無言の跳躍28
無言の跳躍・外側共有編
多宇宙が震えていた
外側の終焉
それは宇宙の崩壊ではない
宇宙という概念そのものが可能性を失い始めている現象だった
泡宇宙群が次々消えていく
まるで暗闇の呑まれる灯火
共有観測宇宙ですら、その余波で文明リンクが軋み始めていた
[レグルス]艦橋
警報が鳴り止まない
[現実固定率低下]
[多宇宙境界崩壊]
[文明リンク過負荷]
ユナはコンソールにしがみついていた
「リンク保持限界、超えてます!」
直哉が叫ぶ
「切れば助かるぞ!」
だがユナは首を振る
「切ったら孤立します!」
孤立、それはこの宇宙で最も危険な状態
誰にも観測されなくなった存在は現実から滑り落ちる
だから共有観測宇宙は繋がり続けることで成立していた
外側観測者たちが暗黒の向こうで静かに揺れている
彼らですら終焉に対して距離を測りかねていた
最初の観測者が低く言う
[外側存在は干渉を避けてきた]
ユナは振り返る
[可能性を固定しすぎれは多宇宙が狭まるからだ]
だが今、終焉はその可能性そのものを消そうとしている
観測しなければ消える
しかし観測しすぎれば固定される
矛盾していた
多宇宙全体が限界へ達していた
その時、文明リンクの奥深くから静かな光が広がる
ユナはすぐ分かった
直人
今や彼は共有観測宇宙残域に広がる観測層そのものに近い存在になっている
声が響く
[ユナ]
「はい!」
[怖いか]
ユナは少し笑った
「すごく」
直哉が横で苦笑する
「その返事できるの大したもんだよ」
ユナは文明リンクを見る
無数の光
誰かが誰かを見ている証
彼女は小さく息を吸った
「でも一人じゃないから」
文明リンク全域が柔らかく発光した
外観測たちがその光を見る
長い沈黙
やがて、一体の存在が前へ出る
星々でできた輪郭
銀河の瞳
[共有観測]
別の存在が続く
[孤立観測とは異なる]
さらに別の存在
[相互固定]
最初の観測者が静かに頷く
[そうだ]
ユナは気づく
彼らは理解し始めている
観測される側と観測する側を分けないという概念を
その瞬間、終焉の空白が多宇宙境界に達した
泡宇宙が一斉に消える
ユナが叫ぶ
「来る!」
すると、外側観測者たちが一斉に光を放った
初めてだった
彼らが自分以外へ接続を試みたのは
文明リンクが多宇宙規模へ拡張されていく
共有観測宇宙
外側観測者群
無数の泡宇宙
全てが一本の巨大な光網へ繋がっていく
ユナの意識へ膨大な感覚が流れ込む
星の誕生
宇宙の死
数えきれない文明
そして、外観測者たちの孤独
彼らはずっと見ていた
無数の宇宙が生まれ、消えていくのを
干渉せず、触れず、ただ観測するだけ
それが最善だと信じていた
ユナは涙を流す
「寂しかったんですね」
星々の存在が微かに揺れる
感情なのかすらわからない
でも、何かが変わった
終焉の空白が光網へ接触する
普通ならすべて消えるはずだった
だが、光網は崩れない
誰かが誰かを支えている
観測が循環している
孤立が存在しない
終焉が初めて停止する
ユナは息を呑む
完全空白が文明リンクに前で止まっている
まるで理解できないものを見るみたいに
その時、直人の声が静かに響いた
[未来は一人では持てない]
文明リンクが脈動する
[だから繋ぐ]
その言葉に呼応するように
無数の文明
外側観測者
泡宇宙群
全ての光が一斉に明減した
そして、終焉の空白の中に小さな光が一つ生まれる
ユナは目を見開く
星だった
新しい宇宙の瞳
終わりの中に生まれた可能性
外側観測者たちが静かに揺れる
[発生確認]
最初の観測者が微かに笑った気がした
[終焉ですら共有できるのか]
ユナは涙を拭う
直哉が隣で呆れたように笑う
「ほんと、とんでもない宇宙になったな」
ユナが頷く
目の前には新しい宇宙の光
そしてその向こうにはまだ無数の未知
終わりではない
これからもきっと問題は起きる
崩壊もある
失敗もある
それでも、誰かが誰かを観測し続けるかぎり
未来はまた生まれる




