持ち上げる。
「あっつ!!!!」
先生
「ミトン!ミトン!」
慌てて差し出す。
駿
「あっつぅーーー!」
先生
「普通は素手で持たないんです」
蓮、
腹を抱えて笑っている。
「お前……
素手で鍋持つやつ初めて見た」
駿
「笑ってねぇで助けろ!」
先生
「では茹で上がったパスタをソースに入れましょう」
駿
「え?」
先生
「最後にソースと絡めることで、味がよくなじむんですよ」
蓮
「ほら」
駿
「こんなの皿に盛ってからかければいいじゃねぇか」
蓮
「それじゃ味が乗らねぇ」
先生
「軽く混ぜてください」
駿
「おう」
グルグルグルグルグル……
豪快に混ぜる。
蓮
「混ぜすぎ!」
先生、笑いながら。
「優しくで大丈夫ですよ」
先生
「では、お皿に盛り付けましょう!」
駿
ドバッ!
勢いよく盛り付ける。
トマトソースが
お皿の縁に飛び散る。
蓮
「だから豪快すぎるって」
サッとナプキンで縁を拭く。
先生
「息ぴったりですね」
駿
「違います」
蓮
「違います」
先生
「最後にチーズをかけて完成です」
駿、チーズを手に持つ。
(簡単じゃねぇーか)
ドバァァァァァ!
蓮
「だから入れすぎ!」
その隣では、
焼き上がったピザが
トースターから取り出されていた。
先生
「こちらも完成です」
駿
「おお!」
ピザとパスタが
二人の前に並ぶ。
駿
「うまそう!」
蓮
「やっとできたな」
駿
「結構忙しかったな」
蓮
「お前がな」
駿
「なんで俺だけなんだよ」
二人は顔を見合わせる。
そして――
「いただきます」
駿はフォークでパスタを巻く。
一口。
「……」
蓮
「どうだ?」
駿
「……うまい」
蓮
少し笑う。
「だろ」
駿
「いや、お前がほとんど作った」
蓮
「最後にチーズ山ほどかけたのはお前だけどな」
駿
「……それは俺の仕事だ」
蓮
「なんだよ、それ」
駿は今度はピザを手に取る。
一口。
「……」
蓮
「どうだ?」
駿
「こっちもうまい」
蓮
「だろ」
駿
「こっちは俺も結構やったぞ」
蓮
「チーズ乗せただけだろ」
駿
「重要だろ」
蓮
「はいはい」
二人は笑いながら、
出来立ての料理を食べる。
先生が二人の前まで来る。
「お味はいかがですか?」
駿
「うまいです」
少し考えて。
「でも……」
「作るより食べる方が向いてます」
先生、大笑い。
「またぜひ参加してください」
駿
「……。」
隣で蓮がニヤニヤ。
「また駿の名前で予約しとくか」
駿
「二度と来ねぇ!」
教室中が笑いに包まれた。
——
料理教室が終わる。
すっかり日も暮れていた。
駿は部屋へ戻り、
シャワーを浴びて着替える。
一方、蓮は――
船内のラウンジで一人、
窓の外を眺めていた。
昼間とは違う、
静かな夜の海。
その時。
船内放送が響く。
「ただ今より、
スカイラウンジで生演奏が聴けます」
駿が部屋を出る。
蓮も、ラウンジを立ち上がる。
二人は別々の場所から、
同じ方向へ歩き始めた。
——
スカイラウンジ。
窓の外には夜の海。
月明かりが水面に揺れている。
静かな照明。
グランドピアノ。
ヴァイオリン。
演奏が始まる。
二人はそれぞれ、
少し離れた場所で立ち止まる。
言葉は交わさない。
ただ、聴いている。
やがて――
演奏が終わる。
拍手が響く。
駿が小さく呟く。
「やっぱり、旅には音楽があるな」
蓮も静かにうなずく。
「……あぁ」
第7話 料理教室 完。
お読みいただきありがとうございます。
次回、第8話「フォーマルナイト」です。
お楽しみに。




