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ゲスクラブ

「はぁ、はぁ、はぁ」


息を切らし大の字になり、僕は芝生の上に寝転んだ。

ウルスと三本手合わせをしたが、届かぬまでもウルスを驚かせたのは、最初の三連突きだけだった。


三本とも赤子の手をひねるようにウルスにやられたが、特に最後の三本目、一本目と同じように途中で三連突きを放ったが、ウルスは完全に見切っていた。

挙句に木剣を弾き飛ばされ、こうして芝生の上に寝転がっている。

激しい呼吸で天を仰ぐ僕の視界にウルスが顔を出した。


「大丈夫か?どこか痛めたか?怪我をさせる気はなかったが」


僕は急に笑いが込み上げてきた。

剣を習って以降、ここまで完膚なきまでに負けたのは初めてだった。

やたら強く、洞察眼もあり、世慣れもしている。

なのに、この男はどこかズレている。


「いや大丈夫だ。痛めてない」


僕は、そう言いながら上半身を起こし、芝生の上に座った。

「僕はジークだ。ジーク・ハミルトン。ハミルトン家の三男坊で、ここに落ちた理由はない、少なくとも僕には。本家が権力争いに敗れ、一族郎党もろともに処分された……らしい。他の者がどうなったかは知らない」

そこまで一気に言うと、今初めてウルスに、きちんと名乗ったような気がした。


「連座ってやつか」

「あぁ、理由は告げられなかったから、推測だけどな。なぁ、次はこちらが質問させてくれ」

僕がそういうと、ウルスは覗き込むのを止めて、隣に座った。


「なぜ、そうも僕に構う?水もそうだが、さっきの訓練所の金、あれは僕の費用だろ?それに、750なのに800渡したのは、なぜだ?」

息がだいぶ整い、僕は矢継ぎ早に質問をした。


「ふむ」


ウルスはそう言うと腕組みをして前を見た。

「『ゲスクラブ』の話、覚えてるか?」

「『ゲスクラブ』?」

僕は、ここに来た初日、ウルスにかけられた言葉を思い出した。


「ここは奴隷闘士を戦わせる闘技場だ。もちろん多くの人間が死ぬ。客は刺激を求めているし、莫大な賭け金だって動く。だがな、奴隷闘士だって、いくら殺してもかまわないってほど、常に充分な数がいるわけじゃないんだ」

「どういうことだ?」

「俺がここに来たばかりの時は、奴隷闘士は、言葉が通じない異邦人ばかりだった。大きな戦争があった後だったからな」


僕はウルスの言わんとすることがうまくつかめずにいた。

「よくわからないな。だから?」

「客は金を払って刺激がほしい。興行主は客からお金を巻き上げたい。そこは一致している。だが、客は闘士が血を流して死ぬところが見たいが、興行主は違う。血を流すのはいいが、闘士が死んだり戦闘不能になったりすると、次の奴隷闘士の調達に手間と金がかかる。この点で、両者は一致していない。ここのところはわかるか?」

「う、うん」


言われてみれば理屈ではわかるが、その理屈よりも、こんな地獄で、冷静に分析できるウルスは、僕が思っているよりも、ずっとすごい奴なのかもしれない。

「まして、武器を持って戦って、観客を満足させるような技術を持った奴隷は数が少なくて、何より」

「何より?」

「高い」

そう言ったウルスは面白そうに笑った。

この地獄の底で笑ったのだ。


「もちろん、何のスキルもない怯えた者同士を脅して戦わせることはできるし、それを楽しめる客もいるが、数は少ない。つまり」

「つまり?」

「儲からない」

ウルスは、またおかしそうに笑い出した。


「本物の殺戮に金を払いたい客と金のかからない殺戮で乗り切りたい興行主。ただし、興行主は、客が離れるくらいなら闘士を殺す程度には誠実だ」

僕はなんと言ってよいかわからず、言葉に詰まった。

「そこに『ゲスクラブ』が関与する余地が、わずかにある。何度もは無理だが、数回なら、八百長で血を流してのたうち回り、血闘を装うことはできる。つまり」

「つまり?」

「客は満足、興行主は満足、そして俺たちは生き延びて満足と。三方よしってわけだ」

そう言ってもう一度笑ったウルスは、僕より倍以上も年上なのに、なぜか自分と同い年くらいの瑞々しい少年のように見えた。

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