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理由

「それから、さっき余分に金を渡したのは生きるためだ。ああやって、監守に小銭を渡しておけば、あいつらは俺が生きていた方がメリットがあると考えるようになるだろ?」

「なるほど」

「それに、本当に大事な情報は無理だが、役に立つ木っ端な情報が入る時もあるしな」


不合理な世界なりに、ウルスが合理を求め、生き抜こうとしているのはわかった。

だが……。


「わからない」

「わからない?難しかったか?」

ウルスは意外そうに僕を見た。

「そうじゃない。仕組みはわかったが、あんたが僕を助ける理由だよ」


「ふむ。お前に死んでほしくないってだけじゃあ、だめか?」

ウルスは少し困ったように僕に尋ねた。

「死んでほしくない?僕に?なぜ?」

「別にいいじゃねぇか、細かいことはよ」

「細かくない。僕の命に関わることだ。それとも何か、あんた、誰にでもこうしてるのか?」

僕が食い下がると、ウルスは不快そうに鼻に皺を寄せ、勢いよく立ち上がった。

草と土が舞い落ちる。


「冗談じゃない。入ってくる奴、全員に親切にしてりゃあ、こっちがすぐに破産しちまうぜ」

「なら、どうして……?」

僕の言葉にウルスは面倒臭そうに、大きく足を踏み鳴らすと、草を薙ぎ倒して、訓練所の出口に向かって歩き出した。


「しばらくはここで修練を積め。お前の剣は、筋は悪くないが、真っ当すぎる。ここではもう少し汚い戦い方を覚えた方がいい。あと槍もだ。戦う相手と距離を取れる獲物を覚えろ」

ウルスは早口でがなり立てると、そのまま訓練所の外へ出て行ってしまった。


直感だけだが、粗野だが卑怯ではないと見たウルスの言に従い、訓練所に通い出して数日が過ぎ、ここの様子が幾分わかるようになってきた。

闘技場は常打ちで、特別なイベントがない限り、普段は昼から始まり、前座が3つ、プレが1つ、そしてメインが1つで幕を閉じる。


奴隷闘士は自分のカードが組まれない限り、驚くほど自由に過ごしている。

鎖で繋がれていたのも最初の1週間だけだった。

もっと窮屈なものだと思っていたから、驚いてウルスに尋ねたら、ウルスに

「自殺防止だよ」

とそっけなくあしらわれた。


でも、こんなに自由にやり取りができるなら、闘士が力を合わせて反乱するかもしれないのに、少しむきになって尋ねると、ウルスは

「剣もないのにか?」

と面白そうに笑った。

それから、丁寧にお辞儀をしながら

「心配には及びません、坊ちゃま。闘士のふりをして、かなりの数の主催者側の間者が紛れております」

そう言って、さも面白そうに大声で笑った。


その日から、僕はウルスと口を聞いていない。

夕飯時の列の中でトレイを持ちながら、ウルスはこちらを伺っていたが、もうしばらくは口を聞く気もない。


「よぉ、相手がいねぇんだ。俺とやらねぇか?」

ウルスと口を聞かなくなってから三日、訓練所で習った動きをなぞっていると、目の前に、両手に木の短剣を持った小柄な男が立っていた。


僕だって闘士の中では小さい方だが、その僕よりも頭ひとつ小さい男は、器用に短剣を手の中でクルクルと回転させていた。


「いいぜ」

僕がそう答えると、その男は二度、足で地面の土をならすと、準備運動のように軽く跳び、着地した瞬間、こちらに向かって突っ込んできた。

右肩から切りつける短剣を長剣で受けると、その瞬間、左手の短剣が低い位置から浮き上がるように、右の肋骨をめがけて、刺しにきているのが見えた。

刃が地面と平行に寝ている。

真剣なら肋骨の隙間から肝臓を取りにくる流れなのだろう。


僕はとっさに右足を上げて、短剣ではなく、男の右腕に、足を置いた。

蹴ったのではない。

止めようと防いだのでもない。

ただ置いたのだ。

そして、そのまま、振り切る男の腕に乗って後方に宙を切った。

着地すると、男は何も言わなかったが、その目には驚きの色があった。

しかし、驚いたのは、こちらの方だった。

軽く一回転しただけのつもりだったが、思ったよりもずっと遠くまで飛ばされていた。

男の腕の力は、見た目とは裏腹に強い。


どうする?

あんなアクロバティックなかわし方、そう何度もできない。

懐に入られたら負けだ。

僕は木剣を片手に持ち、左手を後ろに引いた。

すると、その男は、クックックッと、ぐもった声で笑い始めた。

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