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無言の跳躍4


 無言の跳躍・零時核編


銀色の鍵は、触れているだけで脈動していた

まるで生きているように

玲奈は地下通路の薄暗い光の中で、それを見つめていた

[TIME ZERO CORE]

刻まれた文字がかすかに発光している


榊が険しい顔で言った

「最悪だ」


「何ですか、これ」


「世界を書き換える権限鍵だ」


玲奈の心臓が止まりそうになる

「そんなものを直人が」


「お前に託したんだ」


榊は乱暴にタバコを取り出そうとして、今の世界では禁煙法が厳格化されていたことを思い出したのか、舌打ちしてポケットの戻した

「TIME ZEROには中枢核がある、だが普通の人間には触れられない、観測者か”鍵”を持つ者だけだ」


玲奈は鍵を握りしめた

冷たい、なのに奥で鼓動している

まるで遠い場所の直人の心拍が伝わってくるみたいだった


その夜

玲奈は夢を見た

いや、夢ではない

気づけば彼女は白い海の上に立っていた

空と海の境界線がない

世界そのものが白い

その中央に巨大な時計群が浮かんでいる

無数の針が逆回転していた

そして、その中心に直人がいた


「ここは」


「観測層」

直人の声は静かだった、以前より輪郭が薄い

だが完全に消えていない


玲奈が駆け寄る

「あなた、生きてるんですよね!?」


直人は少し困ったように笑う

「定義による」


「そんな言い方しないで!」

玲奈の声が震える

怒りなのか悲しみなのか、自分でも分からなかった


直人は白い海を見渡した

「TIME ZEROは人類が理解できる装置じゃない」

巨大な時計の針が動く

空間が軋む


玲奈の視界に無数の光景が流れ込んできた

恐竜時代

核戦争

宇宙移民船

機械だけになった地球

太陽消滅後の暗黒宇宙

「これは…」


「全部人類の未来だった可能性だ」


玲奈は息を呑む


「TIME ZEROは、その中から最も存在率の高い歴史を選び続けている」


「じゃあ今の世界は」


「選択された結果だ」


玲奈は叫ぶ

「そんなの、人類が自分で選んだ未来じゃない!」


直人は静かに目を閉じた

「だから俺は迷った」


初めてだった、彼が弱さを見せたのは

「全部壊すべきか、このまま維持するべきか」


白い風が吹く、直人の体が少し崩れる


玲奈は恐怖した

「あなた、消えかけてる」


「観測者は人間でいるほど壊れる」

直人は苦笑する

「人類を理解し続けるには、人間性が邪魔なんだとさ」


「そんな…」


「だから早く決めろ」

直人の目が玲奈を見る

「鍵を使えばTIME ZEROの中枢に入れる」


「中枢…」


「そこで選べ」


時計群が低く不気味に鳴動する


「世界を固定するか、解放するか」


玲奈は息を止める

「解放したら?」


直人は少し沈黙した

「未来は無限に分岐する、たぶん人類は滅びる」


玲奈の背筋が冷える


直人が続ける

「でも、初めて自分たちの未来になる」


玲奈は目を覚ました

汗で全身が濡れていた

窓の外では朝日が昇っている

だが空の一部にノイズのような歪みが走った

世界が不安定化している


そのとき榊が部屋に飛び込んできた

「玲奈!」

彼の顔は青ざめていた

「始まった!」


「何が!?」


榊が端末を玲奈に投げる


玲奈は端末の世界地図を見た


各地で異常時間現象が発生していた

東京で突然江戸時代の街並みが出現

ニューヨークでは恐竜の化石ではなく、生きた恐竜を確認

火星移民都市の記憶が一部の人間だけ記憶に存在

歴史が混線している


「観測固定が限界なんだ!」

榊が叫ぶ

「直人ひとりじゃ支えきれない!」


その瞬間世界全体が震えた

空が割れ、巨大な時計盤が雲の向こうに浮かぶ上がる


人々が悲鳴を上げ、誰もが空を見上げていた

そして玲奈の鍵が強く発光する

直人の声が頭に響く

「来い」


北極圏


吹雪の中、黒い塔[TIME ZERO]は以前より巨大化していた

塔の入り口は空いていた

まるで玲奈を待っていたかのように

内部へ入る

壁が生き物のように動く

奥に進むほど、時間感覚が狂っていく

子供時代の記憶

まだ起きていない未来

直人と過ごした監察局の日々

全てが混ざる


そして最深部、そこには”核”があった

巨大な白い球体

その前に直人が浮かんでいる

無数の光の糸が彼の体に接続されていた

もうほとんど人間には見えない


玲奈は涙をこらえて叫ぶ

「もうやめて!」


直人は静かに目を開けた

「間に合ったか」


「あなた、このままじゃ…」


「時間がない」


球体が脈動する


世界中の未来分岐が暴走しているのだと直感で分かった


直人は手を伸ばす

「鍵を」


玲奈は動けない


「もし固定を解除すれば、多くの未来が生まれる、でも同時に多くの人類史が消える、固定を維持すれば、人類は生き残る可能性が高い」


玲奈は震えながら言った

「それじゃ人類は永遠に檻の中じゃない」


直人は少しだけ笑う

「そうだな」


沈黙、鼓動、世界が軋む音


そして玲奈は気づいた

直人は自分では選べないのだ

観測者になった時点で維持を優先する存在に変質している

だから彼は玲奈に鍵を渡した

最後の人間として


玲奈は涙を流しながらカギを握る

世界を守るか

自由を選ぶか


直人が静かに言った

「玲奈、お前はどうしたい」


玲奈は顔を上げた

白い光が二人を包み込んだ

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