表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

無言の跳躍7


 無言の跳躍・境界雨編


南太平洋の空はひび割れていた

黒い亀裂の奥に別の空が見える

夕焼け

雪嵐

宇宙空間

異なる歴史が重なっていた


玲奈は天文台の窓辺で立ち尽くしていた

「全部の歴史が混ざるってどういうこと」


少女は静かに時計へ触れる

「世界線には本来、薄い膜がある」

カチ、と針が止まる

「TIME ZEROはその膜を固定していた、でも今は支えがない」


「だから漂流歴が起きている…」


「うん」

少女は頷いた

「最初は小さな接触だけだった、でも境界崩落が進めば歴史同士が衝突する」


玲奈の脳裏に最近の異常報告がよぎる

一夜だけ現れた古代都市

突然別人になった家族

存在しない戦争の記憶

あれは偶然じゃない

世界そのものが裂け始めているのだ


少女は玲奈に古い写真を差し出した

そこには見知らぬ東京が写っていた

空中を走る列車

巨大な塔

空に浮かぶ広告

だが街の中央には巨大な穴が開いていた


「この歴史は三日前に消えた」


玲奈は顔を上げる

「消えた?」


「世界線同士が衝突して負けた方が崩壊する」

少女の声には感情がなかった


しかし玲奈は寒気を覚えた

「それじゃ…」


「これからもっと起きる」


外で雷鳴が轟いた

だが雨は普通の雨ではなかった

空から降ってくるのは光る粒子

玲奈に肩に落ちた

触れた瞬間知らない記憶が流れ込んできた

戦場

燃える宇宙船

知らない誰かの死

玲奈は膝をつく

「うっ!」


少女が言う

「境界雨」

空からほかの歴史の記憶が降ってくる


その時、天文台全体が揺れた


警告音


壁の時計が一斉に逆回転する


少女の顔色が初めて変わる

「早い!」

空の裂け目から何かが降下してきた

巨大な黒い球体

都市ほどの大きさ

表面に無数の時計が埋め込まれている


玲奈は息を呑む

「あれは…TIME ZERO?」


「違う、別の歴史の観察機関」

少女は低く言った


玲奈の背筋が凍る

「別の…?」


「観測者は一つじゃない」


球体が空に浮かぶ

そして世界中へ重低音が響いた

まるで鐘の音

ゴオォォン


その瞬間、玲奈の端末へ大量の緊急通信が流れ込む

ロンドン消失

月面都市との通信断絶

東京湾に古代艦隊出現

世界が崩れ始めた


少女は静かに言った

「もう時間がない、新しい観測者が必要」


玲奈が叫ぶ

「またそれ!なんで誰かが世界を縛らなきゃいけないの!?」


少女は玲奈を見つめる

その瞳の奥で時計盤がゆっくり回転していた

「縛らないと世界は形を保てない」


「でも自由は…!」


「自由には重力がない」


玲奈は言葉を失う


少女は続けた

「完全な自由は、全部が同時に存在する状態」


空の裂け目がさらに広がる

玲奈は別の自分をそこに見た

軍服姿の玲奈

老人になった玲奈

存在しない玲奈

無限の可能性

それらが互いに侵食しあっている


少女は静かに言った

「人間は一つの現実しか確認できない、だから観測が必要」


玲奈は苦しそうに俯く

理解してしまった

固定された世界は檻だった

だが完全自由は、世界そのものが定まらない

どちらにも地獄がある


その時、少女が苦しそうに胸を押さえる

時計の針が瞳の中で暴走する

「…っ!」


「大丈夫!?」


少女の身体に黒い亀裂が走る

まるで九条の時間崩壊と同じ

「残響が…限界…」


玲奈は少女を支えた


少女は震える声で言った

「直人の核が消えかけてる」


玲奈の心臓が跳ね上がる

「直人が!?」


「観測残響が薄れると、私も消える」

少女の輪郭が少し透け始める


玲奈は叫ぶ

「どうすればいいの!」


少女は苦しげに玲奈を見る

「核を継ぐしかない、玲奈」

初めてだった、少女が直人と同じ呼び方をしたのは


玲奈の呼吸が止まる


「あなたならまだ人間のまま観測ができるかもしれない」


外で世界が軋む

空から別の都市が降下してくる

遠くで海が逆流していた


少女は涙を浮かべて笑った

その表情は驚くほど直人に似ていた

「でもたぶん帰れなくなる」


玲奈は言葉を失う

普通の人生

自由な未来

それらを捨てるという意味だった


少女は静かに手を差し出す

その掌には、小さな光が浮かんでいる

まるで心臓のように鼓動している

「選んで」


空が崩れる

世界が鳴いている


そして玲奈は再び選択を迫られていた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ