手記:東でのあれこれ、及び魔法に関して
次は北地方についた後にでも、とか書いていたくせに今いるのは東地方ですし、ついた後どころか立ち去る直前になってようやくこの手記を開いた私ことジェーン・ドゥの怠惰っぷりには自分でも呆れてしまいます。
何故ジェーン・ドゥが北に行かずに東にいるのかと言うと、中央を経由して北に向かおうとしていた道中で謎の北地方アンチのモノクロさんと遭遇したからです。
互いに名乗ることなく別れたのでこの手記ではとりあえず彼のことをモノクロさんと仮称することにしましょう、真っ黒さんとも悩みましたがひとまずこちらで。
ざっくり説明するとモノクロさんは道中、人寂しさから一休み中の通行人であったジェーン・ドゥに世間話をしたいと申し出てきた謎の人物です。
真っ黒でローブ的なお洋服を着た方で、目元はフードを目深にかぶっていたため最後まで見えませんでした。
フードから見える口元と長い袖からかろうじて見えた指先が異常なほど真っ白でした、だから『モノクロ』さん。
思い返してみると結構変というかよくわからない人でしたけど、話しかけてきた直後は柔和で穏やかそうな青年 (少年かも?)だったので、あんまり警戒心が湧いてこなかったんですよね。
会話の途中で私が北に行くって言った瞬間絶対零度の威圧的な怖い人に豹変した時は怖かったですけど。
昔一体何があったというのか、モノクロさんは凄まじい北地方アンチでした。
ものすごく熱弁されていましたからね、北がどれだけ嫌なところなのかを。
それで絶対に行くなと念を押されまくった挙句、何やら大災害が起こりそうだからとかなんだと言われて。
それで結局、彼がすすめるままに北地方ではなく東地方に。
ただ、結果としてその選択は間違ってはいなかったのでしょう。
実際、ジェーン・ドゥが東についた三日後くらいに本当に起こりましたからね、大災害。
北の人神様達の殺し合いで大雪崩と大寒波が発生、他にも何やら色々起こったらしいです。
結局勝敗はつかなかったらしいですが、その殺し合いで互いに力が削がれただろうからしばらくは二神ともおとなしくしているだろう、という噂を聞きました。
人死にはギリギリ出なかったらしいのですけど、家屋とかは結構被害が出て大変らしいです。
……やっぱり、ここまで書いても奇妙なほど心が動きません。
例えば北の人神様達の殺し合いがあの美しい西地方で起こったとして、死者は出ずとも甚大な被害が出たとしましょう。
もしそうだったら、ジェーン・ドゥは「なんで」「どうして」と頭を抱えて、あの美しい池の人々に襲いかかった理不尽に怒り悲しみ、苦悩できたでしょう。
けれども『今』の私が一切知らない土地だからでしょうか、いいえ、たとえ西でなくとも南や東、中央で同じことが起こっていれば、ジェーン・ドゥはそれを引き起こした人神様の理不尽さに苦しむことができた。
まったく、ちっちも何とも思わないんです。
北の地で酷い災害が起こったというのに、それなのに心がまったく動かない。
ここまで自分が冷たく非情な人間だと知りたくありませんでした。
本当に、どうして、ジェーン・ドゥという人間は、どうしてここまで。
ああ、本当に嫌になります。
とはいえ、ここまでジェーン・ドゥの心が動かないというのは流石に異常事態でしょう、そうであってほしいという願望が多大に含まれはしますが。
やはり、ジェーン・ドゥは北地方に縁がある人間だったのでは。
そして、あのモノクロさんのように北地方を激しく嫌うか、もしくは完全なる無関心になるような何かが、そんな過去があったのでは。
何も覚えていない『今』の私にすら影響を及ぼすようなそんな何かがあったのでは、覚えていなくともジェーン・ドゥがあの地になんの情も感じないような何かがあの地にあるのでは、と。
そうであってほしいです、そうでなければジェーン・ドゥはとんでもなく非情で冷たい人でなしということになってしまう。
だから、それを否定するために、ただそれだけのために次こそ北地方に向かおうと思っています。
人神様の殺し合いは発生はしましたが終わってはいません、彼らが力を取り戻せば再び殺し合いが勃発するだろうとは東地方でもまことしやかに語られています。
それでも、きっとまだ猶予はあるのだと思います、だからその隙にパパッと済ませてしまえばいいのです。
モノクロさんとの約束を破ってしまう形にはなりますが、どうせもう二度と遭遇することもないでしょうし。
そもそも、人神様のうちどちらか一方が死んだらみたいな話されましたけど、そう簡単にかみさまという存在が死ぬとは思えません。
ひょっとしてあれ、やんわりと北には絶対に行くなと言われていたってことだったりするんでしょうか。
まあ、もうどうでもいいでしょう、彼の忠告を無視して約束を破ってそれで何か起こったら全部ジェーン・ドゥの自業自得、それはそれで惨めで人でなしなジェーン・ドゥらしい死に方と言い切ってしまっていいでしょう。
とにかく、次は、次こそは北へ。
そこで何かが掴めれば、今の私のこの北への無情さと嫌悪感を知ることができれば、思い出すことができれば、そしてそれがそうなって仕方がないものであれば、私は今のこの私のことを一つだけ許せるようになるのです。
そうわけで次の目的地は北地方、という明日以降の予定とそうした理由を書いたので、次からは東地方での出来事を。
東についてすぐ、ジェーン・ドゥはモノクロさんの進言通り、魔法診断を受けました。
巫女様達に懇切丁寧に教えてもらってもそよ風一つ起こせぬ我が身に何の魔法の才能もないだろうと思っていたのですが、そんな予想に反する結果が返ってきました。
魔法の才能、絶無ではなかったのです。
ジェーン・ドゥの魔法適性は特化型と呼ばれるものに分類されるものだそうです。
特定の魔法の適性が高い代わりに、素ではそれ以外の魔法を一切使えないようなのです。
ジェーン・ドゥが使えるのはどうやら火属性と雷属性の魔法だけ、だからどれだけ頑張っても風の魔法が使えなかった、というオチだったようで。
魔法道具の類を使えば上記二つ以外の魔法も使えるようになるのですが、その手の道具は基本高価なので、何か強いこだわりがなければ素直に自分が使える魔法を鍛えていった方がいいと診断を行ってくれた魔導師のお爺様は言いました。
なので、素直にその言葉に従おうと思ったのですがここで新たな問題が発生しました。
診断によると、どうやら『前』の私は火属性の魔法を多用していたようです、そういう痕跡が残っていたと。
それだけなら別に問題ないのではないか、というか練習した記憶もないのに強い魔法使い放題なのでは、とは問屋が卸しません。
練習した記憶がないのです、今のジェーン・ドゥには。
つまり、制御方法を一切覚えていないのです。
それなのに『前』の私が火属性魔法を多用していたせいで、馬鹿みたいな高火力を出せる身体になってしまっている。
と、長々と書いてしまいましたが結論を簡潔に述べると、今のジェーン・ドゥが火属性魔法を使うと暴走して片腕が焦げるだけで済めばまし、最悪火達磨からの全身黒焦げでお陀仏です。
ジェーン・ドゥは東地方に三ヶ月程度滞在しましたが、その間に十数回全身が黒焦げになりかけました、火傷した回数は数えきれません。
暴走するたびに講師の人に止めてもらっていましたし、そのたびに治癒魔法もかけてもらったのでどれも大事には至っていませんが。
治癒魔法ってすごいですね、本当だったらジェーン・ドゥは死んでいるかそうでなくとも全身火傷まみれになっていたでしょう。
ジェーン・ドゥが使える魔法が治癒魔法だったらよかったのですけどね、あいにくそちらの才能は一切ないようで。
ないものはないのです、そうだったらよかったのにと考えるのは無駄なことでしょうね。
とにかく、そんなふうに日々火傷を負いつつどうにか火属性魔法を制御できるように訓練を続けましたが、成果はあんまり。
最初の方よりも気のせいレベルで制御できるようになった程度です。
半月くらいは頑張ったのですけどね、これ以上続けるくらいだったら別のアプローチをした方がいいと言われてしまいました。
なので、言われた通りに。
別のアプローチというのはジェーン・ドゥが使えるもう一つの魔法、雷属性の魔法の訓練をする、というもの。
今のジェーン・ドゥは火属性魔法というよりも『魔法』そのものの扱いが未熟なのだそうです、そのあたりの記憶と感覚が残念ながらごっそりと抜け落ちてしまっている状態。
なので、その感覚を高威力すぎて事故が多発しがちな火属性魔法ではなく、雷属性魔法の習得によって取り戻す、というのが講師の方に言われたもう一つの方法。
『前』の私はどうやら火属性魔法ばかり使っていたようで、雷属性魔法は使っていなかったらしい、というのが診断の結果でした。
雷属性魔法を使えることを『前』の私が知らなかったのか、それとも知っていてあえて使っていなかったのか、真相は忘却の彼方です。
ちなみにジェーン・ドゥが真っ先に火属性魔法の方をどうにかしようと思ったのはそっちの方が楽して強い魔法を使いこなせそうだと甘い見通しをしていたのと、火属性魔法の講座の方が安価だったからです。
火属性は使い手がそれなりにいて教えられる方も多いのですが、雷属性はそもそもまともに使いこなせるだけの適性を持つ人が少なく、それに比例する形で講師の方も少なくて、だからこそ授業料が割高なのです。
だから安上がりな火属性の方で何とかしたかったのですが、結局余計なお金をかけてしまいました、これならはじめから雷属性の講座だけを受ければよかった。
というわけで、雷属性魔法の習得を始めることになったのですが、そっちを使ってみたら驚くほど制御が楽でした、威力は火属性の方に比べるとカスみたいなものでしたが。
けれど、カスだったからこそ制御が容易くて、訓練を続けて魔法の威力が上がっても制御できているのでしょう。
火属性の制御のしにくさ、どうしようもなさが嘘だったみたいに雷属性魔法の制御および習得はとんとん拍子で進みました。
それである程度いい感じになった頃に「これはいけるのでは」と火属性魔法を使ってみたらやっぱりダメで火達磨になりかけました。
というわけで現状のジェーン・ドゥの魔法レベルは以下の通りです。
・火属性魔法
高火力の魔法が出せるけど制御ができていない。威力だけなら上級〜ギリギリ最上級程度。
・雷属性魔法
中級程度の魔法が出せる。制御も安定しているがそこまで威力はない。
火属性魔法がちゃんと使えればそこそこ強い人判定になりそうなんですけど、どう頑張っても駄目でした。
けど、雷属性魔法の習得がいい感じに進みましたし、講師の方からもここまで使いこなせば北地方で魔物に囲まれてもどうにか切り抜けられるだろうと太鼓判を押されたので、明日東地方をたつことになりました。
そういえばこの手記は元々自分がまた記憶を失った時のために書き始めたものなので、魔法とついでに魔法道具のことも書いておきましょうか。
魔法に関しては『前』の私がそこまで詳しくなかったのかジェーン・ドゥが持ち合わせている『一般常識』の範囲外だったっぽいんですよね、もしくは単にそこの記憶も抜け落ちてしまったのか。
そういうわけでここで一旦ジェーン・ドゥが何となく知っている魔法の世界について書いてみましょう。
本当に記憶喪失になって読み返している『私』へ、もしも魔法に関する知識があなたに残っていた場合、ここから先の『★』から『★』までは読み飛ばしてしまって構いません。
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↓読み飛ばしていい部分ここから
・魔法
生きとし生けるものが持つ魔力というエネルギーを別のものに変換する力。
生き物は大体魔法を使えるが、たまに使えないものもいる。
種族もしくは個人ごとに使える魔法の適性がある。
人間の場合、差はあれど基本的に『風』『水』『土』『火』の魔法の適性を持つと言われているが、ジェーン・ドゥのような特化型の場合は特定の魔法以外の適性を持たず、また魔力はあれど一切魔法を使えないものもいる。
上記四つ以外にも様々な魔法が存在するが、それらの適性を持つ人間はやや珍しい。
適性と魔力さえあればあらゆる生物は魔法を使うことができるが、人間の場合魔法道具で補助することがほとんど。
・魔法道具
基本的に魔力を魔法に変換するのを助け、その威力を増幅させる補助装置のことを指す。
形状は様々だが、魔力を通しやすかったり溜め込みやすい素材 (魔法石や魔法金属など)が使われる。
性能はピンキリ、使う素材によって扱いやすくなる魔法が変わる。
補助範囲が広く、さらに正確かつ強力な魔法を放つことができるようになるような代物は当然高い。
逆に、一種類の魔法に対してのみの補助機能しか持たないものは強力なものであっても安価で手に入りやすい。
五十年ほど前に魔法道具そのものに魔法の構築式を直接書き込んだ『新型』の魔法道具が開発された、こちらは使い手の適性に関係なしに魔力さえ通せば魔法道具本体にあらかじめ刻み込まれた魔法を使えるようになっている。
誰でも簡単に特定の魔法を使える代物だが従来の魔法道具に比べると製造方法がやや難しいらしい。火おこし機のように刻みこむ構築式が単純かつ需要が高いものは大量生産できるよう製造方法がほぼ完全に確立しているため安価だが、そうでないものは基本的に高い。
↑読み飛ばしていい部分ここまで
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ひとまずこんなところでしょうか、そういえば書き忘れていましたけど東で三つほど魔法道具を手に入れたので、そちらについても書いておきましょうか。
・稲妻の腕輪
雷属性の補助特化。いわゆるメインウェポン。黄色い魔法石が使われた腕輪型の魔法道具。
基本的に右手首に着用、購入時の説明曰く、初級から中級者におすすめしやすい代物であるとのこと。
・火炎の腕輪
火属性の特化型、サブウェポンというよりも奥の手。赤い魔法石が使われた腕輪型の魔法道具。
基本的に左手首に着用、稲妻の腕輪と同様、初級から中級者におすすめしやすい代物であるとのこと。
・蛇の指輪。
『新型』の魔法道具。効果は高くないが着用者が傷を負うと着用者の魔力を自動で吸い上げ治癒魔法と痛み止め魔法を発動させる代物。頭部に緑がかった青い魔法石がついた蛇型の指輪。基本的に右手中指に着用。くじ引きの景品、買おうとするとそこそこ高いらしい。
基本は雷属性、それでも太刀打ちできない場合の奥の手として火属性、火属性で負傷した場合のないよりましの保険として治癒機能付きの蛇の指輪、といった感じの装備になっています。
蛇の指輪を手に入れられたことは幸運でした、これなら多少の無理がきくでしょう。
とにかく、雷属性に限りますがある程度魔法が使えるようになって装備も整ったので、明日からこの旅の当初の目的地である北地方に向かいます。
そろそろ筆を置きましょう、次は、次こそは北の地でこの続きを書きましょうか。




