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セレスト

「また三連突きかい?」


僕は、その男の声にぎくりとした。

懐に入られる前に、繰り出そうとした技が、あっさりと看破されたからだ。

しかし……。


読まれようと、僕には、こいつに対抗できる技はこれしかない。

腰を落として跳躍のために力を溜めると、相手との間で緊張が高まり、それが最高潮に達した時、小男は2本の短剣を地面に放り投げた。


投擲したのではなく、本当にただ、ゴロンと投げ出しただけだった。

男は構えを解くと、口の前を覆っていた布を下におろし、大きく息を吸って言った。


「おまえの飼い主のウルスな、あまり信用しない方がいいぞ」

無礼な言葉を咎めることも忘れ、僕は訝しげに小男を見た。

「ジーク、お前、ジークってんだろ?お前がいくら育ちのいい血統書付きの犬っころでも、こんな地獄で、意味なく他人に施しをする奴はいねぇことぐらいわかるよなぁ?」

小男の言葉に僕は構えを解かずに

「何が言いたい?」

と言い返した。


「『ゲスクラブ』の話をされたんだろ?八百長で長生きしようぜ、とか言われて。それが奴の手なんだよ。『最初は俺が攻めるから、やられた振りをしてくれ』なんて八百長を信じたら、そのまま押し切られて地獄行きだぜ。ここじゃない本物のな」

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべた小男は、僕を指差した。


「それにな、お前、ここでウルス相手に三連突きを見せただろ?お前のフィニッシュブローってやつだ。ここの奴らはみんな見てたぜ。何せ、次に対戦するかもしれないからな。そんな大事な必殺技を、みんなの前でひけらかすなんてアホのすることだ。模擬戦をする前、ウルスはお前に、フィニッシュブローを使うなって説明したか?してねぇよな?」

面白そうに体を折って笑う小男に、僕は我慢がならなくなって、木剣を大きく薙いだ。

小男は、難なく後ろに跳びずさって、木剣をかわした。

僕がさらに間合いを詰めて追い打ちをしようとした時、訓練所の入り口からウルスの声が聞こえた。


「チィッ」

小男は舌打ちをすると、なめし革の鎧を翻し、杭を足場にして訓練所の柵を越え、中庭の人ごみに消えて行った。


遠目に見えていたときは手を振りながらやって来ていたウルスだったが、僕が小男と対峙しているのを見ると、最後は全力で走ってきた。


「ジーク、大丈夫か?セレストの野郎と何かあったのか?」

「セレスト?」

「あのチビの短剣野郎だよ。やり合っていたんじゃねぇのかよ?」

そう言いながら、ウルスは僕の肩を掴み、怪我がないか見回したが、僕はその手を払いのけた。


「ウルス、聞きたいことがある」

「何だ?」

「前にウルスとやったとき、三連突きを使わないように言わなかったのは、なぜだ?」

「三連突き?」

「他の者に知られないように使うなと、なぜ言わなかった?」

「なあ、待てよ。セレストに何を吹き込まれたか知らねぇが、あんな奴の言うことを聞いちゃだめだ」

「……」

「あいつは、前に対戦で毒を使いやがったんだ。それを俺がチンコロしたから罰で腕を折られてな。それ以来、俺を恨んでるんだ」


セレストがウルスに復讐するために、僕とウルスの間に不和を起こしたいのか。

それとも、ウルスが僕を騙すために、セレストを貶めているのか。

セレストの言うとおりなら、ウルスの八百長には気をつける必要がある。

ウルスが正しいなら、セレストは、ウルスへの復讐に僕を利用しようとしている可能性がある。


だが、ウルスが三連突きを使わないように僕に言わなかったのは事実だ。

同時に、ウルスは初見でも三連突きを防いだ。

であれば、騙して僕のフィニッシュブローを明らかにする必要があるのか?


考えに沈んでいると、ウルスは大事なことを思い出したように、僕に手に持った紙を押し付けた。

それは、次の対戦を発表する紙だった。

一週間後の前座の第二試合目に、僕の初めての対戦が決まった。

対戦相手は、既に滅びた小国の王女付きの侍女だった。

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